7 スキルレベルが足りない!
〈楽園の雫〉を見て首を振る先生を見て、私はあちゃあと思わず額に手を当てて項垂れる。間違いなく、先生の〈薬師〉としてのレベルが足りない。
先生がすぐに反応できたのは、薬草関連のみ鑑定できる〈薬草鑑定〉というスキルのおかげだろう。このスキルは薬草関連のみ名称や効果などを知ることができ、さらに薬草を扱う際の難易度も表示される……というものだ。だから「扱えない」と叫んだのだろう。
たぶん、スキルレベルが全然足りない。レベルを上げないとスキルを覚えられないのに、戦闘能力が低いからレベルが上がりづらいという負のスパイラルだ。現実世界になると、一気に生産職に厳しくなるね。
……さて、どうしようか?
「先生が扱えないとなると……どうすればいいかわからないにゃ」
トルテの小さな呟きに、全員に緊張が走る。
フレイは「聖都から高レベルの〈薬師〉を探してくるか!?」と慌て、ルーナはどうにかして薬を作る方法はないだろうか? と悩んでいる。リーナはどうしたらいいかわからないようで、困り顔だ。
フレイが頭をかきながら、私を見た。
「シャロン、何か解決策はないか?」
「そうですね……。いくつかあります」
「本当か!?」
「本当にゃ!?」
私の言葉に、フレイとトルテの声が重なる。確かにいくつか解決策はあるけれど、それが有効かはわからない。
「まず一つは、先生のレベルを上げる。もしかしたら、〈調合〉スキルのレベルが上がって〈楽園の雫〉を使えるようになるかもしれません。もう一つは、フレイが言った通りほかの〈薬師〉を探すこと」
ぱっと思いつくのは、残念ながらこの二つだけだ。
ただ……ただ――――先生、かなりお年を召している。
先生のレベルを上げるのは、たぶん先生が無理だ。それはほかのみんなも思ったのか、先生からそっと目を逸らした。
「こうなったら、村に〈薬師〉がいないか探しましょう。幸い〈星の記憶の欠片〉は持ってますから」
〈星の記憶の欠片〉とは、レベル50以下の対象の〈職業〉がわかる使い捨てアイテムだ。まあまあ使い勝手がいいので、いくつか購入しておいた。
すぐ、フレイたちが私の提案に頷いてくれる。
「そうだな、何もしないよりはその方がいい。よし、さっそく村中を見てみよう! トルテはタルトについててやってくれ」
「ありがとうにゃ!」
***
私とフレイ、ルーナとリーナの二手に分かれて〈薬師〉がいないか探すことにした。こんなことなら、〈星の記憶の欠片〉もっと多めに買っておけばよかった!
ケットシーの村の中を歩くと、トルテがいないこともあり厳しい視線がビシバシ飛んでくる。横にフレイがいてよかった。フレイはこの村に受け入れられているから、一緒だと「知り合いか」みたいな感じに視線が和らぐのだ。
「やあ、ジョゼ。久しぶりだな」
「フレイか。しばらくぶりだにゃ」
「実はタルトの治療の為に、〈製薬〉スキルの高い〈薬師〉を探していてな。ジョゼは〈薬師〉だったりしないか?」
……普通にコミュニケーション取ってる!
こっそり〈職業〉を覗き見ようとしていた自分をちょっと反省しつつ、元気に走り回っていて、さらに〈職業〉をきちんと把握していなさそうな子どもを見ておく。……うん、〈薬師〉じゃないね。
「先生だと〈製薬〉スキルが足りないのにゃ? タルトちゃん、心配だにゃ。力になってやれたらよかったんだが、俺は〈チェイサー〉にゃ」
「気持ちだけで十分だ、ありがとう。ちなみに、〈薬師〉に心当たりがあったりしないか?」
「う~ん……。この村の〈薬師〉って言ったら、先生だけだからにゃぁ」
フレイにジョゼと呼ばれたケットシーが悩む姿を見て、私は慌てて「はいっ!」と手を上げる。うっかり失念していたことがあったのだ。
「〈薬師〉だといいんですけど、〈錬金術師〉でも大丈夫です。〈調合〉スキルで作れるポーションで、一つ効果のありそうなのがあるから」
「……人間が何しに来たと思っちまったが、タルトのことを心配してくれてんだにゃ……。だが、あいにくと〈錬金術師〉にも心当たりはないにゃ」
「いえ、ありがとうございます」
残念ながら、〈薬師〉も〈錬金術師〉もジョゼには心当たりがないようだ。私とフレイはジョゼに別れを告げ、再び村の中を歩き出した。