6 タルトの病気
「今日は朝から調子がいいのにゃ。おねえちゃんも帰って来たし、とってもいい日にゃ」
タルトちゃんはニコニコ笑顔でお茶とお菓子を入れてくれた。
黄色みの強い黄緑色のお茶はちょっとだけ甘くて、美味しいけれどなんだか不思議な味だ。この世界に来てからはもちろん、現実でも飲んだ記憶はない。お菓子はお団子だった。これも美味しい。
お茶をぐいっと飲んだフレイが、「タルトのお茶はいつ飲んでも美味い!」と笑顔を見せる。
「ねこじゃらし茶を飲めるのはここだけだから、いつも楽しみにしていたんだ」
「ねこじゃらし茶!?」
予想外の言葉に、私は思わず声をあげてしまった。ねこじゃらしって、道中でたくさん生えていた植物のねこじゃらし……だよね?
「ああ。ケットシーの村にはねこじゃらしを茶葉にする製法が伝わっているんだそうだ。美味いだろう?」
「とっても。まさかねこじゃらしがお茶になるなんて知りませんでした」
……ちょっとだけ採取して〈簡易倉庫〉に入れておこうかな?
私がそんなことを考えていると、ニコニコ笑顔だったタルトちゃんが「ケホッ」と咳をし始めた。
「ケホ、ケホケホッ!」
「「「タルト!」」」
トルテを先頭に、フレイ、ルーナ、リーナもタルトちゃんへ駆け寄る。すうぅっとタルトちゃんの顔色が悪くなるのを見て、私は思わず息を呑む。
――これ、かなり深刻なんじゃない!?
「先生を呼んでくるにゃ!」
「頼む!」
すぐにトルテが飛びだし、フレイはタルトちゃんを抱き上げた。そのまま足早に階段を上がって、二階にある一室へやってきた。どうやらタルトちゃんの部屋みたいだ。ベッドへ寝かすと、小さく息をついた。
ルーナは水桶とタオルを持ってきて、タルトちゃんの額へ乗せてあげている。
うぅぅ、回復職のスキルは怪我は治せても病気を治すことはできないんだよね。自分の無力さが嫌になる。
……ただ、〈ヒール〉も気休めにはなるかもしれない。
「苦しいのは変わらないかもしれないけど、少しでも楽になれば……〈ヒール〉〈リジェネレーション〉」
「シャロンさん……ケホッ、ありがと、にゃ」
「喋らないでいいよ、タルトちゃん。もうすぐ先生が来ると思うから、大丈夫」
体力を回復する〈ヒール〉に、継続的に回復する〈リジェネレーション〉だ。効果はないかもしれないけれど、何もせずにはいられなかった。
しばらくすると、バタバタと音がしてトルテと白衣を着たケットシーがやってきた。灰色の毛並みとブルーの瞳の上品なケットシーだ。手に持っている鞄は往診用の道具だろう。
「タルト、大丈夫にゃ!?」
「ん、だいじょ、ぶ」
力なく微笑むタルトちゃんを見て、先生がすぐ「診察します」とタルトちゃんの前に膝をついた。熱を測ったり、目や口の中などを確認している。
「熱が高いので、とりあえず熱さましの薬草を処方します」
先生が開けた鞄の中には、たくさんの種類の薬草が入っていた。どうやら職業は〈薬師〉のようだ。
熱さましを飲んだタルトちゃんは、少しだけ呼吸が落ち着いたようでほっと胸を撫でおろす。部屋の中の空気も、先ほどの張りつめたものから穏やかなものになった。
「そうにゃ、先生! タルトを治すための薬草を取ってきたのにゃ。これで薬を作ってほしいにゃ」
「おお、ついに……! よかった。タルトはいつも気丈に振舞ってはいましたが、思いっきり体を動かしたり、友達とも遊びたかったでしょうから……」
やっと元気になれますねと、先生は涙目になりながら喜んでくれている。患者思いのいい先生みたいだ。
「薬草はこれにゃ!」
トルテがリュックから〈楽園の雫〉を取り出し、先生に見せたのだが――「こんなすごいもの、自分では扱えません!」と先生が叫んだ。