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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード6 可愛い弟子の最強計画
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11 〈地底火山〉二階層

「あ、思ったより暑くないな」


 地底の二階層へ下りると、ケントがそう呟いた。


 ここは一階層とは違い、地面にマグマが流れていない。これが熱気というか、暑さにだいぶ関係しているのだろう。固まったマグマが石のようになり、それが地面になっているのだ。そのため、一階層に比べたら比較的過ごしやすい温度だ。


 ……ただ、暑いことにそんな変わりはないけど。


 とはいえ随分楽になったので、私をはじめ全員がホッと息をつく。


「この辺りにモンスターはいないみたいだな。タルト、休憩するか?」

「大丈夫ですにゃ」


 ずっとダルトがイフリートをおぶっているので、体力も限界に来ているのではとケントが心配してくれている。

 その証拠に、タルトはこのパーティの中で一番汗をかいているように思う。ずっとイフリートをおんぶしているので、背中の暑さもかなりのものだろう。


 このまま先に進む流れだったが、休憩という言葉にルルイエが反応した。


「こういうときは、これ!」


 ルルイエは、〈鞄〉からかき氷を取り出した。


「にゃにゃにゃっ!? そんなのいつの間に買ったんですにゃ!? というか、それは見かけませんでしたにゃ」


 タルトが驚いて入手経路を聞くと、ルルイエはふふりと胸を張ってみせた。


「これは、〈エレンツィ神聖国〉にいるときに買った」

「なるほどですにゃ」


 エレンツィは寒い地方なので、氷も豊富にあるだろう。そのため、安価でかき氷が手に入りやすく、保存できる〈鞄〉を持っている。私たちには持ってこいだ。


「みんなの分もある」

「わあ! ありがとう、ルル」

「おおおおぉ、生き返る……!」


 ルルイエが全員にかき氷を渡すと、みんながぱああっと顔を明るくさせる。暑さにやられていたので、かき氷という恵みを体が渇望してやまないだろう。


「はい、シャロンも」

「ありがとう、ルル」


 私もルルイエからかき氷をもらい、一口食べる。口の中に広がる氷は一瞬で溶けてるけれど、体に冷たさを運んでくれるし、体感温度も下がってくる。


「ああ、幸せ……」


 これが天国かもしれないなんて思ってしまうほどだ。

 ルルイエが用意してくれたかき氷はいろいろなフルーツが乗っていて、その上にシロップがかけられている。作りこそ簡単なものだけれど、フルーツはどれも美味しくて、熱い体に冷たい氷が心地よい。


 みんなぺろりと平らげてしまった。



「んじゃ、そろそろ行くか」

「はいですにゃ!」


 かき氷を食べ終わった私たちは、二階層のイフリートが火山を鎮める場所へ行くために歩き始めた。


「ケント、もう少し左方面に歩いて」

「わかった!」


 イフリートが火山を鎮めるイベント地点に案内しながら、私は周囲を見回す。ここは二階層というだけあって、モンスターもなかなか強い。


 一階層にいたモンスターの上位種や、新たなモンスターが出てくる。


「前方からでかいネズミがきた!」

「あれは一階で見た〈マグマのドブネズミ〉の上位種〈マグマの炎ネズミ〉だね。体が一回り大きくて、火を吐いて攻撃してくるから少し厄介かも」

「わかった。〈挑発〉!」


 ケントがスキルを使って炎ネズミのターゲットを取る。そこにすかさず〈ダークアロー〉と

 〈アイシクルアロー〉が飛んでくる。ルルイエとココアの攻撃で、炎ネズミはあっけなく光の粒子となって消えた。

 さすがに炎ネズミぐらいだったら、心配することは何もなかったね。私は支援をかけ直しながら、「先へ進もう」と声をかけた。


 ゴツゴツして歩きづらい地面を進みながらモンスターを倒し、私はみんなにバレないよう周囲を観察して楽しんでいた。


 ……だってこんな場所、この世界じゃないと来れないもん!


 熱くて熱くて大変だったけれど、二階層は少し気温が落ち着いていて……周囲の景色を楽しみたくなってしまったのも、仕方がないことではないだろうか。


 ……私はこの世界の景色を見るために旅をしているのだから。


 そもそも、火山の中に入ることが普通はできないもんね。

 いつ噴火するかわからない火山だけれど、この世界はゲームなので私はこの火山が噴火することはないということを知っている。なので、こうして冷静な状態で周囲を見ることができるのかもしれない。ケントたちはいつ噴火してもおかしくない火山を鎮めなければいけないので、いつもよりプレッシャーを感じているはずだ。


 とはいえ、私が噴火しないから大丈夫って言っても何の根拠はないからね。こればかりはどうしようもないのだ。

 みんななら信じてくれそうな気もするけれど、余計な負担はあまりかけたくはない。


「この先しばらく道なりにまっすぐ進むんだけど、少し行ったところにちょっとした広場があるの。そこがモンハウになってると思うんだよね」

「モンハウ――モンスターハウスか。モンスターの数は多いのか?」

「結構多いね」


 今までもモンハウを経験してきたけれど、その中でも多い部類だろう。


「しかもやっかいなことに、そこにいるのは〈煉獄の蝶々〉っていうモンスターなんだよね。手のひらサイズぐらいの蝶々で、空を飛び回る上に小さいから結構戦いづらいと思う」


 私の言葉にケントは「なるほどな」と頷いた。


 空を飛んでいるだけでも厄介なのに、こいつらは飛んでいる状態で炎の輪粉を落としてくる。それが通常時の状態なので、なかなかに厄介なのだ。


「蝶々が羽ばたくと落ちてくる炎の鱗粉は熱いから気をつけて」

「わかった。とりあえず、まずはゆっくり進んで様子を見てみる」

「うん、それがいいね」


 私たちのパーティにも、多少は斥候という概念はある。ケントが前衛を務めつつ、こういった場所では慎重に前を確認し対応してくれることが増えてきているのだ。

 こうすることによって、大量のモンスターと一度に戦うときなどに作戦を立てたり、少しずつ倒したりすることができる。


 先行するケントをゆっくり追いながら、ココアがそれならと口を開いた。


「一気に範囲攻撃を打ち込んじゃった方がいいかな? 私とルルが一緒に使えば、ケントがターゲットを取る前に倒せないかなと思ったんだけど……」

「確かにそれもいいけど、あの蝶々は少し体力が高いんだよね。だから一撃っていうのは難しいかもしれない」

「そっか」


 いい案だと思っていたのに、とココアはがくりと肩を落とす。


「それにあの蝶々は常に燃えてるから、凍らせることも難しいんだよね」


 凍らせてしまえば、そこに〈火炎瓶〉を投げつけることもできる。しかし、〈煉獄の蝶々〉は体が燃えているというモンスターなので、凍らせるだとかそういったことが難しいのだ。


 私の説明を聞き、ココアはうう~んと頭を悩ませる。そして出した結論といえば、実にシンプルなものだった。


「やっぱりケントに頑張ってもらうしかないね」

「ん!」


 その結論にルルイエが頷きながら、「わたしたちは攻撃を頑張るだけ」と言った。確かにその通りなので、ココアも「できるだけ早く蝶々を撃つね」と頷く。


「……ったく」


 ケントは肩をすくめながら、覗いて来た広場のことを報告してくれる。


「まあまあ広い場所だな。敵の数はおよそ三〇ってところか」


 今回のモンハウになる広場は、二〇畳ほどの広さがある。そこに三〇匹の〈煉獄の蝶々〉がいるのだから、圧巻だろう。炎の鱗粉を振りまきながら飛ぶ姿はファンタジックで綺麗だけれど、前衛はどうしてもそれを浴びなければいけない……。大変だ。


「とりあえず、おびき寄せるのは難しそうだな」

「やっぱりケントに頑張ってもらうしかないね」

「二回目ぇ!」


 ココアの言葉にケントが項垂れるも、両手で頬を叩いて「うしっ!」と無理やり気合を入れている。


「行くぞ、〈挑発〉!! ――アチチッ!」


 ケントが広場へ一歩踏み出してスキルを使うと、「早く倒してくれと!!」ココアとルルイエに向かって叫んだ。やはり炎の鱗粉は熱いみたいだ。


 攻撃やダメージはバリアで防げるけど、熱いのばっかりはどうしようもないもんね。私は申し訳ない気持ちになりつつ、持続的に体力が回復する〈星の光〉をケントにかけた。


 ココアとルルイエもケントの負担を減らすべく、範囲攻撃を一気に打ち込んでいる。


「頑張ってくださいですにゃ!」


 タルトの声援にルルイエが頷き、「いいところを見せる!」とさらに攻撃力を上げた。


「〈#深淵より深き闇#ダークブレス#〉!」

「〈#絶対零度の吹雪#ブリザード#〉!!」


 ココアとルルイエの何度かの攻撃で粗方の蝶々は倒すことができたが、何匹か残ってしまったが――それはケントが剣で斬り伏せた。

 どうにかして全部の蝶々を倒すことができてほっと息をつくと同時に、ケントが座り込んだ。


「いや、こいつしんど。熱いし熱いし熱いし……」

「お疲れ様。私たちでドロップアイテムを拾うから水分補給してて」

「サンキュ」


 前衛のケントが休む間に、私たちはドロップアイテムを拾う。落ちたのは〈蝶々の鱗粉〉で、レアなものはなかった。残念。



 少し休憩して、また歩き出した私たちは、ついに隠し通路にある下り階段を見つけることができた。

 ごつごつの大きい岩がいくつかある場所なのだけれど、そのうちの一つの裏側に階段が隠されているのだ。壁際でほかの岩にも挟まれてるため、知っているか、よく調べでもしない限り気づくことができないだろう。


「へえ、ここが目的地か」

「やっと到着ですにゃ!」


 ケントが「どうなってるんだ?」と階段を覗きこもうとする横で、タルトは花を飛ばすように喜んでいる。


 ……イフリートのお世話、本当にお疲れ様……。


「それじゃあ、下りようか!」

「はいですにゃっ!」

「ん!」

「ああ!」

「うん!」


 私の声にみんなが頷き、ケントが警戒しつつ階段を降り始めた。

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― 新着の感想 ―
>ずっとダルトがイフリートをおぶっているので、体力も限界に来ているのではとケントが心配してくれている シャロンはタルトに〈星の光〉は使っていないのでしょうか?(汗。 折角”体力回復スキル”が使えるの…
隠し扉とか罠って普通はスカウト職が見つけるものなんだけどね(笑) この世界の人から見たら、知識チート(カンニング)が過ぎる主人公シャロンである。 2つのゲームが地続き設定な小説で、生産職と悪役令嬢って…
誤記報告かな? >ケントがスキルを使って炎ネズミのターゲットを取る。そこにすかさず〈ダークアロー〉と ターゲット→ヘイト ではないでしょうか?違っていたらスイマセンm(_ _)m
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