14 楽しい夕食の時間
「うわあ、みんな可愛いねぇ」
私は食堂にやってきたみんなを見て、手を叩いた。全員が晩餐用にドレスアップしていて、眼福なことこの上ない。
タルトはリボンをモチーフにしていて、色は可愛らしいパステルカラー。膝丈のスカートで、尻尾はスカートの内側にあってちらりと裾から覗いている。ルルイエはレースをふんだんに使ったシックなスタイルで、スカートは後ろの部分が床まで長いフィッシュテールのかたちになっている。ココアは乙女可愛い感じに仕上がっていて、バルーンタイプのスカートが特徴的だ。後ろにある大きなリボンはスカート部分より長く、ボリュームがある。ケントはダークブラウンの盛装に身を包んでいて、首元には朱色のタイが結ばれている。
フレイは真っ赤なドレスで、肩口が出ているのが妙に色っぽい。ルーナは白のレースを使った落ち着いた装いで、深窓の令嬢という言葉が似合いそうだ。リーナは膝丈のスカート部分をレースでボリュームを出していて、シンプルながらに可愛い。ミオは花をモチーフにしたドレスで、彼女の可憐さをいっそう引き立てている。
ちなみに私は、シンプルだけど上品なドレスを選んだ。セピアを基調とした生地に、白のレースを合わせてデザインしている。
「こんなに可愛いドレスを着られて嬉しいですけど、緊張しますにゃ……」
タルトは席についたものの、ソワソワしている。けれどココアとケントの方がカチコチに緊張しているので、それよりは余裕に見える。ちなみにルルイエには緊張のきの字も見受けられないほど自然体だ。
私は座っている父と母に、みんなを紹介していく。
「お父様、お母様。わたくし――私の仲間です。弟子のタルトに、事情があって面倒を見ているルルイエ。それから、ツィレで出会った冒険者のケントとココア。それから、ここに来るのに一緒に行動してくれている勇者パーティのフレイ、ルーナ、リーナ、ミオです」
「私はテオドール・ココリアラ。シャルが世話になったようだな。父としても、ぜひ礼を言わせてくれ。ありがとう」
「みんな素敵な方たちね。わたくしはシャルの母、アンジェラ・ココリアラよ。どうぞよろしくね」
ひとまず紹介が終わると、次々に料理が運ばれてきた。本来であればコースで用意するのだけれど、貴族の作法は面倒なので、大皿を用意して自由に食べてもらうスタイルにしている。ちらりとルルイエを見ると、目が輝いていて、料理に釘付けだ。
……今日は料理長にたくさん作ってってお願いしたから、ルルも大満足間違いなしのはず!
「とりあえず、食べながら話をしましょう」
「そうね。みなさん、お腹いっぱい召し上がってくださいね」
私の言葉に母が頷き、食事がスタートした。
「――! シャロン、すっごく美味しい。今まで食べたどの料理より、美味しい」
「それはよかった。腕に寄りをかけてくれた料理長が喜ぶよ」
料理を口いっぱいに頬張ったルルイエは、目のキラキラがまったく収まっていない。今まで外食は何度もしたけれどやはり、貴族お抱えの料理長ともなるとその腕前は桁違いだ。
「ぜひお礼を言いたい」
「なら、あとで紹介するね」
「うん」
私が料理長の紹介を約束すると、ルルイエは満面の笑みで頷いた。
「みんなも遠慮しないで食べてね。じゃないと、ルルに全部食べられちゃうよ」
「緊張でそんなに喉は通らないって言いたいとこだけど……こんな美味い料理、そうそう食べられないからな……」
ケントがぎこちないながらも上品に食べてくれていて、気を遣ってくれているのがわかる。気楽にしてほしいけれど、やはり少しは無理をさせてしまっているみたいだ。
「わたくしは美味しくいただいております」
「ミオの口にも合ったようで、よかった」
上品に食べるミオは、まるでお手本のようだ。料理を丁寧にナイフで切り、それをゆっくり口へ運ぶ。惚れ惚れしてしまう動作だ。逆にフレイは、食べ方こそ綺麗だが手を動かすスピードが速い。ダンジョンに行くこともあって、冒険者は早食いが癖になっている人も多いみたいだ。
ある程度食べ進めると、父が「オホン」とあからさまな咳払いをした。みんなの手が止まって、その視線が父に集まる。
……いや、話題の切り替え下手くそすぎるよ……!
とは言ったものの、隣に座る母はその様子を見て楽しそうに微笑んでいる。どうやらこれから父が話すことは、母にとってもメリットがあることのようだ。
「オホン、ええと、その……。ぜひ、シャルの冒険譚を教えてほしい……!」
「え」
予想外――いや、私を溺愛している節がある父なら絶対に言うであろう言葉だった。すぐにその話題を出さなかったので、うっかりしてしまっていた。
「それならば、私がダンジョン〈エルンゴアの楽園〉に行ったときの話をさせていただこう」
「俺も、シャロンと初めてパーティを組んだことは昨日のことみたいに覚えてる」
「駄目とは言わないけど、自分のことを話されるのは恥ずかしいね……」
みんなが率先して話しだそうとするので、私はどうしても照れてしまう。
「シャロンは支援の腕があり、知識も持っていて、だけど何より――スパルタだった」
「その通り」
「「「うんうん」」」
「にゃ」
「――えっ!?」
フレイの語りがしょっぱなから違う方向に進み始めたのに、ほかのみんなは躊躇なく頷いている。そこまでスパルタの狩りはしていないはずなんだけど……解せぬ。確かにこの世界基準で考えたら、かなりガンガン行こうぜ! ではあったけれど……。
私が不服顔でいると、フレイが笑う。
「だが、私はそんなシャロンに感謝しているぞ? ドラゴンを倒し、まだ見ぬ地へ足を踏み入れることができ……。今までもいろいろ冒険をしてきたと思っていたが、シャロンと出会ってからの冒険はさらに一味違っている。ワクワクしているんだ」
「フレイ……」
冒険することが好きなフレイは、私と行動を共にすることで、その幅が広がったことがとても大きいと感じてくれているみたいだ。ケントやココアたちも、同じように頷いている。
「俺なんて、憧れの〈竜騎士〉だぞ? 一生をかけたってなれない人の方が多いんだ。これも、シャロンと一緒にレベル上げをしたおかげだ」
「私も自分が〈歌魔法師〉になるなんて思ってもみなかったもん。小さいころなんて特に、〈牧場の村〉でずっと動物の世話をすると思っていたし……」
ケントとココアの言葉に、父と母――特に父が目を見開いて驚いた。
「二人はその若さで〈覚醒職〉なのか。素晴らしい! きっと、言い表せないようなすごい戦いを繰り広げられてきたのだろうな……」
「「…………はい」」
父の言葉に、ケントとココアはわずかに沈黙しつつも真剣な顔で頷いた。どうやら今までの戦いを思い出していたみたいだ。
……確かに、〈フローディアの墓標〉での戦いは特に厳しかった。
今度は私が頷いていると、父が「ほかにはどんなことがあったんだ?」と食い気味でみんなに尋ねている。すると、ミオが「わたくしはまだ共にした時間が短いですが……」と言葉を続けた。
「シャロンの行動には、いつも驚かされているんです。――わたくしは〈巫女〉として、各地の平和を祈りつつフレイたちの旅に同行しています。街へ行って、苦しんでいる方の懺悔を聞いたりもしているんですよ。シャロンは地理にも詳しくて、街へ行くいろいろな方法も教えてくださいました」
「そうか。シャルは真面目に勉強していたから、いろいろな知識がある。それが役に立っているのは、なんだか安心するな」
父は、私が幼少期に王妃教育を受けていたことを言っているのだろう。勉強はとても大変で、一人で泣いたこともあった。そんな苦しい思い出が今になって役立っていることに、少しほっとしたのだと思う。私の知識の大部分はゲーム知識ではあるけれど、幼少期の勉強がまったく役に立っていないということはない。
……ミオは〈巫女〉として、いろいろなことをしているんだね。
懺悔を聞いてあげたりしているなんて、まさに聖職者だ。私には……あまりできる気がしない。うじうじ悩まずゴー! とか言ってしまいそうだ。
そう考えると、ミオが腕輪を手に入れて〈転移ゲート〉を使えるようになったことはよかったと思う。
「わたしはお師匠さまに〈錬金術師〉のことを教えてもらいましたにゃ!」
「師匠とは、シャルのことだったな。しかし、〈錬金術師〉のこともわかるのか……?」
「はいですにゃ。お師匠さまはいろいろな職業のことを知っていて、聞けばなんでも教えてくれるんですにゃ」
「それはすごい! さすがはシャルだ!」
父は鼻高々になり、私のことを褒めまくってくる。……恥ずかしいから、そんなに褒めないでほしいのだけれど……。
私の冒険の話は、その後も夜が更けていくまで続いた。