3 異変の解決依頼を受けたい!
「いったいどんな異変が起きているんですか? もしかしたら、何か力になれるかもしれません」
内容を聞いてみないことにはわからないけれど、もし強いモンスターがいて立ち入り禁止とか、そういった理由なら私たちで倒すこともできる。なので、まずは情報を得て、この異変を解決しなければいけない。
「……そうですね。では、奥の部屋で説明させていただきます」
「ありがとうございます」
情報公開していない地下通路や地底の話を、他の冒険者たちがいるカウンターで話すわけにもいかない。私たちは頷いて、受付嬢の後についていった。
……それにしても、異変かぁ。
異変、異変、異変。
私はゲーム内で何かイベントやクエストがなかっただろうかと考える。バハル周辺にも地底にも、クエストはいくつかある。
……そのうちのどれかかな?
考えているうちに部屋に通され、アイスハーブティーまで出してくれた。爽やかな香りがとてもよい。
そしていよいよ本題なのだが、受付嬢は申し訳なさそうに眉を下げつつも……キッパリ言い切ってきた。
「異変の件ですが……解決は無理でしょう」
「「「!」」」
「そんな、挑戦する前から決めつけなくても……!」
ケントがソファから身を乗り出しつつ抗議するも、受付嬢は首を振る。「人間にどうにかできる問題ではないんです」と、絶望感すら漂っている。それを見たケントは、どうやら本当に難しいようだと理解したらしい。ソファに座り直して、頭をかいた。
「ダンジョンに入ることも難しいんですか……?」
「入ることはできますが、常に危険なんです」
「常に危険は、大変ですにゃ……」
ケントとタルトがしょんぼりしているけれど、人間にどうにもできなくて常に危険という言葉で、私はその異変にピンときた。
おそらくこれは不定期で開催されていたイベントで、〈地底火山〉の噴火を止めるというものだ。噴火しそうとなれば、立ち入り禁止になるのも頷ける。
噴火を止める方法はいたってシンプルで、ダンジョン〈イフリートのオアシス〉からNPCのイフリートを連れてきて鎮めてもらうだけ。ただ、どちらのダンジョンも攻略難易度は高めなので、かなり大変なイベントだ。
つまり私たちが〈地底火山〉を攻略するには、まず〈イフリートのオアシス〉のボス〈イフリート〉を倒し、連れ出せるようになったNPCのイフリートと〈地底火山〉に行き、火山の噴火を鎮めてもらう……という流れだ。そうすることによって、このイベントはクリアすることができる。
……大変だけど、冒険だと思えばそれもまた楽しいよね。
私がそんなことを考えていると、ケントたちが「ええええっ!?」と大声をあげた。噴火という単語が聞こえてきたので、受付嬢が異変の内容を説明をしたのだろう。
「確かに火山の噴火じゃ俺たち人間にはどうしようもできないな……」
「こればっかりは、レベルが高くても意味がないもんね……」
ケントとココアが項垂れて、どうする? という顔で私の方を見てきた。どうやら判断は私に委ねてくれるようだ。
このイベントは定期的に開かれているものなので、もしかしたらギルド側も解決方法自体は知っているかもしれない。ただ、それができるかと言われたら話は別だ。この世界の冒険者たちのレベルは低い。それを考えると、イフリートを倒して連れてくるなんて芸当ができる人間はいない。レベルが上がった今ならば別だが、私と出会う前であれば勇者のフレイにだって出来はしなかっただろう。
私はコホンと一つ咳払いをして、受付嬢を見た。
「地底火山の鎮火を、私たちに依頼してもらうことはできますか?」
「え? いやいやいやいやいや。聞いてましたか? 火山の噴火を止めるなんて、人間にできることではありません。それともあなたは炎の精霊だとでも言うのですか?」
受付嬢が正気の沙汰ではないという顔で私のことを見ている。ケントもさすがにそれは無理ではという顔だ。
「まあ、確かに火山の噴火を人間が止めるのは無理です。だから火山を鎮めるのは、私じゃなくてイフリートです」
私がそう言った瞬間、受付嬢は息を呑んだ。
「……確かにイフリート様はこの国の守り神ですし、炎の精霊ですから火山の噴火も鎮めることができるとは思いますが……連れてくるなんてどうやってですか?」
「もちろん、ダンジョン〈イフリートのオアシス〉からです!」
「まさか! あそこを攻略するなんて不可能です!!」
受付嬢は驚愕を通り越して、顔が険しくなっている。しかしケントたちは、なるほどそんな方法があるのか! という顔で私の方を見ている。
そんなケントたちの様子を見たからか、受付嬢は改めて私たちのことを見た。そして、手元に持っていた資料に目を通し目を見開いた。
「えっ!? シャロンさんはせ、せ、せ、〈聖女〉!? 待ってください、そんなすごい職業が存在するなんて……っ!!」
どうやらあまりよく私たちの情報を見ていなかったようだ。多分、ケントの〈竜騎士〉あたりにすごいと思って話をしてくれていた感もある。
「〈竜騎士〉のパーティだと思っていましたが、〈歌魔法師〉まで……!? あ、でもルルさんは〈ノービス〉なんですね……? タルトさんは〈錬金術師〉ですけど高レベル。なんなんですか、あなたたちのパーティーは……!!」
私たちの情報を改めて確認した受付嬢は、軽いパニックに陥っている。
……まあ、この世界の平均レベルから考えたら私たちは世界トップクラスだもんね。
驚くのも無理はないだろう。私あははと笑って、「任せていただけますか?」と改めて受付嬢に聞いてみる。
「……さすがに、私の一存では無理です。ギルドマスターを呼んでくるので、少し待っていてください」
「わかりました」
このまま依頼を受けられたら一番よかったのだけれど、仕方がない。私は受付嬢がギルドマスターを呼ぶために部屋を出るのを見送った。
「お師匠さま、本当にイフリートを連れてくることができるんですにゃ? わたし、御伽噺の存在だと思っていましたにゃ」
タルトが興味津々という顔で、話しかけてきた。
「確かにイフリートが題材になってる本は多いよね。想像の話も多いし……。でも、私たちはイフリートの存在を信じられるくらいの冒険をしてきたと思わない? ルルイエだって、今はルルとして活動してるけど――闇の女神だよ」
「そうでしたにゃ!」
私たちは冒険で、ドラゴン、天使、女神……色々な相手と出会い、そして闘ってきた。それを考えると、炎の精霊イフリートの存在くらいなんのこともないだろう。女神がいるのだから、精霊くらいそこら辺に……とまでは言わないけれど、いるはずだ。
「いつも思うけど、本当にシャロンの知識はすごいよな……。普通、イフリートに火山を鎮めてもらおうなんて思わないぞ?」
「恐れ多くもあるもんね……」
「ですにゃ」
ケントとココアの言葉に、タルトがうんうんと頷いている。お茶を飲んでいるルルイエは、特に気にしていないようだ。むしろ、〈鞄〉からお菓子を取り出して食べ始めている。自由だ。
「しかし、〈イフリートのオアシス〉か……。もう素材採取ダンジョンって認識だったけど、やっぱりダンジョンてだけあってすごいところだよな」
「素材も採れて、イフリートもいて……もうすごすぎて、わからないよね」
「でも、あのダンジョンのさらに奥に行けるってのは楽しみだな!」
素材採取も楽しいけれど、やっぱりダンジョンを攻略するのが、ケントにとっては特別楽しいみたいだ。
「よし、気合い入れてがんばろっ!」
「おう!」
私の声にケントが返事をしたのと同時くらいに、部屋にノックの音が響いてきた。どうやら、受付嬢がギルドマスターを連れて戻ってきたみたいだ。