7 大量発生モンスターを調査せよ!
「そういえば、ウンディーネのじいやさんってどこにいるか分ったりしないの?」
「分れば迎えに行けますにゃ」
『そうですわね……わたくしが真珠貝に閉じこもる前より、ここも少し変わっているみたいですの。だからわからないのだわ』
ウンディーネもお手上げ状態のようだ。
「どれぐらい貝の中にいたんですにゃ?」
『いつだったかしら』
タルトの質問に首をかしげつつ、ウンディーネは指を指折り数えている。
『……多分、三〇〇年くらいなのだわ』
「「「三〇〇年!?」」」
「にゃ!?」
どうやらこのウンディーネ、三〇〇年も〈クラーケン〉に捕らわれていたようだ。それは多少の地理も変わって当然だ。
……じいや、まだご存命なのかが心配だ……。
***
「わあ、お魚がいっぱいですにゃ! ここは夢の国ですにゃ~!」
私たちは〈水中ポーション〉を飲んで、調査のため海の中を泳いでいる。
アラレの海岸から沖へ泳ぎ始めて大体一時間くらい経っただろうか。海の中は大量の魚が泳いでいて、大きなマグロっぽい魚が横切ったときは思わず目を見開いてしまった。モンスターもちょこちょこ出てくるけれど、今のところ私たちに被害はない。
しかし、昨日のようなモンスターの大群を見かけることもないし、例えばモンスターの湧き所とか怪しい洞窟とか、そういったものも見当たらない。
……うーん、原因の調査って思ってたよりめちゃくちゃ難しいのでは。
私はどうしたものかとついつい頭を抱えてしまう。こんな安易に引き受けるべきではなかったのでは!?
……何もなかったら、何もなかったですって報告していいのかな。
それも調査結果であることに変わりはない。私がそんな風に考えている横で、海の中で生き生きとウンディーネがはしゃいでいる。
『綺麗な貝殻があるのだわ、タルト! これをネックレスにしてはどうかしら?』
「とってもかわいいですにゃ!」
ウンディーネはゆったり泳いだり、かと思えばトップスピードで海の中を駆け抜けたり、ぐるりと一回転してみたり。まるで海の女神だと思う。いや、ウンディーネなのだから似たようなものかもしれないけれど。
調査という大変な依頼だけれど、楽しそうなウンディーネのおかげもあってパーティの雰囲気は和やかだ。
「しっかし、前方にモンスターの大群はなさそうだな。ココア、調べられるか?」
「うん。〈魔力反応感知〉!」
目視でモンスターを確認できないので、ココアがスキルを使って周囲のモンスター探索を行う。すると、しばらく集中していたココアが「あ」と声をあげた。
「お! なんかいたか?」
「……うん。多分、モンスターだと思う。かなりの数のモンスターが……前方、アラレから見たら東かな? から、来てるみたい」
ココアの言葉を聞き、私は今回のモンスターの発生源がアラレの近くではないことを知る。かなりの沖合からモンスターが流れてきているのか、それとも誰かがけしかけているのか、現時点では分からない。
「この先って何かあるのかな。例えば無人島とか」
「そこにモンスターの大量発生の原因があるかもしれないってことだよな?」
私がこの先の海域のことを口にすると、ケントがすぐに理由を察してくれた。
「その可能性もあるかなと思って。もちろん海の中から発生しているってこともあるし、行ってみないとわからないね」
「だな」
私はそろそろ切れそうな支援をかけ直して、追加で〈水中ポーション〉を飲む。しばらく泳いで進まなければいけなさそうなので、ここらで一旦小休止だ。
それから1時間ほど泳ぎ、ココアが探知してくれた押し寄せてくる大量のモンスターを倒し、私たちは先へ先へと進んだ。
「島があるよ!」
「お、本当だ」
ココアの声に、ケントがテンションを上げる。ときおり海面に顔を出して、水中と水上の両方を見ていたのだけれど、ついに島を発見した。大きさは、タルトの故郷の島の半分か、それより小さいくらいだろうか。
「魔物が湧いて来たのと方向は一致してるね」
「行ってみようぜ!!」
「にゃ~!」
手がかりかもしれない島を発見したと、ケントが嬉しそうに泳ぐスピードを上げた。タルトも新しい島の発見が嬉しかったようで、「サラちゃん、行きますにゃ!」『ガー』と、サラマンダーの吐く炎で泳ぐスピードを加速した。
「みんな楽しそうでいいね!」
と言いつつも、私もかなりワクワクしている。
ゲーム時代、あの位置にあった島へ行ったことはない。というか、アラレより先にある島へ行くことはなかった。
……私が足を踏み入れたことのない新しいフィールドがあそこで待っている!
そう思ったらテンションが上がらないわけがない。私も一気にバタ足をして、「行こう行こう、早く行こう!!」とはしゃいでしまった。しかし、あと少しで島というところで問題が起きた。
「えっ!? 何これ!!」
激しい渦潮が島の周囲に渦巻いていて、とてもではないが泳いで進むことができないのだ。こんなの無理すぎる。
「無理に通ろうとしたら、一気に渦潮に引き込まれて海の底に沈んじゃいますにゃ……」
「うん……」
さすがにこれは危険すぎる。泳いで島へ行くのは諦めた方がよさそうだ――なんて、そんなわけがあるわけない!
「でも大丈夫、私たちにはドラゴンがいるから!!」
「そうでしたにゃ~!」
海がダメなら空を飛んでいけばいいじゃない。
ということで、私たちはドラゴンを呼んで空から島へ入ることにしたのだけれど、霧のようなものに阻まれて空から島へ入ることができなかった。
「うわ、なんだこの霧! 俺たちが入るのを邪魔してくるぞ!?」
「こんな霧、聞いたこともないよ……」
先頭にいたケントとココアが、かなり困惑している。ドラゴンでそのまま突っ込んでも駄目だし、かなり上空から下降してみても駄目。
「そんな……ドラゴンの力を持ってしても入れない島があるなんて……信じられない……!!」
何それテンションやばい! アドレナリンが出まくりなんだけども!! 入りたい、絶対に入りたい! 何をしてでもあの島に行ってみたい!!
「あの島、一体何があるんだろう。ドラゴンでも入れないような島なんて……すごい景色があると思わない!? もしかしたら未発見のダンジョンとか、新しい種族が暮らしているとか、古代文明があるとか、信じられないような発見があるかもしれないっ!! すぐ行きたい。今すぐ行きたい。でも、どうやって行けばいいんだろう!?」
「おいおいおいおいおいおい、落ち着けシャロン!!」
私がいつになくはしゃいでしまって、逆にケントが冷静になっているではないか。
「あ、ごめん。ついつい」
へへっと笑うと、ケントとココアも笑い返してくれる。
しかし笑っていても島に入ることはできないので、作戦を考え直す必要がある。
「一旦アラレの海岸に戻るか。冒険者ギルドに行ったら、この島のことも聞けるかもしれないし」
「今は情報がなさすぎるもんね」
ケントの提案に、それがいいと全員で頷いた。
海上の様子も見たいので、帰りはドラゴンに乗ったままアラレの街へ向かうことにしたのだけれど――海岸に降りようかというところでタルトが眉をひそめた。
「なんだかあのモンスター、様子が変じゃないですにゃ?」
私も下を見てみるけれど、思ったより不思議な光景はなかった。モンスターが何匹かいるけれど、血気盛んな漁師たちが「えいやっ!」と数人でフルボッコにしている。大量に攻めてこなければ、漁師たちでもモンスターの処理は問題なくできるみたいだ。
私が「大丈夫そうじゃない?」とタルトに声をかけると、「あっちですにゃ!」と少し漁師たちの仕事場から離れた方を指差した。
「むむむ……?」
そこは入江になっていたのだけれど、ある一カ所にモンスターが数匹固まっていた。
広い入江にモンスターがいることは普通だけれど、確かに固まっていると言われたらちょっと不思議に思うかもしれない。
……何かあるのかな?
「行ってみましょうですにゃ!」
「そうしよう」
私たちはドラゴンを降りて、徒歩で入江へ向かう。
そして目当てのモンスターを見てみると、三匹で何かを攻撃しているようだ。けれどそれは生き物ではなく、遠目からだと石のような何かに見えた。
「ここで派手な攻撃スキルを使うと猟師さんたちを驚かせちゃうから……ルル、お願いしてもいい?」
「ん。――〈飾り切り〉!」
ルルイエにモンスターを倒してもらい、その場所を確認してみると、まるで岩の塊にも見える卵のようなものがあった。
「モンスターたちはこれを狙ってたんだよな?」
「そう見えたよね」
ケントとココアの会話を聞きつつ、タルトが一歩前に出た。
「なんだか卵っぽいですにゃ?」
タルトが慎重に近づいてその卵に触れると、「にゃにゃっ!?」と驚いた。バッとこちらを振り返り叫ぶ。
「これ、精霊の眷属の卵ですにゃ!!」
感想、誤字脱字報告ありがとうございます。感謝しかない……。