18 ミオの行方
温暖な気候のファーブルムとはいえ、夜は肌寒い。空を見上げると満天の星が見えて、ついつい自分がイグナシア殿下に国外追放をされて、この国を出たときのことを思い出してしまう。
……あの日の星空も、素敵だったもんね。
そんなことを考えていると、アンネマリーが全員分の外套を持ってきてくれた。
「もう夜も遅いです。……騎士団の皆様にお任せすることはできないのですか?」
「お兄様にも連絡はいれているので、騎士団の皆さんも動いてくれてはいます。ですが、心配ですから……ただ待っていることはできません。わたくしも強くなったので、大丈夫ですよ」
「……かしこまりました」
私の言葉に、アンネマリーは心配の色を浮かべつつも了承してくれた。彼女もミオのことは心配してくれているし、私が強くなったことも理解してくれているのだろう。
「それじゃあ、いってきます」
「無事のお帰りをお待ちしております」
私、タルト、フレイ、リーナ、の四人で外套を羽織って街に出た。ルーナは入れ違いでミオが帰ってきたときのため、留守番役をしてくれている。
風が冷たくて、もしミオが薄着で出歩いているのなら早く見つけてあげた方がいいだろう。
「ミオは、転職の旅用のアイテムを買いに出ていったんですにゃ?」
「うん。時間があまれば、少し街を歩いたりするとも言っていたけど……どこら辺だろう」
「そういえば、王城を見てみたいと言ってましたにゃ」
「なるほど……。確かに、王城はそうそう見られるものではないから、観光にはいいかもしれないな」
タルトとリーナがミオのことを話すと、フレイもそれに頷いた。確かに王城は圧巻だし、見てみたいという気持ちはわかる。
……でも、王城はそう簡単には入れない。見るといっても外周を眺めるくらいなので、そうそう時間はかからないのではと思う。ただ、そこで迷子になっていたらどうしようもないけれど……。
「王城を見に行ってみよう」
フレイの一声でひとまず王城に向かって歩いてみるが、うちの屋敷は公爵家だけあって王城に近い。あっという間に王城の門が見えてきた。
タルトがキョロキョロ周囲を見回して、遠くの方もじっと見つめる。猫は夜目なので、私たち人間よりも遠くが見えているのかもしれない。
「うーん、ミオはいなさそうですにゃ」
タルトの耳がへたりと垂れて、力なく首を振った。
「もしかして、お腹が空いてお店に入ったりしたとか?」
「それはあるかもしれないですにゃ。あ、酒場でミオを見かけなかったか聞いてみるのもいいと思いますにゃ」
「オーケー、そうしましょう」
まずは酒場で聞き込み調査だ! ということに落ち着いたのだが、「フレイ!?」というミオの声が聞こえてきた。声のした方を見ると、ちょうど王城の門からミオが出てきたところだった。
……え、王城にいたの!?
私は驚いて、目を瞬かせた。王城に入ることは難しくないとはいえ、門番がいるし、誰でもすんなり入れるわけではない。
すぐにフレイとリーナがミオに駆け寄っていく。
「ミオ、帰りが遅いから心配していたんだぞ!」
「そうだよ。何かあったのかと思って、心配したんだから」
「ごめんなさい。王城を見ていたら、中に入れてくれて……。〈巫女〉として、懺悔を聞いたりしていたのよ」
「そうだったのか」
ミオの言ったことを聞き、そういえばこの国は騎士系の職が多く、癒し手系の職が少ないのだったと思いだす。それもあって、〈巫女〉のミオが重宝されたのかもしれない。もしくは、彼女自身が貴族だからというのも理由の一つかもしれない。
しかしこの王城で懺悔を聞くお仕事をした……っていうことだよね? 脳筋騎士団の相手をしていたとしたら、ご苦労様だね……。
「だが、今度から帰りが遅くなるときは連絡してくれると助かる。私たちは冒険者だから、自分のことは自分で守れるだろうが……やはり心配だからな」
「ごめんなさい、フレイ。次は気をつけるわ」
「そうしてくれ」
フレイはミオが頷いたのを見て、ほっと胸を撫で下ろしている。
「二人にも、心配をかけてしまってごめんなさい」
「ううん。ミオが無事でよかったよ」
「何もなくてよかったですにゃ。でも、初めてくる街で〈巫女〉の仕事ができちゃうなんて、すごいですにゃ」
私が無事を喜ぶと、タルトはミオの仕事にも興味を持ったみたいだ。
「いえ、わたくしなんて大したことはしていないんですよ。……ただ、体の傷はスキルを使えば簡単に癒すことができますが、心の傷は難しいですからね。わたくしは、少しでもその助けになればいいと思っているのです」
「とても素敵な考えですにゃ!」
「ありがとうございます」
ミオの言葉に、私もタルトと一緒に頷く。私は職業〈聖女〉だけれど、もしかしてもしかしなくてもミオの方が〈聖女〉ですね……。
私たちはミオの話を聞きながら、屋敷へ続く道を歩いていく。聞き役は、ミオの仕事内容に興味を持っているタルトだ。
「どんな人の話を聞くんですにゃ?」
「わたくしは、誰の話でも聞きますよ。たとえ悪人であっても、懺悔したいと思えば許す心も必要になってくるでしょう?」
「悪人の話を聞いたんですにゃ!?」
タルトが驚いて、尻尾の毛をぶわっとさせた。すると、ミオは「例えです!」と手と首を振って否定する。
「悪人の話でも聞くというだけで、今いたわけじゃないですよ。そもそも、王城内を悪人が歩けるわけがないですから。もしいたとしても、牢屋とかじゃないですかね?」
「びっくりしましたにゃ」
二人のやり取りを聞いて、私は苦笑する。確かに王城に悪人が歩いていたら大変だし、騎士は何をしている! って責任問題になるね。
「今日は、騎士様やメイドさんの話を聞いたりしましたよ。人に話すことで、気持ちが軽くなって救われることも多いんです」
「なるほどですにゃ」
「騎士様には、鍛錬がきついと嘆いている方もいらっしゃいましたよ」
「そんなにですにゃ!?」
「ですが、シャロンの狩りに比べたら可愛いものでした」
「にゃ、にゃ……」
段々会話の雲行きが怪しくなってきたところで屋敷に到着したので、この話はここまでとなった。