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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード5 悪役令嬢はもう終わりです!
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8 今日も桃が食べたい!

 翌日、私たちは〈桃源郷〉を後にした。向かうは国外追放が解除されたらしい私の故郷、〈ファーブルム王国〉だ。


「南門を出てまっすぐ南下していくと、ダンジョン〈大蛇の洞窟〉があるんだ。その洞窟を通り抜けると地理的にはファーブルムだよ」

「へええ、結構簡単に行けるんだな」


 感心したケントの声に、私は首を振る。


「洞窟の真ん中くらいにボスの大蛇がいるから、倒さないと駄目なの。そこそこ実力がないと、使えないルートかな」

「まじか。シャロンがそう言うくらいだから、強いんだろうな」

「私たちなら余裕だから、大丈夫!」


 ということで、ドラゴンに乗って出発――ではなく、ひとまず観光予定の枝垂桃までは歩いてみることにした。おばさんがお勧めしてくれたので、おそらくそこまで距離はないだろう。


「んじゃ、俺が先頭を歩くぞ」

「お願い!」


 ケントが周囲の警戒をしつつ歩き出したので、私たちもそれに続く。


 ……そういえば、おばさんには詳細な場所を聞かなかったね。

 しかーし! 私はゲーム時代に見たことがあるので、枝垂桃の場所もバッチリ覚えているのです。ゲームでも綺麗なグラフィックで、お気に入りポイントにしているプレイヤーは多かった。それを現実で見られてしまうのだから、楽しみで仕方がない。


「モンスターだ! 〈挑発〉!!」

「っとと、〈必殺の光〉! それから支援……っと」


 ケントの声で我に返り、私は支援をしていく。現れたのは〈桃泥棒〉といって、盗んだ桃を投げて攻撃してくるというモンスターだ。こいつのドロップアイテムは〈熟した桃〉と〈未熟な桃〉の二種類だけであまりおいしくはないのだけれど、その分ギルドの討伐依頼の報酬がほかのモンスターよりも高くなっている。


 フレイが一撃で倒してしまい、「なんだ弱いじゃないか」なんて言う。そして光の粒子になって消えた〈桃泥棒〉のところに、ルルイエが走っていく。


「……桃!」

「あ、ルル! それは〈未熟な桃〉だから美味しくないよ! ……たぶん」


 せっかくなら〈熟した桃〉が落ちてくれたらよかったのだけれど、あれは確かドロップ率が5~10%だったはずだ。


「ええ………………美味しくない」

「あー、やっぱりね」


 私は苦笑して、「そのうち〈熟した桃〉が出るよ」とルルイエを慰める。それに反応したルルイエの目がキュピンと光った。


「たくさん倒す! 〈ダークアロー〉!!」


 ルルイエは高く跳び上がって、周囲にいた〈桃泥棒〉に向けてスキルを放ちまくった。いつもは一歩引いたところにいるルルイエだが、食べ物が絡むと張り切ってくれるようだ。


 ……今度何かあれば、美味しいもので釣ろう。


 一匹、二匹、三匹……と〈桃泥棒〉を倒すがまだ出ない。


「むう……ん?」

『アチョチョチョチョ!』

「桃!」


 飛びだしてきた〈桃泥棒〉がルルイエ目がけ、桃を投げて攻撃した! ――が、それをルルイエが口を開けて受け止めてしまった。


「いくら桃だからって、攻撃を食べるのはどうなの?」


 ルルイエがもぐもぐしているところを見ると、問題なく食べられるようだ。しかしタルトは顔を青くして、「お腹の薬が必要ですにゃ!?」とポーションの準備をしてくれている。

 すると、食べ終わったルルイエがとても悲しそうな顔をした。


「…………不味い」

「あー……。どう見ても、攻撃で投げてる桃は硬そうだからね」


 ピンク色にもなっていない、硬い桃だ。食べるときに変だと気づきそうなものだけれど、もしかしたら美味しいかもしれないという1%の可能性にかけたのかもしれない。ルルイエは新たに出てきた〈桃泥棒〉に、怒りの〈ダークアロー〉をかましている。ちなみに、ルルイエが無双状態なので、私たちは見物しているだけだ。


 そんなことを考えていたら、「出た!」と嬉しそうなルルイエの声が耳に届いた。さすがです。桃への執念がすごい。


「わ、美味しそうですにゃ」


 ルルイエが手に持っている〈熟した桃〉はキラキラ輝いていて、まさに食べごろですというのを桃が主張しているみたいだ。


「美味そうだな……」

「こんな桃、見たことないわ」

「オーケー、みんなで食べよう」

「輝いています……」


 フレイ、ルーナ、リーナ、ミオもごくりと喉を鳴らしている。かくいう私も、〈熟した桃〉の芳醇な香りによだれが出そうになってしまって仕方がない。


「……ルルの持ってる一つじゃ足りないから、もっと狩って、せっかくだから枝垂桃のところで食べるのはどう?」

「「「賛成!!」」」

「賛成ですにゃ!」

「もっと狩る……!」


 みんなの意思が一つになった――!



「〈魔力反応感知(マナサーチ)〉あっちにモンスターの気配あり!」

「よし、〈挑発〉!!」

「任せて! 〈ダークトルネード〉!」


 ココアが〈桃泥棒〉を探し出し、ケントがおびき寄せ、ルルイエが攻撃する。なんとも効率がいい倒し方だ。

 ケントはどんどん進んでいるけれど、幸い進路は枝垂桃に向かっている。特に私が場所を教えなくても到着しそうだ。



「んんん~~っ! 美味しすぎる!!」

「美味しい~!」

「幸せですにゃ~!」

「ん、これは最高の桃……!」


 枝垂桃の木の下で、私たちは〈熟した桃〉を堪能しています。

 ピンク色の小さな花が下に向かって咲き、その合間に小さな桃が実っている。すぐ近くには木で作られたベンチがあり、ゆっくりすることができた。観光する場所としてはもってこいだが、〈桃泥棒〉がときおりやってくるので、一般人が来るのは難しいだろう。


 桃はタルトが手際よく剥いてくれて、私は食べるだけという贅沢をさせていただいております。


「それにしても、やっぱりこの桃は素敵だねぇ」


 思わず寝転んで枝垂桃を眺めたいほどだ。


「圧巻ですにゃ! お師匠さまと一緒だと、いろんな景色を見ることができて楽しいですにゃ」

「ふふっ、これからもいろんな景色を見るために冒険するからね。まずはダンジョン〈大蛇の洞窟〉で洞窟探検を味わうところからかな?」

「それはいい景色なのか……?」


 私の言葉に、速攻でケントがツッコミをいれてきた。確かに洞窟を探検する気分は味わえるけれど、景色がいいかどうかと問われたら……まあ、よくはない。だって暗くてジメジメした洞窟だし。


「うーん……。ファーブルムに到着するまでの間に、いい景色がないか期待するしかないね」


 肩をすくめながらそう告げると、みんなが笑った。

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