6 〈リーフイーグル〉との戦い
バサバサッと力強く風を切る〈リーフイーグル〉に、思わずみんなの顔が引きつっている。だけどそれも仕方のないことで。なんせ〈リーフイーグル〉は、でかいのだ。
「なっ、んだこの……巨体!! 〈挑発〉!!」
ケントがすぐさまスキルを使い、〈リーフイーグル〉の敵意を自分に集中させる。そのまま攻撃を防御しつつ、「こっちだ!」と〈リーフイーグル〉を塔の中心部へと誘導する。塔の端で戦闘するのは危険なので、いい判断だ。
「〈聖女の加護〉〈守護の光〉〈月の光〉! 回復は私が担当するから、どんどん攻撃しちゃって! 〈リーフイーグル〉は結構強いから、早く倒さないと大変だよ!」
「「「応!!」」」
「にゃっ!」
私の言葉に全員が返事をし、戦闘開始だ。
〈リーフイーグル〉は鷲型のモンスターだ。ただし羽の部分が植物の葉でできていて、食べるものは木の実だけという草食モンスターだったりする。大きく迫力はあるが、攻撃力はそこまで高くない。その代わり素早さが高いので、攻撃を当てるのが少し厄介だろうか。
「氷の息吹よ、我がためにその姿を変えて敵を撃て――〈氷柱の矢〉!」
「ルーナ! よし、これで先制――何!?」
ルーナが使った魔法を、〈リーフイーグル〉はいとも簡単に避けてしまった。そう、これが〈リーフイーグル〉の厄介なところだ。フレイは驚き、しかしすぐ気を持ち直す。剣を構えて、ぐっと地面を蹴った。
「やああぁぁぁっ!」
『クィー!』
しかし〈リーフイーグル〉は、フレイの剣に斬られることを恐れて空高く飛び上がった。こちらの攻撃に対応した回避手段を使ってくるので、モンスターの中では知能がある方かもしれない。
「なっ、飛んだ!」
「フレイ、わたくしに任せてください!!」
杖を構えたミオが一歩前に出て、キッと〈リーフイーグル〉を睨みつけた。巫女の彼女は弱体化スキルも多いので、こういった戦闘では役に立つ。
「空を飛んでいられるのも、今のうちよ! 〈沼落ち〉!!」
ミオがスキルを使うと、〈リーフイーグル〉の足元の空間がゆがみ、黒い沼のようなものが出現した。そしてそれが〈リーフイーグル〉を包み込むと、バタバタと羽を動かし抗うも地面に落ちてきた。
……空中にいる敵に使うと効果的だけど、ちょっとだけ罪悪感があるね。
みんなが〈リーフイーグル〉をフルボッコにしているのを見つつ、ときおり回復し、後少しで倒せる――というところで、もう一匹やってきた。
『クイィ!』
「まさかの二体目!? 〈挑発〉!!」
ケントのスキルを受けた二匹目は、鋭い足の爪でケントに襲いかかる。一匹目が瀕死状態になっているので、二匹目の気が立っているのがわかる。
「だから早く倒したかったんだけど、仕方ないか……」
私がぼそりと呟くと、ココアが「どういうことなの!?」と魔法を使いつつこちらを見た。もしかしたら、何か攻略法を私が知っていると思ったのかもしれない。
残念ながら、そんなことはない。
「私たちのパーティ、フレイたちのパーティ、それぞれクエストを受けたでしょ? だからそれぞれ一匹ずついるんだよ」
「「「えええぇっ」」」
「あ、なるほどですにゃ!」
「そういうこと……」
みんなが驚くなか、タルトは手を打って納得している。ルルイエも頷き、「それなら二匹とも倒せば解決」と言ってフレイに向かって走り出した。
「フレイ」
「!? ……っ、わかった!」
え、いったい何がわかったの?
どうやら戦闘中の二人にしかわからない何かがあったのだろう。フレイはすぐさま腰を落として、体の前で手を組んでみせた。そこにルルイエが勢いよく足をかけると、フレイはぐっと力を入れてルルイエを空に押し上げた。ルルイエは勢いで高くジャンプし、〈リーフイーグル〉より高い位置につく。
「おおっ!」
人間、脚力だけであんなに高く跳べるのか。……いや、ルルイエは人間じゃなかったね。たぶん女神だった。たぶんね。
「――闇より深き混沌よ、我の命に応えよ。〈深淵より深き闇〉」
ルルイエがスキルを使った瞬間、空間がゆがんでそこから何本もの黒い光が降り注いで〈リーフイーグル〉を貫いた。
「これは……いったい、なんだ?」
「わたくしが使うスキルより、ずっとずっと恐ろしさを感じます……!」
フレイとミオが目を見開いてルルイエを見ているが、本人はけろりとしている。〈リーフイーグル〉が光の粒子になって消え、ルルイエはこっちにむかってブイサインをしてきた。可愛いかよ。
「倒しましたにゃ!」
タルトが歓喜の声をあげると、私たちの前にクエストウィンドウが現れて、クエストの達成を告げた。
「ああ、〈リーフイーグル〉を討伐していただけるとは……。なんと礼を言えばいいか……」
「本当にありがとうございます」
管理人と世話係が揃って頭を下げる。これで〈大きな桃〉をモンスターに食べられてしまうこともなく、無事に収穫できると喜んでくれた。
「よかったですにゃ」
「ん」
タルトとルルイエが嬉しそうにしていると、管理人が「お礼と言ってはなんですが……」と報酬の話にはいった。
「この〈大きな桃〉はとても貴重なものですが、みなさまにでしたらお譲りさせていただきます。必要なときは、いつでも声をかけてください」
「本当ですにゃ!? ありがとうですにゃ! さっそくほしいですにゃ~!」
「わたしも食べたい」
すぐに購入の意思を伝えると、管理人は「ありがとうございます」と微笑んだ。
「一つ、一〇万リズです」
「……にゃっ!?」
値段を聞いたタルトが、ぴゃっとその場で飛び上がった。わかる、桃一つに一〇万リズって高いよね……。ただ、この〈大きな桃〉はいいこと尽くしなのだ。今まではゲームだったから味は知らないけれど、食べると体力、マナが全回復。さらに一〇分間、体力とマナが三〇%アップする。
いい値段ではあるけれど、常用せずたまに使う分には問題ない。
タルトが顔色を悪くして、私のところにやってきた。
「どどど、どうしますにゃ?」
「もちろん買うよ! 私は自分の分のストックを一〇個と……実家へのお土産は三個かな?」
私は悩んでいるタルトの横で、しっかり〈大きな桃〉を購入する。支援職として、ピンチになる場面は絶対にある。この桃は、支援職にとって生命線の役割をしてくれる。
……ゲームではそうだったんだけど、現実になった今は……あの桃を食べなきゃいけないなら話が変わってくるけど……ひとまず考えないことにした。
「俺は五個買うぞ!」
「私も!」
ケントとココアも購入し、ルルイエは「買えるだけ!」と言ったので私が一〇個に留めさせるなどした。
フレイたちはそれぞれ一つずつ購入し、タルトは考えた末に三個購入していた。
***
私たちは〈桃源郷〉の宿に数日滞在することにした。今は宿の一室に集まって、今後の話をしている。
「このままファーブルムに行くんだったな? ここからどうやって行くか、道はわかっているのか?」
「〈桃源郷〉を知ったのも初めてだし、地理がさっぱりわからないわよ」
フレイとリーナの言葉に、私はどうやってファーブルムに行くか説明していく。
「ここから南に進んでいくと、ファーブルムに続いてるんだ。途中でダンジョン〈大蛇の洞窟〉を抜けた先が、ファーブルムなの」
「――! またダンジョンを通るのか」
「うん。そこでレベルも上げたいと思ってるんだ」
ダンジョンという言葉に、フレイの目がキラリと輝いた。フレイたちは〈冒険の腕輪〉を手に入れ、今までとは桁違いに強くなった。新たな敵と戦いたくて仕方がないのかもしれない。ケントもワクワクしているようだ。
「レベル上げをしたら、ルーナとリーナ、ミオは覚醒職へ転職っていう一大イベントも待ってるもんね」
「「「えっ!?」」」
ルーナ、リーナ、ミオが揃って声をあげた。
「三人には頑張って覚醒職になってもらって、一緒にダンジョンに行ってほしいからね……!」
まだ先の話かもしれないけれど、私はみんなでIDへ行きさらなるレベルアップを考えていることを熱く語った。