8 探し人
「はーー」
私はフレイと二人、村の入り口でため息をついた。結局、〈薬師〉も〈錬金術師〉も見つけることができなかった。
「仕方ない、戻るか」
「……そうだね」
フレイの言葉に頷いて、私たちはトルテの家へ向かった。
「おかえりにゃ! どうだったにゃ?」
家へ戻ると、真っ先にトルテがやってきた。その後ろには、リーナとルーナがいるけれど、二人とも表情はすぐれない。向こうも見つけられなかったみたいだ。
フレイが静かに首を振ると、トルテの耳がへにょりと垂れた。「大丈夫にゃ」と口では言っているけれど、きっと強がっているのだろう。
「今日はもう遅いにゃ。ご飯を食べて休むにゃ」
テーブルの上を見ると夕食が用意されていた。トルテが看病の合間に作ってくれていたみたいだ。
「ああ、そうしよう。腹が減っては、いい案も浮かばないだろう」
「そうね」
フレイとルーナが頷いて椅子に座ったので、私とリーナも後に続く。今日の夕食はシチュー、パン、サラダだ。
私はシチューを食べながら、さてどうしたものか考える。
……私が〈薬師〉か〈錬金術師〉に転職できたら、一番手っ取り早くてよかったんだけど……。
いかんせん〈薬師〉の転職場所は〈桃源郷〉で、〈錬金術師〉の転職場所はファーブルム王国をはさんだ隣にあるローラルダイト共和国にある。どちらも行くのが大変で、一刻も早く薬がほしいことを考えると時間が足りなさすぎる。
転職ができることをフレイたちに話さなければいけないけれど……本当の本当の、最終手段としては考えておいた方がいいかもしれない。
「……ロン」
「シャロン!」
「えっ?」
私が思考に没頭していたら、大きな声で名前を呼ばれた。見ると、私以外の全員がすでに食べ終わっていた。
「あ、ごめん。すぐに食べちゃうね」
「ゆっくりで大丈夫にゃ。その、シャロンが思いつめたような顔で心配だったのにゃ」
「あー……ちょっと考え事をね。もう大丈夫」
私は笑顔を見せて、急いでシチューにパンをつけて口に含む。トルテのご飯は今日も最高に美味しいです。
「そんなに急がなくていいと言っただろう?」
フレイがそう言って笑って、すぐに「決めたぞ」と全員を見た。
「明日、ツィレに戻ろうと思う。あそこなら、〈薬師〉も〈錬金術師〉もいるはずだからな。片っ端から当たれば、一人くらいはスキルを持った人がいるだろう」
「フレイ……ありがとうにゃ」
「私たちだって、タルトのことは大切だし、妹のように思っているからな。大丈夫だ、絶対に助かる!」
フレイがぐっと拳を立てて、それに全員が頷く。すると物音がして、振り向くとタルトが立っていた。顔色は先ほどよりよくなっていて、少しだけほっとする。
「タルト! まだ寝ていた方がいいにゃ」
「だいぶ楽になったから、わたしも一緒にご飯を食べようと思ったのにゃ」
そう言って、タルトちゃんは自分のお腹に手を当ててはにかむように笑った。小さくきゅぅと音が聞こえてきたのがまた可愛い。
トルテが「すぐ用意するにゃ!」と慌てだすのを見ながら、タルトちゃんは席に着いた。
「おねえちゃんのご飯は美味しいにゃ」
にこにこ笑顔でシチューを食べるタルトちゃんは、先ほどよりも元気が出てきたようだ。食欲があるというのは、いいことです。
タルトちゃんはゆっくり食べながら、私たちを見た。
「……お医者様を探してくれていたのにゃ?」
「ああ。だが、この村にはいないみたいでな。明日、私が探して連れてくる予定だ」
フレイが代表して返事をすると、タルトちゃんは「ありがとうにゃ」と微笑んだ。
「おばあちゃんがいたら、こんなに困らなかったのににゃ……」
「おばあちゃん?」
突然出てきたおばあちゃんに、私は首を傾げる。
「私たちの祖母は〈錬金術師〉だったのにゃ。今は誰もつかってないけど、この家の地下に研究室があるのにゃ」
「へえぇ、そうだったん――」
私は普通に頷こうとした自分に待ったをかける。祖母が錬金術師だということは、トルテの家系は〈錬金術師〉がほかにもいるかもしれない。でもトルテの職業は〈お手伝い〉だから違う。
……そういえば、タルトちゃんの職業ってなんだろ?
先ほどさんざん職業の確認はしたけれど、タルトちゃんの職業は確認していない。
今は体調も安定してるから、スキルがあれば薬一つくらいなら作れる……と思う。
「ねえ、タルトちゃん?」
「にゃ?」
「タルトちゃんの職業って、何かな?」
「わたしは――〈錬金術師〉にゃ」




