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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード5 悪役令嬢はもう終わりです!
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10 モンハウと宝箱

 フレイが宝箱に手をかけるのを見て、私は思わずその手を掴んだ。


「シャロン?」

「あ……。ごめんなさい。えっと、よければ私に開けさせてもらえたりしないかなぁ……? なんて……」


 だって! 初めて見る、中身がさっぱりわからない、けど隠し部屋にあった宝箱だよ! こんなの、気にならない方が絶対おかしいでしょう。隠されていたことを考えると、時間経過で再び出現するタイプではなく、最初の一人だけが手にすることのできる宝箱の可能性が高い。


 私の目があまりにもランランとしていたからか、フレイがクスッと笑った。


「シャロンがこんなにはしゃぐなんて、珍しいな。〈桃源郷〉やこのダンジョンに案内してくれたのもシャロンだしな。宝箱くらい、好きに開けてくれ」

「シャロンも普通の人なんだって思えた気がするぜ」

「フレイ、ありがとう! ケントはちょっと失礼じゃない!?」


 まったくと怒りつつも、私はルンルンスキップで宝箱の元へ向かう。木でできた宝箱だけれど、期待が半端ない。


「ではでは!」

「何がでるですにゃ~?」

「美味しいご飯……?」

「……それは難しいかもしれないですにゃ」


 タルトとルルイエの会話にほっこりしつつ、いざオープン! 私がゆっくり宝箱を開けると、ぱあっと光があふれた。これはレアアイテムが入っているときに出る光なので、中身に期待してもよさそうだ。


 開けた宝箱の中を見ると、〈流れ星のポーション〉〈月のポーション〉〈月のマナポーション〉などのポーション類がたくさんはいってて、その上に野球ボールくらいの黒い球体と、〈勇気のベルト〉という装備が入っていた。


 ……この黒い球体はなんだろう?


 手に取って説明を見ると、ああ、昔あったイベントのアイテムだということをすぐに思い出した。〈大混乱〉というギャグみたいなアイテムで、割るとモンスターが出てくるという代物だ。出てくるモンスターは使用者のレベルによって上限や数が決まるというものだ。仲間内で玉を割って、誰が一番強いモンスターを出すか勝負で遊んだりした。


「〈勇気のベルト〉――これは防御力が上がる装備だから、ケントが装備するのがいいかもしれないね デザインも硬めだから、男の方が似合うだろうし」

「俺がか!?」


 私が装備の説明をすると、ケントがうずうずし始めた。とはいえ、別に使用者の性別が固定されているわけではないので、誰が使っても問題はない。防御力アップなので、前衛か、防御が足りていない人が使うのがいいだろう。


「フレイとかリーナでもいいけど、地味に重いから身軽さを生かしてるリーナにはあまり向かないかもしれないね」

「確かに結構重たいね」


 私がベルトをリーナに渡すと、自分では重たいと首を振る。


「防御力か……。私はどちらかというと、攻撃力の方がほしいからな。リーナが重いと感じるなら、ルーナとミオが装備するのも微妙だろう」

「それは確かに。それじゃあ、ひとまずケントに装備しておいてもらおうか」

「いいのか!? サンキュ!」


 ケントがぱあっと表情を輝かせ、すぐさま装備した。これでケントの防御力がアップだ。装備部位としてはアクセサリーなので、このベルトはそこそこレアな部類に入る。しばらく使えるだろう。


「後もう一つの玉はなんだ?」

「それは割るとモンスターが出てくる、ちょっとした遊びアイテムみたいなものだよ」

「……モンスターが出てくるなら、大惨事じゃないか?」

「それもそうだ」


 私がゲーム時代で使っていたニュアンスで説明をしたら、フレイに真剣な表情で返されてしまった。ゲーム時代であればうっかり割ってもほかのプレイヤーがいたからモンスターはすぐ討伐されたけれど、この世界ではそれも難しいだろう。


「なら、この玉は……どうしようか? 私たちが割ってもいいけど、そこそこレベルが高いからあんまりお勧めできないかも」

「シャロンが勧めないなら、絶対に割らない方がいいな」


 フレイはため息をついて、さてどうするかと考えているようだ。すると、ミオが「あの!」と声を出して前に出てきた。


「わたくしに預からせてもらえませんか? 〈巫女〉として、そのような玉の存在を放置しておくわけにはいきません!」


 胸元で手を組んで声を上げるミオを見て、私はさてどうしようかと悩む。フレイたちの人となりであればある程度はわかっているけれど、ミオとの付き合いはそう長くない。この玉を悪用されては困るのだ。

 私が考え込んでいると、フレイが「私は構わない。ミオは悩みがある人の懺悔なんかもよく聞いているしな」と言った。


 ……すごい、本当に聖職者してるんだ。


 フレイの言葉に照れたミオは、私たちに提案を持ちかけてきた。


「〈勇気のベルト〉をシャロンたちのパーティに。この〈大混乱〉の玉を私たちのパーティの取り分とするのはどうですか?」

「え……」


 ミオの提案に、私は思わず目を見開いた。いくらなんでも、その提案はちょっとおかしいのではないだろうか。

 すると、ミオは「すみません」と焦り始めた。きっと私が訝しむような表情だったから、まずいことを言ってしまったということに気づいたのだろう。


「そうですよね。ベルトと玉と、どちらの価値もわからないですもんね。この玉にものすごい価値があることはわかりますから、シャロンたちの取り分が少ないことになってしまいますもの」

「あ――」


 なるほど、そうではない。

 私が微妙に思ったのは、ベルトと玉を比べたら圧倒的にベルトの方がいいので、ミオたちの利益がほとんどないことを懸念したためだ。


「価値はベルトの方が高いから、それは全然気にしなくていいよ! なんなら、一緒に入ってるポーションを全部そっちにつけてもベルトの方が高いから」

「そ、そんなにですか……」


 思いのほかベルトの価値が高いこと――いや、どちらかといえば玉の価値が低すぎることに驚いているみたいだ。

 ……でも、これはゲーム時代のプレイヤーの評価だからね。この世界を基準に考えたら、玉の価値はもっと上がるかもしれない。そう考えたら、別にそこまで差のある取り分にはならないかな?


「うーん……。でも確かに〈大混乱〉は人によって価値が大きくかわるから、私の価値観で計ったらいけないかもだね。私はミオの提案に異議はないよ」


 私がそう告げると、私のパーティ――タルト、ケント、ココア、ルルイエが問題ないとばかりに頷く。フレイ、ルーナ、リーナも問題はないようだ。


「それじゃあ、ケントがベルトで、私たちは〈大混乱〉をもらうわね」


 ルーナの言葉に頷き、宝箱の取り分が決定した。


「まさか俺にアクセサリー装備が増えるとは思わなかったぜ……。ありがとう、みんな」

「前衛は防御力が大事だもんね。頑張ってね、ケント」

「おう!」


 感謝を述べるケントをココアが応援すると、ぐっと拳を握って笑顔を見せた。




 それからしばらく進むと、洞窟の中間地点に到着した。ここはボスの固定湧きスポットなので、誰かが倒さない限り常に〈闇色の大蛇〉が居座っている。


「……っ、すごい。姿が見えないのに、圧を感じる……!」


 斥候として先に〈闇色の大蛇〉――大蛇を見に行こうとしたリーナの足が、わずかに震えている。

 ……確かに、ここにきたら空気もひんやりした気がする。


 私は深呼吸を繰り返し、体を落ち着かせてから全員に支援をかけ直す。それを確認するとすぐ、リーナが震える足を叱咤して斥候へ向かってくれた。気丈にしている姿は、さすがとしか言いようがない。


「シャロン、〈闇色の大蛇〉のおさらいをするぞ」

「うん」

「大蛇は……色が黒く巨体で、その太さは約三メートル。鱗は硬くて剣と魔法が効きづらいから、顔を狙う……だったよな?」


 ケントが全員に聞こえるよう説明してくれたので、私は頷く。


「そう。口から舌を一回だしたら、尻尾を使った全体攻撃がくるからジャンプで避けて。舌を二回出したら、鱗を飛ばしてくる。これはかなり攻撃力があるうえに、スピードもある。避けるのはあきらめて、私がかけた防御スキルで弾く感じかな。すぐにかけ直すから、安心して当たってくれていいよ」

「……わかった。俺はシャロンを信じてる」

「わたしもですにゃ」

「シャロンの腕は一級品だからな」


 大蛇が使うスキルの説明をしたら、タルトだけではなく、フレイたちも私のことを信じて戦ってくれるという。

 ……くうう、支援冥利に尽きるね!


「私の支援が火を噴くぜ! っていうくらい頑張るから、ガンガンいっちゃって!」

「ああ、もちろんだ!」


 フレイの頼もしい返事を聞いたところで、単独で様子を見に行っていたリーナが戻ってきた。


「いた、いたよ! すっごくでかい大蛇が!!」


 リーナの言葉に、全員が真剣な表情でごくりと息を呑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大混乱…昔のメガ○ンの『青銅の箱』みたいなアイテムなんですね。
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