18 屋台街で観光
〈牧場の村〉で馬を借りた私たちは、二人乗りでゆっくりツィレへと向かった。ゆっくりなのはもちろん、私の馬の腕前がちょっと不安だったからだよ……! 一応、乗ることはできたけど……やっぱり乗馬は慣れが必要だね。ただ、ツィレに到着する頃には普通に乗りこなせたので、ゲームすごいなってなりました。まる。
久しぶり、というほど間は空いてないけれど、〈聖都ツィレ〉へ戻ってきた。
「わあああ、こんな大きな街は初めてですにゃ! 向こうに見えるクリスタルのお城みたいなのは何ですにゃ!?」
「あれはこの街というか、この国のお城みたいなものだね。クリスタルでできた大聖堂だよ。教皇様が住んでるの。中央広場のところには、誰でも入れる〈フローディア大聖堂〉があるから、行く機会もあると思うよ」
「女神フローディア様にお祈りするところですにゃ?」
「そうそう。タルトは物知りだね」
私が頷くと、タルトはにぱーっと笑顔を見せる。褒められたのが嬉しいみたいだ。私の弟子、可愛すぎでは?
「まずは宿を確保して、それから……ちょっとだけ観光しようか? そのあとに〈冒険の腕輪〉を作りにいっても大丈夫」
「わあ、嬉しいですにゃ!」
ぱああっと満面の笑みではしゃぐタルトは、やっぱり可愛い。
宿は以前も泊まっていた『三日月亭』だ。お値段もリーズナブルで、ご飯も美味しい。女将さんも気さくないい人で、とても落ち着ける宿だ。
さくっと部屋の手配をした私たちは、街へ繰り出した。
「この街はとっても水が多いですにゃ」
タルトは街のいたるところで流れる水路を見て、「便利ですにゃ」と告げる。そういえばケットシーの村は井戸で水を汲んでいたことを思い出す。そう考えると、水路から水を汲めるこの街はとっても便利だろう。しかもこの水は綺麗なので、いろいろなことに使うことができる。
「この水は、聖樹から流れて来てるんだよ。後で〈空のポーション瓶〉を買って、汲んでストックしておくといいかも。〈錬金術師〉だから、持ってて損はないと思うよ」
「いっぱい汲みますにゃ!」
私の言葉にタルトがふんすと燃えている。
〈冒険の腕輪〉を手に入れたら、〈空のポーション瓶〉を始め、いろいろな消耗品を購入する予定だ。〈錬金術師〉は素材をたくさん使うから、いくらあっても買いすぎということもない。気づけば倉庫が空になってるなんて、よくある話で……。っと、いけないいけない、今は観光するんだった。
「あっちに屋台があるから行ってみようか」
「はいですにゃ!」
街の南西部には、屋台がたくさん並んでいる通りがある。昼食時や、夜の飲み時などは大勢の人がいてひときわ賑わっている場所だ。主食になる肉類を始め、サラダなどの副菜やフルーツ、デザートにクッキーなどのお菓子もある。
タルトは目をキラキラさせて、屋台に釘付けだ。
「いい匂いですにゃ! キャトラでは見たことのない食べ物がいっぱいありますにゃ!」
「好きなの食べよう」
「はいですにゃ!」
元気いっぱい返事をしたタルトは、鼻をふんふんさせると、ふらふら~っと一つの屋台に吸い寄せられていった。看板にはドーナツの絵がかかれている。売っているドーナツは、プレーン一種類。タルトはブュッフェに行ったら、まずはデザートから食べるタイプみたいだ。
タルトは両手にドーナツを持って、笑顔で戻ってきた。
「これは絶対に美味しいやつですにゃ! 一緒に食べましょうにゃ」
「ありがと」
尻尾がピーンと立っているので、食べたくて仕方がないのだろう。私が受け取ると、タルトははぐっとドーナツにかぶりついた。そして尻尾の先がゆらゆらと揺れる。猫が美味しくて嬉しいときの合図だ。
私もドーナツをいただくと、外がカリッとしていて、中がもっちりしていた。ボリューミーで、かなりの食べ応えがある。
「ん〜〜、おいしー!」
「何個でも食べられちゃいそうですにゃ!」
ドーナツをぺろりと平らげたタルトは、ほかの屋台に視線を巡らせている。どうやらかなりの食いしん坊さんだったみたいだ。いいよいいよ、お師匠様が好きなだけ奢ってあげよう。
今度はフルーツを水飴で加工したデザートを堪能して、串焼きも食べて、スティック野菜も食べて、食べる順序が逆だったねと笑いながら屋台を楽しんだ。
タルトはまだまだ食べたいものがたくさんあったみたいだけど、残念ながらお腹が先にギブアップだ。また来ようと約束をして、屋台街を後にした。
私たちは屋台街でお土産用の串焼きを購入して、ルミナスおばあちゃんの家へやってきた。
目的は、〈冒険の腕輪〉だ。クエストアイテムはしっかり揃えているので、プレイヤーでなければクエストを受けれない……などの制限がない限り、タルトでもクエストを受けることはできるはずだ。クエストウィンドウが出るかはわからないけれど……。
「ドキドキしますにゃ」
「ルミナスおばあちゃんは優しいから、大丈夫」
ドアをノックすると、すぐにルミナスおばあちゃんが顔を出した。私を見ると驚きつつも、すぐ笑顔を見せてくれた。
「シャロンじゃないか。よくきたね」