1 鍵の使い方
連載再開、よろしくお願いいたします!
ここは〈エレンツィ神聖国〉の〈聖都ツィレ〉。――の、私が滞在している宿屋の部屋だ。机の上に置いた鍵を、私はタルトと一緒に睨むように見ている。
以前ティティアがクエストの礼にくれた鍵なのだけれど、今はわずかにキラキラと輝いていて、使用可能だということが一目でわかる。ただ、どこで使う鍵だとか、そういった情報は一切ない。
「お師匠さま、この鍵はどうしますにゃ? 光ってるから、使ったらすごいことが起きそうっていうのはわかりますにゃ」
「そうだねぇ……」
私はタルトの問いに、ううーんと頭を悩ませる。
どこか期待に満ちた目で見ているタルトは私の弟子で、職業は〈錬金術師〉。可愛い可愛い弟子のために一肌脱ぎたいところだけれど、私は正直嫌な予感しかしなかったりする。
……鍵アイテムの使い方は、いくつかある。クエスト中に入手し進行時に使う場合は、どこかの扉を開けるという線が濃厚。しかし今回はクエストが終了しているので、特定の扉を開ける用途で使う可能性は低いのではないかと考えている。
「とりあえず、試してみますか」
私は机の上から鍵を取って、部屋のドアのカギ穴に鍵を差し込んだ。
「にゃにゃっ!? この部屋の鍵は、ちゃんと持ってますにゃ!」
「まあまあ」
タルトが宿の鍵を確認しようとした瞬間、私の目の前にウィンドウが現れた。どうやら使い方は合っていたみたいだ。
「にゃ!? いったいどういうことですにゃ?」
「ここに書いてある通り……かな?」
驚くタルトと一緒に、ウィンドウの内容を確認していく。
聖女の試練
人数制限:12
世界のために祈り、聖女であることを誇りなさい。
仲間と共に女神フローディアに挑み、あなたは新たな強さを手に入れる。
インスタンスダンジョン――いわゆるID。簡単に説明すると、自分たちのパーティだけが入れるダンジョンが作られるということだ。ほかの人間は、入ってくることができない。
「どういうことですにゃ?」
タルトが頭にクエスチョンマークを浮かべているので、私はダンジョンの仕組みを説明してあげた。
「パーティ人数の上限が一二人だから、レイド戦だね。難易度が不明だけど、たぶん……かなりきついと思う」
何せ、ボスが女神フローディアとある。絶対に強いだろうし、仲間も装備も、作戦も、すべてを揃えてかからなければ勝てないだろう。私がそんなことを説明すると、タルトはさああっと顔を青くした。
「女神と何回戦わせるつもりなんですにゃ……」
「本当にねぇ……」
タルトの言葉には、同意しかない。あんな総力戦のようなこと、そう簡単にできるわけがない。私が鍵を使わずに抜くと、ウィンドウが消えた。扉を開けない限り、ダンジョンが作られることはない。
……とはいえ、挑戦はしてみたいね。
その場合は、まずパーティメンバーを集めるところから始めなければいけない。心当たりのある顔が何人か浮かぶけれど、すぐにというわけにはいかないだろう。私は一つ息をついて、「それより、今後のことを相談しよっか」と一通の手紙を取り出した。
「手紙ですにゃ?」
「うん。……お兄様から」
つい先日までツィレに滞在していた私の兄、ルーディット。無事に家へ帰り、私のことを家族に話し、手紙を送ってくれたのだ。そこには、私が国外追放されたことに関しては撤回されたので、気兼ねなく帰ってくるよう書かれていた。もし旅を続けたいならそれでもいいが、顔を出すくらいはしてくれと書かれている。特に父からその旨を熱望しているらしい。
「ルーディット様ですにゃ?」
とたんに、タルトの瞳が輝く。タルトはルーディットに助けてもらったことがあるので、とても好意的な気持ちを持っている。
「そう。私も国に戻っても大丈夫そうだから、顔を出そうかな」
「賛成ですにゃ! ルーディットさまも、ご家族の方も、とっても喜ぶと思いますにゃ!」
ということで、さっくり実家に顔を出すことが決まった。
「お土産も買っていかなきゃですにゃ!」
「あ、そうだね。……せっかくなら、珍しくて、美味しいものがいいかな?」
どうせなら、行ったことのない場所でお土産を探そう。いい景色も見れて一石二鳥だし、レベル上げをすることもできる。そんなことを考えていたら、私の耳に弾んだ声が届いた。
「美味しいもの……?」
「おかえり、ルル」
「おかえりなさいにゃ」
美味しそうな菓子パンの入った袋を抱えて戻ってきたのは、闇の女神ルルイエだ。どういった理由でそうなったのかはわからないけれど、自我を持ち、喋り、私たちと交流を持つことができるようになった。
最初はあまり喜怒哀楽を見せなかったけれど、食の素晴らしさに目覚め、今では趣味が食べ物になっている。
ルルイエと呼んでいるところを聞かれると、闇の女神!? と周りがざわついてしまうので、ルルと呼ぶようにした。
「お師匠さまの家に遊びにいくので、美味しいお土産を持って行くんですにゃ」
「シャロンの家?」
タルトが説明すると、ルルイエは目を瞬かせてきょとんとさせた。
「私の家は、隣にある〈ファーブルム王国〉の〈王都ブルーム〉にあるんだよ。一応、公爵家だから美味しいものも出ると思うよ」
「すぐ行く」
私の美味しいものという言葉に、ルルイエが即座に反応した。それが可愛くて少し笑ってしまったけれど、残念ながら遠回りをしながら行くので到着には時間がかかる。
「せっかくだから、〈桃源郷〉の桃を持っていこうと思うんだよね。〈桃源郷〉の桃はほっぺが落ちるくらい美味しいんだよ」
「「……!!」」
ルルイエとタルトの目がキラキラ輝き、まだ見ぬ桃に期待を寄せているのがわかる。私も現実では食べたことがないけれど、〈桃源郷〉の桃は美味しいとNPCが言っていたので、実際に食べたいと思っているプレイヤーは多かったと思う。
「それじゃあ、今後のことは決定だね。レベルを上げつつ私の家に顔を出して、戦力が整ったら鍵を使ってダンジョンに挑もうか」
「はいですにゃ!」
「がんばる」
タルトが元気よく返事をし、ルルイエも桃のために大きく頷いてくれた。
月・水・金の19時更新で頑張ります~!
最終章の予定ですので、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。
現在小説は4巻まで発売中です。
加筆修正・番外編もありますので、書籍もよろしく~~~~!