21 どこに行こうか
コミック3巻、発売しました~!
どうぞよろしくお願いいたします。
ティティアとリロイには、一〇日後にファーブルムに来てもらうことになった。それまでにルーナたちが転職から戻って来ればスキル上げなどをしていく予定だ。その後、全員合流したら連携などを確認しつつ狩りをする。
……うん、完璧な計画!
〈ティティア大聖堂〉を後にした私は、のんびりツィレで買い物をすることにした。何か役に立つアイテムが売っていたら嬉しいし、回復薬を補充しておいてもいいだろう。
「幸いお金はいっぱいあるし……♪」
お店を見つつ歩いていると、何度かお世話になった道具屋の前にやってきた。〈ぷるぷるゼリー〉を大量買いして、店主を驚かせてしまったお店だ。
せっかくなので、私は「こんにちは~」とドアを開ける。すると、すぐに店主が出て来て「おお、久しぶりだな」と言ってくれた。
「最近、姿を見てなかったから心配していたんだ。冒険者生活はどうだい?」
「スノウティアに滞在してることも多かったので、あんまりこっちにはいなかったんです。この後はすぐ、ファーブルムに行く予定なんですよ」
「そうだったのか」
最初に来た私は駆け出し冒険者みたいなものだったのだけれど、まさか心配してくれていたとは……。この道具屋には定期的に買い物にこよう。そうしよう。
「今日は何が入用だい?」
「野宿に便利なものが一通りほしいですね。あとは何か、珍しいアイテムでもあれば……っていう感じでしょうか」
私はそう言いながら、〈火種〉などを購入しておく。これは焚き火をするときに便利なので、いくらあってもいい。あとはマグカップや食器類なども少し買い足しておく。
「それから、〈空き瓶〉もたくさんほしいですね」
なんだかんだで、〈空き瓶〉はいろいろな使用用途がある。タルトの〈製薬〉もそうだし、〈聖水〉を作るときも必要になってくる。
「ああ、どれも揃えているよ」
店主が〈火種〉や〈空き瓶〉を用意してくれる。在庫を見て、売っても問題ない分だけすべて売ってもらうことにした。うん、これで野宿も問題なしだ。
「珍しいアイテムといえば……ここ最近、ファーブルム方面からの仕入れが増えているんだ」
「! 商人の行き来が増えたんですかね」
「みたいだね。ツィレはマナの回復アイテムが多いが、向こうは体力の回復アイテムが多いだろう? 防具屋とかじゃ、近接装備も増えてきているようだよ」
「なるほど……」
まだ大々的には動いていないだろうに、商人たちはティティアが和平するつもりという情報をいち早く手に入れて行動しているようだ。人の移動はまだ盛んにはならないだろうけれど、冒険者の職業の偏りが減ってくれたらいいなと思う。
「ファーブルムの回復薬も買っていくかい?」
「あー……それは大丈夫です」
「わかった」
私は野宿用品などだけ購入して、店を出た。
***
ゲートを使ってブルームに戻ると、私は王城の横にある騎士団の詰め所へ足を運んだ。花と剣と盾が描かれた旗が掲げられている騎士団は、騎士職が多いこの国の象徴でもある。
騎士団の詰め所に来たのは、ルーディットにもダンジョン攻略を頼みたいので、その相談のためだ。
ちなみに家でその相談をしないのは、絶対に父も一緒に行きたいオーラを出してくるから。騎士団長なので頼りにはなるけれど、人数の枠がもうないのでね……。
「でも、お兄様いるかな?」
最近はフレイ、ケント、ココアが騎士団で一緒に鍛錬することが多いらしいので、ルーディットも騎士団にいることが多いとは聞いている。
……でも、何かあればすぐマッハに乗って突撃しちゃう兄だからなぁ。
なんてことを考えていると、裏手にある鍛錬場から「うおおおおお!」というケントの声が聞こえてきた。どうやら今日も元気に鍛錬しているようだ。
私が顔を出すと、ケントが騎士たちにもまれているわけではなく――騎士たち相手に無双していた。
「ハァ、ハァ……。まだ若いのに〈竜騎士〉だなんて……。ケントさん、すごすぎる」
「俺もいつか〈竜騎士〉になりたい……!」
〈騎士〉や〈竜騎士〉に憧れていたケントは、いつの間にか新人騎士から憧れる存在になっていたようだ。
……ケント、すっごく頑張ってたもんね。
思わずクスリと笑うと、「シャル?」と後ろから声をかけられた。振り向くと汗をかいてるらしいルーディットがタオルで首を拭いながら歩いてきているところだった。
「お兄様!」
「シャルがここに来るなんて珍しいな。どうかしたのか?」
「実はお兄様に相談があってきたんです。今、大丈夫ですか?」
「ああ」
私の返事に頷いたルーディットは、「こっちだ」と言って外のベンチに案内してくれた。
鍛錬場から少し離れた場所にあるベンチは、すぐ横に花壇があった。何種類かの花が咲いているけれど、ハーブなどを育てるために使われているようだ。もしかしたら、騎士団の食堂で使われているのかもしれない。
「んで、どうしたんだ? シャルがここまで来るっていうことは、家じゃ話せないようなことなんだろう?」
どうやら私の考えはお見通しのようだ。
ルーディットは脳筋なところがあるのに、父に似てか抜群に勘がよくて、戦闘センスもある。無茶ばかりするくせに、部下から慕われる人気者。
……私には勿体ないくらい、できたお兄様だ。
「実はダンジョンの件でご相談があるんです」
「お、ダンジョンか! いいな。今から行くのか?」
「今からなんて行きませんよ……」
いきなりすぎではないだろうか。
「いやほら、シャルならすぐ行くって言いそうだなって」
「言いません!」
みんな、私に対する認識がちょっとおかしいのでは……? 思わずそんなことを考えながらも、私は聖女の試練のことと、パーティメンバーの説明をした。
話を聞き終えたルーディットは、「はああぁぁ」と大きなため息を吐いた。てっきり喜んでウキウキでダンジョンに突撃すると思ったのに。
「お兄ちゃんは妹が心配だ……」
「…………」
「まあ、それはそれとして、もちろん行く。未知のダンジョンへの挑戦、たぎるぜ!」
「燃えてくれるのは嬉しいですけど、時間は作れますか?」
どうやら行くことに関しては問題ないようだ。私はそのことにホッと胸を撫で下ろしつつも、仕事の調整がつくのかもしっかり確認する。
……私を捜すためツィレに来たとき、かなり休暇をもらってるはずだからね……。
「ベルクレット辺りに任せておけば、いい感じにやってくれるだろう」
「またそんなことを言って……」
心配する私をよそに、ルーディットはあっけらかんと答えた。
ベルクレットはルーディットの部下で、私の侍女アンネマリーの兄でもある。兄妹そろって二人にはいつも面倒を見てもらいっぱなしだ。
とはいえ、ルーディットの損失は戦力的にも厳しいから……ベルクレット様に感謝するしかない。
「あ、そうだ。どうせ肩慣らしするなら、〈昆虫広場〉にでも行ってみるか?」
「〈昆虫広場〉か……」
〈昆虫広場〉とは、ブルームの近くにあるダンジョンだ。その名の通り昆虫系のモンスターが出るところで、比較的初心者でも行くことができる。
ルーディットの提案に、私はどうしたものかと考える。
「なんだ、嫌なのか?」
「別に嫌というわけじゃないんですけど……。せっかくなら、〈花畑の迷路〉でもいいかなと思ったんです。花畑は美味しい蜂蜜のドロップがあるから、ルルも喜ぶかと思って」
「食い気か」
私の言葉にルーディットが笑う。しかしすぐにその表情は真剣なものになり、先ほどよりも声を潜めて言葉を続けた。
「だが〈花畑の迷路〉と簡単に言ってくれるが、あそこは不可解な道になっていて、攻略がほとんどできてない上にモンスターが強い。攻略ではなく肩慣らしで行くような場所じゃない――が、蜂蜜のドロップがあることを知っているということは、シャルは俺よりあのダンジョンに詳しいわけか?」
「あ、あははははは……」
ルーディットが言う通り、私は〈花畑の迷路〉ダンジョンを把握している。迷路の道順もしっかり覚えているし、ボスを倒して美味しい蜂蜜を手に入れたいとも思っているくらいだ。
私が笑うように誤魔化したからか、ルーディットは「ったく」とため息を吐きつつも頷いてこちらを見た。
「シャルが問題ないと言うなら、問題ないんだろう。俺だって、〈花畑の迷路〉は攻略したいと思っていたんだ。行くぞ!」
「……はい!」
こうして、私たちはID前の肩慣らしで〈花畑の迷路〉へ行くことが決定した。