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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード5 悪役令嬢はもう終わりです!
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24 どうする!?

「うわあぁっ!」

「〈絶対回復〉! ケント、大丈夫!?」

「あとは任せろ!! 〈挑発〉!!」


 吹っ飛んできたケントを私が回復するのと同時に、ルーディットが前へ出てスキルを使う。対峙するモンスターは一体、〈堕天使〉という敵だ。

 美しい美貌を持ってはいるけれど、その背中からは黒い翼が生えている。手には枷がはめられていて、魔法は使えないようだ。しかし物理攻撃の力がすごく、殴られたケントが吹っ飛んだ。『キャハハハハ!』と笑う高い声は耳にキンキンし、正直に言って心地悪い。


 ……せめてもの救いは、相手が一体だけっていうことだね。


 まだこのダンジョンに入って間もないのに、大量の〈堕天使〉が出てきたらたまったものではない。もう少し場数を踏んで、〈堕天使〉の倒し方を把握しなければ。


「物理攻撃と魔法攻撃、どっちの方が効くか確認したいからまずは物理攻撃だけでお願い!」

「任せておけ!」


 私の言葉に即座に反応したのは、フレイだ。剣を振り上げたので、すぐに〈必殺の光〉をかける。これなら、かなりのダメージを与えられるはずだ。


「いくぞ! 〈勇者の一撃〉!」

『キャアアァァッ!』


 フレイが振り下ろした剣は、絶対急所に命中する〈勇者の一撃〉を使ったものだった。つまるところ、クリティカルヒット。その威力が私のスキルのおかげで三倍になっているということだ。

 攻撃が直撃した〈堕天使〉は、光の粒子になって消えた。


「攻撃力はかなり高かったけど、防御はいまいちだったみたいだね。思ってたよりすんなり倒せてよかった」

「とはいえ、一撃でケントにあれだけダメージを与えたんだ。油断できないぞ」


 フレイが剣を鞘に納めながら告げると、ケントが「衝撃がえぐいな」と言いながら戻ってきた。私が回復したからダメージはないけれど、吹っ飛んだことが地味にショックだったような顔をしている。


「くっそ~、どうにかしてもっと踏ん張らねぇと。前衛が離脱なんて、洒落になんねぇ」

「俺もいるとはいえ、絶対に毎回カバーできるわけじゃねぇからな……」


 ケントとルーディットが、二人そろってうーん……と悩んでいる。戦闘の立ち回りを考えるのはとても大事なことなので、ぜひ二人で最適解を出してほしいところだ。



 クリスタルの回廊を進んでいくと、前方に広場のような場所が見えた。休憩するのにちょうどよさそうなスペースだ。

 ……でも、IDのこういう場所って何かありそうだよね。


 嫌な予感がひしひしするので、私は「ストップ!」と声をかける。


「どうしたんだ? シャル」

「お兄様、あの広場……厄介かもしれないです。強いモンスターか、もしくは数が多いか……」

「なるほど」


 私の言葉にルーディットが頷くと、みんなも警戒度を上げた。何体か〈堕天使〉を倒しているので、ここのモンスターが強いことは嫌でも理解している。


「じゃあ、入り口の手前で〈挑発〉を使って一体ずつモンスターを引っ張ってくるのはどうだ? それなら、確実に倒せると思う」

「うん、その作戦でいこう」

「任せとけ!」


 ケントが提案してくれたので、私はそれに頷いた。これはよく使われる手法で、主に格上のモンスターを倒すときにやることが多い。複数体は厳しくとも、一体であればなんとか倒すことはできるのだ。


 私は〈遠見の眼鏡〉を取り出してかける。これは眼鏡タイプの魔導具で、いわゆる望遠鏡のようなアイテムだ。


 ……さてと、どんなモンスターがいるかな?


 広場になっているところには、複数の〈堕天使〉がいる。そしてその中心には、〈堕落した王〉という醜悪なモンスターがいた。身体はでっぷり太っていて、着ている服は布を巻きつけただけのようにも見える。


「「「…………」」」


 〈遠見の望遠鏡〉はみんな購入していたので、各々広場の様子を見て絶句していた。わかるよ、あんな相手と戦いたくないよね。


「………………まあ、やるっきゃないよな。一本道だったし、あそこを通らないと駄目だし……」

「頑張って、ケント! 私も、なるべく早く倒せるように頑張るから……!!」

「ああ、わかってる」


 ちょっと気がめいっていたケントをココアが応援すると、すぐにキリッとしてやる気に満ち溢れたようだ。


「〈守護の光〉〈聖女の加護〉〈月の光〉〈星の光〉……よし、オッケ!」

「いくぜ! 〈挑発〉!!」


 ケントは広場の入口から一〇メートルは離れたところからスキルを使う。どの程度の近さになればモンスターが〈挑発〉にかかるかは、モンスターによって違いがある。そのため、遠くから始めて少しずつ近づいていくのだ。


「……駄目そうだ。もう少し近づいてみる」

「お願い」


 ふーっと呼吸を落ち着かせてから、ケントはゆっくり一歩ずつ近づいて〈挑発〉を使っていく。


 ……もしかしたら、広場からは出てこない設定になってるのかもしれない。

 そうだった場合、複数の〈堕天使〉と中ボスっぽい〈堕落した王〉を同時に相手にしないといけないので、結構きつい。


 私がそんなことを考えていたら、広場まであと三メートルというところで〈堕天使〉が一体ケントへ向かってきた。


「っしゃ! 釣れたぞ!」

「あとは任せろ。〈勇者の一撃〉!!」


 事前に私が〈必殺の光〉をかけておいたので、〈堕天使〉はフレイの一撃で光の粒子になって消える。ドロップアイテムはなかった。

 フレイはマナポーションを飲みながら、「いけそうだな!」と笑顔をみせる。


「ケント、どんどん釣ってきてくれ!」

「おう! 〈挑発〉!!」


 ケントがのりのりでスキルを使い、二体目の〈堕天使〉を釣ってきた。それもフレイが一撃で倒す。こちらが攻撃されることはほぼなくて、とても安全――フルボッコだ。


「私たちの出番がないわね。ね、ココア」

「あはは……。〈堕天使〉は魔法耐性が高いから、あんまり役に立てないですね」


 ルーナがやれやれと肩をすくめると、ココアも苦笑する。〈堕天使〉は物理攻撃の方が有効なので、フレイがめちゃくちゃ無双しているのだ。



 それから何度か〈堕天使〉を釣り、ラスト一体を倒すことができた。


「うっしゃ! あとは本命――〈堕落した王〉だけだな」


 ケントは緊張しつつも、武者震いしながら嬉しそうに告げた。それにフレイが乗り気で返事をし、広場を見る。


「よし、シャロン支援のかけなおしを――何っ!?」

「〈守護の光〉――どうしたの、フレイ。……あ」


 ……やっぱりそうだったか~。

 私は苦笑だけに留めたが、ほかのみんなはそうはいかない。驚愕に目を見開いて、「どういうこと!?」と口にしている。


 何が起こったかといえば――〈堕天使〉が復活したのだ。


「あの〈堕天使〉は、〈堕落した王〉の取り巻きモンスターだったんだろうね。ドロップもなかったし、たぶん経験値も入ってないと思うよ。本体――〈堕落した王〉を倒さない限り、無限に復活すると思う」

「そんなっ!!」


 私の言葉に一番反応したのは、ココアだ。自分の魔法ではあまりダメージを与えられないのに、それが無限に復活するとあってはたまったものではない。


「えええ、あんなのどうすりゃいいんだよ……」

「俺が〈挑発〉を使ってもいいが、さすがに〈堕天使〉五体はきっついな」


 困惑するケントに、ルーディットもどうしたもんかとお手上げのようだ。一応、こういうときのよくある攻略法はあるっちゃあるんだけど……。


「とりあえず、ここは安全そうだからちょっと休憩にしようか」


 こういうときは、美味しいものを食べて元気を回復するのが一番いい。私がそう宣言すると、あまりにも予想外だったからか、みんなが笑った。


「それは名案。ブルーム中の美味しそうなものを買っておいた」


 私の提案に一番に乗ってきたのは、もちろん食いしん坊のルルイエだ。どうやらブルームでいろいろ買い物をしたらしく、食べたいものがたくさんあるらしい。

 ……いったいどんな美味しいものが出てくるんだろう?


 ルルイエが用意しているらしい食べ物が気になって、私はワクワクしながらその手元を見つめる。するとルルイエは、可愛らしい丸型のクッキー缶を取り出した。


「そっ、それは! 三時間は並ばないと買えないクッキー缶!!」


 私が何か言う前に、リーナが声をあげた。


「そう。ここのクッキーはとても美味しい」

「うわ、うわ、うわあぁ……! 食べたかったけど、鍛錬と転職で買いに行く時間がなくて泣く泣くあきらめてたのに……!」


 悔しそうなリーナに、ルルイエはドヤ顔だ。しかしその表情は一瞬で慈愛に包まれたようになり、「みんなの分もある」と一一個のクッキー缶を取り出した。


「美味しいものは、みんなで食べたらもっと美味しい」

「わあ、わああぁぁ! ありがとうルー!」

「どういたしまして」


 ルルイエはみんなにクッキー缶を配っていく。私も一つもらった。


「ありがとう、ルー」

「早く食べよう」

「うん」


 もらったクッキー缶は、花の絵が描かれていた。水色ベースの缶に、ピンクの花と小さな白い花が咲いている。蓋を開けると、数種類のクッキーがつまっていた。シンプルな丸型のクッキーに、中心にジャムの入ったクッキー。チョコレートを使った四角い形のクッキーと、茶葉が入ったものもある。


「わあ、いい匂い。すごく美味しそう」


 せっかくならば、紅茶も用意してティータイムにするのはどうだろうか? と思いつく。私は〈鞄〉と〈簡易倉庫〉から薪を取り出し火をつけ、やかんでお湯沸かして紅茶を淹れてみた。


「さすがはシャロン、わかってる!」


 ルルイエが目をキラキラさせながら、全員分のティーカップを用意し始めた。ルルイエこそよくわかっていらっしゃる。

 そんな私とルルイエのことを、ミオがぽかんとした表情で見ている。


「未知のダンジョンでモンスターも強いのに、紅茶を飲みながらクッキーを食べる余裕……すごすぎる」

「緊張ばっかりだと疲れちゃうから」


 驚いているミオに、私は気楽に返事をする。こういう場所では、休めるときに休むというのが、結構大事だったりするのだ。


「ほら、みんなの分も入ったからゆっくりティータイムにしよ!」


 そう言って、私とルルイエは全員に紅茶を配ってティーパーティーを始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ちょっと気がめいっていたケントをココアが応援すると、すぐにキリッとしてやる気に満ち溢れたようだ ケントとココア・・・所謂「もう付き合っちゃえよ!」ですね(笑。 [気になる点] >「わあ…
[一言] 更新お疲れ様です。 ボスを倒さない限り、無限にリポップする堕天使・・・ロープレの難易度の高いダンジョンにありがちだけど、リアルダンジョンで出てくるなんて嫌すぎる・・・(=_=) おそらく今…
[良い点] いつも楽しく読んでます! ゲームだとよく一体残すと復活防げたりするけど、現実世界だと時間経過で蘇るかな?
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