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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード6 可愛い弟子の最強計画
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8 VS〈イフリート〉!

 朝食を摂ってから〈イフリート〉戦の作戦会議をし、準備はバッチリだ。私は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、「行こうか」と声に出した。


「おう! 〈イフリート〉はオアシスの対岸にいるんだろ?」

「そう。オアシスをぐるっと回っていく感じ。泉に沿って歩いていけば大丈夫」

「了解」


 私が簡単に説明すると、ケントは緊張した面持ちで頷いた。

 今まで何度もダンジョンを攻略し、ボスを倒しているけれど、やはり初めて戦う相手というのは緊張するものだ。


 これからイフリートと戦うというのに、泉の横を歩いている今の景色はとても平和そのもので、これから死闘を繰り広げるようにはとてもではないが思えない。


 ……ここでボス戦をしたら、もしかしてこのオアシスもめちゃくちゃになっちゃうのかな。


 戦闘が避けて通れないことはわかっているし、ボスなので何度も倒そうと思っているけれど、この美しいオアシスがなくなってしまったりするのは惜しい。

 どうにか回避できたらいいのにと思いつつも、難しいだろうなとも思う。

 というか、〈イフリート〉を倒したら修復されたりしないかな。なんて淡い望みを持ちながら歩いていたら、あっという間に対岸――〈イフリート〉のいる場所についてしまった。


「――あ」


 最初に言葉を発したのは、先頭を歩いていたケントだ。〈イフリート〉らしきものを視界に収め、ピタリと足を止めた。


「もしかして、あれが〈イフリート〉か?」


 私はケントの後ろからこっそり覗くように前を見てみる。そこにいたのは、オアシスのすぐ近くの木に寄りかかって小動物と戯れている〈イフリート〉だ。確かにこれはモンスターとして認識しづらい。ケントの気持ちが痛いほどわかってしまったけれど、倒さなければ話が進まない。


 ……ゲームに美人モンスターがいるなんて、鉄板だもんね。


 〈イフリート〉は、燃えるような真っ赤な髪をツインテールにした20代前半ぐらいの妖艶なお姉様だ。露出度の高いドレスのような民族衣装と小麦色の肌。勝ち気な瞳は炎のような煌めく赤だ。

 そして円環の髪飾りは、戦う時になると〈イフリート〉の武器となる。〈乾坤圏〉という武器を扱い、こちらに物理打撃を与えてくる。それが〈イフリート〉だ。


「ケント、作戦会議でも言ったけど、〈イフリート〉の物理攻撃はかなりえげつないから気を付けて」

「確か、二つの〈乾坤圏〉って鈍器の武器で殴ってくるんだろ?」

「そう。私はバリアを切らさないようにするけど、できるだけ注意はしてね」

「わかった」


 私たちが話をしていたからか、〈イフリート〉がこちらに気づいたようだ。ゆっくり立ち上がって、〈イフリート〉はこちらを見てにっこり笑った。


「〈聖女の加護〉〈守護の光〉〈必殺の光〉――」


 私が支援をかけ始めるのと同時にケントが一歩大きく踏み出し、「〈挑発〉!!」と叫びながら剣を振り上げた。そのまま〈イフリート〉に斬りかかっていくと、それに気づいた〈イフリート〉は両手をバッと広げ、つけていた円環の髪飾りを手に取った。髪飾りは形を変え、大きな円環の輪となった。〈乾坤園〉だ。それを両手で持ち、〈イフリート〉は大きくジャンプする。高く飛び上がったその脚力は凄まじく、ゆうに三メートルは跳んだだろうか。


「すごい身体能力!」


 〈イフリート〉は頭上からケントをめがけて〈乾坤圏〉を振り下ろしてきた。落下のスピードも加えると、かなりの衝撃になるはずだ。


「〈星の光〉!」


 万一の時に備え、ケントに徐々に体力が回復するスキルをかけておく。


「みんな、どんどん攻撃するよ」

「うんっ!」

「わかった」

「はいですにゃ!」


 私の声に全員が頷き、一斉に攻撃を始める。〈イフリート〉は精霊というだけあってとても強い。しかし、攻撃力にほぼ全てが振られていると言っても過言ではないほど〈イフリート〉の攻撃手段は物理攻撃がメインだ。

 後半、体力が削られてくると〈乾坤圏〉に炎をまとわせて戦ってくるけれど、それ以外で魔法を使うことはない。


 ……だから、対応を間違わなければそこまで手こずる相手じゃない……!


 しかし物理特化のその一撃は凄まじく強く、あっという間に騎士職の防御を崩してしまうほどだ。

 ココアが歌い、氷魔法で〈イフリート〉の足を止めようとするが、氷が〈イフリート〉の足に巻き付いた瞬間、じゅわっと音を立てて氷が蒸発した。〈イフリート〉が纏う炎の方が高温で、一瞬で氷を溶かしてしまったようだ。


「――嘘! まさかあんなすごい炎なんて」

「溶けちゃいましたにゃ。信じられないですにゃ……」

「大丈夫!」


 怯んだココアとタルトに喝を入れて、私は〈必殺の光〉をかけて〈イフリート〉の様子を窺う。

 高くジャンプし、空中でくるりと一回転して〈イフリート〉は地面に着地した。その顔は不敵に微笑んでおり、まだまだ余裕であるということが読み取れる。


「くそっ! ココアの魔法も全然効かないとなると、どうすりゃいいんだ!?」


 ケントはぶつぶつ何かを考えるように〈イフリート〉を観察している。まっすぐに見て、時折〈挑発〉を使い、〈イフリート〉の意識が自分から逸れないように気をつけている。

 すると次の瞬間。〈イフリート〉かぐっと地面を蹴り上げ、ケントに向かって距離を詰めてきた。〈乾坤圏〉を使って乱撃を行い、ケントを圧倒してくる。一撃一撃が重く、受け止めるだけでも精一杯そうだ。

 〈イフリート〉と同じくらいの大きさがある〈乾坤圏〉を使って、あれほど早くしなやかに動けるのは、身体能力の高さ故だろう。柔軟性があり、どのような動きにも対応できる。


「タルト。わたしが魔法で動きを止めてみる」

「! わかりましたにゃ」


 ルルイエがぐっと地面を蹴り上げ、空へ高く跳んだ。

 手を前に構えると、ルルイエの手に杖が現れる。そして、目元には黒の目隠しが現れた。最初にルルイエと戦ったとき、彼女がつけていた装備だ。


「――おいで」


 ルルイエが呼ぶと、二羽の蝙蝠が現れた。使い魔だ。蝙蝠に「行きなさい」と指示を出すと、すぐ〈イフリート〉の元へ飛んでいく。そしてルルイエは、そのまま魔法を使う。


「〈ダークミスト〉」


 すると、使い魔の蝙蝠が霧に姿を変え、〈イフリート〉の体を絡め取るように拘束した。


「――今!」

「〈必殺の光〉!」

「にゃっ、〈ポーション投げ〉にゃっ!!」


 タルトより一瞬早く、私がスキルを使う。これでタルトの攻撃力は跳ね上がる。そのまま前衛を務めるケントにも支援をかけ直し、〈イフリート〉の様子を観察する。


 ……今のでダメージが通ってなかったら、なかなかきつい戦いになりそう。


『うあああぁぁ』


 タルトの〈ポーション投げ〉は〈イフリート〉に命中したようで、ダメージを食らっている。叫び声がオアシスに響いた。


 ……よし、このまま行けば問題なく倒せそうだね。


 そして私はチラリと横目でルルイエを見る。


 ……もしかして、あのスタイルがルルイエの本気?


 今までは目隠しをつけた状態で戦うことはなかった。あの装備は、ルルイエにとって何か意味のあるものなのかもしれない。それだけ私たちのパーティのことを考え、本気で戦ってくれたのだろう。


 ……なんていうか、本当の仲間になれたような気がするね。


「ルル、すごい。私も負けてられないね」


 ココアも強力なスキルを使い、〈イフリート〉にダメージを与えていく。

 ルルイエが〈イフリート〉を拘束し、タルトとココアが攻撃するという連携が出来上がった。ケントはどうにかして〈イフリート〉の攻撃を防ぎ、ヘイトを貯めるのが仕事だ。


 私はタイミングを見計らって〈必殺の光〉を使い、全員の支援が切れないように気をつける。


「よし、このままなら行けそうだね」

「ガンガン行きますにゃ!」


 そして、連携してどんどん攻撃していった結果、〈イフリート〉が吠えた。


『アアアアアアアァァァァァ』


 赤いオーラが体から噴き出し、わずかに蒸発しているような煙が出た。〈イフリート〉の体力が減り、本領を発揮したという合図だ。


 〈イフリート〉は炎を纏い始めた〈乾坤圏〉をぐっと握りしめ、先ほどよりも強い力で地面を蹴り、突撃してきた。


 ……というよりも、突進?


 〈イフリート〉の突進は一撃では止まらず、そのまま壁に着地し、その反動を使って蹴りさらに加速する。まるで縦横無尽に部屋の中を飛び回る弾丸だ。


 ……さすがにこれを避けるのは無理。


 食らうのを前提で動き、バリアで防ぐ。なので、〈イフリート〉が動きを止める瞬間を見計らって一斉攻撃をするのが、この攻撃の正しい対処法だ。ゲームの時はなんとも思わなかったけど、生身で相対するとなかなかの恐怖だ。

 バクバク音を鳴らす心臓を無理やり抑えつけて、〈守護の光〉を使うタイミングを見計らう。私の支援が失敗したら、あっけなく全滅の可能性だってあるのだ。

 〈イフリート〉の直撃を受けたケントが吹っ飛ばされたのを見て、私はすぐさま〈癒しの光〉で回復し、〈女神の守護〉を張り直す。


「うわっ」

「〈女神の守護〉!」

「きゃあっ!」

「〈女神の守護〉!」

「にゃうっ!」

「〈女神の守護〉!」

『アアアァァッ!!』


 ……よし、全部防いだ!


「〈イフリート〉が止まったところで、押さえつける」

「はいですにゃ!」

「攻撃は任せて!」


 ルルイエの言葉に、タルトとココアが大きく頷く。その目は、タイミングを間違えてはいけないと、〈イフリート〉から逸らされることはない。


 そのまま〈イフリート〉がオアシス内を突進し、一〇回ほど繰り返し着地し――たところを、闇の沼に引きずり込まれた。ルルイエが出したもののようで、足を囚われた〈イフリート〉は動けなくなっている。


「〈必殺の光〉!!」

「〈空から降る悲しみの雨すら、冬の祝福を得れば刃になり私の味方となる♪〉!」

「〈ポーション投げ〉にゃっ!」


 ココアの魔法は氷の刃が空から降り注ぎ、〈イフリート〉に逃げ場を与えなかった。素早く動けたとしても、避けることができないのだからこちらのものだ。

 二人の攻撃で〈イフリート〉を倒したと思ったら――ポンッと音を立てて小さな女の子が姿を現した。


「「「え?」」」

「にゃにゃっ!?」

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― 新着の感想 ―
>私が支援をかけ始めるのと同時にケントが一歩大きく踏み出し、「〈挑発〉!!」と叫びながら剣を振り上げた 前にも書き込みましたが・・・ケントの剣は、黒竜がドロップした、竜騎士の専用装備〈黒竜の息吹〉で…
>二人の攻撃で〈イフリート〉を倒したと思ったら――ポンッと音を立てて小さな女の子が姿を現した もしかしたら・・・シャロンたちが活動している”世界”は、元々は『リアズ』が”基本”になっていたけれど、シ…
>戦闘が避けて通れないことはわかっているし、ボスなので何度も倒そうと思っているけれど、この美しいオアシスがなくなってしまったりするのは惜しい 〈聖女〉のスキルの、〈虹色の癒し〉や〈治癒〉は”環境”に…
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