2 久しぶりの再会
私たちは冒険の準備をするために――〈木漏れ日の森〉にやってきた。ここは〈オーク〉〈スネイル〉〈スパイル〉の三種類のモンスターが生息している。メインターゲットはもちろん〈オーク〉で、低レベルのうちは重宝する狩場だ。
「ルル、頑張ってにゃ!」
「……任せて。〈ダークアロー〉!」
出てきた〈オーク〉を、ルルイエが魔法で倒すだけの簡単な遊びです。
「なんというか、さすがというか……」
ルルイエの圧倒的な力に、私は感心してしまう。ダークアローなんて、初歩の初歩スキルのようなイメージなのに、ルルイエが使うととても強い。〈オーク〉を一撃で倒してしまう。〈オーク〉が光の粒子になって消えると、ルルイエはピースをして「レベル上がった!」と嬉しそうにしている。
……そう、ルルイエはなんとレベル1だったのだ!!
私たちはレベル上げの聖地になりつつあるこの森で、ルルイエのレベル上げをしている……というわけだ。
「どんどんレベルが上がると、気持ちいいですにゃ。早くパーティを組んで、一緒に狩りがしたいですにゃ」
「ん!」
タルトの言葉に、ルルイエが力強く頷く。これから私たちと一緒に旅をするならば、強さは必須だからね。
――そんなルルイエの左腕には、〈冒険の腕輪〉がある。駄目元でクエストを受けてもらったら、ルルイエも腕輪を取得できてしまったのだ。
「きた! 〈ダークアロー〉!」
〈オーク〉ががさりと茂みを揺らすより早く、ルルイエが気配を察知して魔法を放つ。ルルイエは感覚が研ぎ澄まされているからか、単純に基礎スペックが高いからなのか、敵の気配察知に長けていた。
「倒すたびにレベルが上がりますにゃ」
「ん~、これは狩場を替えてもいいかもしれないねぇ」
「ドラゴンですにゃ!? さすがに早すぎじゃないですにゃ!?」
私の言葉に、タルトがぴゃっとジャンプした。
そんなレベル上げを何日か繰り返し、長らく滞在していたツィレを出る日がやってきた。
***
「うおおお、ここから俺の大冒険がスタートだ!!」
ケントは目をキラキラさせていて、これから行く〈桃源郷〉が楽しみで仕方がないらしい。わかるよ、新しい場所ってドキドキワクワクしちゃうもんね。私だって、どれだけ幻想的な景色を見れるだろうって、浮かれている。
ちなみにケントとココアには、〈桃源郷〉で冒険して私の実家に行き、その後もいろいろなところを旅すると話したところ、二つ返事で一緒に行くと言われた。
私はパンッ! と手を叩き、「出発しようか」と声をかける。ケント、ココア、タルト、ルルイエ、四人とも準備は万端だ。
「じゃあ、とりあえずゲートを使って〈氷の街スノウティア〉まで行こうか」
「「おー!」」
「にゃっ!」
「シャロンじゃないか!?」
「へ?」
私たちが気合を入れた途端、突然声をかけられた。凛として力強いこの声は、聞き覚えがある。私はまた会えたことに頬を緩ませながら、すぐ声のした方を振り返る。
「フレイ!」
「私たちもいるわよ」
「シャロン、久しぶり!」
「ルーナ、リーナも!」
姿を見せたのは、以前〈エルンゴアの楽園〉の道案内をし、タルトの病気を治すための手伝いをしたフレイ――〈勇者〉パーティだ。
「みんな、久しぶりですにゃ」
「「「タルト!!」」」
タルトが飛びだして、フレイたちに抱きついた。うんうん、久しぶりの再会だから、嬉しい気持ちが高ぶっちゃうよね。私はそう思っていたのだが、あれ、一番肝心な人――タルトの姉のトルテの姿がないことに気づく。代わりに、一〇代半ばくらいの女の子が一緒だ。
「おねえちゃんは一緒じゃないんですにゃ?」
「ああ、トルテは家に残ったんだ。元々、私たちのパーティに入っていたのもタルトの病気を治すためのアイテムを探すためだったからな」
「それなら、お母さんとお父さんも寂しくないですにゃ」
フレイの説明を聞き、トルテに会えなかったのは残念だけど、なるほどと納得する。トルテには大冒険だったろうから、家で両親とゆっくりする時間を取ることも大切だ。
私はフレイにケント、ココア、ルルイエを紹介する。もちろんルルイエのことは闇の女神ですなんて説明はせず、可愛い女の子ルルで通す。
「一緒にパーティを組んでるケント、ココア、ルルだよ」
「「はっ、初めまして!!」」
「よろしく」
ケントとココアが緊張した面持ちで挨拶をし、ルルイエはぺこりと頭を下げた。
「よろしく。私はフレイ。一応〈勇者〉として世界を冒険している。シャロンにはものすごく世話になったんだ」
「私はルーナ。この子の双子の姉よ。シャロンの支援の腕には驚かされてばかりだったのよ。今もそうなのかしら?」
「私はリーナ。斥候が得意だよ。まあ、シャロンの知識にはびっくりだけど……よろしくね」
……みんな私のことを持ち上げすぎじゃない?
そんなことを思っていると、一歩後ろに控えていた女の子が挨拶のため前に出てきた。それに気付いたフレイが、すぐ紹介してくれる。
「彼女はミオ。私たちのパーティの〈巫女〉だ」
「〈巫女〉! 私と同じで、支援職だ」
ミオと呼ばれたのは、綺麗に手入れがされた薄水色の髪を丁寧に結わいている、水色の瞳が可愛らしい女の子だ。いわゆる和装の巫女服のデザインをさりげなく取り入れた装備を身に着けていて、手には杖を持っている。
物腰が柔らかで、上流階級の出身だろうということが一目でわかってしまう。フレイたちのパーティにいるということは、きっとかなりの実力者なはずだ。
〈巫女〉の職業は、〈癒し手〉から転職する二次職だ。神に祈って使うスキルが多いので、強化と弱体化系が多い。短期決戦には不向きだけれど、長期戦の場合は仲間にいると心強い。
「ミオと申します。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「シャロンです。よろしくお願いします、ミオさん」
私が握手を求めて手を差し出すと、ミオもそれに応えてくれる。
「わたくしたちは、同い年くらいでしょう? 敬称も、敬語も必要ありません。どうぞ仲良くしてくださいね」
「……なら、お言葉に甘えて。よろしくね、ミオ」
「はいっ」
ぎゅっと握手を交わすと、ミオは花がほころんだよな、とろけるような可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「そういえば、みなさんは狩りに行くところでしたか?」
ミオの言葉に、今後のことことをフレイたちにも話すことにした。せっかく久しぶりな再会だというのに、私たちは今からこの街を出る。特にタルトはフレイたちと昔から交流があっただろうし、このまま別れてしまうのは寂しいかもしれないよね。
「私たちは今から街を出るんです。世界各地を見たいので、ファーブルムに行ったりもしますよ」
「美味しい桃を食べにいく」
「「「桃?」」」
あまりにも楽しみだったのか、ルルイエが嬉しそうに告げた。あまりにもピンポイントな目的だったため、フレイたちが首を傾げた。
「あはは。〈桃源郷〉の桃が美味しいから、私の実家へも寄るのでお土産にする予定なんです」
「「「〈桃源郷?〉」」」
「聞いたことがないな……。私も行ってみたい、シャロン!」
さらに首を傾げるルーナたちだが、フレイの目が一気に輝いた。