12 ただいま!
うきうきのルーナが先頭に乗り、その後ろにケント、ミオが乗り、蛇は洞窟の出口に向けて出発していった。
「……蛇に乗らなきゃいけないなら、わたしに勇者パーティは無理ですにゃ……」
「そういえば猫って蛇が苦手だったよね。でも〈スネイル〉とかは普通に倒してたし、案外平気なものなの?」
タルトが若干青ざめていたので聞いてみると、「小さいのは大丈夫ですにゃ」と返ってきた。
「〈闇色の大蛇〉も怖かったですけど、あれは倒すべきボスですにゃ。だから平気なんですにゃ。でも、普通の大きな蛇はあんまり得意じゃないですにゃ……」
「モンスターはいいけど普通の大きな蛇は嫌ってことだね」
なるほど了解です! 一緒に旅をする上で、相手の苦手なものを知っておくことは大切だ。モンスターの蛇が問題ないのであれば、無理に克服する必要もないだろう。
「じゃあ、あの蛇の乗り物はうちのパーティには無理だね。ケントには申し訳ないけど……」
私はそう言いつつココアへ視線を向けると、大きく頷いていた。
「私もできれば蛇は遠慮願いたいです。得意ではないというか……まあ…………苦手です……」
「わたしは大丈夫」
小さくなるココアと、まったく問題ないと告げるルルイエ。とりあえず絶対ほしい! と言われなかったことにほっと胸を撫で下ろす。
「装備をケントが使ってるし、フレイたちのパーティの取り分にしてもらうのがよさそうかな?」
「あ、それはいいですね! 賛成です」
ココアがすぐさま声をあげると、フレイとリーナが驚いた。
「これはかなりレアな召喚騎乗だぞ。そんな簡単に決めていいのか?」
「そうだよ。正直、私は蛇嫌いだし……」
驚きつつも期待のこもった目をしているフレイと、嫌だと必死で首を振っているリーナが対照的すぎるよ。
「私は売ってお金に換えて分配……っていうかたちでもいいけど、どうしよう? ルーナはほしがりそうだよね」
「それ! 絶対にほしいって言いそう……。うう、どうやって説得しよう……」
リーナが頭を抱えて悩みだしてしまった。まあ、ルーナに渡しても問題はないのだけれど……パーティの戦力が上がるものではないから、ちょっと微妙な感じになってしまうのかもしれない。
……難しいけれど、そこはフレイたちで相談をしてもらうしかないね。
「それじゃあ、私たちも行こうか。フレイ、前衛よろしくね」
「ああ、任せておけ」
私たちはフレイを先頭にして、ルルイエ、タルト、ココア、私、リーナの順で出口を目指した。
***
ドラゴンが風を切り飛んでいく道中で、フレイパーティは会議を繰り広げている。
「どうして!? 五人以上乗れる移動手段なんて、すごいじゃない! しかも、馬が走るより全然速いのよ。パーティで使わないなんて、そんなのもったいないわよ!」
「でも、蛇だよ!? 嫌だよ!!」
……いや、会議というより口論かな?
蛇がほしいルーナVS絶対やだやだリーナのバトルが勃発なうです。
「まあ、私たちは急いでないからどうするかゆっくり考えてみてよ」
「俺は蛇ありだと思うんだけどなぁ」
私が笑いながら告げると、ケントがルーナの肩を持っている。しかしココアが嫌がっているからか、うちのパーティで使おうと主張することはなかった。
しばらく飛んでいると、街が目に入った。私の生まれ故郷、〈ファーブルム王国〉の〈王都ブルーム〉だ。花が名産で、街中は色鮮やかな花がたくさん飾ってある、穏やかな気候の国――。
……ついに到着してしまったか。
私はため息をつきたくなるのを堪えつつ、街を指さしてみんなに呼びかける。
「ファーブルムが見えたよ!」
「「「おおお~~!」」」
「わー、なんだか綺麗な街ですにゃ!」
フレイパーティの蛇どうする問題も一度小休止のようで、街を見て「カラフル!」「花が咲いてるらしいぞ」などと話している。
「シャロンの実家があるんだったな」
「うん。ファーブルムに滞在中は遠慮せずに泊まっていってよ」
「それは助かる!」
「みんなならいつでも大歓迎だよ~」
私がウェルカムムードを見せると、フレイは「楽しみだ!」とウキウキし始めた。リーナは「どんな家だろう? やっぱり花が多いのかな?」なんて言っている。確かに庭園はしっかり手入れしているから、華やかだね。
「この数のドラゴンで街に近づくと驚かせちゃうから、手前からは歩いていこうか」
ゆっくり地上に下りた私たちは、のんびり歩きながらブルームへ到着した。
「花の都とも言われてる〈王都ブルーム〉! とっても素敵ですにゃ!」
街に入ってすぐ、タルトが目を輝かせた。その横ではココアも頷いていて、「優しい感じがするよね」と言っている。
「前にケントの転職できたけど、そんなにゆっくりはできなかったから……。今回はめいっぱい観光したいな。できるなら、ほかの街にも行ってみたいかも」
「それはいいですにゃ! ゲートも登録したら、いつでもまた行けますにゃ」
「名案!」
タルトとココアが二人で盛り上がっているゲート登録の旅には、ぜひ混ぜてほしい。次の目標は、すべての街のゲートを登録することだね。私はいろいろな場所の景色をすぐ堪能しに行けるし、タルトは〈製薬〉の材料集めにちょうどいい。
「ゲートの旅だね。ファーブルムには、ほかに〈山間の村トーラス〉〈漁師の村〉〈花の街チューリア〉〈水の街リューレン〉〈花市場〉があるよ。それと、国境付近に〈旅人の宿〉と〈くつろぎの宿〉があるね」
〈旅人の宿〉は私が〈エレンツィ神聖国〉に行く際に立ち寄った場所で、〈くつろぎの宿〉は〈ローラルダイト共和国〉に行く際に立ち寄る場所だ。
「お花関連が多いですにゃ」
「そうだね。花が名産だから、花のアクセサリーとか、そういうのも売ってるよ。もっと花がみたければ、チューリアに行くと圧巻! っていうほど花が見られるよ」
「わああ、楽しみですにゃ!」
チューリアは花がたくさんある美しい街で、療養に訪れる人も多いと聞く。新しい品種の花の開発なども行っていて、研究が盛んな街だ。
「さて……観光もいいけど、私の家に行こうか。〈鞄〉があるから置く荷物がそうあるわけじゃないけど、いったん落ち着いて話もしよう」
「わかった。世話になる」
「「「お世話になります」」」
「お世話になりますにゃ」
フレイが頷くと、それに続いて全員が頭を下げた。
***
時間にして数ヶ月ほどだったけれど、随分と自分の家を懐かしく感じる。〈王都ブルーム〉はまったく変わっておらず、屋敷も私が国外追放を言い渡されたときと同じだ。
……イグナシア殿下が嫌いなだけで、家やこの国が嫌いなわけではないからね。
「ここが私の家だよ。みんな、ゆっくりしていってね」
「「「…………」」」
私が門の前に立ってそう告げると、全員がぽかんと無言になった。
「お、お師匠さまの家、大きいですにゃ……」
「一応、公爵家だからね。王城を除けば、この街で一番大きいかも?」
「にゃあぁ……」
事前に私の身分については説明していたのだけれど、想像よりも屋敷が立派すぎたようだ。私は苦笑しつつ、「どうぞ」と門を開ける。
「花園があって、その向こうにあるのが屋敷だよ」
私が庭の説明をしつつ歩いていると、玄関が開いて使用人が出てきた。私が帰ることは伝えていたけれど、日時は伝えていなかった。使用人は涙目になっていて、「シャーロット様!!」と声をあげた。さらに何人もの使用人が出てきて、全員が涙目になっている。……久しぶりに見たみんなの顔に、私の目頭も熱くなる。
……ああやばい、泣いちゃいそう。
「――ただいま!」
「「「おかえりなさいませっ、シャーロット様……!!」」」