10 製薬のお時間
「ここがおばあちゃんの使ってた作業部屋にゃ」
私は部屋の中をぐるりと見回して、「おおっ」と感嘆の声をあげる。
トルテとタルトちゃんに案内してもらった地下の十畳ほどの部屋は、錬金術の道具が一式揃えられていた。品質は、ゲーム時代の店売りの一番いいものだった。
「これだけあれば、問題なく〈製薬〉ができそうだね」
私がそう言うと、全員の顔がぱああぁっと明るくなる。可愛いですよちくしょう。
作るアイテムは、最上級の回復薬〈流れ星のポーション〉だ。これは簡単に説明すると、死んだプレイヤーを復活させることができる。超重要なアイテムだけれど、〈錬金術師〉しか作ることのできないアイテムなのだ。それもあって、プレイヤーには〈錬金術師〉が多かったというわけだ。
私が〈流れ星のポーション〉でタルトちゃんの病気を治せるかもしれないと思い至った理由は、状態異常などもすべて回復してくれるからだ。要は、生きていても一度死んでバフもデバフもない状態で回復するのと同じ効果を得られる。もったいない使い方ではあるけれど。
「頑張りますにゃ!」
「うん、ちゃちゃっと作って元気になっちゃおう! 念のために確認するけど、今は体調に問題はなさそう?」
「はいですにゃ」
「よかった」
作業中に辛くなって倒れてしまったら大変だ。とはいえ、可能な限り楽な状態でスキルを使ってもらいたいので……私は部屋の隅にあった椅子を持ってきて、タルトちゃんに座っているようお願いする。
「元気になるまでは無理せず、だよ。準備が終わるまで座ってて」
「お手伝いしたいですけど、迷惑をかけるわけにはいかないですにゃ。わかりましたにゃ」
タルトちゃんはとってもいい子に頷いてくれた。トルテはタルトちゃんの隣で様子を見ていてくれるようだ。
そんななか、張り切っているのはフレイとルーナだ。ルーナはどちらかというと、興味津々といった感じだろうか。
「それで、私は何をすればいい!?」
「というか、何を調合するの?」
「今からタルトちゃんに作ってもらうのは、〈流れ星のポーション〉だよ」
「「「〈流れ星のポーション〉!?」」」
私の言葉に、全員が声を荒らげた。目を大きく開いて驚いている。
「ちょっとちょっと、〈流れ星のポーション〉って、滅多に市場に出回らないポーションじゃない! それを……作れるの!?」
「え、あ、ええと、そう! たまたま! たまたま作り方を聞いたことがあって!」
そういえば〈流れ星のポーション〉って、ゲームでしか見たことなかった~~! まさかこれほど驚かれるとは思っていなかった。
私はアハハハと笑いながら、「今は時間が惜しいからね」と材料の用意を進めていく。
「まずは〈楽園の雫〉。これが元になる薬草だね。次に、〈魔力草〉〈火の花〉〈土の花〉〈風の花〉〈水の花〉〈空のポーション瓶〉を一つずつと、〈聖水〉が三本必要なんだけど……」
ここまで言って、はたとする。私、〈聖水〉持ってない! 〈エルンゴアの亡霊〉と戦うときと、〈スキルリセットポーション〉を作るときに全部使っちゃったんだ。ゲーム時代は膨大な量の〈聖水〉をストックしてたから、在庫の数はあまり気にしたことがなかった。失敗。
私は一縷の望みをかけて、あるかな? とフレイ――もといアイテムを管理しているトルテに視線を向ける。
「全部あるのにゃ。よかった、タルトの病気が治せるにゃ」
トルテがほっと胸を撫でおろし、リュックから材料を取り出す。私が言ったものはすべて揃っていた。さすがは勇者パーティの〈お手伝い〉だね。優秀だ。一度トルテの持ってるリュックの中身をひっくり返して全部見たい。
「じゃあ、〈製薬〉していこうか。タルトちゃん、おいで」
「はいですにゃ!」
タルトちゃんを呼ぶと、緊張しているのか耳がピンと立っている。
「大丈夫だよ、リラックス、リラックス。手順なら教えてあげられるから」
「ありがとうですにゃ」
道具は〈上級調合鍋〉と、〈よく燃える火種〉と、かき混ぜるための棒が〈リュディアの若芽の混ぜ棒〉だ。
背が低いタルトちゃんのために作業台を用意してあげると、調合鍋を覗き込んだ。
「わあぁ! いつもはおばあちゃんが使ってるのを見るだけだったから、なんだか不思議な感じですにゃ」
「おばあちゃんがやってるのを見てたなら、イメージしやすいね」
私は「まずは〈魔力草〉から入れていこう。希少価値が低い順から入れていくんだよ」と丁寧に説明をしていく。
「材料を入れて、混ぜて、ピカっと光ったら次の材料を入れてまた混ぜるよ。ちょっと大変だけど、頑張ろう」
「はいですにゃ!」
「いいお返事!」
ということで、レッツクッキング♪ なノリでどんどん調合を進めていく。〈魔力草〉を入れて光ったら、次は〈聖水〉、それから四属性の花。もちろん〈空のポーション瓶〉も入れて、最後に〈楽園の雫〉を投入すると――もくもくもくっと煙が上がってきた。
「にゃにゃっ!?」
びっくりしたタルトちゃんのしっぽがぶわああっと逆立った。可愛くて思わず笑いそうになるのを堪えつつ、「大丈夫だよ」と手を止めないようにお願いする。
「光ったら完成だよ」
「は、はいですにゃ!」
私の言葉に頷いて、タルトちゃんは一生懸命かき混ぜる。すぐにピカッと大きな光が溢れて、調合鍋の中に〈流れ星のポーション〉ができあがっていた。
……うん。やっぱり瓶に入った状態でできあがるのは不思議だね。
前回の誤字脱字や「にゃ」のつけ忘れや設定ミス(レベルやスキルやら)、ご指摘や修正ありがとうございます。
自分がぽんこつすぎて泣きたい\(^o^)/
錬金術師→製薬
薬師→調合
で統一していこうと思います。(順次修正していきます……)
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。