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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード7 Sランクの頂へ!
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21 世界樹の根元

「すごい、あれが世界樹!」


 高く大きな雲を突き抜けて、一体どこまでその枝を伸ばしているのだろうか。私たちは眼前に現れた巨大な世界樹に目を奪われ、息を飲んだ。


『ほれ、ぼけっとしてないで上陸するぞ』


 じいやの言葉に、ハッと我にかえる。声をかけられなかったら、しばらくは世界樹を見上げ続けていたかもしれない。


「お願いします」

『ちゃんとつかまっとるんじゃぞ』


 じいやは島へ向かって再び泳ぎ出す。

 島の海岸は、キラキラ光る白い砂浜だった。その少し奥に行くと、マングローブのような植物の根がたくさん生えている様子が目に入る。……いや、別の植物ではなく、隆起した世界樹の根のようだ。

 地面の部分は下が海になっているのでじいやに地理を聞いてみると、この島はドーナッツ状のような陸地面積になっているのだという。つまり世界樹は、海から生えている……ということになる。

 ケットシーたちは世界樹の低い枝の部分にツリーハウスを作って生活しているようだ。


 ……海底から生えて、さらに海面を越えて空の果てまで伸びる樹か。


「上陸、っと!」


 砂浜の先にあるドーナッツ状の内側の部分は、歩いて通れるように板で道が作られている。生活する上で、そこまでの不便はなさそうだ。


 私がキョロキョロしていると、この島に住んでいるのであろうケットシーたちが集まってきた。口々に「人間だ!」「じいや様がお連れになったのか?」「背の低いケットシーもいるぞ」「だが見たことないケットシーだ」という声が聞こえてくる。


 ……そういえば、タルトの住んでいた村では人間があまり歓迎されていなかったね。


 この島はどうなのだろうと、今更ながらに不安になる。

 サンゴの私たちに対する態度が普通だったので問題ないかと思っていたけれど、そもそも人間の立ち入りを禁止している島だったことに思い至る。世界樹が見たすぎてあまり考えてなかったけど、私たちもしかして軽率だったのでは!? ……しかし、もう来てしまったので今更だ。

 私が腹をくくっていると、「お師匠さま~!」と可愛い弟子の声が聞こえてきた。私が声のした方を見ると、タルトとその肩にサラマンダー、続いてウンディーネとサンゴが一緒にこちらへ走ってきているところだった。


「タルト!」


 私が声をあげると、タルトがにゃにゃあと一生懸命手を振ってくれた。走るスピードを上げて私に飛びついてきたので、ギュッと抱きしめる。


 ……あ、もふもふだ。


「待ってましたにゃ、お師匠さま! 大丈夫でしたにゃ?」

「うん。ケントが結界に穴を開けてくれて、そこから入ってくることができたんだ」


 私がそう説明しながらケントの方へ向くと、「あらあら、あらあら……」とサンゴが一目散でケントの許へ向かっていた。かなりのスピードだ。


「なんて素敵な胸毛かしらぁ……。人間のときは普通だったのに、ケットシーになったらこんなに素敵になるなんて……! 私、驚いてしまったわ」

「にゃ? にゃ!?」

「ケント、この島で暮らさない? お姉さんがお世話してあげるわよ?」

「サンゴさん、ケントは人間なんですからやめてください」

「あら、愛に種族は関係ないのよ?」


 ……ケントがモテて、なんだか修羅場になってる!


「二人とも、やめろにゃ~!」


 とりあえず見なかったことにしよう。

 タルトから少し遅れてきたのはウンディーネだ。嬉しそうな表情をして感極まっているけれど、それより私の足元にいるじいやが大粒の涙を流しながら砂浜の上をパタパタとはって進んでいった。


『姫様! ああ、ご無事で何よりですじゃ。わしはもう姫様のことが心配で心配で、食事も喉を通らない日々を過ごしておったのですじゃ~~~~!!』


 ……宿で結構いいものを食べていたけれど、まあ何も言うまい。


 私はウンディーネとじいやの感動の再会に頬を緩める。二人が会いたがっていたことは知っていたので、こうやって無事に会えたことは本当によかったと思う。


『じいや、久しぶりなのだわ! わたくしがいない間も、この島を守ってくれてありがとう』

『もったいないお言葉ですじゃ、姫様』


 ウンディーネは目元に涙を溜めて、砂浜に膝をついてじいやの目線に腰を下ろしている。しばらくは二人でゆっくり話す時間も必要だろう。


「ねえ、タルトがこの島で何をしてたか教えてほしいな」

「もちろんですにゃ! わたしがお世話になっている大樹の神殿に、お師匠さまたちの部屋も用意してもらってますにゃ。しばらくそこに泊まって、クエストを進めましょうにゃ」

「うん」


 どうやらこの島のケットシーたちは、私たちの受け入れ態勢を作ってくれているらしい。島への滞在を反対されないことに、ホッと胸を撫で下ろす。


「まずは大樹を見に行きたいんだけど、どうかな?」

「もちろんですにゃ!」


 ……もう、さっきからずっと! 世界樹を近くで見たくて見たくて見たくて見たくて見たくて仕方がなかったんだよ!! はあはあ。


 私の欲望を快諾してくれたタルトは、私の手を取って「こっちですにゃ」と村の中心部に歩いていく。


 歩いて三〇メートルほどの砂浜を越えた先は、ドーナッツ状の島の中心だ。大きな池のようになっていて、その中心に世界樹がある。

 水上に木の板で作られた橋の上をゆっくり歩いていくと、一五分ほどで世界樹の幹に着いた。


「は~~~~、大きいね」

「ここのケットシーたちも、てっぺんがどれぐらい高いかわからないそうですにゃ。肉眼では見ることができないですにゃ」

「確かに」


 雲を突き抜け、遥か遠くまで枝を伸ばしている世界樹。さぞ荘厳だろうと思いきや、葉は色あせ、その枚数も少ない。あまり元気があるようには見えなくて、心配になってしまう。


「この世界樹を復活させるのが、サンゴさんの依頼なんだよね」


 そしておそらく、タルトが〈創造者(クリエイター)〉になるクエストの一部でもあるのだろうと私は思っている


 ……壮大な規模のクエストに、尻込みしてしまいそうになるね。


 だってこの世界は、ゲームのときのように気軽にやり直しができない。少しでも選択肢を間違えば、一瞬で死ぬ可能性だってあるのだ。

 いったいどうやったら、この巨大な世界樹を復活させることができるのだろうか。錬金術を使って植物の栄養剤を作ればいいのだろうか。効果はありそうだけれど、これだけ大きな世界樹であれば、いったいどのくらいの量が必要か見当もつかない。一〇〇個や二〇〇個では足りないだろう。一〇〇〇個、二〇〇〇個……、それよりもっとたくさんの数が必要になるかもしれない。

 それほど世界樹は大きかった。


 私がしばらく世界樹を見上げていると、タルトが「次はこっちに案内しますにゃ」と私の手をくいくいと引っ張った。


「うん。次はどこを見せてもらえるの?」

「世界樹の根が張ってる砂浜があるんですにゃ」

「砂浜って、さっきいたところじゃなくて……?」


 私が首を傾げると、タルトが説明してくれる。


「さっきとは反対側の砂浜に、根からお花が咲いてるところがあるんですにゃ。そこがちょっと気になるんですにゃ」

「花が? それは確かに気になるね」


 世界樹の花が咲いているのだろうか。それとも、飛んできた種が偶然育って花になったのだろうか。私がそんなことを考えていると、ケント、ココア、ルルイエ、サンゴがやってきた。


「シャロン、置いていかないでくれにゃ!」

「ごめんごめん」

「たくにゃ~。ウンディーネ様とじいやさんは積もる話もあるだろうから、ゆっくりしてもらってるにゃ」


 ケントの言葉に、私は「了解」と頷く。


「これが世界樹にゃ! 目の前で見ると、さらに迫力があるけど……枯れてるにゃ」

「世界樹を復活させる依頼……簡単に引き受けちゃったけど、本当にそんなことできるのかな」


 二人とも世界樹を目の前にして、復活の難しさを肌で感じ取ったようだ。この存在感を前にしたら、そう思っちゃうよね。


「方法は追々考えていくしかないね。私たちにできることは片っ端から試すしかないね」

「にゃ! まずはなんでもやってみるにゃ! ……んで、今もどこかに行こうとしてたのにゃ?」

「砂浜に気になるところがあるらしいから、タルトに案内してもらうところだったの」



 簡単に事情を説明して、私たちはタルトの案内で気になっているらしい砂浜へやってきた。


 私たちが上陸した砂浜とはちょうど裏側に位置する砂浜にやってきた。ざざん、ざざん……と静かな波の音が耳に心地よい。

 キラキラ光る白い砂は先ほどのところと変わらないけれど、


 大きな世界樹の根が砂浜に潜っているところ、その根から花が咲いていた。キラキラ輝くその花は、何か力を持っているのでは? と思えるような光景だ。

 よく見てみると、世界樹の幹を伝った水が流れ落ちて、それが砂浜に少し溜まっているようだった。


「これって、世界樹に降った雨が葉や枝を伝って幹を流れてここまで来たってことだよね」

「そうだと思いますにゃ。ここの砂浜の砂は、ふわふわでとっても柔らかいんですにゃ。ほかのところと触り心地も違うんですにゃ」


 タルトに言われて、私も砂を触ってみる。確かに硬くなくて柔らかい感触だ。


 ……不思議な砂。


「確かにこれは気になっちゃうね」

「だにゃ」


 ココアとケントも砂を触り、なんでだろうと不思議そうにしている。とはいえ、原因となりそうなのは流れてくる水くらいしかない。


「ここだけだし、世界樹から流れてくる水のせいかな?」

「そうだと思いますにゃ。だから、ノームの卵が気に入るかもしれないと思ったんですにゃ」


 タルトの言葉に、私、ケント、ココアの三人が「確かに!」と声をあげた。ルルイエは「卵が……」とちょっと残念そうにしているが、聞かなかったことにする。

 私は預かっていたノームの卵を取り出して、タルトに渡した。すると、サンゴが興味深そうに卵を見る。


「それがノーム様の卵ですか?」

「そうですにゃ。ウンディーネ様と同じ、精霊の眷属ノーム様ですにゃ」


 サンゴには、タルトが簡単に説明してくれている。この島もウンディーネがいるので、精霊に関する知識なども多いのではないかと思う。


「よし、砂を掘って卵を置いてみようにゃ!」

「私も手伝います」

「わたしもにゃ!」


 ケント、サンゴ、タルトの三人が自前の爪を使って砂を掘っていく。さすがに三人いるだけあって、あっという間に六〇センチくらいの穴ができあがった。


「卵が気に入ってくれたらいいんですにゃ……」


 ゆっくり卵を置くと、タルト、ケント、サンゴの耳がぴくっと動いた。


「「鼓動が速くなったにゃ!!」」

「鼓動が速くなりました!」


 どうやら三人の耳は、ノームの卵の変化をしっかり捉えたらしい。世界樹の根元の土がよい土とは、なるほど納得しかない。


「それじゃあ、ここでノームの卵が孵るのを待ちながら……世界樹の復活の方法をさぐっていこうか」

「はいですにゃ!」

「おうだにゃ!」

「うん!」

「ん!」


 私たちのパーティは、しばらくこの島――〈世界樹の島〉で過ごすことになった。

ここでいったん一区切りです。

また書き溜めができたら、投稿再開したいと思います。


毎日更新にお付き合い&感想&誤字脱字報告、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
>「サンゴさん、ケントは人間なんですからやめてください」 >「あら、愛に種族は関係ないのよ?」 サンゴさんは「ケットシーなのにタルトと違って身長が高い。おそらく一三〇センチ程度はあるのではないだろう…
"世界樹の復活”は強力なモンスターを倒す必要がある依頼なのでしょうか?。 そう言えば、ルルイエは〈料理人〉としての戦闘の他に、〈ダークアロー〉など〈闇の女神〉としてのスキルも使えますが・・・ティティア…
>……そういえば、タルトの住んでいた村では人間があまり歓迎されていなかったね。 もしかすると、キャトラで人間が歓迎されていなかったのは・・・ケットシーたちが嫌がっているのに、それでもモフる人間たちが…
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