12 1/1000のラッキー?
隠し階段を降りた先を見ると、なんとも感慨深いものがある。
体育館ぐらいの広さがある開けた場所で、中央にはマグマの池。ボコボコ燃え上がる様子は、確かにいつ火山が噴火してもおかしくないと思わせる。
ここでイフリートが沈めの舞を舞うことにより、火山の噴火を止めることができる
――というのが今回のクエスト内容なのだけれど、何やら様子がおかしい。
「おい、これ本当に大丈夫なのか!? 今、噴火します! って言われても、全然おかしくなさそうな雰囲気なんだけど……」
ケントが周囲を警戒しつつ、中央のマグマの池を見た。それは私が想像していたよりもマグマが大きくボコボコ燃え盛っていて、確かに噴火しそうだなと思ってしまった。
「――あ」
そこで私はハッとした。
「うっかりしてた」
「シャロン?」
このイベントクエストはイフリートを連れていき、火山を沈めてもらって終わり、というある意味簡単なクエストではあったのだけれど、一〇〇〇回に一回の確率でモンスターが出るのだ。
まさかここで引き当ててしまうとは……と、私は苦笑する。運がいいのか悪いのかわからない。
「あいつを倒さなきゃ、イフリートが火山を鎮めてくれないんだよ」
「あいつ?」
私がボコボコマグマの池を指さすと、ちょうどモンスターが這い上がってくるところだった。
「なんだか可愛いけど、可愛くなさそうなモンスターが出てきたね?」
ココアの言葉に、私は全くその通りだと頷く。
目の前に現れたのは、〈マグリン〉。一言で説明するならば、体がマグマでできたスライムだ。
スライムなので弱いかと思うけれど、いかんせん体ま体がマグマでできているので熱いし強いし、
攻撃力がえげつない。触れたもの全てを焼き切って溶かす、凶悪な〈マグマ投げ〉という攻撃をしてくる。
……マグマの温度って何度だっけ。
わからないけれど、とてつもなく高いことだけは確かだ。
「あれを倒せばいいのか」
ぷるぷる……いや、どろどろ揺れている〈マグリン〉を見て、ケントが困惑した声で私に尋ねた。
「でも、熱そうだな……。倒すにしても大変そうだけど、倒すしかないんだよな?」
こちらが攻撃しなければ襲ってくることはない。けれど、倒さなければイフリートは鎮めの舞を踊ってはくれない。つまり、倒さなければこのクエストは進まないのだ。
「残念ながらそうだよ」
「……そうだよな。ところで、〈マグリン〉はどうやって倒せばいいんだ? 俺が〈挑発〉で食い止めるにはきついぞ」
「そうだね」
〈マグリン〉は体がマグマでできているので、触れることはできない。できはするが、こっちも大ダメージだし、下手したら命を落とす可能性もある。なので、倒すならば遠距離攻撃一択だ。
……でも、ココアとルルじゃ火力がちょっと足りないんだよね。
私は部屋の中をぐるっと見回して、目当てのものを見つける。
「みんな、こっちこっち」
「ん?」
私はマグマを迂回しながら反対側に行き、中くらいの岩二つがある場所を指差した。その岩の後ろに立つと、だいたい後ろの壁まで五メートルといったところだろうか。
「ケントはここに立って、〈挑発〉で〈マグリン〉をおびき寄せて。それで私たちというか、ココアとルルが壁際からケントに襲いかかってくる〈マグリン〉に向けて攻撃する。それで倒す!」
本当は強い遠距離攻撃があればそれで倒せたのだけれど、今の私たちでは火力不足だ。もっとレベルを上げて、装備を整えなければ無理だ。
全員の一撃で倒すことができないので、違う戦闘方法を使う。すなわち――はめ技だ。
何人ものプレイヤーが試行錯誤した結果、〈マグリン〉はここの二つの岩の間にはまると動けなくなってしまうということが判明した。そのため、ここに挑発でおびき寄せ、動けなくなった〈マグリン〉をフルぼっこするというのがこいつの倒し方だ。
私の説明を聞いて、ケントは顔を引きつらせながら「お、おう……」と返事をした。ここに〈マグリン〉がハマるなんて、とてもではないけれど考えられないのだろう。
……でも、ハマるんだよね。
はめ技とは不思議なものである。
「とりあえず、それでやってみようか」
「わかった」
ケントは頷いて、岩の間に立つ。そしてココアとルルイエが壁際の立ち位置についたのを見て、「いくぞ!」と気合いを入れた。
「〈挑発〉!!」
ケントがスキルを使うと、〈マグリン〉がぴょんとはねた。そして熱い体を這わせてこちらへ向かってくる。通った道が焼け焦げ、固くなっている。
あんなのに飛びかかられたら、一瞬で体が溶けてなくなってしまいそうだ。
「うわ」
思わずケントの声がこぼれたのも仕方がないだろう。
〈マグリン〉がケントの元へやってきて攻撃をしようとした瞬間、岩と岩との間に挟まった。
どうにかして前へ進もうとしているけれど、岩があるため進むことができない。この岩は黒くなっていて、溶岩が固まったものだろうと考えられている。そのため、〈マグリン〉も通ることができず、はめ技として使えるのだろうとプレイヤーの誰かが考察していた。
〈マグリン〉が体から手のようなものをにゅっと伸ばしてケントに触れようとしたが届かなかった。
「うわっ! びっくりした!! ……でも、本当に岩にはまって動けないんだな」
ケントは珍しそうに〈マグリン〉を眺めている。
モンスターがこんな状態になっているのを見ることはそうそうないだろうから、珍しいのだろう。
その隙を逃さず、ココアとルルイエが攻撃魔法をぶちかます。
互いに一撃ずつでは〈マグリン〉は死なず、反撃しようと動いているが、岩に挟まっているためそれもできない。なんとも楽勝ムードだ。
「すごいですにゃ!」
タルトが感心したようにつぶやいて、ハマっている〈マグリン〉を見る。「ちょっと可哀相ですにゃ」と言っているのはタルトらしい思いやりだ。
それからココアとルルイエが三撃ずつ魔法を話したところで、〈マグリン〉は光の粒子になって消えた。無事に倒せたようだ。よかった。
はめ技で倒せると思ってはいたけれど、現実世界になったのではめられない可能性もちょっと考えていたのだ。その時は仕方がないので気合で戦うつもりだったが、そうならなくてよかった。
無事にマグリンを倒せたことに安堵の息をつきつつ、ここからが本番だ。
「よかった。無事に倒せたな」
「後はイフリート様に火山を沈めるために待ってもらうだけですにゃ」
そんな話をしていたら、タルトの背中から「ふあぁ……」と欠伸が聞こえてきた。どうやらイフリートが目覚めたようだ。
「〈地底火山〉についたのじゃな。なかなか早かったのではないか」
「イフリート様、お願いしますですにゃ」
「んむ」
しかし、イフリートが沈めの舞を踊ろうとした瞬間、中央のマグマが大きく立ち登った。
「何!? どういうこと!?」
私は慌てて全員に支援をかけ直す。〈マグリン〉を倒した後にこんなイベントがあるなんて聞いていない。一体どうすればいいというのか。
……逃げるべき?
必死で頭の中で考えながら、ひとまず私は「二階層に戻ろう」と叫んだ。
しかし、私たちが階段へたどり着くよりも早く、マグマから、巨大なマグリンがのそりと姿を表した。
何このマグリン――〈巨大マグリン〉とでも呼べばいいのだろうか。
「うわ、これ逃げられないぞ!」
ケントが叫びながら、それでも必死に「〈挑発〉!」とスキルを使う。〈巨大マグリン〉はケントに攻撃を始めたけれど、動きは速くなかった。そのため、逃げ回って投げつけてきたマグマから避けることができた。
いったいどうすれば~~! と思っていたら、イフリートが堂々と宣言した。
「わらわをおぶってくれた礼じゃ。あやつを倒せ、タルト」
「にゃにゃっ!?」