10 ダンジョン〈地底火山〉
ダンジョン〈地底火山〉は二階層からなるダンジョンだ。二階層の一番奥にボス〈業火のサラマンダー〉がいる。しかし、今回イフリートを連れて行く場所は、二階層のとある地点にある火口へ降りる秘密の隠し階段だ。
「シャロン、道はわかるのか?」
私はケントの言葉に頷く。
「二階の西側の壁に隠し階段があるから、そこを下ると火口に出るの」
「なるほどな。じゃあ、俺が先頭を歩いていくから、後ろから都度指示をしてくれるか」
「もちろん」
支援をしつつモンスターの状況を把握し、道案内をする。いつも通りだけれど、これが私の役目だ。
「タルトは無理しないで私の横を歩いてね」
「はいですにゃ。イフリート様のお世話はお任せくださいですにゃ!」
「さすが私の弟子、頼りになるね」
今回はタルトがイフリートをおんぶしているので、いつもよりそれぞれの役目が明確になっている。タルトはもちろんイフリートのお世話係。ケントはいつも通り前衛、ココアとルルイエが敵を殲滅する係だ。
このダンジョンはそこまでレベルは高くないので、今の私たちであれば問題なく攻略できるだろう。
……まあ、問題は〈イフリートのオアシス〉同様、熱いということぐらいか。
洞窟のような造りのダンジョンを少し進むと、奥からじわじわとマグマのようなものが流れてきた。薄い水溜まりのような感じだけれど、踏むとものすごく熱いし、ダメージを負う。そのため、魔法で凍らせて進むというのが一般的だ。もちろんそんなことせず、回復しながら進む強者もいるけれど。
「ココア、お願いしていい?」
「はい」
ココアが魔法を使って、一帯を凍らせる。そうすればマグマが固まってその上を歩くことができる。
「こりゃいいな」
怯んでいたケントの足取りも軽くなって先へ進むと、お待ちかね――ではないけれど、モンスターが姿を現した。
炎攻撃をしてくる〈マグマのドブネズミ〉だ。三〇センチメートルほどの大きさで、素走っこい。体力は多くないので倒すこと自体は難しくないだろう。
ルルイエが「あいつは任せて」と言って、〈ダークアロー〉を放つ。簡単に命中し、ネズミは光の粒子となって消えた。
「よしよし、いい感じだな!」
ケントが安堵したように頷き、ドロップアイテムのネズミの尻尾を回収する。これは特に素材にもならないので、冒険者ギルドで買い取ってくれたらいいなというようなものだ。
水を一口飲んで暑さ対策をし、奥へ進んでいく。
内部は洞窟のような作りになっているため、足場が不安定で天井が低い箇所もある。しっかり周囲を把握していなければ、不利な地形でモンスターと戦うことになるだろう。ケントはそれを避けるために目を凝らしながら常にどこで戦うのがいいか考えながら進んでくれているようだ。
次に出てきたのは〈マグマン〉という炎の物体のようなモンスターだ。バスケットボールぐらいの大きさで、炎を纏った体にコウモリのような羽と尻尾が生えている。パタパタとゆっくり空を飛び、上から炎の雨を降らせるという攻撃をしてくる。遠距離攻撃がないと倒すことができないため、地味に厄介な敵だ。
「それじゃあ次は私が」
先ほどはルルイエが倒したので、今度はココアが魔法を使って〈マグマン〉を倒す。高火力でこちらも一撃で倒してしまった。
……うちのパーティーメンバーは頼りになるね。
私は安心してみんなの後をついていけるので、ちょっと手持ち無沙汰なところもあるけれど、油断はせずに進んでいく。
というのも、ここには中ボスいるからだ。ゲーム時代は三〇分に一回現れる敵だったが、おそらくここは誰も攻略していないので野放しになっているだろう。ちょっと厄介なので、こちらが先制攻撃できるように注意はしている。
――なんてことを私が考えてしまったからフラグが立ってしまったのだろうか。前を歩いていたケントが「うわ、なんだあのでかいのは!」と声を荒らげた。
「あちゃあ、こんなに早く遭遇するとは」
「にゃにゃっ!?」
「うわぁ、何あれ……。デカくて、熱い……!」
ココアが思わず一歩後ずさった。相手は〈マグマ王〉といって、〈マグマン〉が進化したようなモンスターだ。全身マグマの塊で、スライムを一〇〇倍大きくしたような、そんな外見といえばわかりやすいだろうか。
ゆっくりこちらに歩いてきているが、〈マグマ王〉の歩いた後は地面が焼け焦げている。あいつに触られてしまったら、こちらもただでは済まないだろう。
「ケント、あいつに攻撃したら剣が溶かされるから気をつけて」
「えっ!? じゃあどうすればいいんだ!?」
剣を使えないとなると、ケントの攻撃手段がなくなってしまう。それに、前衛として足止めをするのも難しくなるだろう。
ゲーム時代であれば気にせずゴリ押しで倒すこともできたが、今は現実。倒す方法としては、逃げ打ちをするのが一番いい。
「ケント、引き返してこっちで先頭を走って! ココアとルルは魔法であいつを攻撃! 逃げながら戦うよ!」
「逃げながら!? や、やってみる」
「それなら、足止めする」
すぐに意図を察したルルイエが、蝙蝠を使って〈マグマ王〉を足止めする。そこにココアが氷魔法で攻撃し、ダメージを与える。
しかしマグマの体は氷をじゅわっと溶かし、わずかに回復してしまった。
「えっ!?」
驚いたココアが、私の顔を見た。
「〈マグマ王〉は厄介なことに、治癒能力が高いんだよ」
「強いのに、治癒まで!?」
こいつは全身がマグマでできているので、このダンジョンの環境下にいると自然回復能力がものすごく上がるのだ。なので、ちまちま攻撃してもすぐに回復されてしまう。そんなちょっと厄介な敵でもある。
「全員で一斉に攻撃するのはどうですにゃ?」
「うん、それがいいかも!」
タルトの提案にすかさずココアが頷いた。
回復されてしまうのではちまちま攻撃していても意味がないし、逃げた先にモンスターが現れたら挟み撃ちにされてしまうと考えたのだろう。
私もその案には賛成だ。
「じゃあ、俺が一瞬気を引くから、その間に攻撃してくれ!」
「私も〈火炎瓶〉を投げるよ!」
「わたしも攻撃しますにゃ!」
全員が攻撃表明をする。
「うん。まずルルが一撃入れて、ココアがあいつを凍らせる。その後、私たちで火炎瓶を投げよう」
「わかった!」
「了解」
「はいですにゃ!」
作戦会議をしながら走り、私はみんなに〈必殺の光〉をかけていく。
しかし、タイミング悪く前からネズミがやってきた。
「ここは私が――」
「いや、俺がやる!」
ココアの言葉を遮って、ケントがネズミを斬りつけた。ネズミはあっけなく光の粒子になって消える。
しかしさらに数匹のネズミが出てきたので、ケントは斬りつけたままその反動で切り返し、〈マグマ王〉の前に跳んで「〈猫だまし〉!!」と叫ぶと同時に一撃切りつけた。さらにルルイエが一撃をお見舞いし、すかさずココアが氷魔法を使って〈マグマ王〉を凍らせる。
「いくよ、タルト」
「〈ポーション投げ〉にゃっ!」
私はスキルで〈火炎瓶〉を投げることはできないが、一気に〈火炎瓶〉を五個投げつけた。スキルだと使うのに多少の時間は必要になるけれど、火炎瓶を投げるだけであればそんなの全く関係ない。なので私は一気に投げつけてやったのだ。それを見たケントもなるほどと言って、持っていた〈火炎瓶〉を七個一気に投げた。
……やっはり〈鞄〉に入れといて安心安全の〈火炎瓶〉だね。
それでも〈マグマ王〉がまだ倒れなかったので、私はすかさずココアに〈必殺の光〉をかける。ココアはすぐさま反応し、さらに追加の一撃を食らわせ、〈マグマ王〉は光の粒子となって消えた。
「よっしゃ!」
「やりましたにゃ〜!」
無事に〈マグマ王〉を倒すことができて、ホッと胸を撫で下ろす。〈マグマ王〉のいた場所に残ったドロップアイテムは、〈マグマ石〉だ。
「……なんか、熱そうな岩をドロップしたな」
「触っても平気なのかな?」
ケントとココアがまじまじと〈マグマ石〉を見ている。
「触ったらかなり熱いけど、持てないほどじゃないと思うよ」
「なるほどな。……って、思ってたより熱い!! 一〇秒持ってるのがいいとこか」
ケントが〈マグマ石〉を手に取るも、すぐに離してしまう。それを見たココアも同じようにチャレンジしてみるが、「これは熱いね」と言ってやはりすぐ手を離した。
「これは何に使うんですにゃ?」
タルトの問いかけに、私はふふっと笑う。
「これは地味にレアなアイテムで、なんと〈火のキノコ〉を栽培できちゃう石です!」
「にゃにゃにゃ〜〜っ!?」
私の言葉にタルトが驚いて、マジマジと石を見た。
「熱い石だから、熱い場所でしか育たない〈火のキノコ〉が育つ不思議な石だよ」
「それなら、タルトが持ってるのがいいな。あそこのダンジョンに行かないで〈火のキノコ〉が取れるのはすげえなぁ」
「そうだね」
ケントの提案にココアも頷き、〈マグマ石〉はタルトが持つことになった。
「〈マグマ王〉も倒したし、二階層目指して進もうか」
「おう!」
私たちは再びダンジョン内を歩きだし、出てくるモンスターを倒しまくり、二階層へ辿り着いた。