17 牧場の村での一日
「えいやっ!」
『ぷぷるぅ!?』
タルトが鉄の鈍器を振り下ろし、〈プルル〉をべしゃっと潰して倒す。すると、〈プルル〉は消えて、代わりにドロップアイテムの〈ぷるぷるゼリー〉が残った。これは一口サイズのゼリーのおやつで、体力を少量回復できる庶民のおやつ。
「お師匠さま、やりましたですにゃ!」
「やったね!」
無事に〈プルル〉を倒せたタルトは、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。私が初期装備として買った鈍器が役に立ってよかったと思う。
とはいえ、タルトはレベルが高いので〈プルル〉程度なら武器がなくても倒せるけどね……。
「これが〈冒険の腕輪〉を作ってもらう材料なんですにゃ?」
「そうそう。〈ぷるぷるゼリー〉を五個と、〈ウサギの花〉を三個、〈白花の薬草〉が一〇束だよ。集めるのに、そこまで時間はかからないと思うよ」
というか、この程度ならタルト一人でも簡単に集められると思う。一応、師匠として同行はするけどね。
「頑張りますにゃ!」
気合を入れたタルトは、辺りにいる〈プルル〉と〈花ウサギ〉を手あたり次第に倒し始めた。……なんというか、戦闘スタイルにフレイ味を感じるんだけど……きっと気のせい、ということにしておこう。
「それにしても、いい景色だなぁ」
ここは〈牧場の村〉から出てすぐの〈街道〉フィールド。馬車が通れる道があるけれど、少し外れると草原になっていて、弱いモンスターが生息していたり、簡単な採取物がある、初心者にもってこいの狩場だ。
一方には地平線。もう一方は、草原の遥か先に森が見える。位置的にたぶん、〈ゴブリンの森〉だろう。
正直ゴブリンにはあまり興味はないけれど、いろいろなモンスターと戦いたいとは思う。ただグロかったりオバケ要素があったりする相手もいるから、そこらへんの描写がどれくらいリアルなのか気になるところだけど……たぶんガチな感じにリアルなんだろうな。
……楽しみのような、怖いような。
そんなことを、景色を眺めながら考えていたら、タルトの「集まりましたにゃ~!」という声が耳に届いた。
「え、もう!?」
うちの弟子、めちゃくちゃ優秀なんですけど!?
「慣れたら簡単に倒せましたにゃ!」
「そっかぁ」
タルトは結構なんでもガンガン行けそうなタイプだ。
私は数量や種類が間違っていないか、念のため確認する。うん、個数も種類もちゃんとあってるね。バッチリだ。
「これで材料は揃ったね。あとはツィレに行って腕輪を作ってもらおう」
「はいですにゃ! 楽しみで、眠れそうにないですにゃ~!」
遠足前の子どもみたいで、タルトがとても微笑ましい。
「もう数日のんびりしてから出発しようと思ってたんだけど……」
「明日出発しましょうにゃ!」
「わかった、明日にしよう」
すぐにでも出発したいとタルトの顔に書いてあって、思わず笑ってしまう。ここからツィレは近いので、明日のお昼くらいには着くことができるだろう。
ツィレについたら錬金術のアイテムも買って、タルトの〈錬金術師〉スタイルを決めて行こう。戦いっぷりを見ている限り、戦闘特化を選びそうな気もするけどね……。
タルトはドロップアイテムを全部ショルダーバッグにしまうと、「早く早く!」と私を急かす。
「今日は早く寝て、明日は朝一で出発するのはどうですにゃ?」
「オッケー、そうしよう」
「やったですにゃ!」
私はタルトに手を引かれながら、宿へと戻った。
***
――夜。
私はタルトが熟睡したのを確認してから起き上がった。そのまま机に向かい、昼間に購入していた便箋などを取り出してペンを握る。
「さすがに手紙を書かないと」
そう、ずっと先送りにしていた実家への手紙を書いて、ここで出していこうと思っている。
「でも、何を書こうかな」
……イグナシア殿下がツィレに来ているっぽいこと? でも、お母様たちならとっくに知っていそうな気もする。とりあえず、何か動向を知っていたら教えてほしいと書いておこう。もしかしたら、私に有利な情報が手に入るかもしれないし、イグナシア殿下と関わらないように対処できるかもしれない。
私が見たいのは壮大な景色であって、イグナシア殿下の顔ではないのだ。
あとは、私は元気にしていることも書いておこう。仲間に恵まれて、今は弟子も一人できました……っと。いきなり弟子ができたなんて書いたら、きっと驚くだろうけど……家族のその様子を思い浮かべると、ちょっと楽しい。
「お母様、お父様、お兄様たち……みんな元気かな? 私のせいで、家が面倒なことになっていないといいんだけど……」
政治的な面で変な圧力がかけられたり……と思ったけれど、お母様がそんなことはさせそうにないなと思った。いつもは家でのんびりしているお母様だけど、社交界では無敵なのだ。
手紙を書き終えた私はぐぐーっと背伸びをして、家族のことを想いながら休んだ。