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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード1 私だけが転職方法を知っている
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16 目的の物

 私たちは無事にエルンゴアの屋敷へ足を踏み入れた。

 レンガで作られていた屋敷の中は、暖色系統の落ち着いた雰囲気になっている。エルンゴアはすでに亡くなり誰も住んでいないけれど、暖炉には火がともされ部屋の中は暖かい。さらに浄化の魔法か何かがかかっているようで、部屋は綺麗なままだ。


 フレイたちは屋敷の状態を見て、とても驚いている。


「これは……本当に、誰も住んでいないのか?」

「人の気配は……しないね」


 フレイの問いかけにリーナが答えるが、きょろきょろ周囲を見回している。リーナ本人も、本当に人が住んでいないのか疑っているのだろう。


「シャロン、ここは安全なのにゃ?」

「安全ですよ。住居にはエルンゴアの結界が張られていて、モンスターは入ってこれないはずですから」

「わかったにゃ。休憩の準備をするにゃ」


 トルテは「ふにゃ~」と一息つくように大きなリュックをおろして、暖炉の上のスペースを使って調理を始めた。奥に行くとキッチンもあると伝えたけれど、慣れない場所で別行動はよくないと判断したようで暖炉を使うそうだ。

 ほかのメンバーは、各々部屋の中を見回し始めた。


「死してなお、屋敷をこれだけ綺麗に保つなんて……エルンゴアは、本当にすごい人だったんですね」


 ルーナはエルンゴアの魔法が気になるようで、壁際の本棚に何かないか見ている。魔法関係の本が多くあるようで、道中も落ち着いていたルーナが静かにテンションを上げている。

 フレイとリーナも似たようなもので、室内の家具や置物などを調べ始めた。これなら、放っておいても大丈夫だろう。



 ――さて。

 私は〈エルンゴアの楽園〉で何をすべきか、考える。

 今後のことを考えるのであれば、ここで手に入れられるアイテムはぜひともゲットしたいところだ。屋敷の裏にある薬草園で採取もしておきたい。……なかなかやることが多いかもしれない。


 そしてふと、フレイたちの目的を聞いていなかったことを思い出す。案内係だったので、深く考えず案内だけすればいいやと思っていた。だけど私もしたいことがあるので、滞在時間は把握しておかなければ。


「フレイたちは、何しにここへ来たんです?」

「私たちは、伝説の薬草があると聞いてここに来たんだ」

「ああ、裏にある薬草園ですね」

「知っているのか!?」


 私がさらっと答えると、すごい勢いでフレイが眼前にやってきた。その迫力に、私は一歩後ずさる。


「薬草園があるってことくらいで、詳細に知ってるわけじゃないですよ? なんていう薬草なんですか?」

「それが……名前はわからないんだ。ただ、〈エルンゴアの楽園〉にならばあるだろうと、そう言われているらしくて……」

「なるほど」


 歯切れの悪いフレイの言葉に、私は腕を組んで考える。

 薬草園にある薬草は、私も何種類かはちゃんと覚えている。フレイが薬草の名前を知らないようなので正確かはわからないけれど、おそらく〈楽園の雫〉という薬草だろう。説明欄に、伝説の薬草と書かれていたことを覚えている。

 ……それか、全種類採取して帰ればいいよね。


「なら、休憩が終わったら行きましょうか」

「ああ!」


 私の言葉に、フレイは破顔して頷いた。




 しばらくすると、室内にいい香りが漂ってきた。


「おまたせしましたのにゃ~!」

「わ、チーズフォンデュ?」


 トルテが用意してくれたのは、チーズフォンデュだった。まさかダンジョンでチーズフォンデュを食べられるとは……!

 小さなお鍋で溶かしたチーズと、お肉、ソーセージ、野菜、パンなどが具材として用意されている。お洒落だけれど具材はたっぷりだ。


「「「いただきますっ!」」」


 全員でテーブルを取り囲んで、さっそくいただく。

 私はパンを手に取りチーズをつけて、口に含んだ。濃厚なチーズの香が鼻から抜けていき、その美味しさに体の力が抜ける。


「美味しい~」

「よかったですにゃ」


 私の感想に、トルテが嬉しそうに微笑んだ。


「トルテの料理は世界一なんだ!」


 フレイはそう言うと、「美味しい」ともりもり食べている。野菜やパンなどもあるけれど、お肉が中心なのがなんともフレイらしいなと思う。やはり剣を振るうのだから、お肉は大切なのだろう。


「私なんて、量が多すぎて食べきれないわ。いつもリーナに食べてもらってるんですよ」

「ちょ、それじゃあ私が大食いみたいじゃない! 美味しすぎるのがいけないんだから!!」


 ルーナの言葉に、すぐさまリーナが反論したけれど……それじゃあ大食いだと認めているようなもので笑ってしまう。

 雑談をしながら、しばしの休憩を楽しんだ。



 ***



 エルンゴアの屋敷の裏庭は、薬草園になっている。

 希少なものが多く育てられていて、ポーションやアイテム製作の素材として重宝されている場所だ。採取した薬草類は売ることもできたので、貧乏になるとお小遣い稼ぎに来る人も多い。私もちょっとだけ、お世話になったことがある。



「わああぁ、すごい! まるで絵本の中に入ったみたい!」


 裏庭の薬草園を一目見て、私はテンションがマックスになった。こんなにいろいろな植物があるところは、そうそう見られるものではないと思う。

 綺麗に区画分けされている薬草園には、オーソドックスな〈薬草〉から始まり、かなり希少な素材や、歌う花、マナで成長する植物、水中でのみ育つ植物のための池などがある。一番大きな木は、屋敷の背を超えるほどだ。


 ――やっぱり生で見て正解!


 この世界を見れば見るほど、行きたい場所が出てくる。美しい景色で言えば〈桃源郷〉もそそられるし、フィールドの〈海底トンネル〉もいいかもしれない。ダンジョンならば、〈ドラゴンの寝床〉や〈イフリートのオアシス〉なども気になるところだ。ただ、今のレベルではいけないのが悔やまれる。さらに上のダンジョンを目指すのであれば、強いパーティメンバーも必要になるだろう。

 ……楽しみだけど、かなり先は遠そうだ。


「すごいわね、すごく品質の良い薬草ばかり……!」

「本当ですにゃ!? それなら、きっと妹も助かりますにゃ!」

「ええ」


 ――妹?

 私はルーナとトルテの言葉にハッとする。〈エルンゴアの楽園〉に来た目的は、伝説の薬草〈楽園の雫〉の採取だったはずだ。おそらく、この薬草で妹の薬か何かを作るつもりなのだろう。

 めちゃくちゃ大切なミッションだ! 気合を入れて〈楽園の雫〉を探さなきゃ!


「ルーナ、どれかわかるか?」

「……現時点では、まだなんとも。どれも品質がよくて珍しい薬草、ということは共通していると思うから……一通り持って帰るのがいいかもしれないけど……」

「「…………」」


 すべての薬草を採取しても構わないけれど、薬草園は広く……かなりの時間を要するはずだ。私が目を凝らして庭園を見ている間、フレイたちのテンションがどんどん下がっていく。

 ギルドに来たとき、冒険者になったばかりで低レベルの私を案内役にしたのだから、かなり切羽詰まっていたのだろう。

 ……っと、あった。

 私は目的のものを視界にとらえて、ほっと一息つく。そしてフレイたちに声をかけて、それを指差した。


「――あそこの水色の薬草が、〈楽園の雫〉ですよ」

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― 新着の感想 ―
まず転職が終わって神殿から出るとき神官たちに「何があったんだ」と絶対止められるはず、、 それにレベル12の初心者が未開のダンジョンのこと言っても相手にされないか、なんでそんなこと知ってるんだって詰め…
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