1 パーティ強化大作戦!
『リアズライフオンライン』――通称『リアズ』。
私はなぜか……いや、おそらく現実世界で死んだのだろう。そして死んだ結果、大好きなこのゲーム世界に転生した。
――ただし、スピンオフゲームに登場した悪役令嬢として。
しかし、今の私は悪役令嬢から解放された。
私は元婚約者イグナシア殿下から婚約破棄をされ国外追放されたが、その一件も全て解決した。私は、国外追放という罪は下されなかったことになったのだ。むしろ、イグナシア殿下が罰せられた。
ついでに、悪役令嬢の役目も終わった――そう思っている今、私は大好きなこのリアズの世界で自由に駆け回って、冒険して、色々な景色を見て回りたいと思っている。まだ見ぬこの世界の果てまで行ってみたいと、そう思って毎日楽しく過ごしているのだ。
私たちは今、〈ローラルダイト共和国〉にある〈オアシスの村フュール〉に滞在している。ここは砂漠の中にある小さなオアシスを中心に作られた、のどかで穏やかな村だ。観光がてら数日滞在したら、来た道を少し戻って北にあるこの国の首都〈熱帯の都バハル〉へ行こうと思っている。
そんな私たちのパーティは、私をはじめ、〈錬金術師〉でケットシーのタルト、〈竜騎士〉のケント、〈歌魔法師〉のココア、なぜか意思をもち行動できる闇の女神ルルイエというメンバーだ。
今日は、朝からタルト、ココア、ルルイエの三人が買い出しを担当してくれている。なので、宿に残っているのは私とケントの二人だけだ。
私はケントと一緒に冒険者ギルドへ行く予定なのだけれど――なんとも言えない顔をしている。
「どうしたの、ケント?」
「いや、なんていうか……」
歯切れの悪いケントの言葉に、私は首をかしげて言葉を続ける。
「悩み事なら聞くけど、言いづらいこと?」
「いや、そうじゃなくて。なんていうか。俺のことじゃないんだ」
どうやら、ケント自身のことではないらしい。ケントが悩むというと、想い人のココアのことだろうかというのが頭をよぎるけれど、見る感じ二人は上手くいっていそうだ。報告こそされてないけれど、付き合っていると言われても別に驚いたりはしない。それほどまで二人は仲がいいし、職業の相性もぴったりだ。
私がそんなことを考えていると、ケントは「タルトのことなんだ」と口にした。
「タルト?」
思いがけない名前に、私は思わずきょとんとしてしまった。タルトは私の弟子で、親御さんにも挨拶をしてお預かりしている。まだ色々と学んでいくことが多い、七歳の女の子だ。
……タルトに何かあったの!? 私が気づいてないだけ!?
「えっ、えっ!? タルトがどうかしたの?」
「大したことじゃない、わけでもないかもしれないんだけど……」
どうやらタルトが何か思い悩んでいるらしい。私がじっと真剣な瞳でケントを見ると、悩みながらも話を続けてくれた。
「タルトは〈錬金術師〉だ。だけど〈錬金術師〉は特殊職業だから、俺たちみたいな覚醒職になることができないだろう? タルトがもっと強くなるためにはどうしたらいいんだろうと思って……。この先はもっとレベルが上がるし、戦闘に特化したスキルを持つ俺たちの方が、狩りでは有利だ。だけど、タルトが戦闘に特化したスキルを使うのは〈ポーション投げ〉だけだろ? もっと、なんだろうな。タルトが強くなるために協力できることとか、そういうのがないかなって思ったんだ」
「ケント……」
思いがけない気遣いの言葉に、私は胸が熱くなる。ケントはタルトのことをとても考えてくれていたようだ。
……これぞまさに仲間! って感じ!!
確かに〈錬金術師〉はメインスキルが〈製薬〉だ。ポーションを作ったり、強化アイテムを作ったりするのがほとんどの仕事だけれど、戦闘スキルが皆無なわけではない。
タルトが使っている〈ポーション投げ〉は火力があって正直とても強い。しかしその反面、お金がかかる。他に言うとすれば、戦闘の幅があまり広くないということだろうか。もしかしたら、それで足を引っ張っている……と、気にしているところはあるかもしれない。
……もっと、タルトが遠慮なく〈ポーション投げ〉できるくらい〈火炎瓶〉を量産できたらいいんだけどね。
できる限り〈火炎瓶〉を作っているけれど、いかんせんゲーム時代と違って材料が手に入りづらいのだ。プレイヤーがいないこの世界では、ほとんどが一次職の冒険者から素材を売ってもらうことになる。集まらないわけではないが、無限に集まるわけではないのだ。
……でも、かと言って他の職業を取り直すっていうのも微妙だと思うんだよね。
この世界で転職はできないとされているが、ゲームをプレイしていた私は転職方法を知っている。もしタルトが望めば、他の戦闘職や特殊職業に転職する方法を教えてあげることができるだろう。
しかし、タルトはそれを望んでいないと思う。タルトは〈錬金術師〉に誇りを持っているし、おばあちゃんと同じ職業だということが嬉しいと話していた。
もしタルトの可能性をもっともっと上に引き上げるのならば、私の〈聖女〉やフレイの〈勇者〉のような、この世界でたった一人だけがなれるユニーク職業になるしかない。
〈錬金術師〉系統のユニーク職業もあるので、それは不可能ではないのだけれど、残念ながら私はその転職方法を知らない。ユニーク職業はゲーム内でただ一人のプレイヤーしかなることができない。転職した人がその情報を公開しなければ、他の人は知るすべがないからだ。使用スキルもそう。〈錬金術師〉の系統のユニーク職業はそういったものが一切公開されていなかった。希少なポーションを作ることができるので、仲間内で独占したいという思惑もあったのかもしれない。
だけど、タルトがユニーク職業になれば、確かに強くなることができるだろう。
現状、〈錬金術師〉をこれ以上強くするのは難しいけど、新しいポーションの材料を調達して戦力強化をすることはできる。もちろん装備もね。
そうやって強くなりながら、もしタルトが望めそうな〈錬金術師〉系統のユニーク職業があれば、転職にチャレンジするのがいいかもしれない。
この広い世界を回っていたら、もしかしたらそんな機会に恵まれることもあるかもしれない。
――私が聖女になることができたように。
「ありがとう、ケント。タルトのこと気遣ってくれて。本当なら私がもっと早く気付けたらよかったんだけど……」
「いや、俺だって偶然だよ」
「そうかな。ケントは周囲をよく見ているし、色々なことを考えてくれてるもん」
私がそう言ってケントを褒めるよ、「やめろよ!」と耳を赤くして照れている。本当のことなのに。
ケントは、前衛としてもそうだし、パーティーとしてどうすればいいのかということも常に頭に置いて行動してくれている。そんなケントだからこそ、きっとタルトが悩んでいることも気づけたんだと思う。
……本当は私が気づけたら一番良かったんだけど、なかなか難しいね。
ううぅ、師匠としてのプライドが。
……私はどうしてもこの世界がゲームだということが先に来てしまう。
それを言い訳にするつもりはないけれど、どうしてもこの世界の記憶だけを持ち生きているタルトやケントたちに比べるとはしゃいでしまうし、猪突猛進なところもあると思う。冷静に行動したいとも思ってはいるんだけどね、これがなかなか難しいのだ。
「夜になってみんな合流したら、パーティパワーアップのための作戦会議をしようか」
「いいな、それ」
私の提案に、「またレベルを上げか?」とケントは腕をぐるぐる回してやる気を出している。しかし今回はそうではない。いや、レベルも上がるから一概にそうでもないとも言えないけれど。
「問題! レベルが上がったら次にすることはなんだと思う?」
「えっ!?」
私がそんな質問をケントに投げかけると、驚きながらもすぐに考える姿勢に入った。口元に手を当てて、情報整理するようにブツブツ呟きながら答えを出そうとしている。
「レベルを上げたら……知識を増やす? モンスターの生態を知ることも強くなる一歩だよな。それか基礎知識を上げる? でも、これはある程度レベルに依存するよな。でも、繰り返し体に覚えさせれば反射速度は上がるはず。それから、チームワーク? モンスターが強くなるほど、一人で倒すのは難しくなってくる……」
だけど、私たちのパーティは連携もある程度取れている。それはケントもわかっているからか、「そうじゃない気がする」と言っている。
「あとは単純に……装備とか?」
閃いた! と言わんばかりにケントが顔を上げたので、私は「ピンポン!」と笑う。
「そう! タルトのために装備を手に入れようと思うんだけど、どうかな?」
私がニッと笑ってそう告げると、ケントもニヤリと笑顔を返してきた。
「それ、最高!」
区切りもよかったので完結としましたが、なんともう少し続けられそうです…!
書籍を購入して応援してくださった方、ありがとうございます〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
また書けるのが嬉しいです。
ちなみに書籍版では加筆修正のほかに、書き下ろしエピソードなどもあります。
イグナシア殿下との決着(なのかな……?)は、5巻のエピローグで書かせていただいていたりします。
なんと挿絵もついているので、気になる方はぜひチェックしてみてくださいね!
ということで、WEB・書籍ともに、引き続き楽しんでいただけますように。
今回のお話完結までは、毎週水曜の19時更新していきます。