1話 蓮との邂逅
「……。お兄ちゃん、ここどこなの?」
「ここはディセント、さっきまでいた世界、セスティアの裏側の世界、蓮に守ってほしい世界だ。この世界に、俺と蓮を合わせるきっかけになった、デインって言う神様がいるんだよ。」
「神様が?ほんとぉ?」
「そうだよ、蓮。それで、俺達の拠点がここで、ここに皆が集まる予定なんだよ。」
蓮がセスティアを離れた時、その時、ディンは管轄である警察官、村瀬警部に事の次第を伝えていた。
ただ、村瀬警部は本庁の人間、離島である三宅島の管轄に伝えるべきか、それともとディンに連絡をしていた。
ディンとしては、所轄の刑事に連絡をして貰っても構わない、というスタンスなのだが、一つだけ、異世界に渡ったという話だけは、島民にはするな、と言っていた。
異世界の存在を広く知らしめてしまう事になってしまう、そのきっかけを作りたくはない、と。
「皆って、だあれ?」
「そうか、そこから話をしなきゃならないな。取り合えず、今いる皆と挨拶をしようか。」
「どんな人なんだろう?」
「ちょっと見た目が怖い人がいるけど、皆優しいから大丈夫だよ。」
見た目が怖い人、とはどんな人なのか、どんな人間がいて、どんな関係を築いているのか、蓮はわくわくしてたまらない様子だ。
わくわくそわそわとしていて、浮足立った顔をしている。
「どんな人だろう!」
「さ、楽しみか?」
「うん!」
外園邸の中に入る二人、ディンは、今は全員がこちらに戻ってきている事を確認していた、セスティアにて守護者の子供達の警護をしている四人が、現在はディセントに戻ってきている、竜太とセレンに関しては、そもそも次元転移級の魔法は使えない、ディンが代わりに転移魔法を使い、セスティアとディセントを行ったり来たりしている、リリエルは自力で転移が使える、ウォルフも使えると言っていて、事実ウォルフはディンの手助けを借りずに転移を発動していた。
とにもかくにも、外園も買い出しから戻ってきている、五人揃っている、それが分かればいい、とディンは考えていた。
「父ちゃん、戻ってきて……、その子は?」
「hey,竜神王サンよ、そのお子様は誰だ?」
「ホントだ、ディン、そのガキンチョ誰だ?」
竜太とウォルフ、セレンが居間で話をしていた所に、ディンが蓮を連れて現れた。
ウォルフは、その蓮の膨大とも言える闇を感じ取っていてが、ディンが連れているという事は、問題はないのだろう、と感じていた。
「蓮、自己紹介出来るか?」
「うん!初めまして!風眞蓮です!」
名前を聞いたわけではないのだが、と三人は心の中で呟く、どうしてこの子供がここにいるのか、を聞いたのだが、と。
ただ、ディンはそれをわかっていて、最初に挨拶をさせたのだろう、とは推測はしていた、ディンは他人の心が読める、だから、意味のない挨拶はさせないだろう、と。
「hahaha!初めまして蓮、俺の事は気軽にウォルフと呼んでくれたまえ。」
「僕は竜太、父ちゃんが連れて来たって事は、何か縁があったのかな?」
「おめぇら、普通に挨拶すんのな……。俺はセレン、よろしくな、蓮。」
「よろしくお願いします!」
見た目の厳ついウォルフや、日本人の見た目をしていないセレンに対しても、物怖じせずに挨拶をする蓮、そんな蓮が愉快でたまらないのか、ウォルフは笑っていて、竜太はディンが連れてきたという事は、と考えていて、セレンはあきれ半分で挨拶を返した。
「それで?竜神王サンよ、この子は何者だね?ただの子供を誘拐してきた訳ではないんだろう?」
「この子も戦うんだよ。蓮、この子は、デインの力を受け継いでいる子なんだ。だから、これから修行をつける、まだまだ戦闘に関しては素人だけど、そのうち竜太とはいい勝負をする様になるかもしれないな。」
「デインの力?デインって、この世界の守護神の事だろ?」
「そうだよ、セレン。デインが、何の因果かこの子に力を与えた、そのままだったら暴走して終わりだったんだろうけど、俺が介入した事で未来が変わった、と思われるな。とにかく、デインが力を貸した子だ、って言う認識でいてくれれば構わないよ。」
竜太は、ディンに言われていた事、自発的にデインを親族だと言わない、という約束を守っていた、だから、デインという単語が出てきても、黙っていた。
逆に、セレンやウォルフはデインの事を良く知らない、だから、その縛りはないとも言える。
「守護神がこんな子供に力を与えるとは思えんがね?だがしかし、竜神王サンの言葉に意味が無いとは思えんな、それは、半年の付き合いでわかっている。Umm,蓮よ、お前さんは戦う事を承諾しているのか?竜太とそう歳は変わらんだろうが、竜太はそもそもが竜神王サンの息子として鍛えらえれてきていた、と言っていたがね?」
「わかんない!戦ってほしい!ってお兄ちゃんは言ってたけど、僕、何が戦う事になるのかなーって!」
「ディン、正気か?こんなおこちゃま連れてきて、戦う意味も知らずに戦うってのか?」
「まあ、そこに関してはこれから教えていくよ。それで、リリエルさんと外園さんはどうしてる?」
「なんだか危うい子だね……。でも、父ちゃんが連れて来たって事は、何か意味があるんだと思います。皆さん、ここは父ちゃんを信じて見守りましょう。」
蓮が、わからないと元気よく話をすると、セレンは呆れた顔をしていて、ウォルフは何やら愉快そうに笑っている。
竜太は、デインが選んだ子供、という事の意味を考えていて、デインがどうして、蓮に力を与えたのか、そもそも、竜神の力を人間に継承する事がどうして出来たのか、ならば自分やディン、ドラグニートの八竜達にも、それが出来るのだろうか、と疑問を浮かべる。
出来る場合、出来ない場合、どちらも考えてみようとするが、どうしても想像が苦手な竜太は、それが想像出来ない。
もしもの時の事、それに対策をしておかなければならない、ディンは常々そう言っていたが、竜太はそれを考えるのが苦手だ、と感じていた。
「……。お前さん、他人の闇を抱えてる事には気づいているかね?蓮、お前さんは……。」
「たにんのやみ?」
「……。いや、今は語るべき時ではないのだろうな。竜神王サンが語らねばならない事、竜神王サンだけが語る事を許されてる事、だろう。ふむ、そうなってくると、俺達の立ち位置ってのも、変わって来るんじゃないかね?蓮を育てる、それは当初の目的には入っていなかったと思うがね?」
「そうだな。出来れば、蓮を育てる事にも協力してほしい所ではあるな。特にウォルフさんは、この中で唯一遠距離武器を使える人材だ、俺も使えなくはないけど、ウォルフさん程の熟練度は持ってないし、そもそもが片腕が無いんだから、両手で持つ武器に関しては門外漢だ。ハンドガン程度なら教えられるけど、ライフルってなったら、それはウォルフさんの専売特許だろう?」
ウォルフが蓮に問う、他者の闇、それを抱えている自覚はあるのか、それが危険という自覚はあるのか、と。
その結果、蓮は理解していない、蓮は、他者の闇を抱えている事も、それが危険だという事も、気付いていない。
ウォルフの本能が囁いていた、蓮の瞳を見ていると、闇に呑みこまれそうになる、と。
それがどの様な結果をもたらすのか、に関してはウォルフも専門外だが、他者の闇というものを抱えた存在、と言うのは、何度か見た事があった。
英雄として、赴いた先の世界で、他者の闇、他者の念に犯されている所、と言うのを見た事があった、それはウォルフのいた世界であって、この世界群の中の出来事ではないが、しかし、似通った状態の人間を見て来たものとして、その吸い込まれそうな闇を宿している瞳、というのは、ウォルフの中では恐怖の対象ですらあった。
数多の世界を駆け抜け、英雄として活動してきた、実績と能力を持っているウォルフでさえ、その瞳を見ていると、呑み込まれそうになってしまうのだ。
セレンと竜太は何か感じ取っていないだろうか、と目配せをしたが、二人は何かに気づいている様子はない、特にセレンは、こんな子供が戦うのか、と唸っている。
「蓮、つったか?今歳いくつだ?」
「えっとね、今日で十一歳!」
「十一か……。って事はあれだろ?竜太とディンが戦い始めた頃よりも前だろ?ホントに良いのか?そんなガキンチョ戦わせて。」
「……。それは、定めでもある。蓮がデインに力を継承された以上、戦う定めにあるとも言える。それをしない結果、を求める事は出来ても、世界がそれを許さないだろう。」
セレンは、蓮の様な子供が戦う事、について納得がいっていない様子だ。
竜太の時も感じた、半年前、竜太と初めてであった時、年齢を聞いて酷く驚いた覚えがある、セレンは、そんな竜太よりも年下の蓮が戦う事、について、疑問を持たずにはいられない様子だ。
「蓮君、僕達と一緒に修行する?」
「うん!お兄ちゃんと戦える様に、頑張る!」
竜太は、意味を考えていた。
蓮にデインが力を与えた意味、そして、今しがたウォルフが言った、他者の闇を抱えている事、その関連性を考えるが、難しい。
竜太の中で納得のできる、そして、ディンにとっての正解を考えてみるが、わからないが正解だった。
「あら、貴方は?」
「風眞蓮って言います!お姉さんは?」
「私?私が怖くないのかしら?」
「うん!怖くないよぉ!」
「……。私はリリエル、リリエル・アステリア・コースト。他の人からは、大概リリエルさんかリリエルと呼ばれる事が多いわ。」
蓮がやってきた日の夕食時、珍しくリリエルが食堂に顔を出す、リリエルは普段、外園が軽い食事を居室に持っていく事が多く、そもそもこの世界に居なかったり、部屋に居なかったり、そういった事が多い。
そんな中で、今日はたまたま、たまには交流を図っておかないと、いざという時に情報を与えらえれないかもしれない、と感じて、食事に顔を出した。
そんなリリエルに、竜太は物怖じせずに挨拶をする、リリエルは、その深淵を思わせるがまっすぐな瞳、を見て、蓮の事を受け入れる事を選択した様子だ。
「ディン君、まさかとは言わないけれど、この子が戦うという話なのかしら?」
「そうだよ、この子は戦う為にここに来た。」
「……。戦いのイロハは知っているの?戦闘経験は?実戦で刃を握った事は?人を殺した経験は?」
「戦闘はずぶの素人、実戦経験はなし。ただ、人を殺したって言う話なら、丁度今日がそれをした日だな。リリエルさんが願った復讐、それを遂げた後にこの世界にやってきたんだから。」
「復讐を、遂げた後……?」
「それに関してはまた今度にでも話すよ。蓮自身は復讐をしたとは思ってないから。ただ、それを遂げた後の人間だ、って言えば、リリエルさんとしては参加する資格はあるんじゃないか?」
復讐を果たした、という自覚は、蓮の中にはないのだろう、蓮は、追いつめられて両親を殺した、という認識しかしていなかった、ディンが復讐の果てにと言っても、頭に疑問符を浮かべている程度には、復讐をしたという自覚が無かった。
そんな蓮のそこのしれない闇の深さ、それをリリエルは感じ取った、決して否定的な感情として捉えたわけではなかったが、蓮の中には、底知れない闇が潜んでいる、とリリエルは直感で感じていた。
「やや、遅くなりました。おや?ディンさん、そちらのお子さんは?」
「初めまして!風眞蓮です!」
「蓮君、ですか。それで、この子はどこからやってきたのです?まさか、異世界からの戦士だとは言いませんよね?」
「説明するのも何度目かな、この子も戦士だよ。デインの力を継承した、立派な戦士だ。ただ、まだ戦闘に関しては経験が無い、あと半年、その間に実戦で戦える程度までもっていくつもりだよ。」
外園がキッチンから顔を出し、夕食を並べようとして、蓮に気づく。
蓮が自己紹介をする、まさか戦士だとは言うまいな、と外園は呆れの目をディンに送ったが、ディンは本気で蓮を戦わせるつもりらしい。
デインの力を継承した、と今しがたディンは言っていた、外園は、そのデインに会った事がある身として、デインがただの人間の子供を、戦争に向かわせる様な事をするだろうか?と考える。
そして気づく、リリエルやウォルフがそう気づいた様に、蓮が纏っている空気、自分達を光の存在と定義するのであれば、限りなく闇の存在に近い、ある種ダークエルフと呼ばれる、外園が暮らしていた国、フェルンにおける被差別階級と同じ、そんな子供だ、と外園は気づいた。
ダークエルフとは出生やら根底やらが違うのだろうが、闇の側の存在、としての認識は間違っていないだろう、そして、その闇の側の存在を仲間に加えた事、実戦経験がないにもかかわらず、戦わせようとしている事、に関して、ディンに後で問いたださなければ、と感じた。
「蓮君、私は外園と申します。よろしくお願いしますね。さて、蓮君を迎えた日、というのには少し味気ないですが、夕食が出来上がっていますよ。リリエルさんも、今日はこちらで召し上がるので?」
「ええ、そうさせていただくわ。」
「左様で。」
光を守るべき存在、とされている竜神王であるディンが、闇の側の存在である蓮を仲間とした理由、そして、闇の側の存在である蓮に、デインが本当に力を与えているのであれば、その理由。
それは、いつか問わなければならない事で、今は問うべき事ではないのだろう。
外園はそう感じ、食事を用意し始めた。




