16 二人で旅立ち
「気をつけて行くんだぞ~!」
「どこかで会えたらいいわね」
「頑張れよ、二人とも!」
「何か困ったことがあったら、いつでも相談してにゃ~!」
大きく手を振るフレイ、ルーナ、リーナ、トルテに、私とタルトちゃんも大きく手を振り返す。
「タルトちゃんといろんな場所に行ってくるよ!」
「一人前の〈錬金術師〉になってみせますにゃ~!」
大声で叫ぶと、みんなが「楽しみだ!」と笑顔を見せてくれた。
私とタルトちゃんはケットシーの島を出る船に乗っているので、みんながどんどん小さくなっていく。これで、フレイたちとはしばらくはお別れだ。
横目でタルトちゃんを見ると、うっすら涙が浮かんでいる。気丈にしてはいたけれど、やっぱり家族や友人と別れるのは辛いよね。……その分、私がめいっぱいこの世界を楽しませてあげられたらいいなぁ……なんて思うのです。
***
のんびり景色を見るのも大事。と言わんばかりに、私とタルトちゃん――っと、タルトは、〈聖都ツィレ〉へ向かうための街道を歩いている。ちなみに、もう少し先にある〈牧場の村〉に行ったら馬を借りる予定だ。
タルトと呼び捨てにしたのは、船の中でそう呼んでほしいとお願いされたからだ。もしかしたら、子供扱いされているみたいとか、仲間っぽさを感じられないとか、そんなことを想わせてしまったのかもしれない。
「タルト、疲れてない?」
「大丈夫ですにゃ! お師匠さまが〈身体強化〉をかけてくれてるから、元気いっぱいですにゃ」
そう言うと、タルトは元気がありあまっているのか街道をダッシュし始めた。ケットシーだけあって、その瞬発力は凄まじい。〈錬金術師〉でこれだけの身体能力があるって、かなりのアドバンテージじゃなかろうか?
「あ! お師匠さま、向こうに村が見えるですにゃ!」
「お、〈牧場の村〉だね。今日はあそこで一泊して、明日は馬でツィレに行くよ」
「はいですにゃ! キャトラ以外の村は初めてなので、楽しみですにゃ」
タルトの尻尾がピーンと立ち上がり、体全体で嬉しさを表していた。
〈牧場の村〉に到着した。
ケットシーの村へ行く道中に立ち寄った際、暴れていた牛をみんなで大人しくさせて〈エリアヒール〉で癒したりしたこともあり、村の人たちは私を見ると「シャロン!」と声をかけてくれた。
会釈しつつ、私は宿へやってきた。
「いらっしゃい、シャロン! また来てくれて嬉しいわ。今日は……二人かしら?」
「フレイたちとはレベルが合わなくて……。あのときは臨時で組んでたんですよ。今日は私とこの子――タルトの二人です」
「あら、そうだったのね」
女将さんは頷いて、「こんにちは」とタルトに笑顔を向けてくれた。
「弟子のタルトですにゃ。お世話になりますにゃ」
「あらあ、とってもお行儀がいいのね。すごいわ! それにシャロンの弟子なのね。いいお師匠様を持ったわね」
「はいですにゃ!」
そんな会話をされると照れるんですが? 私は顔が赤くなる前に手を出して、ささっと部屋の鍵を受け取るが、クスクス笑われてしまったので照れているのはバレバレだ。
「部屋は二階の奥よ」
「わかりました」
私たちが泊まる部屋は二人部屋だ。ベッドが二つあるだけで机などは一つしかないけれど、特に今は使うこともないので問題ない。
「わ~、お日様の匂いがするふかふかベッドにゃ!」
ベッドにダイブしてふかふかを堪能するタルトを見ると、年相応な姿に微笑ましくなる。しかもすぐに寝息が聞こえてきたので、元気いっぱいだったけれど疲れは溜まっていたのだろう。
……もしかして、かなり無理させちゃったかな?
馬を借りて明日出発の予定だったけれど、もう少しのんびりスケジュールでもいいかもしれない。どうせなら、〈冒険の腕輪〉の材料を集めてからツィレに向かってもいいよね。戦闘の練習にもなるし。
「よし、そうしよう!」
そうと決まれば、私も昼寝だ! ということで、私も夕飯くらいまでは寝ることにした。実は私も結構疲れていたのです。