8 調査結果の報告
タルトにクエストの内容を教えてもらった。
【ユニーク職業〈創造者〉への転職】
モンスターの攻撃を受け、ノームの卵は衰弱しています。
このままでは、よい土が用意できなくなってしまい……世界が枯れてしまうかもしれません。
「「「世界が枯れる!?」」」
『枯れてしまうんですの!?』
全員の声が重なった。
「はいですにゃ。でも、衰弱をどうやって治したらいいかは、これじゃわからないですにゃ」
焦るタルトに全員でう~んと唸る。
ノームというくらいだから、土――大地が回復に関わりがある可能性はある。ここはどちらかといえば海に近いので、ノームの性質には合わないように思う。山や洞窟、そういった場所に行ってみるのがいいだろうか。私がそう考えていると、ケントが「……とりあえず」と最初の意見を出した。
「タルトのポーションと、シャロンの回復魔法をかけてみたらいいんじゃないか?」
「確かに!」
「確かにですにゃ!」
クエストなので、何か特殊な方法があるのだろうと考えてしまったけれど、一番オーソドックスな手を試さないほかない。何しろお手軽だし、すぐに実行可能だ。
「それじゃあ、まずは私がやってみるね」
「お願いしますにゃ!」
「――〈癒しの光〉〈虹色の癒し〉〈絶対回復〉!!」
私がありったけの回復魔法をかけると、ノームの卵は一瞬ぱっと光り輝いた。けれど、特に変わったようには見えない。
「むむ……?」
「変化はなさそうですにゃ……。次は私の番ですにゃ!」
じゃじゃーん、ポーション! と、タルトが山盛りのポーションを取り出した。数で勝負するつもりか!? と驚いてしまったけれど、ポーションを三個だけノームの卵にかけた。
やっぱりぱっと少しだけ光ったが、見た目に変わりはないようだ。
……う~ん、やっぱり特殊な方法があるのかな?
「どう、タルト? サラちゃんの時みたいに、鼓動の音が聞こえるとか、なんだか回復してそうとか……そういうのはある?」
ココアの問いかけに、タルトはゆっくり首を振る。
「鼓動の音はずっと小さく聞こえてますにゃ。だけど、回復してもポーションをかけても変化はないですにゃ。もっと違う方法で回復しないといけないのかもしれませんにゃ」
しょんぼり気味のタルトの頭に、ケントが「大丈夫だ!」と手を置く。タルトのことを励ましてくれているみたいだ。
「とりあえず、この卵はタルトが持ってるってことでいいのか?」
「もちろんですにゃ」
ノームの卵はタルトのクエストだし、それが一番いいだろう。回復方法はおいおい調べていくということで、ひとまず落ち着いた。
先に調べなければいけないのは、根本的な問題――モンスターの大量発生がノームの卵のせいだったかということ。これを確認しなければ、調査も終わらない。
「ドラゴンで海の上を飛んでみよう。モンスターの目的が本当にノームの卵だったら、海を渡ってくるモンスターたちが卵を持った私たちについてくるはず」
「やってみましょうですにゃ!」
私の提案にタルトが頷き、全員が再びドラゴンを召喚し空へ舞った。
***
「その岩のような卵が、今回のモンスター大量発生の原因だったというのか!?」
信じられないという顔で、オーランが私たちとテーブルの上に置いたノームの卵を見た。あんぐりと、口を大きく開けている。
「確かに、信じろという方が無理かもしれませんね。ですが、ドラゴンに乗って海の上を飛んだ結果、モンスターたちが私たちの後を追うようについてきたんです。この卵を持つ前はそんなことありませんでしたから、原因はこれでほぼほぼ間違いないと思います」
「そうか……」
調査結果を報告したところ、オーランは頭を抱えて机に突っ伏してしまった。まあ、そうしたい気持ちもわからなくはない。
「大量発生の原因がわかったのは、ありがたい。が、大量発生はまだ終わっていなかったというのか!!」
「……ですね」
ひとまずの問題は、オーランが言った通り、ノームの卵があるとモンスターが大量にやってくるというところだろうか。
ただ幸いだと思ったのは、海のモンスター限定ということだろうか。攻められる方向が海からだけとわかっているのは、だいぶ助かる。
そして海のモンスター限定だとわかった理由は、ケントの「どこまでついてくるんだろうな?」という疑問を検証してみたからだ。結果、しばらく海の上を飛んで〈漁師の自治区〉から出たタイミングでモンスターたちが引き返していった。
なので、このクエストの発生は〈漁師の自治区〉フィールドに限られているということになる。
さて。ここまで話して私には一つ懸念点がある。それは、オーランがこの卵を私たちが持っていることを良しとしてくれるかどうかだ。
モンスターを引き寄せる卵を冒険者ギルドに置いておくわけにはいかないだろうけれど、責任感からそんな危険な卵を任せることはできないと言われてしまう可能性もある。
そして本題とばかりに、オーランが卵のことを切り出してきた。
「それで、この卵の保管はどうすればいいと思う? 俺としては……割っちまいたいんだが」
「駄目ですにゃ!!」
オーランの提案に、すぐさまタルトが反発して卵をぎゅっと抱きしめた。
「これはノームの卵ですにゃ! そんなことをしたら、絶対に駄目ですにゃ!!」
「ノームの卵!? な、なんでそれがノームだってわかるんだ? あれは、おとぎ話のようなもんだろう?」
「にゃ!? そ、それは……この〈冒険の腕輪〉の力ですにゃ!」
タルトは勢いのまま言ってしまったようで、腕輪の力と説明しつつ私へ目を向ける。勝手に喋ってしまったことを、焦っているのだろう。私は大丈夫だという意味を込めて、タルトに笑顔を見せる。
冒険の腕輪の力でクエストウィンドウが見えるので、タルトの言葉は間違っていない。今は、秘匿もしていないからね。
「この〈冒険の腕輪〉は、とある事象について説明文のようなものが提示されることがあります。今回はそれに該当したので、私たちはこの卵の存在がどういったものかわかったんです」
「話には聞いているが、そんなことまで……」
オーランは驚くばかりだ。
「ですが、これは個人情報と同じ扱いですので、おいそれと仲間以外に話すことはできません。他人に、戦闘レベルやスキルを簡単に開示しないことと同じだと思っていただければわかりやすいでしょうか」
冒険者たちは、自分のスキルなどは奥の手にしていることもある。なので、仲間以外にそうホイホイ教えるものではない。
「なるほど、よくわかった。〈冒険の腕輪〉がそう示すのであれば、この卵はお前たちが持っていた方がいいんだろうな」
「持ってますにゃ!」
オーランの問いかけに、タルトが速攻で頷いた。何度も頷き、卵をぎゅーっと抱きしめている。タルトは、それだけは絶対に譲らないという構えだ。
「ああ、頼んだぞ」
「はいですにゃ!」
オーランにも納得してもらえそうなので、私はほっと安堵の息をつく。
「それじゃあ、この卵は私たちのパーティが預かっておきます」
「しかしだな……その卵を持ったまま、あちこちうろつかれても困る。その卵があるところにモンスターが押し寄せてくるってんなら、どこにいてもらうのがいいのか」
どうしたらいいのかわからないようで、オーランは頭をボリボリかいている。
アラレにいても、離れた場所にいても、どっちみちモンスターの大量発生が起こるのだから、何をもって解決とすればいいのかもわからない。
「とりあえず、〈漁師の自治区〉の外であれば、モンスターが追ってこないことまで確認しました。私たちは一旦ここを離れようと思います」
「いいのか!?」
「はい。この機会に、ツィレでSランクの推薦をもらおうかなと思いまして」
「ああ、そういえば俺の推薦で2人目だったな。ツィレに行っていてもらえるなら、こっちも助かる。ノームの卵の情報がないかは俺たちの方でも調べてみよう」
「お願いします」
そして私はアラレの東方向にあった島のことを思い出す。
「聞きたいんですけど、ここから東に行った先にある島はどうやって入るんですか?」
「あー、あの渦潮の島か」
私の示す島がなんのことか、すぐにわかったようだ。
「大昔は島とも交流があったらしいんだが、今ではあの通り渦潮がひでえからな……漁師たちもおいそれと近づくことすらできねえ! 行く方法があれば、俺たちが知りたいくらいだ」
「そうなんですか……」
アラレの冒険者ギルドのギルドマスターですら知らないのであれば、今は本当に行く方法がないのだろう。
アラレにある船であの渦潮を越えられないのであれば、このゲーム世界にあるすべての船で越えることはできないだろう。なんといっても、船は漁師の自治区のものが一番性能がいい。
……島には絶対行ってみたいけど、行く方法は気長に探すしかないね。
「わかりました。ありがとうございます」
私たちは報告を終え、冒険者ギルドを後にした。
ちなみに報酬の件はギルドで改めて精査し、金額などは改めて出してもらうことになっている。