20 スキル再設定
「にゃ、にゃにゃ……」
私の言葉を聞き、タルトは息を呑んだ。
この世界では、スキルを任意で取得することはできない。スキルポイントが5になった段階で、自動的に取得されてしまう。要は、スキルポイントを4だけストックしておける、ということだ。さらに一度スキルが取得されると、スキルレベルがマックスになるまでほかのスキルを取得することができないのだ。
――めちゃくちゃ不便‼︎
なので、この世界の冒険者には運の要素が大きく関わっているのである。ゴミスキルを取得したら、泣いていいと思うよ。
「わたしはスキルポイント? が、4あるみたいですにゃ」
「それを好きなスキルに振ることができるんだけど、その前にしなきゃいけないのが――スキルのリセットだよ」
ここで、タルトがどんな〈錬金術師〉になるのか? というのがとても重要になる。戦闘特化、製薬特化、バランス型、今ならなんでも選ぶことができる。タルトが何をしたいのか考えて選ぶのがいいんだけど……一応、私にもえげつないけどお勧めのスタイルはある。
「前にも一度話したね。タルトはどんな〈錬金術師〉になりたいか、考えてみたかな?」
「わたしは……病気で寝ているときは、いつかおばあちゃんみたいな〈錬金術師〉になりたいと思っていましたにゃ。でも……お師匠さまと一緒に、世界中の景色を見てみたいと思ってますにゃ。だから、わたしは戦える〈錬金術師〉になりたいですにゃ!」
「私と一緒に景色を見に旅してくれるの、すごく心強いね」
手をぎゅっと握りしめて、決意のこもったタルトの瞳。キャトラからここにくる間で、きっといろいろと考えてくれたのだろう。
戦いたい、そう言ったタルトに、わたしはもう一つの選択肢を口にする。
「かなり大変なんだけど、製薬型の後衛っていう戦い方があるの」
「後衛、ですにゃ?」
「そう。〈錬金術師〉は、戦闘で使うポーション……たとえば〈火炎瓶〉とか、〈催涙瓶〉とか、そういうのを作って、敵に投げつけて攻撃するスキルがあるんだ」
だけど、そのスキルを使うには〈製薬〉で〈火炎瓶〉などのアイテムを作らなければ使うことができない。ゲーム時代であればプレイヤーから購入することもできたが、この世界では手に入りづらいのだ。
「それなら、おばあちゃんみたいな〈錬金術師〉のまま、お師匠さまの足手まといにならずついていけますにゃ!」
タルトがぱあっと嬉しそうに笑う。
が、もちろんデメリットはある。戦闘特化と違い、身体能力などは低い。攻撃力や防御力がどうしても低くなってしまうので、戦うときの危険はある。加えて――
「めちゃくちゃお金がかかります」
「にゃにゃっ!?」
私が真剣な顔で言ったからか、タルトは震える声で「わたしのお小遣いで足り……るわけないですにゃ」と項垂れる。はしゃいでた弟子をしょんぼりさせてしまった。
「大丈夫、お金は稼げばいいんだよ!」
「にゃっ!?」
「〈製薬〉でポーションを作ってもいいし、ダンジョンで稼いだっていいしね。私たちは冒険者だもん」
「な、なるほどですにゃ……」
目をくるくるさせながらも、「そんな簡単に稼げますにゃ?」とタルトが呟いている。
タルトの装備はフレイたちが用意したものなので、なかなか品質がいい。しばらくは今のままで問題ないと思っている。なので、装備を整えるお金は不要。……あ、武器だけは必要だね。
「とりあえず、お師匠さまはわたしが思っているよりずっとずっとすごかったですにゃ」
「あはは……。とりあえず方針が決まったから、次はこれだね」
わたしは以前作っておいた〈スキルリセットポーション〉を取り出してタルトに渡す。これを飲むと、取得していたスキルがリセットされて、新しく取得することができるのだ。
「こ、こんなすごいポーションがあるんですにゃ!?」
「でも、味は期待しちゃ駄目だよ。これを飲んだらスキルを全部自分の好きにできるから……タルトの場合は、今ある4ポイントも含めて、17になるね」
タルトは戦う製薬型になるから、取得すべきスキルは〈製薬〉レベル10、〈ポーション投げ〉レベル5の基本。これはどちらもレベルマックスが必須だ。残りのスキルポイントは2なので、〈薬草知識〉に振ったらいいのではないかなと思う。〈薬草知識〉は、薬草類を使って製薬したときの品質が上がったり、フィールドで薬草を発見しやすくなったり、採取した際の品質がよくなったりする。
ひとまず私の考えを伝えると、タルトも自分で考え思案しているようだ。
「何か取りたいスキルはある?」
別に私が言うままスキルを取る必要はないからね。それぞれのプレイスタイルも大切にしていきたい。
「もともと、わたしがやりたかったのは〈製薬〉スキルがあればいいと思ってましたにゃ。だから自分で選べるっていうこと自体が、すごいですにゃ」
「そうだね。迷うのは当然だから、ゆっくり決めるっていうのもありだと思うよ。急いで必要なスキルっていうわけでもないからね」
「はいですにゃ」
ひとまず〈製薬〉と〈ポーション投げ〉を取ることにした。
「いただきますにゃ! ――っ!?」
「我慢して飲んで! 二回に分けたらめっちゃ辛くなるから……」
「んにゃぁ」
〈スキルリセットポーション〉は、めちゃくちゃ不味い。どうしてこうなった? もう二度と飲みたくないんだが? と言ってしまうほど不味いのだ。二回飲んだ私は実はかなり頑張っていたのである。
タルトは涙目になりながらも、必死に飲み干した。
「お師匠さま〜」
口の中が変なのか、呂律の回らないような口調でタルトが腰にしがみついてくる。「もう二度と飲みたくないですにゃ」と顔色も悪くしている。
「あー、ごめんね、不味かったよね。口直しをどうぞ」
「ありがとうですにゃ」
持っていた飴をタルトにあげると、少し楽になったのか笑顔が戻った。
「スキルがリセットされてると思うから、〈製薬〉と〈ポーション投げ〉を取っちゃおうか」
「はいですにゃ!」
タルトは無事にスキルを取得することができた。




