16 冒険者ギルドでまさかの発覚!
地下通路を通り冒険者ギルドの一階に出ると、すぐさま受付嬢がやってきた。そして、ギルドマスターのトーレが待ち構えている応接室に連行――もとい、案内された。
「まさか本当に火山を鎮めて帰ってくるとは恐れ入ったよ。しかもこんな短時間で」
「いえ。でも、よく火山が鎮まったとわかりましたね」
「少し気温が下がったからね」
「なるほど?」
トーレの言葉に私は首をかしげる。暑いとは思っていたけれど、別段涼しくなったとは感じなかった。今だって変わらず気温は高いなと思うくらいだ。現地の人には多少の気温の違いがわかるのだろうか。そうだとしたら、すごいなという感想以外は出てこない。
「とりあえず、依頼は達成したので報告しますね」
「ああ」
トーレが頷いたのを見て、私は一連の流れを説明していく。
「ダンジョン〈イフリートのオアシス〉からイフリートをお連れして、ダンジョン〈地底火山〉の火山を鎮めていただきました。おそらく、これでしばらくは火山が噴火することはないと思います」
私の話を聞き、トーレは満足そうに頷いた。
「イフリート様は、すぐ説得に応じてくれたのかい?」
「いえ、倒して来ていただきました」
「な……っ」
まさか武力行使で無理やり連れていったとは思っていなかったらしく、トーレと受付嬢が驚きで目を見開いた。
……あ、別に倒した後はすんなりついてきてくれたから無理やりではないかも?
なんてことを私が考えていたら、トーレの特大ため息が聞こえてきた。
「君たちが強いことはわかっていたつもりだったが、まさかイフリート様をもしのぐとは思ってもみなかった。ギルドランクも見直した方がいいな。問答無用でSランクだろう」
「ありがとうございます」
実力を認めてもらえたのは素直に嬉しい。それに、ギルドランクがSであればいろいろと便宜を図ってもらうこともできそうだ。
「……だが、俺一人の一存でSランクにはできない。Sランクになるには、ギルドマスター三人の推薦が必要だ」
「そういえばそうでしたね」
ゲーム時代もそんな仕様があったことを思い出す。
「トーレさんに推薦をもらったら、あとは二人ですね」
「そうなるな。まあ、あなたたちであればすぐ推薦は取れそうだが……宛はあるか?」
「ツィレのギルドマスターとは顔見知りですね。今度、挨拶に行ってみようと思います」
「それがいい」
ほかにも〈氷の街スノウティア〉や〈王都ブルーム〉など、顔を出したことのある冒険者ギルドはいくつかある。そこである程度の依頼を受ければ、推薦してもらえるだろう。たぶん。
ひとまずそれで話がまとまるというところで、受付嬢が「でしたら」と一つ提案をしてきた。
「今はひとまずAランクの手続きをしておいたらいかがですか?」
「ああ、それがいい。みなさんのレベルと職業は申告していただいている通りでしょうし――」
「あ」
トーレがこのまま話を進めようとしたところで、ルルイエがぽつりと声を出した。こういった話し合いはいつも静かにしていてくれるので、珍しい。
「ルル、どうかした?」
「わたしの職業、〈ノービス〉じゃなくなった」
「「「えっ!?」」」
「にゃっ!?」
私たちはルルイエと行動を共にして知ったのだけれど、なんと職業が〈ノービス〉だった。まあ、闇の女神など香ばしいものじゃなくてよかったのかもしれないが……どうするべきか決めかねていたこともあり、ルルイエはずっと〈ノービス〉のままだったのだ。
……〈ノービス〉なのになぜか魔法も使えて超強かったからね。
女神とはそういう存在なのかもしれないと、なんとなく思っていた。
「それで、いったいなんの職業になったの?」
「〈料理人〉」
「「「「「――っ!!」」」」」
全く予想外の――いや、ある意味予想内かもしれないけれど、ルルイエの告げた職業に驚きを隠せない。
……〈料理人〉って、戦闘職ですらない!!
美味しい食事を作ることができる職業だ。字面そのままだ。
「えーっと……〈料理人〉でS……というか、Aランクですら前例はないね」
「一応、Fランクでしたらいたことがありますが……」
トーレと受付嬢も困り顔だ。
「わたしは別にランクにこだわりはないから、シャロンに任せる」
まさかのぶん投げられてしまったでござる。
……手っ取り早いのは、ルルの実力を見てもらうことだよね。
「せっかくだし、トーレさんに同行してもらって〈地底火山〉の一階層でルルに戦ってもらうとか……どうですかね……?」
「そうしよう!」
駄目だろうなぁと思いながら提案したのに、まさかのあっさり採用されてしまったでござる。
このギルドマスター、フットワーク軽すぎる――。
というわけでやってきました地底火山一階層。
受付嬢はビクビク震えているけれど、トーレは楽しそうにキョロキョロしている。こんな機会でもなければ地底に入ることなどないだろう。
ケントが先頭に立ち、簡単に地底のことをトーレたちに説明してくれている。その間に私はルルイエにこっそり耳打ちをする。
「いつもみたいな魔法だと、ルルの職業と存在に不信を持たれちゃうから……料理人のスキルと物理攻撃だけで戦うことってできるかな?」
「大丈夫。任せて」
「ありがとう、お願いします!」
我ながら無茶ぶりだとは思うけれど、〈料理人〉が〈ダークアロー〉やらなんやらを使ったら、きっと大混乱になるはずだ。ルルイエが闇の女神だということは、できれば誰にも知られたくないし、隠しておきたいと思う。
この世界には闇の女神を崇める者もいれば、よく思っていない者もいるからだ。そういったものから、ルルイエのことを守りたいと思っている。
私たちの話が終わったのを見たケントが、「それで、どうするんだ?」と声をかけてきた。
「いつもみたいに、俺が先行してルルが攻撃するってことでいいのか?」
「ううん。今は、私に任せて」
ケントの提案に首を振って、ルルイエが一歩前に出た。
その視線の先にいるのは、〈マグマのドブネズミ〉が三匹。いつもであればケントが〈挑発〉でヘイトを稼ぎ、ココアとルルイエが魔法で攻撃して倒していたが……一体どうやって戦うつもりなのか。
私は多少ハラハラする気持ちを抑えつつ、ルルイエを見守る。
ルルの武器は、杖。せめて鈍器であれば、殴って戦うこともできたのに……。私がそう思っていたら、一歩前に踏み出したルルイエはブンッと勢いよく杖を振り回した。
「おお……っ!?」
そしてそれは見事ネズミにヒットし、吹き飛ばした。
「え、つよ……」
思わず言葉が漏れたのも仕方がないだろう。トーレなんかは、小柄なルルイエが力の限り杖を振り回して戦っている姿に驚きを隠せないようだ。目を大きく開けて、さらに口まで開けてポカンとした様子で見ている。
ルルイエは二匹目のネズミをターゲットにすると、杖の柄の部分を槍のように使って突き刺した。ネズミは一瞬で光の粒子となって消えた。
「次でラスト。〈料理人〉スキル――〈千切り〉」
ルルイエがスキル名を叫んだ瞬間、ネズミの体が千切りのように細く切られ、そのまま光の粒子となって消えた。
……え、料理人、すごっ!!
ルルイエの圧倒的な強さの前に、誰もが言葉を失ったのだった――。
「いやあ、すごかった!!」
ギルドの応接室に戻るとすぐ、トーレがルルイエに向けて盛大な拍手を送ってくれた。ルルイエもそれに満足そうだ。
「あの戦いを見せられて、Aランクじゃないとは言えないね。すごいレディだ!」
まさに喝采だ。受付嬢も力の限り頷いていて、ルルイエの戦いに魅せられてしまったということがわかる。ふふ、うちの子はみんな最高だからね!
ということで、私たちはさっくりAランクになることができた。そして話は戻り、今回の火山の噴火を鎮めるという依頼の件だ。
「では、今回の件の報酬を払おう」
今回の依頼の報酬は、〈サラマンダーの卵〉だ。トーレが指示すると、すぐに受付嬢が報酬を持ってきた。
トレイの上に載せられテーブルの上に置かれたのは、深い赤色の艶のある卵だ。その殻はとても硬く、ちょっとやそっとでは割れそうにない。
手に持ってみると、とくんとくんと小さな鼓動が聞こえてきて、確かに中に生命がいることは感じることができた。
「これが〈サラマンダーの卵〉……すごいですにゃ」
「もしかして、〈サラマンダー〉が生まれるのか?」
「それは……どうだろう?」
ケントとココアがそれぞれ思ったことを口にする。しかし、残念ながらこの卵から〈サラマンダー〉が孵ることはない。
確か昔本で読んだのだ。〈サラマンダー〉はかなりの高温ではないと卵が孵らないと書いてあった。人間が住める環境では、〈サラマンダー〉には気温が低すぎる。
「ひとまずこれは私が持っててもいいかな? 使い道は、また今度相談しよう」
「ああ」
ケントが頷いてくれたので、私は代表して〈サラマンダーの卵〉を預かることにした。〈鞄〉にしまい保管しておく。
「では、これで依頼は達成ですね。私たちは失礼します」
「できればレディたちにはもう少し内部の様子を話してもらいたかったけれど……難しいかな?」
「シャワーも浴びたいですからね」
私が苦笑しながらそう答えると、トーレはハッとした。
「確かにそれは重要だ。失礼しました、レディ」
「いえ。ありがとうございました」
私たちは冒険者ギルド後にして、疲れ果てた体を癒すため宿屋へと向かった。