19 メンバー集め
ルーナ、リーナ、ミオが転職の旅に出たので、私は私でできることをやろうと思う。するべきことは、インスタンスダンジョン聖女の試練に挑戦する仲間を集めることだ。
今いるメンバーは当然として、残りの枠は二人。
「ゲートを使ってちゃちゃっと話に行こうかな」
私がいつもの装備に身を包んで出かけようとすると、タルトとルルイエが「どこに行くんですにゃ?」とこっちにやってきた。見ると二人も出かけるところだったようだ。
「私はダンジョンに挑戦するメンバーを集めに行こうと思って」
「大事なやつですにゃ! わたしも一緒に行きますにゃ?」
「一人で大丈夫だよ。タルトもルルとでかけるところだったんでしょ?」
二人がどこに行くのか聞いてみると、タルトとルルイエは顔を見合わせて頷く。
「〈製薬〉で使える素材を買いに行こうと思ってたんですにゃ。冒険者ギルドには買い取り依頼も出してるので、ある程度は集まってるはずですにゃ」
「それこそ大事なやつだ!」
「わたしはタルトの手伝いとご飯の買い出し」
「それも大事だし、タルトの手伝いも偉すぎる……!」
タルトのポーションにはいつも助けられているし、〈火炎瓶〉は火力の一つだ。不足したらタルトも自分の戦力が減るので、心許なくなってしまうだろう。
「私はツィレに行くから、ついでにギルドに寄ってこようか?」
「そこまで急ぎじゃないですし、ほかにもいろいろ見たいから、大丈夫ですにゃ。ありがとうございますにゃ、お師匠さま」
「そっか」
私はタルトの言葉に頷いた。自分で素材を見て買い物をするというのも〈錬金術師〉の醍醐味の一つだと思っているので、タルトが自分だけで問題ないというなら任せるのが一番いい。もちろん、何か手助けが必要であれば全力でサポートするけれども!
タルトはルルイエと一緒に、「素材採取の旅ですにゃ!」なんて盛り上がっている。今度時間があるときに、貴重な素材がある〈エルンゴアの楽園〉にも連れていってあげたい。
「それじゃあ、また夜にね。行ってらっしゃい、タルト、ルル」
「お師匠さまもいってらっしゃいですにゃ」
「いってきます」
タルトとルルイエと別れ、私はゲートを使い〈聖都ツィレ〉へ飛んだ。
そんなに長期間ツィレを離れていたわけではないけれど、私の拠点のような街だったので、なんだか帰って来たなという感じがしてしまう。
〈聖都ツィレ〉はティティアがしっかり治めるようになって、活気が出て、治安もよくなり、人々の笑い声の絶えない優しい街になった。私――というかタルトが、冒険者ギルドで〈オークのぼろ布〉をはじめ素材の買い取りをしているので、強い冒険者も増えている。
散歩がてら少し街を歩いてみると、新しい露店ができたりしていた。
……でも、その場所に以前何があったか思い出せない。街中あるあるだと思う。私だけじゃないよね?
「そういえば、クリスタル大聖堂は〈ティティア大聖堂〉になったわけだけど……私、ティティアに会えるかな?」
そんな不安が脳裏をよぎった。
「ティティア直下の〈聖騎士〉なら私の顔も知ってくれてるけど、見張りをしてる人とかじゃ私の顔なんて知らないし……いきなり教皇に会いたいっていっても笑顔でアポイントメントはございますか? なんて言われてしまうのでは……」
なんてことを考えながら歩いていたら、目的地の大聖堂に着いてしまった。
駄目で元々、女は度胸! ということで〈ティティア大聖堂〉に入ってみる。入り口に〈聖堂騎士〉はいたけれど、どうやら一階のお祈りする部屋は誰にでも開放しているようだ。
特にお祈りをしたいわけではないので、私は受付の女性に声をかけることにした。
「すみません」
「どうされましたか?」
「私はシャロン。ティー……ティティア様の友人なんですが、繋いでいただくことはできますか?」
「ティティア様のご友人、ですか……」
女性はぱちくりと目を瞬かせた後、苦笑した。
……ですよね!
「えーっと……それなら、リロイ様か、それかブリッツさんかミモザさんでも――」
「こんなところで何をしているんですか、シャロン」
私が受付で不審人物をしていたら、後ろから声をかけられた。
「リロイ!!」
「シャロンがここに来るなんて珍しいですね」
「実は相談がありましてね……」
アハハと笑いながら告げると、リロイはやれやれといった顔になりつつも頷く。受付の女性には「問題ありません」と言い、そのまま歩き出した。
私がリロイの後ろをついていくと、大聖堂のクリスタルでできた階段を上り、応接室に通された。
クリスタルの床には上品なカーペットが敷かれ、壁には絵画が飾ってある。荘厳な部屋であることはわかるけれど、厭味ったらしい感じはない。
巫女がお茶を出して下がると、リロイがいい笑顔で私を見た。
「それで、いったいどんな厄介ごとの相談ですか?」
「ちょ、厄介ごとって決めつけないでほしいんですけど……!」
「……厄介ごとではないんですか?」
「………………否定はできないかもしれません」
しばし考えた結果の私の答えに、リロイは「やっぱり」と言って笑う。
「ダンジョンを攻略するために、ティーとリロイの力を借りたいんです」
「ダンジョンですか?」
リロイが私の言葉を復唱したので、頷いて肯定を示す。私はティティアからクエスト報酬としてもらった鍵を取り出して、リロイに見せる。
「ティーにもらったこの鍵ですが、使うとダンジョンが出現することが判明しました」
「その鍵がダンジョンに!? ……古い文献に、そういった代物があると書いてあったのを読んだことはありますが、本当にあったとは……」
驚いたリロイに構わず、私は説明を続ける。
「ダンジョンに挑戦できる人数は、一二人。私とタルトのほかには、ルルイエ、ココア、ケント、私の兄のルーディット。それから、〈勇者〉のフレイ、そのパーティメンバーのルーナ、リーナ、ミオです」
「なるほど、ティティア様と私で一二人ということですか」
「そうです」
「…………」
私が頷くと、リロイは鍵をじっと見て黙ってしまった。おそらく、この鍵でいけるダンジョンのことや、危険などを考えているのだろう。
……でもきっと、この鍵のダンジョンに行くのはティティアが相応しいとも考えていそう。
とはいえ危険がすごそうなので、本当にティティアを連れていっていいのか悩んでいるというか……ティティアに報告するかすら決めかねているのかもしれない。
だって、ティティアは絶対に行くと言うだろうからね。
「ちなみにこの鍵で挑戦するダンジョンは、聖女の試練。ボスは恐らく女神フローディアです」
「な、またフローディアが出てくるんですか!? あの方は、島で――」
「同じだけど同じではないフローディア、ですかね」
私たちが倒した〈女神フローディア〉と、このダンジョンで出る〈女神フローディア〉は同じだけど違うというかなんというか……説明が難しいね。
……ゲームだからこういうものだよ! と言えたらどんなに楽か。
リロイは小さく息をついて、観念するかのように私を見た。
「わかりました。ティティア様に報告します。……ティティア様は〈教皇〉として、女神フローディアとは対峙しないといけないと思いますから」
「ありがとうございます。とはいえ私は負けるつもりはありませんから、一緒に勝利を掴みましょう!」
「シャロンのその言葉は、とても頼もしいですね」
私がぐっと腕を曲げると、リロイは希望を持ったような笑顔を見せた。