6 アラレの冒険者ギルド
夜も遅い時間になってしまったけれど、ギルド職員に私たちはアラレの冒険者ギルドの応接室に通されていた。
今していることは、全体の被害状況、湧いたモンスターの種類や数の共有。それから、かなり消費してしまいポーション類が足りなくなっているということで、タルトが作った分をいくつか売ってあげた。
そんな話が一段落した時、応接室の扉がバアンと勢いよく開いた。ノックもなく不躾に入ってきたのは、大柄の男性だ。
「お! お前たちか!! 突如ドラゴンで現れて、モンスターをあっという間に殲滅したって冒険者は!」
「はい。……あなたは?」
私が問いかけると、男性は「おっといけねえ!」と声をあげた。
「俺はアラレの冒険者ギルドのギルドマスター、オーランだ。よろしくな」
「私は冒険者のシャロンです。よろしくお願いします」
〈大漁の街アラレ〉の冒険者ギルドのギルドマスター、オーラン。
年齢は五〇手前くらいだろうか。日に焼けた褐色の肌に鍛え抜かれた筋肉と、まるで漁師のような服。漁業が盛んで水属性のモンスターが多いこの地区には似合いのギルドマスターだなと思う。
今まで冒険者たちにいろいろ事情を聴いていたそうだ。
ギルド職員がお茶を用意してくれたので、私たちも軽く自己紹介をし話し合いに入る。
「いや、今回は本当に助かった。ギルド依頼として報酬を渡そう。それと、素材があれば買い取りたいと思う」
「依頼にしてもらえるのは助かります。ただ、海岸の魔物を倒した素材はほとんど拾ってないんです」
「そうなのか」
私の言葉にオーランは少し驚いたようだ。もし素材がほしいのであれば、他の冒険者の方に聞いた方がいいだろう。一応ケントたちにも確認してみるが、全員「拾ってない」と首を振った。
冒険者はモンスターのドロップアイテムを換金して生活している面がある。そのため、ドロップアイテムをほとんど拾っていないということに驚いたのだろう。
「今回はドロップアイテムを拾うより、少しでも早くモンスターを倒すことの方が重要だったからな」
「アラレのために……ありがとう!!」
ケントが補足すると、オーランは鼓膜が破れてしまいそうなほと大きな声でお礼を言ってくれた。体格がよく、声も大きくはつらつで、さすがはギルドマスターをしている人物だけあるなと思う。
「それじゃあ、依頼の処理はこっちで進めておく。だが、それだけじゃ少ないと思ってな……何か望みがあれば多少は便宜してやれるんだが」
オーランの言葉に、私はそれならと一つ思い浮かぶ。
「私たちのパーティは、Sランクの冒険者を目指してるんです。よければ推薦してもらえませんか?」
「Sランクだって!? そうか……お前さんたち強いと思っていたが、そこまでの実力があったのか」
驚きながら、オーランは私たちの顔を見回した。しかしすぐに頷いて、「強い強いって、職員が言ってたからな!」と納得してくれている。
「そもそもドラゴンに乗ってる時点で、実力者だってことはわかる。あれだけの数のモンスターを一掃できるわけだよなあ。だがSランクになるには、ギルドマスター三人の推薦が必要だったはずだ。俺のほかにあてはあるのか?」
「はい。バハルの冒険者ギルドのマスターに推薦していただけることになってるんです」
「なんだ、すぐにでもSランクになれそうだな!」
オーランはガハハと笑って、快諾してくれた。
「ただ、頼みたい依頼が一つあるんだ。今日はまだ慌ただしいから、明日また来てくれないか?」
「受けるかはともかくとして、わかりました」
「よろしく頼む」
***
私たちは宿を取ってすぐに眠りについた。
でもきっとゆっくり眠ってお昼過ぎに行っても問題はないはずだ。私はそんなことを考えながら、ついつい2度寝、3度寝までしてしまった。
遅めの朝食をとって、私たちは冒険者ギルドへ行く前に少しだけアラレの街を観光することにした。アラレは白と青を基調にした、陶磁器のような綺麗な建物がたくさんある街だ。潮の香りが街全体に届いてきていて、足元には白い砂浜やどこから持ってこられたのか貝が落ちていることも多い。
昨日、魔物の大群が襲いかかってきたけれど、市場は開いているみたいだ。ただ、さすがに魚などの入荷はなかったようだ。
「すごい。あちこちからいい匂いがする」
ルルイエの言葉に、私は「そうだね」と頷く。江ノ島などのように、魚介類を焼いて売っている屋台が多い。そのため、食欲を刺激する匂いが多い。
……これはフラフラ~っと、買ってしまっても仕方がないと思う。
「観光も楽しいですけど、そろそろギルドに行った方がいいんじゃないですにゃ?」
「確かに、オーランさんの言ってたことも気になるね」
タルトとココアの言葉に、それもそうかと私は頷いた。ルルイエとケントはまだ食べたりていないようだけれど……依頼内容を聞いたら、また来ればいいだろう。
冒険者ギルドは昨日に引き続き慌ただしかった。
大勢の冒険者たちが、「俺はモンスターを何匹倒した」や「ポーションの消費が激しかった!」など、昨日のことについて職員たちと言い争っているようだ。
冒険者たちも命懸けで戦ったので、貰えるものは貰わないとと必死なのだろう。ギルドもその働きに報いたいは報いたくはあるが、予算の上限もあるだろうし……難しいところだ。
ちょうど手の空いた受付で声をかけると、私たちは昨日と同じ応接室に通された。
「おお、来たか!」
「「「おはようございます」」」
「おはようですにゃ」
『おはようなのだわ』
挨拶を交わし、お茶を入れてもらって、早速私たちに頼みがあると言っていたことを聞くことにした。
「実は、今回のモンスターの大量発生の調査をしてほしいんだ」
オーランの言葉に、私はなるほどと頷いた。いや、あのタイミングで話があったのだから、今回の大量発生に関係しているのは明らかだよね。
「こんなことは初めてでな。原因がわからねえと俺たちも安心できねえ」
「それは……そうだな」
ケントは突然モンスターが襲ってくる怖さはわかるようで、真剣な表情でオーランの話を聞いている。それは、ココアやタルトも同じだ。
「本来なら、アラレを活動拠点にしてる冒険者たちに頼むのがいいとは思うんだが……どう考えてもお前さんたちの方が強いからな」
「まあ、Sランクを目指していますしね」
今回のように前例がないことであれば、モンスターの量を考えてもよりレベルの高い冒険者が言った方がいい。私たちに声がかかるのは、妥当だろうと思う。
しかしオーランの言葉はそこでいったん途切れて、視線が宙をさ迷い始めた。
「……?」
どうしたのだろう。私たちが首を傾げていると、ギルド職員が「しっかりしてください!」と活を入れてきた。
「あ~~~~、それにな、聞いたんだ」
オーランの声がいつもより小さくなった。
「ええと、何をですか?」
「お前さんたちのことに決まっとるだろうが!! あんた、聖女様だったんだって!?」
目を大きく広げて、オーランが私を見てくる。え、今更……と思ってしまったのも仕方がないだろう。
「そういえば、昨日は名前しか伝えてませんでしたね」
私たちがどういう職業で、何レベルかという話は深くしなかった。というか、色々と事後処理があったので、する余裕がなかったと言った方が正しいかもしれない。
「実はそうだったんですよ」
「……ったく。〈冒険の腕輪〉だって、もってるんだもんな」
「ですね」
どうやら〈冒険の腕輪〉の情報も、アラレには届いているらしい。しかしオーランの腕にはないので、取得まではできていないのだろう。
「それで、依頼は受けてもらえるか? ギルドでは情報がまったくつかめてないから、調査方法も任せることになるが……」
オーランの言葉に、私はタルト、ケント、ココア、ルルイエ、サラマンダー、ウンディーネを見た。みんなの意志はどうだろう? と思ったのだけれど、全員がやる気に満ち溢れているようだ。
「その依頼、お受けします!」
「恩に着る!」
ひとまず調査依頼の基本料金で依頼を受け、結果次第でどれくらいの報酬になるか話し合いをすることとなった。
***
「というわけで、気を取り直して、今回のモンスターの大量発生の調査をするよ」
「また海の中に潜りますにゃ?」
タルトの言葉に私は悩む。
「やっぱりそれしかないかな……。モンスター、海から這い上がってきてたもんね」
「ですにゃあ」
しかし、この間のダンジョンの水中戦とは訳が違ってくる。
海は広大だし、潮の流れなど色々と不確定な要素が多い。どうするべきかと悩んでいると、ウンディーネがパッと表情をほころばせた。
『海に行くんですの? もしかしたら、じいやがいるかもしれないのですわ!』
「……もしかして、じいやさんなら、今回の異変のことを何かしってるんじゃないですにゃ? 海にいる方なんですにゃ?」
タルトの言葉に、全員がハッとした。