12 一人で散策
タルトちゃんが〈錬金術師〉だと判明し、〈流れ星のポーション〉を作ってタルトちゃんの病気が治り、翌日。私たちはトルテの家のリビングでぐてーっとしていた。
私はともかくとして、フレイたちはタルトちゃんの病気を治す方法を必死で探していたので燃え尽きたのだろう。
「みんな、だらしないですにゃ……」
私たちと違って元気いっぱいなのは、タルトちゃんだ。〈錬金術師〉として〈製薬〉したこと、そして病気が治り健康になり――未来が開けた。きっと今、人生で一番やりたいことが多いのだと思う。
しかしタルトちゃんは、自分の病気を治すためにフレイたちがものすごく頑張って苦労してくれたことを理解している。
「わたしがとっておきのお茶を淹れてあげますにゃ。おやつも作るのにゃ」
「手伝うにゃ」
「ありがとうにゃ」
タルトちゃんが腕まくりをして気合を入れたのを見て、トルテが起き上がった。その顔にはまだ疲れの色が浮かんでいるので、タルトちゃん一人に任せるのが心配なのかもしれない。お姉ちゃんだね。
……ちなみに私は助言してあげられるほど料理が得意なわけではないのですよ。
***
私は一人、ケットシーの村を回ってみることにした。可能ならフィールドも見て回りたいと思っている。なんといってもケットシーマップだ。
タルトちゃんはトルテと一緒にクッキーを作るらしく、お茶の時間にはもう少しかかりそうだ。だからこその、観光なんだけれども。
「といっても、村の中は職業を聞くために歩き回ったんだよね」
なので見てみたいのは、フィールドだ。
この島には、〈ねこじゃらし野原〉というフィールドと、〈珊瑚の洞窟〉というダンジョンがある。フィールドは村に来るときに通った、猫たくさんのパラダイスだ。じゃあ、〈珊瑚の洞窟〉はどんなところだろうか?
私の予想では、珊瑚がとっても綺麗な場所だと思う! って、そのままか。
「支援しかできないけど……まあ、様子見くらいなら、大丈夫だよね?」
そう思いながら、私は村はずれから〈珊瑚の洞窟〉に続く細い道を進んだ。
二〇分ほど歩くと、洞窟が見えた。
入り江になっている場所で、カニや貝などがたくさんいる。あ、タコもいる! なんとも大漁だ。ただ、ダンジョンの前ということで滅多に人――もといケットシーたちはこないようで、手が入っていない印象が強く岩も苔などがついていて歩きづらい。
んー、これは結構大変そうかも?
「でも大丈夫。〈流れ星のポーション〉を持ってるから、最悪なんとかなる!」
静かに深呼吸をし、きっと最高の景色が私を待っている! そう自分を鼓舞して洞窟へ足を踏み入れ――る前に、支援しなきゃ。
「〈身体強化〉〈女神の守護〉、それから念のため……〈リジェネレーション〉っと!」
自分自身に支援を一通りかけて、いざ!
洞窟の中――〈珊瑚のダンジョン〉は、とても不思議な場所だった。
一言で表すなら、水族館だろうか。ところどころに水の柱が立っていて、その中に美しい珊瑚があり、小魚が泳いでいる。赤や黄色のヒレがとても綺麗で、熱帯魚のようだ。一見すると、危険はないように思えるが……ここはダンジョンだ。いつどこから、どんなモンスターが出てくるかわからない。
私がドキドキしつつもゆっくり進むと、水鉄砲のような攻撃が飛んできた。
「――っ、〈女神の守護〉! モンスター!?」
ドッドッドッと、心臓が嫌な音を立てる。しかし止まっているわけにはいかない。私は同時にバリアを張り直して、周囲を警戒する。ちょっとした油断が命取りだ。そして――見つけた。こちらに向かって口からビュッビュッと水鉄砲を撃ってくるモンスター! すぐに〈星の記憶の欠片〉を使ってモンスターの情報を見る。
「半魚人……名前は、ハーマン? 水属性で、物理攻撃に弱いモンスターか」
ハーマンは魚から手と足が生えた半魚人のモンスターで、お洒落に貝のブローチをつけている。人魚ではないから、たぶん雄……かな?
水鉄砲で攻撃してくるところを見ると、あれも一応魔法の部類だから……物理全般が苦手なのだろうということがわかる。
あまり強くはなさそうだけれど、いかんせん私には攻撃手段がない。非アクティブ――こちらが何かしないかぎり攻撃をしてこない敵だったらもっとダンジョンの奥まで行けたけれど、仕方がない。今日は戦略的撤退だ。
私は逃げるように〈珊瑚のダンジョン〉を後にした。