31 新しい冒険はまだまだこれからだ!
「大変申し訳ない、シャロン!!」
「申し訳ございませんでした!!」
王城でタルトと合流した私は、負傷者を回復してルーディットと一緒に屋敷へ戻ってきた。するとそこで待ち受けていたのは、DOGEZA状態のフレイのパーティメンバーだ。つまり、フレイ、ルーナ、リーナ、ミオだ。
……ということは、イグナシア殿下に〈大混乱〉を渡したのはミオだったっていうことだね。
「えーっと、とりあえず事情を説明してもらってもいいかな?」
「はい……」
応接室に行き、さっそく話を聞いてみた。
「以前、王城で〈巫女〉としての仕事をしたと言ったでしょう? そのとき懺悔を聞いた方が、その、イグナシア殿下だったようで……」
「なるほど」
ただ、イグナシア殿下は名乗りはしなかったようで、ミオは相手が誰か知らないまま懺悔を聞いてあげていたのだという。普段から身分を明かさずに懺悔をする人は多いため、名乗らなかったことも気にはならなかったようだ。
「その方はとても悩んでいて、勇気を出したいと言っていました。そして倒さなければいけない悪い奴らがいるのだと」
「悪い奴ら、ねぇ……。その悪い奴らが〈エレンツィ神聖国〉だったということね」
私がそう告げると、ミオは力なく頷いた。
「そして、モンスターを操る術があるという話を聞き……私は〈大混乱〉を渡したのです。本当にごめんなさい……」
「……〈大混乱〉がどういうアイテムかは、ミオも知ってたはずだよね? それを、素性も知らない人に渡してもいいと思ったの?」
さすがにそれは大問題ではないだろうか? 警戒心がなさすぎるとか、そういうレベルの話ではないと思うのだけれど……。
「素性とはいいますけど、王城に仕えている方です。国のために悪を成敗したかったのでしょう? その心を疑うなんて、できません……っ」
「いい子ちゃんか!」
私は大きくため息を吐いて、「わかった」と頷いた。
「もう終わったことは仕方がないし、理由がわかったから私はそれでいいよ。だけどね、ミオ。どこにいる相手だとしても、それは信用には値しないということを覚えておいてほしい。王城内なんて野心を持った大人が大勢いるし、全然安全なところじゃないんだよ」
むしろ、王城内にいる人間の方が厄介まである。
ミオは私の言葉に肩を落とし、小さく頷いた。
「フレイをはじめ、ルーナ、リーナにもその危険性を教えられました。私が愚かだったばかりに、ごめんなさい……」
「……まあ、私はミオを裁く立場ではないからね。そういうのは、フレイに任せるよ。フレイのパーティ内で片づけてくれたらいいかな」
私がそう言って、フレイ、ルーナ、リーナを見るとしっかり頷いてくれた。
今回の件に関しては、ミオが直接〈大混乱〉を使ったわけではないので、ミオに罰が下るようなことはないだろう。むしろ、騙されてアイテムをあげてしまった可哀相な子か。
ただ、もしイグナシア殿下になんの瑕疵もなく同じようになっていた場合、ある程度の罰がミオに下っていただろうとも思う。あくまで今回何もないと予想できるのは、イグナシア殿下がすでに王位継承権を取り上げられていたからだろう。
なので、あとはフレイたちのパーティで話し合うだろう。
……そもそもアイテムを勝手にあげてしまっているので、そこら辺をどう判断するかだ。〈大混乱〉は使い道が難しいアイテムではあるけれど、一応この世界では貴重なアイテムなのでね。
静かに話を聞いていたルーディットがゆっくり口を開いた。
「事情はわかった。冒険者がダンジョンで手に入れたアイテムだから、誰かに譲渡したことについては罪に問われたりはしない。もちろん、街中で使ったのがミオであれば罰せられるがな。今回は、任意ではあるが……騎士団で事情聴取を受けてほしい。構わないか?」
「……はい。嘘偽りなくお話させていただきます」
「助かる。……イグナシア殿下に関しては、どういった判決が出るかは……かなり先になるだろうな。モンスター召喚なんて、事例がない」
ルーディットは、「は~~、これからが面倒だな」と頭をかいた。
***
「号外、号外だ~!」
ブルームの街中に、大きな声が響き渡る。そこらかしこで配布されている号外に載っているのは、〈エレンツィ神聖国〉と〈ファーブルム王国〉が手を取り合い和平を結んだという記事だ。
私は号外を一部受け取り、目を通す。
「ティーのことが書いてあるんですにゃ?」
「うん。めちゃくちゃ立派な〈教皇〉だよねぇ」
タルトの言葉に頷きながら、私は続きを読んでいく。
「手を取り合った両国は今後、〈ヒーラー〉と〈騎士〉の交換留学を行う予定。さらに〈癒し手〉になりたい子供は大聖堂で積極的に受け入れ、修行の場を提供する……だって。エレンツィの〈聖堂騎士〉がファーブルムに鍛錬しに来ることもできるって」
「すごいですにゃ! 今まであまりいい関係じゃなかったのに、いきなり交換留学なんて。ティーはとっても頑張ったんだと思いますにゃ!」
ティティアのすごさを自分のように喜ぶタルトに、私も笑顔で頷く。ティティアは心から平和を望むとっても優しい教皇なので、今回のことが上手くいってよかった。
私が感慨深く思っていると、ローブの裾をくいくいと引っ張られた。ルルイエだ。
「シャロン、ちょっとあれ買ってくる」
「ん? ああ、肉串の露店ね、了解。ついでに私のもお願い! 向こうの屋台で飲み物を買っておくから」
「わたしの分もお願いしますにゃ!」
「ん、わかった」
私とタルトも肉串をお願いし、約束通り飲み物――フルーツソーダの売っている露店へと向かう。
「そういえば、わたしたちはこれからどうしますにゃ? まだブルームに滞在しますにゃ?」
「ティーたちの和平も無事に終わったから、そろそろ次に行ってみたいね。タルトは行ってみたいところはある?」
「わたしは〈製薬〉の素材がたくさんほしいですにゃ。以前、お師匠さまが言っていた〈ローラルダイト共和国〉はいっぱいあるって聞いたので、いってみたいですにゃ」
タルトの具体的な提案に、私は「いいね!」と頷く。
〈ローラルダイト共和国〉は、ここから東に位置する隣国だ。方向としては、ツィレと反対になる。灼熱の砂漠の国で、火属性の素材が多く採れる。
「街もいくつかあるから、全部ゲートに登録しなきゃだね。あ、タルトも〈ケットシーの村キャトラ〉のゲートを登録しに行かなきゃね。やっぱり、いつでも家に帰れるのは安心だもん」
「はいですにゃ」
タルトはこくこく頷くと、「行きたいところが多くて困りますにゃ~」と、まったく困っていなさそうな笑顔で告げる。
「とりあえず、お肉とソーダで次の行き先を決めよっか! ……ケントとココアには事後報告になっちゃうけど」
「あの二人はきっと、どこでも行ってみたいって言いますにゃ」
「それもそうだね」
私はソーダを購入し、タルトと笑いながらルルイエと合流して、今後のことを楽しく話すのだった――。
これにて完結です~!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
まだまだ書きたいエピソードもいっぱいあったのですが、一区切りできてよかったです。
ぜひぜひ書籍版、応援よろしくお願いいたします……!!
(奇跡よ起これ~~!)
引き続き、コミカライズを楽しんでいただけますと嬉しいです~!
新刊やらのお知らせはTwitter(X)ですることがほとんどなので、よければそちらをチェックしていただけると嬉しいです……!
長い連載期間、本当にお付き合いありがとうございました~~!!!