21 〈錬金術師〉のお買い物
翌日、私とタルトはまずツィレに二ヶ所ある〈転移ゲート〉へ行き、タルトの登録を済ませた。これでほかの町へ行っても、一瞬でツィレに来ることができる。
タルトは「常識ってなんですにゃ」と呟いていたけれど、私はそっと顔を逸らした。
その後は、お待ちかねの〈冒険者ギルド〉!
冒険者ギルドは、街の中央広場から少し東へ進んだところにある。剣、杖、盾の描かれた看板があり、重厚な扉の建物だ。
「パーティ登録できてなかったからね。これで一緒にレベル上げられるよ」
「楽しみですにゃ!」
私とタルトはレベルが±15以内なので、パーティを組むとモンスターを倒した際の経験値を半分ずつ得ることができるのだ。このシステムがないと、私みたいな支援職は経験値の取得が大変で精神的に死んでしまう。
これからはタルトにガンガンモンスターを倒してもらうぞー! おー!
いつもお世話になっている受付のプリムさんに声をかけて、タルトの冒険者登録をお願いする。ギルドカードを発行してもらえるので、それが身分証の代わりにもなるので便利だ。
「お久しぶりですね、シャロンさん。フレイさんたちとは別れたんですか? トルテさんの血縁の方……とかでしょうか?」
「はい。用事は終わりましたからね。今はこの子と二人なんです」
「トルテの妹のタルトですにゃ。どうぞよろしくお願いしますにゃ」
タルトがペコリとお辞儀をすると、プリムさんも「よろしくね」と笑顔を返してくれる。
そしてサクッと冒険者登録と、パーティ登録をしてもらった。これでいつでも狩にいけるぜと、ガンガン行こうぜモードだ。
「そうだった……最近、ケントとココアは来てますか?」
「ああ、お二人でしたら今日も依頼に行ってますよ。シャロンさんがお帰りになったこと、伝えておきましょうか?」
「お願いします」
ケントとココアは、以前パーティを組んだことがある〈剣士〉と〈魔法使い〉の二人組だ。また一緒にパーティを組もうと言って別れたので、タルトのことも紹介しておきたかったのだけれど……依頼に行っているなら仕方がない。
タルトが首を傾げているので、二人のことを簡単に説明し、また会ったときに紹介する約束をした。
「お師匠さま、この後はどうしますにゃ?」
ギルドから出ると、タルトが首を傾げた。
「やりたいことがいっぱいありすぎて、困っちゃうね」
「また屋台にも行きたいですにゃ」
「確かに!」
二人で笑いながら、さてどうしようかなと考える。
今やりたいことは、私のことなら〈聖女〉へ転職するクエストを進めること。タルトに関しては、〈製薬〉するためのアイテム購入かな? 二人に共通することは、レベル上げだろうか。ただ、レベルを上げるには先にタルトが武器となる〈火炎瓶〉を作る必要がある。そう考えると、やっぱりまずはお買い物だ。
「〈錬金術師〉に必要なものを買いに行こうか。その後は、宿に戻って〈火炎瓶〉の作成! どうかな?」
「わたし、〈錬金術師〉として頑張りますにゃ!」
タルトがメラメラ燃えて、やる気に満ち溢れている。
私たちは、すぐ近くにある道具屋へやってきた。ここは何度か来たことがあって、お世話になっているところだ。気の良さそうなおじさんの店員さんで、相談にも乗ってくれる。
カランとドアベルを鳴らしながら店内に入ると、「お、〈ぷるぷるゼリー〉のお嬢ちゃん!」と声をかけられた。……忘れられていなかったようだ。
わたしは苦笑しつつ、挨拶を返す。
「こんにちは。今日はこの子のお買い物なんです」
「初めましてですにゃ」
「おや、可愛いお嬢ちゃんだね。よろしく」
タルトは挨拶をすると、店内が気になったようでキョロキョロし始めた。わかるよ、ファンタジーな道具がいっぱいあるから、いろいろ見てみたいよね。
「この子の買い物って言うが、何を探してるんだい?」
「わたし、〈錬金術師〉なのですにゃ!」
「おお、そりゃ珍しい。〈錬金術師〉はあまり見ないからね」
しかし必要な道具や素材などは取り扱っているようで、「こっちに置いてあるよ」と棚を教えてくれた。錬金釜やまぜ棒など、ゲーム内で店売りしていたものはすべて揃っているようだ。
「タルトの家にあったのと同じ設備を揃えられるから、一式買っちゃおう」
「はいです――にゃっ!? こ、こんなにするですにゃ!?」
値札を見たタルトが涙目になっている。そういえば値段やお金に関する話って、ほとんどしてなかったことを思い出す。タルトはトルテからそこそこお小遣いをもらっていたみたいだけど、さすがに道具一式を揃えるほどはないだろう。
私はお財布を取り出して、「任せなさい!」と胸を張ってみせる。
「こんな高いの、買ってもらうわけにいかないですにゃ!」
「違う違う、先行投資だよ。いい設備がないと効率が悪いからね。お金には余裕があるから、大丈夫だよ」
加えて、ダンジョンに行ったり狩に行った際、タルトの取り分から少しずつ返してくれるのでもいいと伝えておく。そうしたら、頷いて了承してくれた。
「あと必要なのは、〈錬金術師〉のブックがあればそれを全部。後は〈火のキノコ〉〈魔石〉〈油〉〈オークのボロ布〉が欲しいですね」
「〈オークのボロ布〉はうちには置いてないな……。あれは臭いがきついから、取り扱ってる店はそうそうないぞ。んー、ギルドに相談した方がいいかもしれんな」
店に置いておきたくないほど臭いのか……。そう考えると〈火炎瓶〉を作る前から憂鬱な気分になってくるね。タルトをチラリと見ると、臭いに恐怖して震えている。ケットシーだから、嗅覚も優れてるもんね……。
「〈火のキノコ〉は二〇。〈魔石〉と〈油〉はそこそこ数があるがどうする?」
「じゃあ……キノコは全部。〈魔石〉と〈油〉はとりあえず五〇ずつお願いします」
「ああ、すぐ準備しよう」
「ありがとうございます」
〈錬金術師〉が少ないこともあって、〈火のキノコ〉の流通が少なさそうだ。しかも〈火炎瓶〉一本に対し、必要なキノコは二個。今後は定期的に確保できるよう、考えたほうがいいかもしれない。ギルドで買取依頼でも出そうかな?
カウンターを見ると、商品の準備が終わっていた。タルトが次々鞄に詰めていくのを見て、店員のおじさんは「そんなに容量があるのか……」と羨ましそうに驚いている。
「あー、後はブックだったな。うちにあるのは、〈初心者錬金ブック〉〈中級錬金ブック〉の二冊だ」
「それも一緒にお願いします!」
「ああ、毎度あり」
ブックとは、〈製薬〉のレシピが書かれている本のことだ。別にこの本がなくても〈製薬〉はできるけれど、初心者のタルトには勉強にもちょうどいいと思う。タルトが読みたそうにしているのが、なんだか可愛い。
「早く〈製薬〉したいですにゃ〜!」
ブックのページをちょっとだけめくってから、タルトは大切そうにしまった。
「ありがとうございました」
「ありがとうございましたにゃ」
「ああ、またよろしく」
私たちは道具屋を後にして、再びギルドへと戻った。
「あれ、シャロンさんにタルトちゃん。どうしました?」
さっきと同じくプリムさんが担当しているカウンターにやってきた。プリムさんはすぐ戻ってきた私たちに驚きつつも、すぐ対応してくれる。
「タルト、説明できる?」
「はいですにゃ。プリムさん、〈火のキノコ〉と、〈オークのボロ布〉がほしいんですにゃ。できればたくさんほしいんですにゃ」
「〈火のキノコ〉と〈オークのボロ布〉ですか……。一応、両方とも買い取りはしているので、いくつか在庫があると思います。ちょっと確認してきますね」
「お願いしますにゃ」
プリムさんが席を外したのを見て、私とタルトは顔を見合わせてほっと胸を撫で下ろす。これで〈火炎瓶〉が作れそうだ。
それから待つこと五分。プリムさんが「ありましたよ〜!」と戻ってきた。袋を二つ抱えているので、中に入っているのだろう。カウンターの上にどさっと置いた。
「とりあえず、〈火のキノコ〉が五〇個。〈オークのボロ布〉は三二枚です。布はこれで全部で、〈火のキノコ〉は後一〇〇個ほどありましたけど、どうしますか?」
「ええと……」
タルトが私をチラリと見る。さすがに個数まで判断するのはまだ難しいね。私はタルトに頷いて、問題ない旨を伝える。
「在庫も含めて、全部お願いしますにゃ! それから、もっとほしいので……買い取り依頼は可能ですにゃ?」
「全部ですね、了解しました。買い取り依頼を出すことはできますが、手数料が発生するので、今回のようにギルドから通常購入するよりちょっと高くなっちゃいますよ?」
大丈夫ですか? と、プリムさんが確認してくれる。再びタルトが私に視線を向けたので、先ほどと同じように問題ないと頷いておく。
「お願いしますにゃ!」
「はい。かしこまりました」
元気よくお願いするタルトにくすりと笑って、手続きをしてくれた。