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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード5 悪役令嬢はもう終わりです!
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28 決着!

 タルトの声に振り向くと、そこはフローディアが立っていた場所だ。フローディアが光の粒子になって消える――そう思った瞬間、その粒子が一本の杖に姿を変えた。

 神秘的な杖は、幾重にも重なった布の装飾がなされていた。キラキラ輝く白い宝石、持ち手の部分はクリスタルでできているらしくオーロラ色に光っている。


 どうやらドロップアイテム判定ではなく、倒した際にもらえる報酬のようだ。


「光って、すごい杖ですにゃ……」


 タルトがうっとりした様子で杖を見て、ほかのみんなも同意して頷く。


「女神フローディアの、杖……」


 私がゆっくり近づき、その杖を手に取ろうとしたら――「待ってください!」と声がかかった。見ると、すぐ横に天使がいた。


「この杖を手にすれば、わたしが女神になれるかもしれません……!」


 ……そういえば、自分が女神になりたいって言ってたね。

 期待に満ちた瞳の天使に、私は駄目だという気にはなれなかった。そもそも、このピンチを乗り越えられたのは天使のおかげでもある。


 ……でも、あの杖は見たことがないからほしい……。

 私がそんなことを考えてるなんてきっと気にしていないのだろう。天使は「わたしに相応しい杖ですね」と言いながら手を伸ばした――が、触れることができなかった。


「な……っ!? どういうことですか!」


 天使が杖を何度も掴もうと試みるが、なぜかすり抜けてしまうのだ。杖がそこにあるのはわかるのに、まるでホログラムみたいに……。


「ふむ……。お前じゃその杖を扱うことができないみたいだな」

「~~~~っ! いいです。わたしには、フローディア様の杖ではなく、もっと相応しい杖があるから触れないのです」


 ド直球なルーディットの言葉に、天使は顔を赤くしてぷいっと背けてしまった。

 ルーディットが「どういう仕組みなんだろうな?」と言いつつ杖に手を伸ばしているが、天使と同じで掴むことはできなかった。


「俺も掴めないな。シャルじゃないと駄目なんじゃないか?」

「ここは〈聖女〉のためのダンジョンですから、お師匠さまのための杖だと思いますにゃ」


 ルーディットとタルトの言葉に、みんなの視線が私にそそがれる。


「……じゃ、じゃあ……」


 私はゆっくり杖に手を伸ばして、触れてみる。天使のときのように触れられないということはなくて、しっかりした感触があった。


「これは……」


 杖を持ってみると、まるで羽根のように軽い。持ち手の部分はにぶい金色で、歴史を感じられる。クリスタルと宝石が埋め込まれ、翼とレースのリボンで装飾された神秘的な杖だ。



 〈任命の杖〉

 〈聖女の守護者〉を任命できる。

 〈聖女〉と同パーティ内にいる場合は、全ステータスが1.5倍になる。パーティにいない場合は、全ステータスが半減する。



 杖の説明を見て、私はなるほどと納得する。〈教皇〉にとっての〈聖騎士〉のようなものを任命できるということだ。ただ、得られるものがあまりにも大きいため、その制約も厳しいのだろう。


 ……たぶん任命すると、職業(ジョブ)が〈聖女の守護者〉になっちゃうんだよね。


 そう考えると、ほいほい任命するわけにもいかない。私と離れることになった際、また転職しなければいけなくなるし、転職したらレベルは1に戻ってしまう。

 ゲーム時代なら検証も楽だけど、現実だとなかなか難しい。


「これはまた、すごい杖だな。シャロンは今後これを使うのか?」

「ううん。これは任命するためだけの杖だから、戦闘で使うのには向いてないみたい」


 フレイの質問に首を振って、私はこの杖の使用方法をみんなに説明した。


「……そんな杖が存在するのか。だが、パーティから抜ける可能性を考えると、使いどころが難しいな」

「そうだね。どんなスキルを使えるようになるかもわからないし、使うことはないかもしれないね」


 せっかく手に入れた杖なので残念だけど、倉庫の肥やしにしておこう。私がそう思っていたら、「ええっ」という声があがった。天使だ。


「せっかく〈任命の杖〉を手に入れたのに、使わないなんて……。〈聖女〉シャロンを守護する人は、いた方がいいと思いますよ」

「私は一人で……っていうか、普通に仲間がいればそれでいいよ?」


 ……天使ちゃんが勧めてくると、逆に物騒な杖だなと思ってしまうなど……。

 そうこう考えていると、周囲が淡い光に包まれ始めた。ボスを倒したので、IDが消滅しようとしているみたいだ。


「な、なんだ!?」

「揺れてるぞ!」


 ケントが慌てて、ルーディットも異変を告げる。慌てるみんなに、私は「落ちついて」と声をかける。きちんと出る方法は用意されているのだ。


「大丈夫、扉が出現してそこから外に出られるようになってるはずだから」


 私がそう言うと、みんなが一斉に周囲を見回し始めた。すると、この広場の入口部分に天使のレリーフで装飾された扉が出現した。あれが出口だろう。


「帰りは結構あっさりなんですにゃ~」

「うん。さて、クリアしたから帰ろうか!」

「はいですにゃ!」


 私たちは扉を開けて、無事に自室へと戻ってきた。それとともに、使った鍵も消える。所要時間は半日ほど。〈元気一〇〇〇倍ポーション〉も飲まなくてすんだので、まあまあよかったと言えるのではなかろうか。

 そしていつの間にか天使は消えていた。スキルなので、一定時間召喚したら消える仕組みになっているのかもしれない。ここら辺は、要検証だね。


 戻ってこれたみんなは、「生きてる~」とか、「クリアできたイエイ!」とか、嬉しそうだ。


「シャル、フレイはどうすればいい?」

「目覚めるまで少しかかると思うので、フレイが使っている部屋に寝かせてもらってもいいですか?」

「わかった」


 ルーディットが頷いて、気絶したままのフレイを運んで行こうと部屋のドアを開けた瞬間――悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあああぁぁぁ!」

「助けてくれ!!」

「うわあっ」


 屋敷の中で何かが起こっているのかとも思ったけれど、どうやら悲鳴の発生源は外のようだ。ケントが一目散に窓際に行って、外の様子を見ている。


「ケント、どうなってるの!?」

「おい、なんだこれ……街にモンスターが溢れかえってる!!」

「「「――!?」」」


 ケントの言葉に、慌てて窓から外を見ると、なぜか街にモンスターが溢れていた。ファーブルムの騎士が対応して人々を守っているが、苦戦しているようだ。


 ……え、どういうこと?


「なんでモンスターがいるんですにゃ!?」

「わかんねぇ! でも、早く倒さないと大変なことになる!」

「……っ、お母様たちは!?」


 私がすぐに部屋を出ようとすると、ルーディットがガッと剣の鞘を床に打ちつけた。抱えていたフレイは、ソファに寝かせている。


「落ち着け!!」

「お兄様……っ! でも!!」

「慌ててもどうしようもならん。シャルはケントとココアと三人で屋敷内の状況を確認してくれ。タルトは俺と一緒に騎士団に来てくれ。ほかは、街中のモンスターをひたすら倒せ」


 そう言うとすぐ、ルーディットは相方のドラゴンマッハを呼んだ。一気に王城まで飛んでいくのが一番早い。タルトを連れていくのは、回復アイテムの備蓄類を確認するためだろう。もし回復アイテムが不足していたとしても、タルトがいればどうとでもできる。


 私はすぐに踵を返し、ドアへ向かう。


「ケント、ココア、行くよ!」

「お、おう!」

「はいっ!」


 私たちが走り出したのを見て、ルルイエたちも動き出した。どうやら窓から飛び降りて、見つけ次第モンスターを倒すという作戦みたいだ。ルーディットとタルトは、すでに飛び立っている。


 ……いったいどうなってるのか、原因を突き止めなきゃ……!

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― 新着の感想 ―
沸くはずのないモンスターが沸く もうあいつしかいないでしょ 最初から怪しかった
[一言] >そう考えると、ほいほい任命するわけにもいかない。私と離れることになった際、また転職しなければいけなくなるし、転職したらレベルは1に戻ってしまう 〈任命の杖〉・・・でしたらルルイエに使って…
[良い点] >「私は一人で……っていうか、普通に仲間がいればそれでいいよ?」 ムチャ振りはしますが、シャロンは本当に仲間想いですよね。 〈冒険者〉として世界中を旅して、ワクワクするような冒険をして、…
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