15 真夜中の内緒話
――さて。真夜中です。夜空にはこの世界独特の赤みがかった月が出ていて、なんとも幻想的な月明かりになっている。
「あ~~綺麗だな~~! しかもここがケットシーの村ということを考えると、感動もさらに倍だね……!」
夜中の間、ずっと起きて見ていてもいいと思えるくらいだ。赤の月に従うかのように光る星も、満天だ。
そのまましばらくぼーっと眺め、ハッとする。
「いけないいけない、〈転移ゲート〉の登録をするんだった」
〈転移ゲート〉は、〈冒険の腕輪〉を装備していると使うことができる。プレイヤーはゲートと呼んでいて、ゲート間……つまり街と街を移動することができるシステムだ。ただ、使うにはゲートに登録しなければいけないなど条件がある。
〈ケットシーの村キャトラ〉は村なので、ゲートは村のどこかに一つだけ設置されている。大きな街だと入り口を含め二つほど設置されているのだ。ちなみにこの村のゲートは、村はずれにあったのをフレイと職業を聞きまわっているときに見つけた。
高さは三メートルほどで、この世界を創ったとされている神の彫刻がほどこされている。しかしここでは加えて、にくきゅうのデザインが取り入れられていてちょっと可愛らしい。
私は彫刻の神様が持っている魔石へ触れる。これで登録は完了だ。
「念のため真夜中に来てみたけど、別に登録だけなら昼間でもよかったかな……」
村の人たちから見れば、村はずれにあるオブジェに触っているだけだからね。
さて、トルテの家に戻ろう。そう思ったら、「お師匠さま?」と自分を呼ぶ声。
「タルトちゃん! こんな時間に外に出たら危ないよ?」
「それはお師匠さまにそのままお返ししますにゃ」
「あらら……」
どうやらタルトちゃんの方が一枚上手だったみたいだ。反論できないので苦笑するが、それでもタルトちゃんの方が幼いので「駄目だよ?」と注意はしておく。もちろん私も気をつけます。
「こんな時間に、こんなところで……何をしてたんですにゃ?」
「あー、ちょっとあのゲートに用事があってね」
「ゲート? ですにゃ?」
タルトちゃんは意味がわからず、こてりと首を傾げてみせた。うん。この〈転移ゲート〉を使える人、私も見たことないからね。
「タルトちゃんには教えたいことがたくさんあるんだ。でも、それは明日の出立以降、おいおいかな?」
ゲートを使うには〈冒険の腕輪〉が必要だけど、タルトちゃんが手に入れられるかどうかも今はまだわからない。
「まずは、タルトちゃんがどんな〈錬金術師〉になりたいかを決めよう」
「私がなりたい〈錬金術師〉ですにゃ?」
「うん」
私は〈錬金術師〉の中にも、戦闘が得意だったり、〈製薬〉をメインで扱ったり、いろいろなやり方があることを教えてあげた。
「なるほどですにゃ。……でも、スキルは自分で選ぶことはできないですにゃ。自分でなりたい〈錬金術師〉を決めるなんて無理じゃないですにゃ?」
「そ、それはああぁぁ」
話を振るタイミングが早かった! こっちも〈冒険の腕輪〉をゲットしてから話せばよかった!! と思ったけれど、もう遅い。
……どっちみち、タルトちゃんは私の弟子になったんだから、いろいろ知ることになるもんね。
「私が装備してるこの腕輪、何かわかる?」
「……? わからないですにゃ。貴重な腕輪なんですにゃ?」
「これはね、〈冒険の腕輪〉って言うんだよ」
そう告げて、私は〈冒険の腕輪〉でできることをタルトちゃんに説明した。スキルを自分で振れるようになることや、〈鞄〉を使うことができること、など。
「それって、すごすぎですにゃ。おねえちゃんたちも、みんな知ってるんですにゃ?」
「ううん。トルテやフレイたちには話してないよ。というか、誰にも話してないかな」
「それがいいですにゃ。本当に信頼のおける仲間じゃないと、話したらいけないと思いますにゃ」
でなければ、私が危険になってしまうかも……と、タルトちゃんが心配そうに告げた。特に王侯貴族がそれを知ったら、手に入れるために何かしてくるかもしれない……と。
私以上に考えてくれていそうなタルトちゃんに、驚きを隠せない。私よりずっとしっかりしているんじゃなかろうか……。
「おねえちゃんたちは、わたしは信頼していますにゃ。でも、お師匠さまの仲間とは少し違いますにゃ。だから、教えない方がいいと思いますにゃ」
今はまだ、と、タルトちゃんが言葉を付け加えた。いずれ少しずつ広めるのであれば、最初に教えてあげていいと思っているようだ。
……確かに、いつかは広めることができたらいいなと思う。
冒険者たちが〈冒険の腕輪〉の存在を知れば、活躍の幅がぐっと広がる。それによって、攻略できるダンジョンが増え、モンスターのドロップアイテムの流通も多くなる。必然的にアイテム全般が手に入れやすくなるだろう。
「……うん。いつか公表できそうだったら、フレイたちに最初に教えてあげよう」
「はいですにゃ」
とはいえ、そんな未来はだいぶ先だろう。一介の冒険者では無理なので、たとえば世界最強クラスの冒険者、もしくは王族……最悪ギルドマスター? あたりでなければ、上手く情報を使えないだろうと思う。
まずは自分の発言力を得るためにも、頑張って〈聖女〉に転職したいところだ。
感想、重版のお祝いなどありがとうございます…!(嬉
個別にお返事できずすみません。その分、更新できるように頑張ります……!