16 大量モンスター再び、からの……
タルトたちと別行動になった私たちは、まずは〈ローラルダイト共和国〉の首都〈熱帯の都バハル〉までゲートを使ってやってきた。いきなり自治区に転移して、モンスターが大量発生して襲ってきたら大変だからだ。人のいない海の上をドラゴンで飛びながら自治区に入り、湧いたモンスターを倒しながら島についての情報を得る作戦だ。
というわけで私たちは今、空の上だ。
「タルトが一人で頑張ってるんだから、俺たちだって頑張らないとな!」
「うん。早く情報を見つけて、私たちも島に行きたいね」
「だよなあ。新しいケットシーの島も楽しみだけどさ、世界樹ってほんとにあるんだな。なんていうか、ワクワクする」
「おとぎ話だとばっかり思ってたもんね」
ケントとココアは世界樹の絵本を読んだことがあるようで、どれだけ大きいのかなど楽しそうに話している。
バハルからドラゴンに乗って空を飛び、しばらくすると海の上に大量の魔物が現れた。しかし、今回はいつもと様子が違う。
「……なんだあれ? 一匹だけ巨大な亀がいるぞ、シャロン! なんて魔物かわかるか?」
ケントからのヘルプに、しかし私は答えを持ち合わせていない。
「わかんないよ、あんな巨大な亀……見たことない!」
そう、私たちの目の前に現れたのは巨大な亀だ。
その大きさは、ゆうに一〇メートルは超えているだろうか。ゲームにだって、あんな巨大な亀はいなかった。
年季の入ったゴツゴツとした甲羅には少し苔が生えているが、逆にそれが貫禄を出している。どっしりと構えていて、生半可な攻撃では甲羅に傷をつけることも難しそうだ。
しかし、こちらに向かってくるのであれば倒すほかない。
もしかしたらあの亀を倒すことによってクエストが進むかもしれないし、そうじゃなかったとしてもおいしいドロップアイテムがあるかもしれない。何はともあれ、まずは戦って倒すことだ。
「強敵っぽい亀との空中戦になるけど、みんな大丈夫?」
「ああ! 俺は〈竜騎士〉だからな、むしろ主戦場だ! 任せとけ」
「頑張ってみる」
「任せて」
ケント、ココア、ルルイエの全員の気合いの入った返事を聞き、私は頷いて支援をかけていく。
第一に、ドラゴンから落ちないこと。
前衛のケントが〈竜騎士〉なので、本人が言った通り戦闘スタイルとしても相性はいいだろう。空を飛んだままボスクラスの前衛ができるというのは、かなりありがたい。
「それじゃあ、戦闘開始!」
私の声とともに、ケントが〈挑発〉で亀のヘイトを一気に稼ぐ。その間に、ルルイエとココアが範囲攻撃で雑魚モンスターを一掃する。亀以外は弱いので、殲滅はあっという間だ。
「〈竜の咆哮〉!!」
ケントの攻撃が当たると、なんと亀は二本足で立ち上がってこちらに襲いかかろうとしてきた。
……めっちゃ迫力はある! でも!!
「お腹って弱点じゃないの!?」
「一斉攻撃だ!!」
思わず叫んだ私に続き、ケントが的確な指示を出してくれた。
「〈必殺の光〉!」
「もういっちょ……〈竜の咆哮〉!」
「〈空から落ちた瞳は、鋭さを増し敵を撃つ♪〉」
「〈飾り切り〉!!」
いっきに亀のお腹に攻撃を食らわせると、亀は甲羅から海へひっくり返ってしまった。起き上がれないのか、手足をバタバタさせている。
……思ったよりあっけないな。
なんて感想が脳裏に浮かんでしまったのも仕方がないだろう。
「えーっととりあえずトドメ刺す感じでいいんだよな?」
「……そうだよね。ひっくり返ったけど、まだ生きてるもんね」
ひっくり返ってバタバタ手足を動かす亀を見ながら、ケントとココアが話している。
……わかる、なんていうかちょっと和んじゃったよね。
亀は巨大だけれど、なんだか可愛く見えてしまう。しかし、モンスターなので倒さなければ仕方がない。
しかし、私が頷こうとしたところで――亀に異変が起きた。
「シャロン! 亀がどんどん縮んでってるんだけど!?」
巨大な亀はみるみるうちに体を小さくしていって、あっという間に一メートルくらいの大きさになってしまった。
「なんなんだこれ! どうすればいいんだ!? 倒すチャンスか!? でも、弱ってってるのか?」
ケントが戸惑いながらも、ドラゴンを操って亀の元へ近づいていく。それに私とココア、ルルイエも続く。
亀はなんとか必死に体を動かして、どうにか元の向きに戻れたようだ。今は海の上にプカプカ浮いていて、こちらをじっと見つめている。
いつでも攻撃できるようにとケントが剣に手をかけているのを見て、亀が『何をするんじゃ!!』と声を荒らげた。
「うわっ! 亀が喋ったぞ!?」
「もしかして、モンスターじゃないのかな?」
ケントとココアが警戒しながら亀を観察している。が、正直言って私もどう対応すればいいかはわからない。
しかし、言葉を発するのであれば対話が可能だろう。
「私は冒険者のシャロン。亀さん、あなたと話をすることはできますか?」
『む? 人間が儂と話なぞ……まあ、いいじゃろう。このまま攻撃されたらたまったもんじゃないからの』
どうやら話し合いはできるようだ。
まず聞きたいことは、大量のモンスターのこと。それから、この亀がどういった存在かということだ。何か役割があるのか、モンスターと共に人間を滅ぼそうとしているのか……。それによって私たちの対応も変わる。
「大量のモンスターは、あなたが呼んだんですか?」
『そうじゃ。人を探しておっての……。儂はある程度のモンスターだったら命令を出すことができるんじゃ。だから人捜しを頼んでいたんじゃが……なんでお前さんたちがモンスターに攻撃されてるんじゃ?』
……それはこっちが聞きたいんですが?
亀がいぶかしんで私を睨みつけてきた。
モンスターがノームの卵を狙っているということはわかったけれど、なぜ狙っているのか理由まではわかっていない。この亀なら理由がわかるかもしれないと、私はノームの卵を取り出して見せた。
「モンスターは、この卵を狙ってきてるみたいですね」
『……おお! それは精霊の眷属の卵か。なるほど、なるほどのう』
何やら思い当たることがあったようで、亀は頷いた。
『土属性のノーム様か。ふうむ……。モンスターたちはきっと、ノーム様の力を取り込み、強くなろうと考えて襲ったんじゃろう。まったく、儂の言うこと聞かないモンスターたちめ』
どうやら自分の思い通りにいかなかったようで、亀はご立腹のようだ。
しかしノームを倒してその力を奪おうとしていた……というモンスターたちの行動理由がわかってスッキリすることはできた。
「では、モンスターをけしかけるのはやめてもらえますか? 亀さんの命令を聞かないみたいですし、私たちが持つ卵のところにモンスターが来たら大変なので……」
自治区限定とはいえ、人がいる場所――街などに行けないのはかなり不便だ。
『そうじゃな、それはすまんかった。お詫びを』
「わかってもらえてよかったです」
これ以上の戦闘がなくなったことにホッとし、私は続きを促す。さすがに、ここでハイ終わりです、というわけにもいかない。
「それで、人捜しというのは?」
『ああ、そうじゃった。儂の可愛い可愛い姫様がずっと行方不明じゃったのだが……つい先日、気配を感じたから探し始めたんじゃ』
……ん?
『お前たち、ウンディーネ様を見かけんかったか?』
もしかして、もしかしなくても……この亀がじいやだ――!!




