2話 蓮という少年
「竜太、お前も竜神剣以外の武器を扱える様にならないとだな。」
「え?でも、闇に対しては竜神剣って一番良いんでしょう?」
「それはそうだけど、これからの事を考えると、他の武器も使えた方が色々と役に立つ、って言う意味だよ。」
夕食を食べ終え、蓮を寝かしつけた後、ディンは説明が必要だろう、と皆を集めて茶室にいた。
その必要だろう、は現実に必要で、ウォルフやセレン、竜太、外園はもちろん、普段は集まりに顔を出さないリリエルですら顔を出していた。
「あの子、蓮君だったかしら?あの子が戦う意味は何処にあるというの?あの子は聖獣の守り手でも何でもないのでしょう?なのに、戦う理由があるのかしら。」
「……。それに関しては、言える事と言えない事がある、それは了承しておいてほしい。って言う前提の上で言うのであれば、蓮はリリエルさん達と同じだよ。」
「同じ?と言いますと、リリエルさんやセレンの様に運命を書き換えられてしまった、という事でしょうか?」
「ニュアンスとしてはあってるな。ただ、それ以上の状態ではある、それ以上の状態で、蓮は影響を受けている。俺達の敵、その存在の影響を受けて、蓮は両親を殺した。……。それ以前に止めていたとしても、蓮が影響を受けていた事、に関しては変えられなかっただろう。だから、じゃないけどな。デインが力を譲渡した、デインは、蓮が利用されるのを嫌がったんだろう。だから、蓮に力を与えて、俺に気づかせたのかもしれない。大いなる闇に蓮が利用されている事、犯されている事、それを俺に気づかせようとした。今のままの蓮じゃ、それに耐えられない。だから、戦いを教えるって言う事だ。」
ディンの説明、それは核心を隠した説明だ。
ディンだけが知っている事実、竜太ですら知らない、竜神王としては知っておかなければならない、そして、ウォルフと出会うまでは知らなかった、完全なる竜神王として成立して初めて、知った事実を元に考えた、ディンの中の仮説。
それが事実なのかどうか、に関しては、デインに聞いていない為わかっていない部分も多いが、しかし、竜神が人間に力を与える、という、前例のない事をする程度の事柄、というのは、限られてくるのだろう。
竜神が人間に力を分け与える、その事象は、ディンが知っている限りでは、起こった事がない事だった。
竜神の一千万年の歴史を纏めている図書館、にもその記述は一切なく、ディンの経験としては、悠輔とは肉体を一つとしていた時間があった、ディンと魂の同居をしていたから、悠輔は例外的に竜神の力を行使出来る、という認識で、竜太の場合は、人間であった坂崎竜太と、リュート・ライラ・アストレフという竜神の魂を一つにしている為、人間と同じ肉体で竜神の力を発現できている、その二つは知っていたが、それ以外、竜神が他者である人間に力を分け与えた、という歴史は、一切記録が無かった。
「デイン様が蓮君に力を与えた理由、についてはご存じで?」
「いいや、本人から聞いてないからわからない。そもそも、デインの力を他人であり人間である蓮が行使できる理由が俺にもわからない。魂が変質しているからか、それとも。わからない事ばかりだな。」
「それで、蓮君を鍛えるのを僕達も手伝えば良いの?」
「俺とリリエルさん、ウォルフさんと外園さんが蓮を鍛える、竜太は、別の武器を使える様になる事に集中して欲しい。」
「私が何かを他人に教える、と言うのは契約外の話、ではないの?」
「道中の警護、それは、鍛えるという意味合いもある、と言っておけば、鍛える事に関しても契約内の話ではあるだろう?それに、蓮に関しては、俺からの個人的な依頼だよ。リリエルさんの技は、竜太や蓮にとって必要になってくる、ウォルフさんの技術も、外園さんの魔法も、それに然りだな。」
竜太はまだまだ半人前、自分の修行で忙しくなるだろう、とディンは踏んでいて、リリエルとウォルフ、外園と自分で蓮に修行をつける、そういった段取りをしている様子だ。
「俺は反対だがね、あんなか弱いお子様を戦場に行かせるなんてのは、俺の性に合わんのだよ、竜神王サンよ。だが、お前さんがそう言うのであれば、ふむ……。それが必要である理由、については聞いても構わんかね?」
「戦場に実際に出すかどうか、に関しては俺も悩んでる。ただ、力をつけさせる事の意味、に関しては、あるとだけ言っておこう。蓮にとって、ここにいる皆との関わり、絆、そして技術は、必要になってくると思ってるよ。」
「……。それは、私達を信頼出来ないから、という意味なのでしょうか?蓮君を戦場に行かせる意味、それを伝えないと言うのは、私達では役不足、という事でしょうか。」
「それに関しては違う、と言っておくよ。今言えない事にも意味がある、蓮が何にどうしてどうなってて、それに関しては、俺もわからない部分が多いんだ。前例のない出来事だからな、神が人に力を与えるのではなくて、分け与えるって言うのは、この世界にとっても、セスティアにとっても、異常事態なんだ。神が使役する為に、民に権能の一部を与える、っていう前例ならある、ただ、なんのリスクも見返りも無しに、ただ人に力を与えた前例がない。って言っても、もしかしたら意味はあるのかもしれない、多いなる闇に乗っ取られかけた、それを防ぐ為だとしたら、意味としては成立する。ただ、それだけでは、力を与えて戦えるだけの能力を持たせる意味にはならない。だから、俺自身わかってないんだ。デインがどんな意思で、何の意図で、蓮に力を与えたのか。それに関しては本人に聞かないと確証は得られないな。」
デインとの関係、についても、まだここにいるメンバーには言ってなかったな、とディンは思い出す、竜太には、安易にその事を他人に言わない様に、と念押ししていた、異世界の出身者であるデインが、この世界の守護神をしている、と言うのは、ダメージを受ける存在にとっては、ダメージを受けるのだから、と。
実際、外園はデインに会った事があったと言っていた、デインに言われ、そしてこの国ジパングに居を構えたのだ、と。
それ以外にも、テンペシアに会った事があると言っていただろうか、テンペシアは、ドラグニートを守護する八竜の中でも、規律を重んじる性格をしているから、外園の望みは断られた覚えがある、と。
その事を知っていたから、ディンは竜神王である事に関しては話をしていたが、それ以外の話を外園にはしていなかった。
「そうだ、あいつ、なんで髪の毛灰色なんだ?ストレスでってんなら、白髪になるんが普通じゃねぇか?」
「さあ、なんでだろうな。蓮の事に関しては、俺も知ったのが最近の事だから、わからない。もしかしたら、大いなる闇に関する事があるのかもしれないな。」
蓮の髪の毛が灰色掛かった色である理由、については、ディンも知らない様子だ。
ストレスによる変質であれば、白くなるはずだが、それが灰色にとどまった事、については、ディンもそう言うケースがあるのだろう、程度に考えていた。
ざんばらに切られてた蓮の髪の毛も、整えて上げないといけないな、と考えながら、ディンは今日は解散と言って、蓮の寝ている寝室に向かう。
「……。」
蓮とデインの関係性、多いなる闇とディンが話をしている存在、と蓮の関係性。
それらを加味した時、ディンは蓮の未来を案じた。
いつか、デインにそうした様に、乗っ取られてしまったら。
デインの時は、皆の光があったから、デインは戻ってくる事が出来た、光に帰還する事が出来た、しかし、今の蓮には、その沢山の光が無い。
だから、蓮にとって、沢山の光、が皆であってくれたならば、それならば、蓮は帰ってこれるかもしれない、そうなった場合、光に帰還できる可能性があるとしたら、沢山の光に包まれる事は、最低条件だろう、とディンは悟っていた。
今までは、竜神王が直接対決をしてきた、大いなる闇。
それが、先代竜神王が世界を分けて以降、在り方が変わったのだろう、他者の運命を操り、自らが生み出される時を待っている、他者に闇という卵を産み付けて、そして羽化を待っている、そんな状態だ、とディンは認識していた。
「竜太君、竜太君はディンさんのお考えを理解しているのでしょうか?」
「考え……。父ちゃんって、秘密が多い人ですから、僕もわからない事が多いんですよ。」
「そうでしたか、親子とはいっても、性格が同じとも限りませんからね。それでは、私は明日の取引の為に麓の村へと向かいますので、これにて。」
ディンが蓮の所に行ってから、竜太に外園が問うが、竜太はディンの真意を知らない様子だ。
親子、同じ竜神、そして未来の竜神王だったとしても、ディンにとっては守るべき対象であり、竜太にも言っていない事は沢山ある、とはディン自身言っていた。
事実、幾千に分かれているこの世界群、その中の中央であるセスティアから連れ出されたのも、今回が初めてだ、世界が幾千にも分かれている事、については聞いた事があったが、その世界達を知らない竜太からしたら、どんな世界があって、どんな生活があって、それを知らないと言うのは、継承者としては致命的ではないか、とも感じていた、ただ、ディンにとって竜太は守るべき存在であり、それを見せたくなかったのかもしれない、ともとれる。
それだけ、どの世界に行っても守護者の扱いは悪辣で、という事なのだろう。
事実、セスティアでもディン達は身元を公表していたが、それ以降悪意が増えた、とディンは言っていた、守護者である事を隠して活動していた頃よりも、悪意が増えた、と。
そんなこんな、今の所この世界にしか来た事が無い竜太だったが、いつの日か、ディンの跡を継いで行くのか、と漠然と考えていた。
「外園君は律儀だな、ここまで持ってきてもらえば楽だろうて。」
「いえいえ、その程度の事をしなければ、私達の信頼関係と言うのは崩れてしまいますから。」
今は、外園は麓の村に向かう準備をしていた、ジパング式の簡素な和装ではない外園が、外来民として、この国に受け入れられている理由、それは、偏に外園の人柄なのだろう。
誠実な人柄だから、紅麗山の中央に居を構える事を許された、ある意味それは、外園が外界との関わりを最低限にしたい、という意思でもあったが、それでも、食料を山の中央にあるこの外園邸まで運ぶ、それをして貰う程度の関係性は構築してきた、それが外園の現在だ。
故郷であるフェルンを出て、世界を回って、最終的には、聖獣の守り手が現れるのを待つ事を選んだ、そして、その聖獣の守り手が現れた際、協力をしたい、と地元民に話をしていたからこそ、この麓の村の住民達は、外園の為に住居を立てて、食料を外国から輸入していた。
ドラグニート、と呼ばれる、ジパングとは友好的な国からの物資、フェルンから輸出されている酒類、等々を、島唯一の港から麓の村まで届けてもらい、そしてそこから外園が馬車を使ってこの邸宅まで運ぶ、それは様式美とも言える程度には、関係性を構築した末の話だった。
住み始めた当初、と言っても数十年前、は、外園を知る者もいなかった、信じる者も少なかった、だから、外園は外園なりに苦労をしていた。
それが今では、麓の村の住民と交流を広げ、個人輸入の手伝いをして貰っている、という事だ。
「僕、行ってきますね。」
「ふむ、行ってきなさい。」
竜太は、大地を見守る為にセスティアに向かう、ディンが開発した世界の転移を出来るゲートを通って、セスティアに向かう。
兄弟達とはもう半年会っていない、最終的に戻る時に、歴史の修正が行われる可能性があるから、出来るだけセスティアの人間とは接触するな、それが現在課せられた制限だった。
兄弟達とずっと一緒にいた竜太にとっては、それは寂しかったが、ディンが意味のない枷を掛ける訳が無い、と信じていた為、それに従っていた。
「ふむ、良いだろう。」
茶室に残ったウォルフは、独り緑茶を飲みながら、愛銃であるマクミランとグロックを手入れしていた、この世界においての愛銃、ウォルフはウォルフで事情がある、その世界その世界において愛銃も変わるのだが、基本的にはこの二丁の銃を持っていた。
銃の手入れは命に関わる、銃の手入れが出来ないガンナーは、その時点で生きる術を自ら放棄しているのと同義だ、とウォルフは言っていた、その言葉を自分の中に持っているからこそ、手入れを欠かさない。
「蓮、か。」
蓮の事に関して、ウォルフを使役している神は知っているのだろうか、それを聞こうにも、向こうからコンタクトが無い限り、ウォルフからコンタクトを取る事も出来ない。
神との関係性、ウォルフを使役している、使役されている関係性ではあるが、それは実に一方的な関係だ、とウォルフは時折呆れていた。
ディンが連れてきたのならば、何某かの意味はあるだろう、そうウォルフは考えを纏め、銃をケースにしまった。




