9 錬金術師のタルト
村中を駆け回って必死に〈薬師〉と〈錬金術師〉を捜してみたものの、見つからずに絶望していたら……なんとタルトちゃんが〈錬金術師〉でした!! ゲーム時代は〈錬金術師〉のプレイヤーも多くいたけれど、現実となった今では希少な存在……!!
「タルト、〈錬金術師〉だったのか……!」
「先生がいるし、タルトは病気もあるからあんまり気にしていなかったにゃ」
フレイとトルテが声をあげて、ルーナとリーナも驚いている。うん。私もめちゃくちゃ驚いたからね……。
私たちの反応に、タルトちゃんが戸惑っている。
「ええと、どうかしたのにゃ?」
「実は〈錬金術師〉もタルトを治す薬を作れることがわかったんだ。ただ、かなり熟練じゃないと難しいみたいでな……」
「わたしはおばあちゃんみたいに、上手に薬を作ったりはできないにゃ」
フレイの言葉を聞き、しょんぼりしながら告げたタルトちゃんに、私はそれはそうだと頷く。まだ七歳だし、病気だし、自分の職業について考える余裕もないだろう。
タルトちゃんにスキルを覚えてもらって薬を作るのが一番手っ取り早いけど、いかんせん病弱な幼女をレベリングに連れ出すわけにはいかない。
……必要なスキル自体は、そんなにレベルが必要じゃないんだけどね。
〈錬金術師〉の調合は、そこまでスキルレベルが必要ではない。しかしその分、〈調合〉の材料が多かったり希少だったりすることが多い。材料の買い取りをしているプレイヤーはたくさんいた。
「ちなみに、タルトちゃんは何かスキルを覚えてたりする?」
「ええと、〈調合〉がレベル10、〈星の天秤〉がレベル2、〈分解〉が使えるにゃ」
「…………えっ?」
え? 待って、どういうこと? いや、一回落ち着かなければ。私はタルトちゃんの告げたスキルを頭の中で反芻する。〈調合〉がマックスのレベル10で、〈星の天秤〉のレベルは2で、〈分解〉を持っているって? ちなみに〈星の天秤〉のマックスレベルは5だから、今後のレベルアップでは〈星の天秤〉が上がっていくということになる。さらに〈冒険の腕輪〉がないとスキルを手動で獲得できず、ストックが常に4あることになるので……つまりタルトちゃんのレベルは18ってことかな? えっ、私よりレベル高いんですけど……?
「どういうこと!?」
何回だってどういうこと!? と言いたい。
しかし私の問いに答えたのは、タルトちゃんではなくフレイだった。
「ああ、私がタルトを鍛えたんだ。体調がいいときがあってな、鍛えれば病気もよくなるんじゃないかと思って……」
「なんという脳筋……」
いや、確かに健康的な体っていうのはとても大事だけれど! 横で聞いているトルテが、「所用で島を離れて帰ってきたらタルトが戦ってて、びっくりしたのにゃ」と遠い目をしている。
「私は止めた方がいいって言ったんだけど……」
「まあ、とくに体調が悪化とかしなかったからよかったんだけどね」
ルーナとリーナも苦笑している。
タルトちゃんを健康にしようと燃えていたフレイを止めるのは難しかったようだ。
「……〈調合〉レベルがマックスだから、作業部屋――道具一式があれば薬を作れるね。材料は、〈エルンゴアの楽園〉で採取した薬草を使えば足りるし……」
「おお、シャロンは物知りだな!」
「え、あ、まあ……私も人に聞いたりして知ってるだけだけど……!」
あははと誤魔化すように笑いながら、私はタルトちゃんを見る。マナがあれば〈調合〉はできるとはいえ、病気でスキルを使うのは大変だ。タルトちゃんは今の話を聞いて、どう思っただろう? そっとタルトちゃんを見ると、セピアの可愛い瞳をキラキラさせていた。
「わたしも、おばあちゃんみたいにポーションを作れるにゃ?」
どうやら〈錬金術師〉のスキルを使ってみたいようだ。
「……うん。作れると思う。〈調合〉はレベルが上がるほど素材の扱いが上手くなって、成功率も上がるから」
「わたし、自分の薬を作るにゃ!」
タルトちゃんがぱっと笑顔を見せた。