10話 蓮の暴走
「覚悟は出来たかい?」
「はい、全員で蓮君を助けに行きます。」
宿の前で待っていた天野の元に、五人揃って追いかけてくる、天野は、修平が少し心揺らいでいるのは理解したが、しかし覚悟は決めたのだろうと感じ取り、うむと頷く。
「では行くとしようか、竜太君は魔力もある程度は回復しているな?」
「はい、戦う事になっても大丈夫です。」
「宜しい、では眼を瞑り待っていてくれ。」
言われるがままに5人は眼を瞑り、天野は両手を合わせる、六人が光に包まれ、そしてその場に溢れんばかりの光が発され、そして消えた。
気が付けば六人はそこにはおらず、ディンと似た原理で転移したのだろうと、わかる者にはわかるのだろうが、ソーラレスの人間はそれを認知する事は出来なかった、仏の神通力に関する事、については、仏陀を始めとした菩薩だけの秘め事なのだ。
「竜太達、動き出したな。」
「間に合うかしら?貴方が行かなくて本当にいいの?」
「信じてるからな、それに地獄菩薩なら問題ない。」
「地獄菩薩?」
煙草を吸いに外に出ていたディンと、心配になって出てきたリリエル、地獄菩薩の事を聞かされていないリリエルは、敵の名前だろうか?と疑問を浮かべる。
「蓮の連れていかれた先にいる仏だな。まあ、蓮が殺しちゃったみたいだけど。」
「蓮君が?」
「蓮の闇が暴走しかけてる、その余波にやられたな。」
あと一歩遅ければ、蓮は闇に吞まれているだろうとディンは感じていた、まだ間に合うかどうかはわからないが、取りあえず竜太達の気配が蓮のすぐ傍にある、だから、間に合ってくれとディンは願っていた。
「最悪間に合わなかったら、貴方はどうするの?」
「……。最悪、蓮を斬らなきゃならないな。」
「それなのに、未熟なあの子達に任せてよかったのかしら?」
「皆、リリエルさん達が思ってる以上に成長してるんだよ。俺が信じられる位には、ね。」
それは分の悪い賭けかもしれない、しかしディンは、その分の悪い賭けに賭けられるだけの何かを、竜太達に感じている様だった。
きっとやり遂げてくれる、きっと蓮を取り戻してくれる、そう思っているからこそ、自分は動かず竜太達に任せるという選択をしたのだ。
「貴方の言葉は、何故か私も信じていいと思わされるわ。何故かしらね、実戦経験の量の違いかしらね。」
「さあな。ただ、俺の言葉を信じてくれるっていうのは有難いな。信頼関係ってのは、一緒に戦う上で大切だから。」
「それもあるのだけれど、何かしらね。貴方の信じた事は、不思議と信じてもいいと思えるのよ。」
「それは嬉しいな。」
リリエルは、蓮を特別視している、それもあるが、仲間として助かってほしい、戻ってきて欲しいと願っている、ディンにはそう見えた、そしてディン自身、蓮に助かってほしいと願っていた。
「ここは……?」
「この世の地獄、今世地獄と呼ばれる場所だ。ここから先は俺は助けられない、何せ地獄菩薩以外は入れない様に結界が張ってあるんでね。」
竜太達が眼を開けると、そこは暗い暗い場所だった、何かがある訳でもなく、何処か意識の空間に似たその場所は、目の前に厳重な鉄の扉があって、その奥から怨嗟の様な、地獄の底から聞こえてくる様な叫び声が響いている。
今世地獄、それは仏陀が生み出したこの世の地獄、生ける者の行きつく地獄、ここに蓮がいる、と竜太は探知をして理解した、が何かがおかしいと気づく。
「蓮君の気配が……、おかしい……?」
「どうしました?竜太君。」
「蓮君の気配はするんですけど、何かおかしいというか……。」
闇の混ざった、というよりも、蓮の気配が闇に紛れている様な、そんな気配、そんな気配に竜太は、本能的に危険を察知した。
「蓮君が危ないです、早く行きましょう!」
「蓮よ……。」
「この扉、開くの?なんかすっごい厳重だけど。」
「そうだな、君達なら開けられるだろう。その扉には仏陀の結界が張られている、つまり仏陀の力を授かっている君達なら開けられるという道理だ。」
天野は、自分はここから先に行けないが、と竜太達に先に行く様に促す、竜太は、四人なら扉を開けられるのだろうと、四人の方を見やる。
「行きましょう、蓮君を助けに!」
「おうよ!」
「うむ……!」
「わかった!」
清華を先頭に歩き出し、厳重に封のされた鉄の扉のドアノブに清華が触れる、すると、カチッという音と共にドアの鍵が開けられ、ドアノブをひねると扉が開く。
「気を付けて行くんだよ、俺はここにいるから、帰りは任せろ。」
「はい、行ってきます!」
天野の声を後ろに聞きながら、五人は扉を抜け今世地獄の中へと入っていった。
「蓮君の気配は……、ってこれ……。」
「酷いですね……。」
今世地獄の中に入った5人は、何故ここが地獄と呼ばれるのかをすぐに理解する事になる、入口入ってすぐに、怨嗟の声が徐々に大きくなり、そして通路には白骨化した死体が山積みになっていた。
地獄、が何を示しているかを正しく理解していない五人でも、セスティアに伝わる地獄を思わせる様なその通路に、吐き気を催す。
こんなに死体があるという事は、餓鬼にならずにここで死んでいる人間がそれだけいるという事だ、何故死んでいるのまではわからないが、自然的な事ではない、と。
「こんなところに蓮君がいる……?早く助けてあげなきゃ!」
「そだな、気分わりい。」
「……。」
嫌な予感がする、大地は何かを感じていた、竜太やディン達の様に気配を感じ取れる訳では無いが、ここには仏はいない、そう感じた、代わりに、何か恐ろしい物が存在している様な気がする、そう本能的に感じていた。
それを他の三人は感じていないか、という問いをするか悩んだが、自分ひとりが怖がっているだけかもしれない、と考え、それを問う事をやめた。
「蓮君の気配はこっちです、何かが近くにいる様な気がしますけど……。」
「という事は、地獄菩薩という仏様もそちらの方に?」
「それが、天野さんとか仏様とか、仏陀様見たいな気配が無いんですよ。」
「何か、あったのかもしれんな……。」
警戒しながら通路を進む五人の耳には、怨嗟の声が響いている。
それは、この地獄という空間に焼き付けられた、罪人の声、そして、今現在罪を焼き付けられている、囚人の叫びだ。
「この扉の奥に、蓮君の気配がします。」
「行こう、蓮君も怖がってると思う。」
進んでいると、また鉄の扉が現れる、声は大きくなってきていて、人間が数人はいる事がわかる。
竜太達は、蓮を助ける為に、扉を開いた。
「アハハハハハハハハハ!」
「蓮……、君……?」
鉄の扉を開き、五人が中に入る。
そこは、誰かが鎖で壁に繋がれていて、何人もが悲鳴を上げていた、どす黒い何かに蝕まれながら、足の先から生きたまま白骨化し、阿鼻叫喚の渦を奏でている。
そんな中、蓮は部屋の中央に立っていた、誰かを踏みつけながら、不協和音で笑っていた。
「そんな……、蓮君……!」
「あれぇ?竜太君だぁ!」
先頭を歩いていた竜太が、蓮の気配のおかしさに気づくと同時に、蓮が虚ろな眼を竜太に向ける。
後続の四人も、蓮がおかしい事にすぐ気づく、明らかに纏っている気配が違う、そして蓮はあんな眼をした事は見ていた限りでは一度もない。
厳密にいえば、ディンは一度だけそんな眼をした蓮を見た事がある、それは、両親を殺し、絶望の中で自害しようとした時の、その眼だ。
「蓮君!どうしたの!?」
「どうしたのかなぁ?あはは!ぼくねぇ!どうしたのかなぁ!」
修平が声をかけると、虚ろな眼のまま笑う蓮、踏みつけている男は死んでしまっているのか、ピクリとも動かない。
「蓮……。」
「ねぇねぇ竜太君!おにいちゃんはこうなるってわかってたのかなぁ!?」
「蓮君……、父ちゃんは……。」
虚ろな眼のまま笑っている姿に、俊平達四人は恐怖を覚える。
何かが起こっている、しかし何が起こっているのかがわからない、竜太だけは、何が起こっているかを半分理解していて、何とか出来ないのか、と思考を巡らせていた。
「まあいいや!みんな死んじゃおうよ!ぼくがころしてあげるね!」
「蓮君!どうしてしまったのですか!?」
「蓮!しっかりしろ!」
何かがあって、蓮が狂ってしまった、それが四人の共通認識だった。
それは間違いではない、今蓮は闇に呑み込まれようとしていて、狂人と化している、まだそこで済んでいると言えば聞こえは良いが、竜太達に今の蓮を元に戻す手だてが無い。
「お兄ちゃんはぜんぶわかっててぼくをこんなところにおいてきぼりしたんでしょ?じゃあもうみんなしんじゃえばいいんだってぼくきづいたんだよ!えらいでしょ!」
「……、蓮君……。僕は、父ちゃんみたいに全部がわかってる訳じゃないよ。でも、父ちゃんは……。何かが楽しくて、こんな事をしてる訳じゃないんだよ。だから、僕が何とかする。」
「竜太……?」
「皆さん、後ろに下がっててください。ここは、蓮君は僕が助けます。」
竜太は何かを覚悟すると、眼を瞑り右腕を背中に回し、剣を持つ形に手を握る。
「竜神剣、竜の愛よ……。」
竜太は竜の愛を出現させ、鞘から引き抜く。
「竜太君はしんでくれないのぉ?じゃあしかたないね!」
蓮は両腰の剣を抜き、五人はその剣の見た目に驚く、蓮の剣は蓮の心を投影した、竜神剣によく似た性質の剣なのだが、その七割程が赤黒く染まっていた、それは今の蓮の状態、つまり蓮は心の七割を闇に蝕まれている事になる。
竜太はその事を把握していて、ならばまだ引き戻せるのではないか、と考えた、全てが赤黒く闇に染まっていたら、デインの時の再来になってしまうが、まだ光が残っているのなら、助け出せるのではないか、と。
「俺達にも出来る事ない!?」
「……、信じてください。僕の事を、蓮君の事を。きっと戻ってこれるって、きっと闇に吞み込まれたりしないって。」
「こないのぉ?じゃあぼくからいくね!」
蓮が両手の剣を構え、突撃してくる、竜太は四人を守るように剣を水平に構え、蓮を迎撃する構えを取った。
「蓮……。」
「ディンさん、本当にいかれなくても宜しいので?」
「今、竜太と蓮がぶつかったな。だから……。俺は、竜太を信じてやらないと。」
「二人が心配だと仰るなら、向かって差し上げれば良いと思いますが。」
潮風が吹く中、ディンは月明りを眺めながら煙草を吸っていた、そこに外園が来て、ディンの心配事を口に出す。
「竜太君に対する試練だとは承知しておりますが、そこまで拘る必要性も感じませんがね。」
「竜太だけじゃない、蓮も皆も、俺が居なくても解決する力を持たなきゃならないんだ。」
「しかし、蓮君の闇が暴走してしまっている現状、危険なのではないでしょうか。」
「今の蓮は、デインの力を三割受け継いでる。つまり、心の三割は光に傾いてるって事になる。残り七割が闇に持っていかれたとしても、竜太なら引き戻せる。と、俺は考えてる。」
それは賭けだ、今の竜太の実力なら、蓮の闇が暴走した所で物理的には止められる、しかし、それは蓮を傷つけてしまう事に他ならない、つまり竜太は物理的に蓮を屈服させるつもりは無いだろう。
そうなってくると、後は心の問題になってくる、竜太達の光が蓮の闇を抑えるか、蓮の闇が竜太達を呑み込むか、最終的にはその二択になる、そして闇に呑み込まれた場合、ディンは蓮を斬らなけらればならない。
「貴方の光、それは大切な要素なのではないでしょうか?」
「蓮には理解してほしいんだよ。俺だけじゃ無い、皆が傍にいてくれるんだって。」
「まさか、その為に蓮君の闇の暴走を危惧しながら放置したと?」
「そのつもりはないよ。取れる対策にも限りがあったってだけで、好き好んで蓮を暴走させた訳じゃないんだ。俺も、まさか仏陀があんな手を取るとは思わなかったしな。」
本当は全て計算していたのではないだろうか?と外園は一瞬考えるが、ディンは本当に、デインの力を受け取った蓮を地獄に送るとは思っていなかった、まさか守護神に反旗を翻す様な事をしでかすとは、と衝撃を受けていた。
「全ての世界を守る、というのは大変な事なのですね。」
「そうだな、守護者を育てるだけっていえば簡単に聞こえるかもしれないけど、色々考えなきゃならないし、時には見捨てる覚悟も必要になってくる。」
「蓮君もそうだと?」
「いや、俺は皆を信じてる。蓮を見捨てる気はないよ、最後の最後まで。」
外園は、パイプの煙を吸い込みながら、ディンの意思を感じていた、ジパングの人間や、サウスディアンのエドモンド達に対しては、しょうがない事なんだと割り切っていたが、蓮に関しては、斬る覚悟は持っておかないといけないとは言っていたが、しょうがない事だとは一言も言っていない。
それは、ディンの信念に通ずる所があるのだろう、家族を守る為に戦っているとディンは言っていた、蓮も家族として守りたいのだろうと。
「貴方は本当に……。」
人間を信じていない、死ぬべき人間は死ぬべきというこの男が、しかし、信じた人間の事は最後まで信じぬこうとする。
そんな不器用な形の愛情に、外園は呆れ半分関心半分になっていた。
ガキン!
「剣が……、重い……!」
「あははは!竜太君よわぁい!」
蓮の剣は今まで竜太が受けてきたそれよりも重く、圧があった、踏ん張り切れずに竜太は後ろに飛び、一瞬で態勢を立て直して四人と蓮の間に戻る。
そこに蓮は連撃を仕掛けてくる、それを竜太は紙一重で捌いていく。
「ねぇ竜太君!ぼくふういんかいほうしたよ!」
「……。」
「竜太君も、ふういんかいほうしないと!しんじゃうよぉ?」
確かに、竜太が封印開放すれば、蓮に勝つ事は出来るだろう、しかし、幾ら竜太が修行を積んでいるといっても、封印開放してしまったら蓮を傷つけてしまうかもしれない。
蓮を傷つけずに助けるには、どうすれば良いのだろうかと竜太は攻撃を受けながら考える。
「蓮君……。」
「蓮……!」
四人はどうすることも出来ず、ただただ戸惑いながら祈る。
闇に染まってしまった者を戻す方法など知らないし、聞いた事も無い、だから、今は竜太に任せるしかないのだ。
「それぇ!」
「皆さん!」
蓮が剣をくっつけると、雷の魔力を剣に纏わせ、雷咆斬を放った、それは竜太に向けられた物ではなく、戸惑っている四人に放たれたものだった。
竜太は咄嗟に身を投げ出し、雷咆斬を体で防ぐ。
「ぐっ……!」
「竜太君!大丈夫ですか!?」
「だい……、じょうぶ……!」
幾ら竜太と言えど、封印開放している蓮の雷咆斬を喰らって、無傷ではいられない、腹から肩にかけて深い傷を負い、内臓まで傷ついているのか口から血を垂らす。
「俺達、ほんとに何にも出来ないの!?」
「竜太よ……。」
大地がよろける竜太を支え、三人は壁になろうとする、しかし、竜太はしっかりと地面を踏みしめ、四人をかばう様に立つ。
「手は……、あります……。父ちゃんが、そうしたように……。」
「竜太君……?」
「皆さん……、下がっていて、下さい……。」
痛みが無いはずが無い、内臓に達するレベルの傷を受けて、平気はなはずがない、しかし竜太は、口から血を垂らしながら、しかししっかりと言葉を発する。
「何か……、手段が……?」
「はい……。賭けに、なりますけど……。」
竜太は、ディンの行動からヒントを得ていた。
自身の内包する光を、蓮に渡し蓮を闇から救い出す方法を、それは、以前の竜太には出来なかったであろうやり方だ。
セスティアでの最終闘争の時には、無意識にやっていたことでもある。
「蓮君……。僕を殺したいんだよね……?」
「そうだよぉ?だって、みんなしんじゃえばらくになるもん!」
「そっか……。良いよ……、僕を殺して……。」
「竜太!?」
竜太の言葉に四人は驚愕する、それもそうだ、死を受け入れ、蓮に殺される事を選ぼうとしている様にしか見えないのだから。
「竜太よ……、信じて、良いのだな……?」
「はい……。」
「大地さん!?」
しかし、大地は何かを感じ取った、ここで竜太が自死を選ぼうとしている訳では無い、そこから何かをしようとしている、と。
だから、自分達に出来る事は一つ、竜太を信じる事だけなのだ、と。
祈る、皆が無事にここから出られる様に、蓮が闇の暴走から解き放たれる事を。
「じゃあ、ころすね?」
「おいで……、蓮君……。」
蓮は何かを考えている、というより何か固まっていた様だったが、闇の赴くままに竜太を殺そうとする、竜太は竜の愛を消し、両手を広げて蓮がゆっくりと近づいてくるのを待っていた。
四人は何をする訳でもなく、何が出来る訳でもなく、それを緊張した面持ちで見守っていた。
「みんなもちゃんところしてあげるからね!」
蓮が剣を後ろに振りかぶり、そして。
「……。」
竜太の腹に、剣を思い切り突き刺した。
「竜太……。」
痛みに耐えながら、竜太はしかし足に力が入らなくなる、フラフラとよろけ、蓮の方へ倒れそうになり、そして。
「え……?」
「蓮君……、もどって、きて……。」
剣が深々と突き刺さるのもお構いなしに、竜太は蓮を抱きしめた、四人からは貫通した血濡れの剣が見え、蓮は固まっている。
「蓮君……。」
竜太は、痛みと脱力で意識を飛ばしそうになりながら、蓮の名を囁いた。
「うぅぅ……!」
抱きしめられている蓮が、苦し気な声を上げる、否、それは蓮の声には聞こえなかった、怨嗟の声に似た、何かが蓮の中で苦しんでいる、と四人は感じた。
「お願い……、蓮、君……。」
もう一度蓮の名を呼ぶ、すると、竜太の体が淡い光を発し始め、蓮の体とともに竜太を包み込む。
光は徐々に眩くなり、四人は眩しさに眼を閉じた。
「蓮君、戻って来て……。僕達は、絶対蓮君を1人にしないよ……。」
「僕……、竜太君の事……。ごめんなさい……、ごめんなさい……!」
「怒ってなんて、無いよ……。僕は、僕の出来る事を、しただけだから……。」
「ごめんなさい……!」
「蓮君……。闇に、負けちゃ、ダメだ……。戻って、おいで……?」
「……。ありがとぉ……、竜太君……!」
「竜太……!蓮……!」
光が収まり、蓮の剣から赤黒い闇が消えていた、竜太はふらふらと少し動くと、バタリと倒れてしまう、それは蓮も同じで、体の力が抜けて、竜太に重なるようにパタリと倒れて意識を失った。
「何とかなった……、のでしょうか……?とにかく、竜太君の治療を……!」
「天野さんのとこ行って、ディンさんのとこまで飛ばしてもらうぞ!早くしねぇと、竜太が!」
修平が蓮を抱え、大地が剣の刺さったままの竜太を抱え、急いでその場を去ろうとするが、蓮に踏みつけにされ倒れていた男が、何か呟いている事に清華が気づいた。
「われ……らの……か……みに……したが……わぬ……おろかも……のたち……に……さば……きを……」
男はそう言い終えると、こと切れてしまう、それと同時に、部屋全体に強い衝撃が加わったのか、強烈な地震がおき始めた。
立っているのもやっとという様な強烈な揺れの中、壁に縛り付けられていた人間達が、より一層怨嗟の声を大きくする。
「なんか、まずいんじゃない!?」
蓮を抱えた修平が、悲鳴の様な声を上げる、本能的な危機感知、ここにいては危険だと本能が伝えている様だ。
「急げ!」
「2人とも!早くこちらへ!」
俊平と清華が先頭に立ち、揺れる中必死に走る。
「開かねぇぞ!なんでだくそったれ!」
しかし、入口の鉄扉が閉まっていて、どう力を入れても開かない、揺れがますます大きくなり、部屋の壁や天井が崩れ始めてきた。
「お願い……!開いてください!」
清華が俊平と一緒になって扉を開けようとするが、どう足掻こうが扉はびくともしない、このままここで圧死してしまう、と絶望を感じたその瞬間。
「良くやったな、竜太。」
「ディン殿……!?」
「ひとまずここを出てからだ、話は後でしよう。」
声が聞こえたと思ったら、六人は光に包まれ、そして消えた。
今世地獄が、崩落していく、怨嗟の声に満ち満ちたその空間は、天井が崩れ落ち埋もれていった。




