25 インスタンスダンジョン
「〈必殺の光〉〈守護の光〉〈聖女の加護〉〈月の光〉〈星の光〉……」
「〈呪・体力転換〉!」
私とミオ、それからリロイが支援をかける。今回同時に相手をすべきなのは、広場にいる〈堕天使〉五体と〈堕落した王〉の合計六体だ。
軽く深呼吸をして、ケントがダッと床を蹴って走り出す。そしてその後にピッタリついていくのはルーディットとフレイだ。
「――いくぞ! 〈挑発〉!!」
「〈嘆きの竜の一撃〉!! ――からの〈挑発〉!!」
「〈勇者の一撃〉!!」
まずはケントがすべてのヘイトを買って出る。ルーディットは〈堕落した王〉に一撃を食らわせ、そのまま自身を攻撃のターゲットにさせる。フレイは〈堕天使〉の一体を倒した。
「〈必殺の光〉!」
「〈女神の守護〉!」
――ここからは一気にいくよ!
私はすぐさまフレイにスキルをかけ、リロイは防御を担当する。〈堕天使〉四体に攻撃されているので、それからケントを守らなければいけない。
「あああああ、〈勇者の一撃〉!」
「〈必殺の光〉」
「〈勇者の一撃〉!!」
「〈必殺の光〉〈月の光〉〈星の光〉〈虹色の癒し〉」
「――〈勇者の一撃〉!!」
四体目の〈堕天使〉を倒すためのスキルを使い、その後は支援に回る。フレイはポーションでマナを回復させながら、なんとか〈堕天使〉四体を倒してくれた。
「うしっ! ルーディット様、交代です!」
「おお! 任せたぞ、ケント」
「任されました――〈挑発〉! 〈輝きの追撃〉」
すぐにケントが声をあげ、ルーディットもそれに応える。ルーディットが相手をしていたボスをケントが攻撃し、抱え込んだ。そしてルーディットはケントが抱えていた〈堕天使〉の残り一体を〈挑発〉で引き受けた。
……ケントの方が防御系のスキルを取ってるから、ボスを抱えるのはケントがいい。
そして〈堕天使〉は五体すべて倒すと復活するので、一体だけ倒さずに残しておく状態が一番こちらの負担が少ないのだ。
「〈堕天使〉に攻撃を当てないようにして、ボスを倒すよ!」
「はいですにゃ! 〈ポーション投げ〉にゃっ!」
「〈無慈悲なる裁き〉」
「〈深淵より深き闇〉」
『グアアァッ!』
タルト、ティティア、ルルイエが一気に攻撃を打ち込んだ。しっかりダメージが通ってることを確認し、私はほっと胸を撫で下ろす。
「よーし、このまま一気に畳みかけるよ!」
私がそう叫ぶと、ルーナとココアが「任せて!」とスキルを撃ち込んでいく。〈堕天使〉戦ではほとんど役に立てなかったので、張り切っているみたいだ。
「〈紡げ煌めけ千の刃を私の敵へ♪〉、いっけぇ!」
「凍てついて咲け、〈氷の薔薇〉!」
『グガアァァッ!!』
「効いてる! いけるぞ!」
ココアとルーナが魔法を使ったあと、ケントの声が響く。戦況は私たちにとってよし、このまま倒すことができそうだ。
……よーし、私も頑張って支援するぞ!
「〈絶対回復〉! それから〈月の光〉に〈必殺の光〉!」
「あと少し――何っ!?」
私が支援をかけていると、ケントがボスの異常に気づいた。ぱっと見では気づかないが、ボスの体が小刻みに揺れているようだ。足元からは赤いオーラが出ていて、攻撃力か何かが上昇しているのだろうということが一目でわかる。
……いったいどんな攻撃がくる?
かなりダメージを与えているから、おそらく相手は瀕死! そう考えると、最後の力を振り絞ってパワーが上がったと考えるのがいいだろう。もしくは、全体攻撃か強力な一撃がくるという可能性もある。
『ウアアアァア、我は王なるゾ!!』
ボスが吠えた。そして太い腕を大きく振り上げると、血管が膨れ上がったかのようにその色が赤黒くなっていく。拳に力が集まっていることがわかる。パチパチと音を立て、火花が散っている。
――ケントでも、あれを食らったらやばい!!
私は慌てて〈守護の光〉を使う。これで多少の攻撃は防げるはずだけど――そう思っていたら、ボスは雄叫びとともに左腕も上げて咆えた。
「まさか、両手で攻撃する気!?」
『アハハハハ!! 王に逆らう愚か者には死あるのみだああぁぁァアア!』
その叫び声と同時に、左右の腕が順番に振り下ろされた。ドドドドドドドドドと激しい効果音がつくほどの連撃で、スキルでバリアを張っても張り直す前に攻撃されてしまうほどの速さだ。
「ケントっ!!」
ココアの叫び声も、攻撃の音にかき消されてしまった。
「〈絶対回復〉〈守護の光〉――ケント!!」
無事を願って名前を呼ぶと、へへっという笑い声が聞こえてきた。ケントの声だ。
「俺だって、伊達にシャロンのスパルタ狩りを受けてるわけじゃないからな! これくらい、余裕だぜ!!」
「よかった、〈不動の支配者〉を発動できてた」
私はよかったと胸を撫で下ろす。〈不動の支配者〉とは、一定の間、自分に向けられた攻撃を無効にできる防御系のスキルだ。この間、ケントはどんな攻撃でも傷つくことはない。
「今のうちにトドメをさすよ!」
「任せろ! 〈勇者の一撃〉!!」
「〈無慈悲なる裁き〉!!」
フレイとティティアの攻撃がトドメになり、ボスは光の粒子になって消えた。残しておいた取り巻きの〈堕天使〉も、ボスと一緒のタイミングで光の粒子になって消えた。
「ふー、ちょっとハラハラしたけど、思ったより強敵じゃなくてよかったね」
私がそう言ってみんなを見ると、ありえないとばかりに首を振られた――。
***
「偵察完了!」
私たちが食事の準備をしていると、斥候に行っていたリーナが戻ってきた。
「ありがとう! どうだった?」
「この先は通路が左右二手に分かれてるんだけど、窓から外を見た感じ同じ場所に出そうだったよ。特に特殊装飾なんかもなかったから、たぶん出現モンスターにもそう差はないと思う」
「了解!」
このクリスタルでできたダンジョンは、どうやらあまり広くないみたいだ。
〈堕落した王〉がいた広場を抜けた先からは、回廊に窓がついていて外を見ることができた。外といっても地上というわけではなくて、亜空間のような風景が見えるようになっている。
……攻略は、そんなに時間がかからないかもしれないね。
私たちは食事休憩をして、再び出発した。
右側の通路を歩いて行き奥へ進んでいくと、さらに開けた場所に出た。特にボスはいないようだけれど、通常モンスターの数がそこそこ多い。今まで出てきたのは、〈堕天使〉〈女神のガーディアン〉〈夢見心地の天使〉〈悪戯ネズミ〉〈巣食う煤汚れ〉だ。どの相手も強敵だった。ネズミと汚れは比較的弱かったけれど、その分、数が多く初見時は対処が大変だった。
「前からネズミが一〇匹だ!」
「私の魔法で一気に凍らせるわよ! 〈絶対零度の吹雪〉!!」
ルーナが魔法を使うと、ネズミたちがわずかに動きを止める。そこにさらに全体攻撃を二発ほど叩きこむと、倒すことができる。
「よし! これで先に――!」
あっという間にモンスターを倒し、ケントが前を向き、しかしその動きを止めた。
「……女神、フローディアだ……」
「「「――っ!!」」」