23 いざ、IDへ!
「ということで、IDに挑戦します!!」
わー、パチパチパチ!!
ついに、ついにこの日がやってきましたー! 〈花畑の迷路〉を攻略し、そのあとも少しレベル上げしつつ連携を確認し、みんなが新しく取得したスキルの使い方をしっかり覚え……いやあ、充実した毎日だったね。
私の部屋に一二人全員が集合しているのでちょっと狭く感じるけれど、今から仲間でやるぞ! という熱はとても感じられる。
「インスタンスダンジョン……だったか。強敵がいるというのは、ワクワクして仕方がないな。しかも、最高の仲間と挑むことができる! どんなことが待ち受けているのか……!」
「シャロンとの地獄のレベリングでレベルアップした私たちに、敵なんかいないわよ!」
「ええ。今なら負ける気がしないわね……」
フレイの闘志がバチバチに燃えている。ただリーナとルーナは若干の疲れの色も浮かんでいるが、タルトが〈元気1000倍ポーション〉も用意してくれるから三時間はフルで頑張れるよ!
ただ、三時間は頑張れるけれどその後はヘトヘトになってしまうので、使うとしてもボス戦の前……っていうところかな? アイテムを使うタイミング、とても大事。
私はみんなを見回して、「準備はいい?」と声をかける。
「回復アイテムはもちろん、食料品や野宿用品、あとはおやつ? そんな長期間にはならないと思うけど、数日は補充しなくても大丈夫な蓄えがほしいよ」
「しっかり準備してきましたから、問題ありませんよ」
「リロイの準備はすごいのです……」
リロイが「いろいろ揃えました」と微笑んでいるが、ティティアの反応を見る限りやりすぎている節もあるかもしれない。
……とはいえ、〈簡易倉庫〉なんてやりすぎくらいがちょうどいいもんね。
時間とお金が許すならば、使うアイテムは上限まで詰め込んでおきたいくらいだ。ただ購入するにしても大量だと手間だし、この世界ではお店の在庫も気にしなければいけない。
……ゲームだったら在庫なんてまったく気にしなくてもよかったのにねぇ。
「――さて! ギルドでパーティ登録もしたし、みんなのレベルもなんとか±15圏内に収まった。うん、バッチリだね」
「はいですにゃ!」
「それじゃあ……行こうか!」
「「「応!!」」」
「にゃっ!」
みんなの返事を聞き、私は鍵を取り出して部屋のドアに使う。すぐにウィンドウが現れた。最初に見たウィンドウと同じだけれど、私だけではなく、パーティを組んでいるみんなにも見えている。
聖女の試練
人数制限:12
世界のために祈り、聖女であることを誇りなさい。
仲間と共に女神フローディアに挑み、あなたは新たな強さを手に入れる。
ウィンドウを見たフレイは、ぞくぞくした表情で自分の拳を手のひらで打った。
「……なるほど、これが挑戦するダンジョンか。腕が鳴るな。攻略すれば私たちの経験になるだけじゃなく、シャロンが新しい力を手に入れられる。最高だ!」
燃えたぎるフレイの横では、ケントがものすごく緊張している。その隣にいるルーディットは血気盛んで、いつも通りの通常運転だ。
「本当に女神フローディアって書いてあるな……。はあああ、緊張する」
「シャルが〈聖女〉たあ、兄として誇らしいぜ。何がきても俺が守ってやるし、どんな敵だって切り裂いてやる」
「このドアの先に進むと、そこはもうダンジョンだよ」
私はそう言いながら、みんなに支援をかけていく。スタート地点が安全だとは限らないので、IDに入る前に支援をかけておくのは基本だ。すぐにリロイとミオも支援をかけはじめてくれる。
「オーケー、覚悟を決めた。頑張るよ」
「フローディアには負けない」
「気合を入れなきゃいけないわね」
「絶対に攻略しようね……!」
「まさか、女神フローディアと戦うなんて……」
「手ごわい相手だと思いますが、お師匠さまの方が強いですにゃ!」
「わたしは〈教皇〉として、女神フローディアの行いを許すわけにはいきません」
「私はティティア様をこの命に代えてもお守りするだけです」
リーナ、ルルイエ、ルーナ、ココア、ミオ、タルト、ティティア、リロイ、がそれぞれ決意を口にしたのを確認する。
「――よし、行こう!」
支援をかけ終わったのを確認し、私たちはID――〈聖女の試練〉へ足を踏み入れた。
インスタンスダンジョン〈聖女の試練〉の内部は、クリスタルで作られていた。オーロラ色にキラキラ輝く世界は、まさに〈聖女〉に相応しいとでもいわんばかりだ。
神殿のような造りになっていて、聖域という言葉が当てはまるだろうか。タイル張りの床から生えている大きなクリスタルは人の背丈ほどの高さがあり、オーロラ色に輝いている。しかしよくよく見ると、その中に小さなモンスターがいることもわかる。まだ成長しきっていない、モンスターの子供のようだ。
クリスタルの周囲には、様々な植物が生えている。色とりどりで綺麗だけれど、ときおり食虫植物のモンスターが混ざっているので油断したらパクリと食べられてしまうだろう。〈花畑の迷路〉にいた〈人食い花〉と同じだけれど、それより美しさと、嫌な感じが際立っているので……かなりレベルが高いモンスターなのだろうと思う。
先頭に立ったケントは、内部を見回して息をついた。しかし手は常に剣の柄に触れていて、警戒していることがわかる。
「なんつーか、綺麗だけど怖いところだな……」
「襲ってくるほど近くにはいないけど、少し先にいるモンスターはここから感じる気配だけでも強敵だってわかるわよ。本当にこのダンジョン、攻略できるの……?」
ケントとリーナの言葉はもっともだ。私だって、同じことを思っている。ゲームなら何度だって死んでも平気だけど、今は現実。なにがなんでも生き残って、ここをクリアしなければならない。
「私も初めてきたから、正直に予想が難しい。……制限時間がなかったことだけが救いかな? 慎重に、少しずつ攻略していこう。一度倒したモンスターがもう一度湧くことはないはずだから、一匹ずつおびき寄せて確実に倒すよ」
基本的に、IDはクエスト色が強いダンジョンだ。そのため、何匹もモンスターを倒したい通常の狩場には向かないのだ。
目的としては、クエストの達成や、レアなドロップアイテムを持つモンスターの討伐、といった理由が上げられることが多い。
「はいですにゃ。ゆっくり進みましょうにゃ!」
私が簡単に説明すると、タルトがふんすとやる気を見せてくれたので、みんなも負けていられないとばかりに頷いた。