2 熱帯の都バハル
「私が強くなるための装備ですにゃ?」
「うん。〈錬金術師〉はね、耐性装備をつけて属性ダメージを受けないようにして前に出るの。ダメージ量を減らして、ポーション投げをして敵を倒す。それが結構一般的な〈錬金術師〉のソロの戦い方なんだよ」
前衛はケントがいるのでタルトが無理に前へ出る必要はないけれど、もし前衛もこなすことができればパーティは安定するし、狩りもしやすくなる。
ここは、タルトの装備を調えてから改めて相談するのがいいだろう。やっぱり、モンスターを抱え込んで戦うというのは頭では理解できない怖さがあると思うのだ。
「今のタルトの装備も悪いものじゃないけど、もっといいものを見つけに行こうと思うの。……どうかな?」
私はタルトと、一緒にいるルルイエ、ケント、ココアの顔を見て提案した。
目を付けている装備は、ダンジョン〈地底火山〉にある。そこのボスを倒すと一定確率でドロップするものなのだけれど、これがまあなかなか大変ではある。
……なんといっても地底火山は暑いし暑いし熱いのだ。
ゲームの時は気にはならなかったけれど、現実世界になった今現在、火山に行ったら燃えてしまうのでは……なんて思ってしまう。けれど、私のそんな懸念を吹き飛ばすように、ケントが「行こうぜ!」とすぐさま返してきた。ココアとルルイエも大きく頷いて「賛成!」と言ってくれている。
みんなの言葉を聞いて、タルトはぱっと顔を輝かせた。大きな瞳がキラキラしていて、新しい装備にものすごく期待していることがわかる。
「お願いしますにゃ!」
「うん! じゃあ、装備を調えてみんなで行こうか」
「「「おー!!」」」
こうして私たちのパーティの次の目的地は、ダンジョン〈地底火山〉に決定した。
***
ということで、私たちは〈ローラルダイト共和国〉の首都〈熱帯の都バハル〉へやってきた。
バハルの人たちは、白を基調とした布の多い民族衣装を身につけている。女性はヒラヒラした薄布を何枚も重ね、その上に飾りのついたチェーンの装飾品をつけている。煌びやかな砂漠の街は、滞在するのも楽しそうだ。
ここは街の外壁の内側にオアシスの水が流れていて、砂漠の中ではあるけれど、いつでもたくさんの水がある。
ただ――昼間は暑く、夜は寒い。そんな気温差のせいもあって、この都は実は秘密裏に地下通路が作られている。その地下通路を通って行くことができるのがダンジョン〈地底火山〉だ。高ランクの冒険者と国の上層部の一部しか知らない隠されたダンジョンでもある。
ダンジョンの上は普通に砂漠の道になっていて、そこを越えると海底トンネルで隣の国へ渡ることができる。
私を含め、バハルに来たのは初めてだ。全員がキョロキョロ周囲を見回して、楽しそうに目を輝かせている。
「しかしすごいな。桃源郷もそうだったけど、この街も華やかだな。まあ、暑いってのもあるのかもしれないけど。いや、でも、この暑さの中であの衣装は結構きつくないか?」
ケントの言葉に、私は「そうだね」と笑う。
この熱帯の都バハルは、街の人たちが砂漠の民の民族衣装を着ていて、まるで踊り子のようなのだ。その姿はとても魅力的で、健全な男子には刺激が強いのかもしれない。
移動する際は厚手の外套で日差しを遮るけれど、街中でゆったり過ごすときは肌を露出してることが多い。
それができるのは、この太陽光を考えて作られたクリームが売られているからだ。いわゆる日焼け止めみたいなものだけれど、ここはゲーム世界なので、その日焼け止めに回復効果もついている。肌が焼けて軽いやけどになってもへっちゃらなのだ。
……ぜひ現実世界でもほしかった代物だ。
「お師匠さま、せっかくだからわたしたちも民族衣装を買いますにゃ?」
「いい案かもだけど……うーん。結構恥ずかしくないかな……?」
かなり露出のある服装はなんとなく抵抗がある。いや、ゲームの登場人物シャーロットに転生したことにより、プロポーションはかなり自信が――自信しかないけれど。お腹の出てる衣装を着てもなんら不自然ではないけれど、なんとなく私の羞恥心の方が勝ってしまうのだ。
もちろんタルト、ルルイエ、ココアが着たらとっても可愛いとは思うので、それは大歓迎だし、なんならいくらでもお金を出したいと思う。
うーんと私が難しい顔で悩んでると、ココアが「恥ずかしいですよね」と笑いながらフォローしてくれた。優しい。
「でもでも、ココアは着てみたいんじゃない? ……ケントに見せたいんじゃない?」
最後の方は小声で耳打ちしてみると、ココアは一瞬で顔を真っ赤にした。「そ、そんなことは……」とゴニョゴニョ言っているけれど、はっきり嫌だとは口にしないので興味はあるみたいだ。
……これは、あとで私がプレゼントしなければ!
そんなことを考えていたら、ケントが「とりあえず宿を取ろうぜ!」と私たちを見た。
「そうだね。いい宿が埋まっちゃったら大変だ!」
「ご飯の美味しい宿がいいですにゃ」
「一番大事なやつ……!」
タルトのリクエストに、すぐさま食いしん坊のルルイエが乗っかってくる。鼻をふんふんさせて、「あっちの宿からいい匂いがするかも……」なんて言っている。ルルイエに任せておけば、いい宿を見つけてくれるかもしれない。
「宿を取り終わったら、ダンジョンの情報収集をしようか」
「はいですにゃ!」
私の言葉に、待ってましたとばかりにタルトが頷いてくれた。
宿を取ったあと、ダンジョン〈地底火山〉の説明をみんなにしてから冒険者ギルドへやってきた。
地底にはこの街の地下から行くため、地下に入るための通行許可が必要なのだ。それを得るには、この街の偉い人か、ギルドの許可のうちどちらかが必要になってくる。私が選んだのは、ギルドから許可を得る方だ。
「むむ……?」
なのだけれど、何やら様子がおかしい。
バハルの冒険者ギルドは、とても大きい。街の周囲の砂漠のモンスターを倒すことはもちろんのこと、砂漠で迷った一般人の保護などにも報奨金を支払っているからだ。
ギルド内の作りは他のギルドとそう違いはない。
掲示板には依頼が貼ってあり、自分に合ったランクのものを受けることができる。そのほか、いくつもカウンターがあり、依頼受付や報告、依頼を出したい際の相談カウンターなどがある。
二階には食堂と資料室と打ち合わせで使える個室があり、誰でも使えるようになっているようだ。三階は職員が使っている事務室やギルドマスターの部屋だろう。
私たちの対応をしてくれている受付嬢は、とても申し訳なさそうな顔で説明をしてくれている。
「皆さんが高レベルの冒険者だということはわかるのですが、現在〈地底火山〉は立入禁止区域になっているんです」
「どういうことだ? ダンジョンだろ?」
基本的に、ダンジョンの立ち入りが制限されることはない。危険なので許可制というのであればまだわかるが、何もなく禁止というのはどうにも納得ができない。
……でも、ゲームで地下通路の許可を取る時は特に何もなかったけど……。
「もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
「え、えっと……。本当はあまり外部の方に言ってはいけないのですが、皆さんは地下通路の存在をすでに知っていらっしゃいますもんね……。あまり大きい声では言えないのですが、異変が起きているんです」
「「「――!!」」」