48 クリスタル大聖堂での戦い
7時、12時、19時の3回更新です。
「〈栄光の光〉!」
私がスキルを使うと、留守番組から「わああぁぁっ」と歓声が上がる。今まで使っていた〈身体強化〉の上位互換だからね。体の動かしやすさがよくなっているはずだ。
「力がみなぎってくる。これならいけるはずだ!」
ケントがぐっと拳に力を込めて、気合を入れる。それにすかさずブリッツも頷き、「絶対にロドニーを捕えましょう」と力強い声をあげた。
ブリッツとミモザが〈聖堂騎士〉たちの指揮をし、クリスタル大聖堂に突入する。私たちもそれに続き、一直線でティティアの部屋へ向かう。今度こそ、〈ルルイエ〉にだって負けたりしない。
前から走ってくる敵の〈聖堂騎士〉を見て、ケントが「止まれ!」と叫ぶ。相手をしている暇はないので、別の道にした方がいいだろう。そう思ったのだが、「待ってください!」と相手が叫んだ。
〈聖堂騎士〉たちは手にしていた剣を床に投げ、跪いた。
「私たちはティティア様にお仕えしたいです!」
「ロドニーに協力するなんて、もう嫌です」
「「「もう一度、ティティア様にお仕えさせてください」
懇願する騎士たちの前にリロイが立ち、「では」と言葉を続ける。
「ティティア様の役に立つことを証明してください。私たちは〈ルルイエ〉の相手をしなければいけませんから」
「……っ! ご案内します」
「必ずや、お役に立ちます!!」
騎士たちは立ち会がり、「こっちです!」と先頭を走り出した。どうやら〈ルルイエ〉のところまで案内してくれるようだ。
私たちは頷きあって、騎士たちの後に続いた。
長い廊下を走り、階段を上り、一〇分と少し走ったところでティティアの部屋の前に到着した。〈ルルイエ〉は相変わらずこの部屋にいるようだ。
私が騎士も含めて全員に支援をかけると、ケントが気合を入れて腹から声を出す。
「よっし、行くぞ!」
「うん!」
絶対に負けないという強い意志を持ち、部屋の扉を開けた。
真夜中というだけあって、部屋の中は薄暗かった。奥にある大きな窓から入る月明かりのおかげで、少し部屋のなかが見えるくらいだろうか。だけど、禍々しい雰囲気は確かに感じる。
部屋の中を見回していると、中央の天上からブランコが吊り下げられていることに気づいた。ダンジョンで〈ルルイエ〉が乗っていたものに似ている。
「〈挑発〉! 勝負だ、〈ルルイエ〉!!」
『――んっ!』
瞬間、ルルイエの闇魔法が大剣に当たってヴァンッ! と異様で大きな音が立つ。
「魔法攻撃!? 〈守護の光〉!!」
「〈ポーション投げ〉にゃ!」
「〈必殺の光〉」
ケントにはバリアを、攻撃を終えたタルトには攻撃支援をかける。今のところこちらにダメージはないけれど、〈ルルイエ〉は無傷で倒せる相手ではない。
〈ルルイエ〉は杖を大きく振って、『闇よ……』と不敵に微笑む。強い闇魔法攻撃がくるであろうことは、簡単に予測できる
「ケント!」
「おう!」
私はケントのすぐ横に行き、左手を前に出す。装備している〈フローディアの雫〉がぱあぁと光り、私の前に透明な魔法陣が現れる。
「反射しろ!」
『――っ!?』
〈ルルイエ〉が闇魔法攻撃をしてくるのと、私が装備のスキルを使うのは同時だった。この装備は、『闇』属性の攻撃をすべて反射するスキルがついていた。
……まったく酷いチート装備だよ。
〈ルルイエ〉が作り出した、まるでブラックホールのような闇の塊。その攻撃を見事に反射し、すべて〈ルルイエ〉へ跳ね返った。
『キャアアァァァアアァッ!』
切り裂く悲鳴と共に、〈ルルイエ〉のお腹に反射された闇の塊が命中する。そのまま吹っ飛んでいき、背中からぶつかった壁に亀裂が入った。
あんな威力のが直撃してたら、私こそただじゃすまなかったね……!
ぞくっとした心臓を押さえるように、私は深呼吸をして気持ちを整える。大丈夫、私たちは勝てる。〈ルルイエ〉の攻撃は闇なんだから、今みたいに反射すれば負けない。
私はケントからいったん離れ、〈ルルイエ〉が動き出す前に急いで支援をかけ直す。マナがかなり減ったので、回復するのも忘れない。
「いくよ!」
「〈ポーション投げ〉!」
「〈無慈悲なる裁き〉!」
タルトとティティアの攻撃が上手く命中し、〈ルルイエ〉が呻き声をあげる。前回と打って変わり、かなりいい調子ではないだろうか。
そう思うけれど――外見が可愛い女の子なので、なんというかやりづらさも感じてしまう。一瞬でも手を抜けばやられてしまうのに、こんなことを考えてしまうなんて。
「シャロン、また魔法が来るぞ!」
「任せて!」
私はもう一度前に出て、反射する。しかし〈ルルイエ〉も多少は学習しているのか、今度はそれを避けた。
「……っ! せっかくの反射なのに……避けるとか、やば!」
〈ルルイエ〉の攻撃を一瞬で反射しているので、本来ならば逃げる術なんてない。けれどそれを可能にしているのは、〈ルルイエ〉の身体能力の高さもあってだろう。
反射は防御と割り切って、攻撃していくしかないか。
私はよほどヤバイ攻撃以外は前に出ない方がいいだろうと考えて、いったん後ろに下がる。ちょうどココアが立っているくらいの位置だ。
すると、ココアが奥の壁を戸惑いながら指差した。
「シャロン、あれって……」
「え?」
私が視線を向けた先にあったのは、ここに最初に忍び込んだときにも見た、禍々しいルルイエの魔法陣だった。〈火炎瓶〉を投げて壊そうとしても無理だったものだ。
忌々しい。そう思って魔法陣を睨みつけると、ココアが「変じゃない?」と言い出した。
「いや、変なのかどうかはわからないんだけど……魔法陣から出てる黒い靄みたいなのが、〈ルルイエ〉と繋がってるように見えるの」
「!?」
ココアに言われてよく見ると、確かに魔法陣から出ている靄が〈ルルイエ〉のところに行っている。ただ、それがどういう状態なのかはわからない。
ただ、繋がっていることがいいことだとは思えない。〈ルルイエ〉が力を供給されているとか、そういうことを考えるのがいい。
というか、クエストで戦う敵はそういったギミックがあることは多い。この魔法陣を解除すると、〈ルルイエ〉の戦力を削れる可能性は高い。
……今まで負けていたのも、この魔法陣を破壊できていなかったからかもしれないね。
「あの魔法陣の破壊が勝利の鍵な気もするけど、どうやって壊すかが問題だよね……」
「〈火炎瓶〉でも駄目だったもんね……」
あの魔法陣の破壊方法がわからない。
〈聖女〉のスキル? けれど、取るかわからないスキルが鍵になるというのも、どうにもしっくりこない。
「シャロンのその装備は?」
「これ? でも、これは反射だから攻撃されないと駄目なんだよ」
「あ、そうか……」
ココアが提案してくれたけれど、魔法陣は私たちを攻撃してくるわけではないので、この装備のスキルは役に立たない。
「なんとかして考えてみる!」
「うん」
私はココアの横を離れ、再びみんなに支援をかけ直していく。多少の攻撃は受けているけれど、まだ致命傷は食らってない。回復は〈星の光〉で間に合っている。
〈ルルイエ〉が杖を振るうと、小さな闇の玉が飛んでくる。この程度であれば、私が反射する必要はない。各自で対処できる。
しかしここでふと、この小さな玉を反射して魔法陣にぶつけてみたらどうだろうと思いつく。一回では無理かもしれないけど、何回もやれば可能性はある。
……やってみる価値はありそうだね。
「ケント、私が〈ルルイエ〉の攻撃を引き付けるから、いったんストップして!」
「はぁ!?」
私の提案に、ケントが素っ頓狂な声をあげる。一番レベルが低くて、前衛とほど遠い私が攻撃を受け持つといったのだから、驚きしかなかったのだろう。
「大丈夫! 優秀な支援はボスを抱えながら支援するんだから!」
「まじかよ……!」
まじまじ。まあ、その場合は装備や消耗品類がもっと充実してなきゃいけないんだけど……今はまあ、仕方ない。
私はみんなから距離をとりつつ、反射で闇の玉を壁の魔法陣に当てられそうな位置取りをする。
……うん、ここならよさそう。
ココアが小声でみんなに作戦を伝えてくれているので、私から程よく距離を取ってくれている。
「シャロン、俺が下がったらすぐにやれよ! 無理そうだったら、すぐに前に出るからな!」
「オッケェ……!」
これは絶対に負けられない戦いだ!
私はぐっとお腹に力を入れて、〈ルルイエ〉目がけて思いっきり〈火炎瓶〉を投げつけた。爆発が起こり、〈ルルイエ〉の攻撃対象が私になる。
『…………』
「くる……!」
〈ルルイエ〉の周囲に小さな闇の玉がいくつも浮かび、それが私目がけて飛んでくる。当たっても即死するような攻撃ではないが、痛いことに変わりはない。しくじらないように、よく見て、スキルを使う。
「今! 反射!!」
私が左手を掲げると、いっせいに飛んできた闇の玉が反射で四方に飛んでいく。全部とはいかないけど、そのいくつかは壁の魔法陣に当たった。
「よしっ!」
「あ、魔法陣が弱くなったぞ!!」
「これなら、わたしでもなんとかできるかもしれません。〈無慈悲なる裁き〉!!」
もろくなった壁の魔法陣に、ティティアが攻撃した。すると、壁がパラパラ崩れおちていき、一緒に魔法陣も消え去った。
「やりましたにゃ!」
タルトの歓声が耳に届くのと同時に、〈ルルイエ〉のまとっていた闇の靄のようなものが晴れた。やっぱり、魔法陣と〈ルルイエ〉は繋がっていたんだ。
「これなら倒せるか――」
「シャロン!!」
「――!? しま……っ!!」
私の気がほんの一瞬緩んだ隙に、〈ルルイエ〉から特大の攻撃がきた。しかも攻撃は眼前にせまっていて、反射が間に合わない。
防御系の支援をかけているから、死なないといいなぁ……!
衝撃に備えて目をぎゅっと閉じた――が、なぜか衝撃がこない。私がおそるおそる目を開けると、パァンと〈ルルイエ〉の攻撃魔法が弾けて霧散した。
「な、なん――あ、〈聖なる雫〉だ!!」
うっかりしていたが、私はティティアから〈聖なる雫〉を貰っていたことを思い出した。これは、どんな闇属性攻撃でも一度だけ無効にしてしまうというものだ。
は――助かった。
「シャロン!? 大丈夫なのか!?」
「うん! バッチリ! だから、あとは弱っただろう〈ルルイエ〉を倒すだけ――!」
私は気合を入れなおし、支援をかけていく。
真っ先にケントが〈挑発〉をかけなおし、次々とみんなが攻撃スキルを使っていく。先ほどと違って、〈ルルイエ〉に余裕がないことがわかる。防御体勢こそとっているが、すべて防ぐことはできていない。
『……っ!』
〈ルルイエ〉は懲りずに、私に向かって闇魔法攻撃を撃ってこようとしている。しかも、今まで見た中で一番大きい。その大きさは、ゆうに〈ルルイエ〉の倍はあるだろうか。〈ルルイエ〉の姿が、魔法のせいでまったく見えない。
「シャロン、大丈夫か!?」
「任せて!」
この装備は、どんな規模の攻撃だって反射する。〈ルルイエ〉がどれだけ強力な魔法を撃っても反射してみせる!
「反射!」
私の目の前に来た闇魔法を反射し、これで勝利――そう思ったのに、私の首にひやりとした冷たいものが当たる感触がした。
「え……? くふっ!」
気づいたときには、私は首を引っ張られるかたちで体が宙に浮いていた。〈ルルイエ〉が手につけていた鎖を私の首に引っかけてきたのだ。
みんなが焦り私の名前を呼ぶが、それに返事をする余裕はない。私の体は〈ルルイエ〉によって思いっきり引っ張られ、そのまま勢いよく吹っ飛ばされて――窓を突き破って空へ投げ出された。
「シャロン!!」
一際大きなリロイの声に、ああ、これは本当にやばいぞと思う。首を鎖で圧迫されたせいで、声が出ない。
いくらなんでも、この高さから落ちたら助からないだろう。ティティアの部屋は、クリスタル大聖堂の最上階にあるのだから。
視界に入った赤い月が、まるで血の色みたいだ。
「……っと、……っ」
――もっと冒険をしたかった。
そんな風に思ったのだが、残念ながら声が出ない。せめて声が出れば、どうにかなったかもしれないのに。
しかしそう思った瞬間、大きく風を切る音と共に、視界から赤い月が隠れた。
「やっと見つけたぞ、シャル!」
「――!」