15 ついでに〈業火のサラマンダー〉を倒そう
「とりあえず、急いでギルドに戻った方が――」
「よし、このままの勢いでボスの〈業火のサラマンダー〉を倒しちゃおう!」
ケントの言葉を遮って、私はドドンと宣言した。
〈マグリン〉、〈巨大マグリン〉を倒してからの連戦になってしまうけれど、イフリートがタルトにあげたご褒美――もといドロップアイテムを考えると、今の私たちはツキが来ているのではないかと思う。
このまま行けば、ボスのドロップも期待できるのでは! と、私は考えたのだ。
「ちょ、本気で言ってるのかシャロン!? 早くギルドに報告した方がいいと思うけど……」
「そりゃそうなんだけど、ギルドに報告してすぐにまたここに来れるかはわからないでしょ? ボスのところに行くのだって一階層と二階層を越えないといけないし、今ならちょうど二階層からすぐボスのところに行けるから一回倒しておくといいと思うんだよね。ほら、ボスは倒しても次に沸くまで一日はかかるから」
だから倒せる機会があるなら倒しておいた方がいい! と、私は主張するのです。
「それはまあ、確かにそうかもしれないけど……」
ケントはうーんと悩みつつも、「まあ噴火の可能性はなくなったわけだしな」と納得してくれたようだ。冒険好きなケントは、案外この手の話だとちょろいのだ。
そしてすぐ、ケントはタルト、ココア、ルルイエを見て行けそうかと確認をしてくれる。さすが、できる前衛。みんなにきちんと確認を取るところがイケメンだ。
「わたしは大丈夫ですにゃ。行きましょうにゃ!」
タルトの装備が目当てなので、気合満々のようだ。ココアとルルイエも頷いて、タルトのために頑張ると言ってくれている。パーティメンバーのために装備を集めに協力してくれる仲間は最高すぎるね……!
「じゃあ、少し休憩してからボスのところに行こうか」
「それがいいな」
私たちは気合を入れて、ひとまず休憩した。
二階層を通り、私たちは三階層へやってきた。ここで出るモンスターは〈溶岩ゴーレム〉〈一角火ネズミ〉〈サラマンダー〉、それからボスの〈業火のサラマンダー〉の四種類だ。ちなみに〈業火のサラマンダー〉は、ノーマル〈サラマンダー〉を取り巻きにしている。
「で、シャロン。〈業火のサラマンダー〉ってどこら辺にいるんだ?」
「それがわからないんだよね。ここのボスは特に位置固定じゃないんだ。普通にフロアを歩き回ってると思う」
私が説明すると、ケントは「なるほどな」と頷いた。〈業火のサラマンダー〉は出現ポイントが一定ではない。そのため、歩き回って見つけるのだ。
今みたいに私たちしか狩りをしていないならいいけれど、ゲーム時代はボスを狩りたい人は多かったので、ボス探しすら競争だった。
「それなら、狩りをしながらボスを探しましょうですにゃ」
「それがいい」
タルトの言葉にルルイエが賛成する。もちろん私とココア、ケントも賛成した。
いつものようにケントを先頭で隊列を組み、進む。そして出てきたモンスターたちを次々倒していく。
初めて戦うモンスターではあったけれど、今までの経験や強さもあるので難なく倒すことができた。出現するモンスターが全て火属性で、ココアが水属性の魔法を使っているという点も強いだろう。
「〈ダークアロー〉!」
ルルイエの攻撃で、〈サラマンダー〉が光の粒子になった。タルトがドロップアイテムを拾って〈鞄〉にしまう。それを何回か繰り返し、時折間に休憩を挟み、私たちはついにボス――〈業火のサラマンダー〉の後ろ姿を捉えた。
「うわ、でかいな」
ケントがごくりと唾を飲んだ。
〈業火のサラマンダー〉は、通常出てくる〈サラマンダー〉の四倍ほどの大きさがある。その体調はおよそ三メートル。
「ここのボスは、火を吐くトカゲって感じかな? イフリートほどは強くないから問題なく倒せると思う」
「了解!」
ケントは「うしっ!」と気合を入れて叫ぶ。
「〈挑発〉!!」
すぐさまボスがこちらに気づいたので、ケントが走って距離を詰める。ケントがボスの前に到着するより早く、ココア、ルルイエが魔法で一撃入れる。そのすぐ後にタルトも〈ポーション投げ〉を使った。
私は〈必殺の光〉を全員にかけ直し、ケントにバリアを張り直す。これである程度のダメージは防ぐことができるだろう。
そして地味に厄介なのは、取り巻きとしてボスの周りにいる〈サラマンダー〉五匹だ。
数が多いので先に倒してしまいたいところだけれど、全部倒すと再召喚されて五匹に戻ってしまう。そのため、一匹だけ残して他を倒す。それは以前の戦いでも学んだので、みんなわかってくれているだろう。
ケントが全てのヘイトを稼いだのを確認してから、ココアが範囲攻撃で一気に〈サラマンダー〉を攻撃する。そしてとどめを刺すのはルルイエの単体魔法だ。それによって、ちょうど一匹だけ〈サラマンダー〉を残すことができる。
……よし、いい感じ!
ケントはボスを引きつけつつ、剣で攻撃をする。一撃、二撃、三撃と加え、さらにスキルで大ダメージを与えた。
タルトも参戦したそうにうずうずしているけれど、〈ポーション投げ〉では取り巻きの〈サラマンダー〉を巻き込んでしまうので、マテ状態だ。
「にゃう……。攻撃できないのは歯がゆいですにゃ」
タルトが肩を落としたので、私は「役目はあるよ!」とフォローを入れる。
「ボス以外のモンスターもやってくるから、タルトはそいつがケントや私たちに近づかないように攻撃して倒して」
「はいですにゃ!」
俄然やる気を取り戻したタルトは〈火炎瓶〉を握りしめ、周囲を観察し始めた。そしてボスじゃないモンスターが近づいてきたら〈ポーション投げ〉で倒す。一発では倒せないので、連続で何回も。その繰り返しだ。
こちらに他のモンスターが流れてこないだけでも随分戦いやすい。
ボスにある程度のダメージを与えたところで、上を向いてゴウッとひときわ大きな炎を吐いた。体力が少なくなってきている証だ。
ボスはそのまま首をぐるぐる振って、容赦なく炎を浴びせにかかってくる。その動きはランダムだけれど、そこまで早くないので注視していれば避けることができる。
もしここに他のモンスターがいたら、それに気を取られて避けることは難しかったかもしれない。それゆ、今回のタルトの他のモンスターを倒すという役割は、実は結構重要なのだ。
「もうすぐ倒せるよ! ――〈必殺の光〉!」
私はこれがとどめの一撃になるだろうと考え、ケント、ココア、ルルイエそれぞれに支援をかける。
すぐ意図を読み取ってくれたらしいケントは、「行くぜ!」とボスに負けず劣らずの大声で叫び、一撃を叩き込む。
「〈#嘆きの竜の一撃#ドラゴンランス#〉!!」
それにココアとルルイエも続き、魔法を撃ち込んだ。しかしボスはまだ倒れない。さらに最後のとどめだとばかりに、私はタルトにも〈必殺の光〉をかける。「にゃっ」と驚いたタルトはそれでもすぐに反応し、ボスに向かって思いっきり〈ポーション投げ〉を食らわせた。
タルトの一撃でボスは光の粒子となって消え、一枚のシンクの赤いマントがはらりと空を舞った。
「――!! 本当に出た!!」
思わず叫んでしまったのも仕方がないだろう。
「装備のドロップアイテムですにゃ!」
「すごい! やっぱり今日のタルとは持ってるね。あれが欲しかった装備――〈煉獄のマント〉だよ」
私の言葉に目を輝かせて、タルトはマントを手に取った。
〈煉獄のマント〉
火耐性が50パーセントアップするという優れもので、デザインは肩掛けのマントと格好良い。胸元部分にはサラマンダーの意匠が施された留め具がかかっており、キラキラ輝くチェーンの装飾がされている。
「わあ、すごいですにゃ。本当にわたしが装備していいんですにゃ?」
「もちろん」
私は大きく頷いて、タルトにつけるよう促す。ケント、ココア、ルルイエも同じように頷いた。
タルトが装備をすると、長かったマントの丈はタルトの背丈に合わせるように短くなった。
わずかにキラリと輝き、強者の貫禄を見せつけてるかのようだ。
「うん、すごく似合ってる」
私が褒めると、タルトは嬉しそうにはにかんで笑った。
「でも、実は問題もあってね」
「にゃ?」
新装備で喜ばせて褒めて上げてからで大変申し訳ないのだけれど、〈煉獄のマント〉はアクセサリー装備の枠になっている。アクセサリーは二枠しかない。タルトは今、〈冒険の腕輪〉と〈お父様の形見のチョーカー〉の二つでアクセサリーがいっぱいいっぱいなのだ。
「さらにアクセサリーの〈お父様の形見のチョーカー〉と〈可憐なお嬢様のワンピース〉と〈可憐なお嬢様の靴下〉はセット装備だから……追加効果として、体力が+15%、自然治癒力が+5%になってるでしょ? マントを装備すると、その効果がなくなるの」
その追加効果がなくなったとしても、それを上回る恩恵が〈煉獄のマント〉にはあると私は思っている。
確かタルトの装備は、フレイが手に入れてプレゼントしたものだ。思い入れのある装備なので、もしかしたらまとめて装備できないことを気にしてしまうかもしれない。
……当のフレイだったら、「いい装備を手に入れたらそっちが優先に決まってる!」なんて言いそうだけれど。
しかしタルトより先に口を開いたのは、ケントだ。
「でも、父ちゃんの形見のチョーカーなんだろ? タルトはずっと装備してたいんじゃないか?」
「…………にゃっ!?」
ケントの言葉がすぐに理解できなかったらしいタルトは、ハッとして「違いますにゃ!」と首を振った。
「私のお父さんは、元気ですにゃ」
「え、そうなのか!?」
「これは装備の名称だから、実際にタルトのお父さんの形見のチョーカーじゃないんだよ」
「なんだ、お父さんは元気なのか。よかった~」
嫌な汗をかいたらしいケントは、アハハと笑いながら頭をかいている。
「なら、狩場によって装備を変えるのがいいんじゃないか?」
「私もそう思う。ここら辺で狩りをするなら、絶対〈煉獄のマント〉がいいからね。どうかな、タルト」
「もちろんですにゃ。いい装備があるのに使わなかったら、フレイに怒られちゃいますにゃ」
……だよね~~~~!
「あとは通常の防御力を上げる装備を整えていけば、タルトも前衛を務めることができるよ。そうそう、左手装備の枠が空いてるから盾を持つのもありだね」
私がそう言うと、「なるほどですにゃ」とタルトが頷いた。そして、盾を持って攻撃を防ぐような動作をしてくる。すでにイメトレを始めているところが、最高に可愛い。さすが私の弟子。
とはいえ、そうそう簡単に装備というものは手に入るものではい。
「次は〈イフリートのオアシス〉で武器を探すのがいいかもしれないね」
「頑張りますにゃ!」
私たちはそんなことを話し合いながら、〈地底火山〉を後にした。