18 スキルリセットポーション
〈スキルリセットポーション〉は作業台と道具があれば誰でも作れる、比較的簡単なアイテムだ。ただ、材料が地味に多く、そこそこ面倒くさい。
それを逆手に取るように販売し儲けていた……いわゆる、『いつも定位置で同じアイテムを売っている』プレイヤーがいた。値段は中級の武器と同等程度だったはずなので、初心者や貧乏プレイヤーにはちょっとお高い買い物だったけれど、重宝されていた。
必要なアイテムは、〈楽園の雫〉〈虹の薬草〉〈火の花〉〈土の花〉〈風の花〉〈水の花〉〈聖水〉〈呪水〉〈魔力草〉〈魔石〉、〈ぷるぷるゼリー〉一〇〇個の一一種類、全一一〇アイテムだ。〈エルンゴアの薬草園〉で採取できなかったものは、私が道中で購入したりしたものを使用する。
「準備はオーケー、っと」
私は作業台に並べた道具や材料を見る。……ゲーム内ではとっても簡単にできたけれど、現実世界となった今はどうだろうか? 今までは、『製作』という選択肢が出てそれに従っていれば問題なかった。
「……選択肢は出ない、かぁ」
淡い期待は一瞬で消え去った。
「仕方ない。工程はわかってるから、やってみよう」
選択するだけでアイテムができてはいたけれど、その間は自動で体が動いて製薬していた。なので、基本的なやり方はわかるのだ。
必要な道具は〈エルンゴアの調合鍋〉と、調合鍋を火にかけるための〈不死鳥のひな鳥の火種〉という魔道具と、アイテムを鍋に入れて混ぜるための〈リュディアの混ぜ棒〉だ。どれも用意してあり、自由に使うことができる。
まず、〈不死鳥のひな鳥の火種〉に火をつけなければいけない。魔道具の使い方はこの世界で生きてきた記憶があるので、問題なくわかる。
用途としてはコンロになるけれど、その形状は別物だ。小さな火が燃えていて、それを鉱石の翼が包み込む形になっており、鍋を置くとふわりと浮いた。
「おお、すごい! どうやって浮いてるんだろう……」
日本では見ることができない光景だ。魔法の世界ならではの現象に、ソワソワしながらいろいろな角度で〈不死鳥のひな鳥の火種〉を見る。火がついてるけど、触ったら熱いのかな? そろりと手を近づけてみると、ほんのり温かさを感じた。
……もしかして、触っても熱くはない?
私の中の好奇心がひょっこり顔を出した。鉱石の翼部分にちょんと指で触れてみたけれど、熱くはない。今度はゆっくり触れてみると、触れた場所からじんわりとした心地よい温かさが体に伝わってきた。
「おもしろ~い! じゃあ、この火種も熱くないのか――あっつ!!」
火種の周囲は触っても大丈夫だったので油断してしまった。さすがに火だけあって、火種の部分は普通に熱かった。
魔道具で作られた水道があったのでそこで手を冷やして、ほっと息をつく。余計なことはせずに、ちゃっちゃと進めた方がよさそうだ。
不思議な気分になりつつも、私は並べていたアイテムを手に取る。まずは〈ぷるぷるゼリー〉を一〇〇個入れて、そのあとに〈魔石〉〈魔力草〉……と、希少価値の低いアイテムの順で入れていくのだ。
……どれくらいで次の素材を入れたらいいんだろう?
首を傾げつつ〈ぷるぷるゼリー〉をぐるぐるかき混ぜていると、溶けて煮詰まっていく。すると、半分くらいの量になったところでピカッと光った。
「わっ!」
どうやら、これが次のアイテムを入れる合図みたいだ。
私は〈魔石〉を入れて、同じようにまた混ぜる。そして光ったら〈魔力草〉と……順番にアイテムを入れて混ぜ続ける。……地味に腕が疲れる。
ほかのアイテムや属性の花を入れたら、希少価値の高いアイテムの出番だ。〈楽園の雫〉と〈虹の薬草〉は、つい先ほどエルンゴアの薬草園で採取してきたものを使う。採取がちょっと面倒なので希少価値は高いけれど、それを考えなければある程度のレベルがあれば採取に来ることは可能だ。
鍋に〈虹の薬草〉を入れると、キラキラと虹色の光が水面に浮かんだ。けれどそれは一瞬で、すぐにピカッと光り次のアイテムを入れる合図になってしまった。
もっと見ていたかったのに、残念だ。
最後に入れるのは〈楽園の雫〉だ。
私が鍋の中に入れると、もくもくもくっと煙が上がってきた。
「え!?」
今まで起こらなかった現象に、私は焦る。もしかして失敗してしまったのでは……!? という不安に駆られるも、鍋の中を混ぜる手は止められない。祈るような気持ちで混ぜていると、今までより大きな光が発せられた。
「うわ、え、何……? できたの……?」
そっと鍋の中を覗くと、ころんとポーション瓶が転がっていた。先ほどまで煮詰めていた液体が勝手に瓶に入っている。便利だ。
「できた……けど……」
中身はやや濃い青色で、若干飲むのにためらいを持つ色合いだ。正直、見た目は美味しそうに見えないし、まずそうだなと思ってしまった。
ひとまず、蓋を開けて匂いを嗅いでみることにした。〈ぷるぷるゼリー〉を使っているし、もしかしたら美味しそうな匂いかもしれない。……と思っていたけれど、どちらかといえば草っぽい匂いがした。
……うん、たぶん美味しくないやつだ!
「でも、飲まないと駄目だもんね。ボスを倒すために……いきます!」
ということで、私は鼻をつまんで〈スキルリセットポーション〉を一気に飲み干した。これなら、まずくても多少は我慢できるはずだ。
「……っ! んんん、にがあぁぁっ! はぁ、はぁ……」
ちょっと涙目になりそうだ。想像通りと言ってしまってはあれだけれど、後味の錆びたような感じが舌の上に残って、喉が熱い。これは人の飲み物に分類してはいけないと思う。
持っていた水を口直しにし、私はべぇっと舌を出して口内の空気を入れ替えた。
落ち着いたら、さっそく〈ステータス〉の確認だ。
〈スキルリセットポーション〉の効果はきちんと出ていて、スキルポイントが振る前の11に戻っている。あとは戦闘に必要なスキルを習得すればいい。
「支援スキルは最低限で、攻撃系を……っと」
私は一切迷うことなく、スキルを取り直した。
シャロン(シャーロット・ココリアラ)
レベル:12
職業:癒し手
スキル
〈ヒール〉レベル1
〈身体強化〉レベル1
〈女神の守護〉レベル3
〈ホーリーヒール〉レベル5
〈聖属性強化〉レベル1
称号
女神フローディアの祝福:
回復魔法の効果が+10%になる
回復魔法の消費SPが半分になる
婚約破棄をされた女:
性別が『男』の相手からの攻撃耐性5%
基本的にギミックを避けるので、攻撃を受けることはほとんどない。そのため〈ヒール〉は最低レベルの1あればいい。
〈身体強化〉は自身のスピードも上がるためギミック解除などに必要不可欠で、〈女神の守護〉はレベルによって物理攻撃無効のバリアを張ることができる。
そして〈ホーリーヒール〉は、支援職の攻撃スキルだ。ヒールとついているので回復かなと思ってしまうけれど、不死属性のモンスターに使うとダメージを与えることができる。
〈聖属性強化〉はパッシブスキルで、〈ホーリーヒール〉の攻撃力を上げることができるのだ。
「とはいえ、長期戦は覚悟しなきゃ」
レベルが低く攻撃力が弱いので、死なないが簡単には倒せない状態になる。こちらは回復しつつ、ちまちまダメージを与えて削っていく……という感じになるはずだ。
「ふー……」
私は深呼吸をして呼吸を整える。
――さあ、〈エルンゴアの亡霊〉に挑みましょうか。
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
★回復職の悪役令嬢について
うおおお、更新再開したいと思いつつ体調崩したりほかの仕事が忙しすぎたりで、再開が新年になってしまいました。ぴえん。
そして設定とかを練り直したので、明日以降1話~から修正を行います。なので、今ある話数が減ったり(1話当たりの文字数が増える)すると思います。
いろいろややこしい感じにご迷惑をおかけしますが、更新頑張るので引き続きどうぞよろしくお願いします~!




