19 タルトの〈冒険の腕輪〉
「お久しぶりです、ルミナスおばあちゃん!」
「ああ。どうぞ、あがりな」
「ありがとうございます」
家の中に入ると、ルミナスおばあちゃんはタルトへ視線を向けた。「ケットシーとは珍しいね」と言いながら、「飴でも食べるかい?」と茶棚を探してくれている。
「私の弟子で、〈錬金術師〉のタルトです」
「初めましてにゃ。タルトです、よろしくお願いしますにゃ」
「きちんと挨拶できて偉いじゃないか。ほら、飴をあげよう」
「わああぁ、ありがとうございますにゃ!」
サクッと自己紹介をすると、ルミナスおばあちゃんは大きなペロペロキャンディーを出してくれた。タルトの手のひらくらいのサイズがあるので、目をキラキラさせつつ驚いているみたいだ。
ルミナスおばあちゃんも、可愛い孫娘を見ているような感じかな?
しばしお茶を飲みつつお喋りをして、私は本題を切り出した。
「実は、タルトの〈冒険の腕輪〉を作ってほしいんです。材料は……私のときと同じように、集めてきたんです」
私がそう告げると、タルトが鞄の中からクエストに必要なアイテムを取り出した。ここ数日で、一生懸命集めたものだ。
ルミナスおばあちゃんはそれを見て、「数も種類も問題ないようだね」と頷いた。
――これは、もしかして!
「まったく、先に材料を集めてくるなんて相変わらず荒技だねぇ」
「にゃっ!?」
ルミナスおばあちゃんが笑ったあと、タルトの尻尾がぶわああっと逆立って、その場でピョンとジャンプした。何やらびっくりしたみたいだけど――あ、クエストウィンドウ!
「タルト、大丈夫だから落ち着いて」
「腕輪もすぐにできるから、お喋りでもして待っていておくれ」
「は、はいですにゃ……」
タルトは胸のあたりに手を当てて、「にゃ〜」と呼吸を落ち着かせている。うん。目の前にクエストウィンドウが突然出てきたらびっくりするよね。先に教えておいてあげればよかったかも……。
とは言いつつも、私も突然出てくるとドキッとして心臓に悪いんだけどね。いや、あれは本当に突然だから、知っててもうおおおおぉってなっちゃうよ。
「お師匠さまは、いつもこんなものが出てるんですにゃ?」
「クエストウィンドウっていうんだよ。別にいつもってわけじゃなくて、今回みたいに重要なアイテムとか、あとは、うーん……なんて言ったらいいのかな。たとえば希少な職業とか、この世界に重要なこととか、そういうのがクエストになりやすい……かな? 私もまだよくわかってないから、上手く説明できないんだけどね」
なんたって豊里美月の記憶を思い出してから、一ヶ月程度しか経っていない。ゲーム知識はあるとはいえ、まだこの世界の初心者だ。
…… もう少し師匠っぽい感じに教えられたらよかったんだけどね。この件に関しては、むしろ私が教えてほしいくらいだ。
それからしばらく待つと、ルミナスおばあちゃんの「できたよ!」という声が室内に響いた。
「ほら、あんたの〈冒険の腕輪〉だよ」
「にゃああぁぁ」
タルトが嬉しそうに〈冒険の腕輪〉を受け取った。私が着けているものと同じで、外側に魔石が二つはめ込まれた細身の装飾品だ。
「お師匠さまとお揃いですにゃ」
「うん。なんだか師弟って感じがして、いいね」
「はいですにゃ!」
コクコクと力一杯頷いて、タルトはさっそく腕輪をはめた。私と同じで、左手を選んでいる。〈冒険の腕輪〉はタルトの手首の太さに合わせて、その大きさを変えた。
あとはタルトの〈冒険の腕輪〉の機能などを確認させてもらえば、ひとまずこの件は終了だ。
「ありがとうございますにゃ、ルミナスおばあちゃん」
タルトがペコリとお辞儀をすると、「お安いごようさ」とルミナスおばあちゃんが笑う。
「またいつでも遊びにおいで。年寄りってのは、家で暇してるもんだからね。来てくれるだけでも嬉しいよ」
「また来ますにゃ!」
「今度はお菓子か何か買ってきますね」
「そりゃいいね!」
楽しみだと、ルミナスおばあちゃんが頷いた。
***
――さて。ここからがある意味、本題だ。宿屋に戻ってきたので、今からタルトに〈冒険の腕輪〉の使い方を教えなければいけない。帰り道で、タルトに使い方がわかるか聞いてみたところ、わからないと首を振った。
つまり〈冒険の腕輪〉を手に入れたとしても、ゲーム知識がなければ使い方がわからないということだ。
「それじゃあ、使い方を教えるね。〈システムメニュー〉って言ってみて」
「〈システムメニュー〉? ――にゃにゃっ! 何か出ましたにゃ!」
先ほどと同じようにブワっと毛が逆立っているタルトにちょっと笑いながら、私は使い方を教えていく。
「今、タルトに見えてるメニューは何? 読めるかな」
「はいですにゃ。〈ステータス〉〈称号〉〈スキル〉〈鞄〉〈地図〉〈簡易倉庫〉が使えるみたいですにゃ」
恐る恐るといった様子で教えてくれるタルトに、「私と同じだね」と頷く。私が使えない項目……たとえば〈ギルド〉や〈カメラ〉などは、タルトも使うことはできないようだ。
……〈システムメニュー〉を使ってるときって、側から見たらこんな感じなんだ。
空中に人差し指を突き刺しているように見えて、なんだかシュールだ。街中で使うときは十分注意しようとそっと心に誓う。
ひとまず全体的に簡単に説明すると、タルトが目を大きく見開いた。
「ここにアイテムがそんなに入るんですにゃ!? ……入りましたですにゃ!!」
「かなり便利だからね、重宝するよ」
タルトは〈鞄〉と〈簡易倉庫〉に荷物を入れては、「すごいですにゃ!」と感動している。わかるよ、インベントリのありがたみって、持ってない状態がないと気付けないもんね。
ほかの機能も、一度使ってしまえばそう難しくはないだろう。タルトなら柔軟に対応して、すぐ使いこなしてしまいそうな気がするよ。
「さて、それじゃあ本題にいこうか」
「本題ですにゃ?」
「そう。――〈錬金術師〉スキルの取得!」
以前タルトが取得していた〈ポーション投擲〉を〈星の天秤〉に変更しました。
(特に本編に変更はないので、そうなんだーくらいに思っていただいて大丈夫です〜)