13 弟子志願
「お、遅かったなシャロン。おかえり」
「ただいま」
トルテの家に戻ると、フレイたちが焼き上がったクッキーをもぐもぐしているところだった。素朴なプレーンのクッキーだけれど、形がネコになっていて可愛らしい。
「それにしても、どこまで行ってたんだ?」
「あははは……」
一人でダンジョンに行ったなんて言ったら何か言われそうなので、とりあえず笑ってみた。そうしたらフレイもつられたのか笑ってくれた。
「おかえりなさいですにゃ~!」
すぐにタルトちゃんがお茶とクッキーの載ったトレイを持って出て来てくれた。私の分も用意してくれたらしい。とってもいい匂いだ。
「美味しそう! ありがとう、タルトちゃん」
「どういたしましてにゃ」
にこにこのタルトちゃんからお茶を受け取って、私はふーっと一息ついた。出来立てのクッキーは想像していたよりもずっと美味しくて、ほっぺが落ちそうだ。
のんびりお茶をいただいていると、タルトちゃんにじいいぃっと見つめられていることに気づく。何か言いたいことがあるようだ。私が首を傾げると、タルトちゃんが口を開いた。
「シャロンさん、わたしを弟子にしてほしいですにゃ!」
「――はい?」
あまりに唐突なその言葉に、私はもちろん、トルテ、フレイ、ルーナ、リーナも目をぱちくりと瞬かせた。誰もが予想外だったのだろう。
……昨日、初めて〈錬金術師〉のスキルを使ったから、ハイテンションになっちゃってるのかな?
「タルトちゃん。私は〈錬金術師〉じゃなくて、〈癒し手〉なんだよ。だから師匠にはなれないんだ、ごめんね……」
材料や〈製薬〉の手順などを教えたせいか、タルトちゃんに私が〈錬金術師〉だと誤解させてしまったのかもしれない。しかしそれは違ったようで、タルトちゃんはふるふると首を振った。
「知ってますにゃ! それでも、わたしはシャロンさんに師事したいと思ったのですにゃ。……ずっと家の中にいたわたしに、新しい世界を見せてくれたシャロンさんににゃ!」
「タルトちゃん……」
ふいに、タルトちゃんが少し前の――婚約破棄を突きつけられて、国を出たときの私と重なった。冒険し、この世界中の景色を見てみたいと思った私に。わかる、わかるよ……と、自分の中の何かがタルトちゃんに同意している。
これからいろいろな場所へ行くので仲間はほしいと思っていたし、〈錬金術師〉が一緒なのはとても心強い。レベルだって合う。だけど、弟子、弟子……か。タルトちゃんは七歳だっていうし、私が簡単に返事していい案件ではないと思うんだよね。
私が悩んでいると、フレイが「いいじゃないか!」と賛成した。
「タルトは病気が治ったんだから、好きなことができるんだ。それはとても素晴らしいと思うぞ! もちろん、シャロンに師事をするならばシャロンの許可は必要だが。もちろん、タルトの家族の許可もだ」
「……シャロンさん、おねえちゃん、お願いしますにゃ! わたしは一人前の〈錬金術師〉になりたいですにゃ!」
期待に満ちたキラキラおめめがとっても眩しい。
私はそっとトルテの様子を窺うと、どうするべきか悩んでいるようだ。小さな妹、しかも完治したとはいえ病み上がり。冒険に出るなんて、心配に決まっている。
「お願いですにゃ、おねえちゃん!」
「タルト……。…………わかったにゃ。そこまで言うなら、私は応援するにゃ。タルトには、この島だけじゃなくて、外の世界をいっぱい見てほしいと思うにゃ」
「ありがとうにゃ!」
トルテの許可が下り、タルトの表情がぱああっと明るくなった。そして全員の視線が私に向けられた。残すは、私の許可だけだ。
……んんんんん~、なんとも難しい決断。
私と一緒に行動するということは、私の秘密――ゲーム知識に関することを教えることになる。まあ、別に駄目だというわけではない。教えてはいけないという規則があるわけでもないし。
私はふうと息をついて、タルトちゃんを見る。
「……私は世界中の景色を見たいっていう野望があるから、ついてくるのは大変だよ?」
「元気になったので、体力をつけますにゃ!」
タルトちゃんはレベル上げも頑張るのだと、気合が入っている。どうやら決意は本物みたいだ。
「いいよ。〈錬金術師〉じゃないけど……師匠になってあげる」
「ありがとうございますにゃ! お師匠さま!」
「お師匠さま……!」
可愛いケットシー幼女にお師匠さまなんて呼ばれてしまったら、可愛がらないわけにはいかない。タルトちゃん、世界一の〈錬金術師〉にしてあげる。私はやると言ったらやる女だから、覚悟してね!