13話 明日奈のスタイル
「アリナ……、いやだ……!俺は……!」
「ディン……、私は……。」
「アリナ……!」
「ごめん、ね……。」
「アリナ!」
「……。」
ディンは夜明け前に目を覚ます、夢を見ていた、それは遠い昔に起きた事で、それはディンが昔赴いた、とある世界での別れ、とある守護者との別れ、最愛とも言える、そんな相手との別れの日の事。
「全く、いつまで経っても忘れられないのかね。」
横で蓮が寝ている、そんな中ディンはため息をつく、窓辺によれば、月が沈みかけている。
「本当に、あいつは変わらなかったな。」
タイムリープをし、二度同じ様な別れに巡り合った、しかし、彼女は全くと言っていい程変わらなかった。
人間を愛し続け、人間の為に戦い続けた、そんな彼女の最期を看取っているからなのか、人間を見捨てるという選択肢を選べない。
「……。」
今はこの世界を守る事に集中しよう、ディンはそう考え窓辺から月を眺めた。
『支援・風!』
「うわぁあ!?」
「あちゃー、タイミング間違えたかなぁ……。」
三日が経ち、合同での修業は順調、には進んでいなかった、明日奈を加え六人でディンと相対していたわけだが、如何せん明日奈の支援のタイミングが合わない。
今も、風属性のジャンプ力を上げる支援術を修平に使った所、修平が高く跳びすぎてバランスを崩していた。
「ごめんね修平君、私の符術邪魔だったよね……。」
「いや、明日奈さんの術の威力をちゃんとわかってなかったから……。」
「次はちゃんとやるよ!」
「明日奈さん、あまり前に出すぎない様にしてくださいね?明日奈さんの符の術は支援向きの様ですから。」
師範代として誰かに教えていたという経験がある清華が、自然と指示を出す様になってきた、それは良いのだが、まだ清華も複数人で共に戦うというスタイルに慣れていない為、指示が拙い。
現時点でのリーダーとしては一番適任だろうが、まだまだ発展途上だ、という所だろう。
「清華さん、明日奈さんには式紙を使わせないのかしら?」
「あ……、式紙術というのもありましたね。そうしましたら、戦略を練り直す必要が……。」
リリエルに指摘され、明日奈は式紙も使える事を思い出す清華、というのも、明日奈はこの三日間でほとんど式紙を使っていなかった為、意識の外にいたのだ。
明日奈は式紙を使役するのが苦手だ、と本人が言っていたのもあり、戦略の中に組み立てようと出来なかった、明日奈が積極的に式紙を使役していれば、戦略に組み立てる余地もあるのだが、如何せん本人が使いたがらない。
「私の式紙には、あんまり期待しないでほしいかな……。苦手、なんだよね。」
「しかし、式紙という術は他に例を見ない術です。敵からしても、不意打ちなどに使えるのでは?」
「oh!俺は初めて見たな、あれを戦闘中に使われたら不意を突かれる。」
式紙術というのは、ディセントには存在しない術だ、ウォルフが居た世界にも存在しない様で、リリエルもセレンも初めて見るという術で、確かに不意打ちに使われたら対応が遅れるだろうと考えれる。
しかし、明日奈は式紙術が本当に苦手な様で、まだまだ戦術に組み入れる事は出来そうにない。
「試しになんか使ってみたらどうだ?ディンにも効果的なのがいるかもしんねぇだろ?」
「試しに、かぁ……。」
セレンが提案すると、明日奈はどの式紙を使うかを、手持ちの符から考える。
符は何種類もあり、それを一度に使うのには、明日奈の霊力が足りない、だから、慎重に選ばなければならないわけだ。
「じゃあ、これ!白狼!」
「これは、大きな狼ですね。毛並みも美しい、何か元にした動物がいるのでしょうか?」
「えっとね、私の使える式紙って決まってるらしくて、子供の頃に理由はわからないけど紙に書いてたんだ。だから、何かを元にしてるわけじゃないと思うよ?」
何故か知らない、という事は何か知っている者がいるのではないか、と外園は考えディンの方を向く。
ディンは何か知っているだろうと考え、それを明日奈に伝えていないのだろうか、と。
「ディンさんなら、何かご存じなのではないでしょうか?明日奈さんは遠い昔、竜太と同じ一族だったと仰られていましたが。」
「ん?あぁ、明日奈の一族の事か。そうだな、明日奈の一族のご先祖が、式紙術を創り出したんだよ。だから、その記憶が明日奈にも継承されてて、それを使えるって事だと思うぞ?」
「思うぞ、という事は確証はないのね?」
「俺も文献で知ってる位だからな。確か明日奈の一族である陰陽師の一族の分家が、式紙や符術を生み出したって話だったな。陰陽王の力の一端に、そういった素質があったんだろ。」
陰陽王とは、一万年前に竜神王と共に世界を守った存在だであり、先代竜神王の友であり、軸の世界に残った、唯一力を持つ一族の長の事だ。
現代に転生をし、ディンと共に戦った戦士である悠輔の、遠い祖先にあたる。
竜太もそうなるはずだった、竜太もまた、陰陽王の魂の生まれかわりとして生きるはずだった、しかしそうはならなかった、そう言った不可思議な魂でもある。
「だから、悠輔も使おうと思えば符術も式紙術も使えると思うぞ?俺の魂と混じってる部分があるから、竜神術も少し使えるしな。」
「明日奈の一族ってのはどうなったんだ?セスティアにはいないって風に聞こえるが?」
「明日奈の一族が何処にいて何をしてるのか、それは俺も知らないんだ。何処かの世界で生きてるかもしれないし、滅んでるかもしれない。」
実際の所、明日奈の一族は滅んでいる、唯一の生き残りが明日奈であり、滅んだのもセスティアでは二十年前の事だ。
ディンが明日奈の事を知り、その力が自分の息子達を起源にしていると知った後、その力を持つ一族を探したことがあった、しかし、その一族は何者かによって滅ぼされており、記録だけが残されていたのだ。
「明日奈の一族の事については、まだ調べきれてないんだ。でも、何か理由があってセスティアに転移させて、それであの時にここディセントに移ったんだろ。」
「あの時とは?」
「セスティアでの最終闘争の時だな。その時の転移が暴発して、明日奈はこっちに来たんだ。しかも、若干過去に飛んでな。」
セスティアでの最終闘争の際、明日奈は六歳だった、京都府の京都駅周辺十キロを無人にし、戦いが終わった後元いた場所に転移を発動したのだが、何の因果か明日奈だけは少し過去のディセントに転移してしまった。
そこでクェイサーに保護され、来るべく戦争の準備の為に、修行を積んでいたのだ。
「そういえば、お父さん元気にしてる?」
「あぁ、明日奈がいなくなっちゃってから少し落ち込んでたみたいだけど、立派に寺守ってるよ。」
「そっか、良かった。」
明日奈の言う父とは、セスティアのとある寺で住職をしている男性の事だ、たまに思い出しては寂しくなったりもしている明日奈だが、力を持っていると知ってからは修行に専念し、自分の役割を全うしようとしてきた。
後悔が無いわけではない、セスティアに戻りたいと思わないわけでもないが、力を持つ自分にしか出来ない事がある、と考えたのだ。
「さ、話は終わりだ。修行の続きをしようか。」
「そうだね、過去の事を言ってても仕方がなし!」
明日奈は別に、ディンを恨んだりはしていない、確かにディセントに来た直後は帰りたがったりしたが、今ではもう自分の宿命を受け入れている。
むしろ、力や世界の事を教えてくれた、自分自身の出自と向き合うきっかけをくれたと感謝していた、だから、ディンの要請に是と言い、こうして戦う事を選んだのだ。
「ふぅ、ディンさんってホントに強いね。」
「そうだな、あれでまだ能力の封印してるってんだから、マジでバケモンだよな。」
修行でかいた汗を流すべく、風呂に入っていた俊平達、だいぶんしごかれて、疲れた体に暖かいお湯というのは心地よい。
「竜太君も、修行してた事あるの?」
「はい、父ちゃんと戦った事もありますよ?」
「その時はどっちが勝ったんだ?」
「勿論、父ちゃんですよ。僕が勝てる程、手加減もしてくれませんでしたから。」
明日からは竜太も修行に参加する、継承者としての修行の一環としてだが、この三日は皆の連携の仕方や動きを見ていて、自分がそこに加わる事でどう立ち回ろうか、と考えていた。
「竜太君も強いって、お兄ちゃん言ってたよ?」
「僕なんてまだまだだよ、でも負けて居られないから頑張ろうかな。」
「竜太……、お主が加わると聞いて、少し安心した……。」
直接修行をつけて貰っていた大地は、竜太が加わる事が頼もしい様子だ、幾ら自分達が先祖と邂逅し、力を身に着けたとはいえ、それ相応に敵も強いのだろうと考えていたからだ。
竜太もまだまだ本気を出していないのに、自分より強かった、その事実が、大地を少しだけ安心させている様だ。
「明日から頑張りましょうね、皆さん。」
「僕も頑張る!」
「そうだね。頑張ろ、蓮君。」
「うん!」
湯船でぐったりしながら、しかし遊んでいた蓮と笑う竜太、それを見て、大地達三人は自分達もしっかりしなければ、と気を引き締めるのであった。
「清華ちゃん、君胸が可愛いね!」
「明日奈さんが、大きすぎるのですよ……。」
「明日奈の胸はなんでそんなおっきくなったのかしらね?遺伝?」
一方の女子風呂では、何やら大きさの話が出てきていた様だ、湯船に浸かっているのだが、明日奈は豊満なその胸が湯船にぷかぷかと浮きあがり、清華は恥ずかし気に顔を赤らめている、リリエルはその事には興味が無い様で、黙って湯船に浸かっていた。
「私はお母さんの顔も覚えてないから、わかんないや。」
「そういえば、セスティアにはいついらっしゃられたのですか?ディンさんのお話ですと、幼い頃の様な様子でしたが。」
「えっとね、私は生まれてすぐにセスティアに来たって、クェイサーは言ってたかな。それで、六歳の時にこっちに来たんだよ。」
明日奈は過去の事を覚えていない、というよりも生まれた直後にセスティアに来た為、自分の出生をきちんと理解していない。
何故セスティアにいたのかもわからない、どうして自分の親がそういった選択をしたのかも知らない、クェイサーは何か知っている様な気もするが、教えてはくれなかった。
「にしてもホント、明日奈の胸はでっかいわね。肩とか凝ったりしないの?」
「肩は来るねぇ。リリエルさんも大きいし、わかってくれるんじゃないかな?」
「私はちゃんと下着を着けてるから、肩は凝らないわよ。明日奈さん、貴女もブラジャーくらい着けたらどうかしら?大きいのは良いのでしょうけど、戦う時は邪魔になるわよ?」
「ブラジャーね、サイズがないんだよ……。」
大きさで見れば、リリエルより明日奈の方が胸は膨らんでいる、その明日奈のサイズの女性用下着というのは、中々無いのだろう。
特注で作ればいいだけの話なのだが、明日奈は男性からある種の目線を向けられた事がなく、必要性も感じないという理由があり、そのせいで、大地は初めて明日奈に会った時に、胸が目に入ってしまい赤面していたわけだ。
「これから先の事を考えますと、下着は着用しておいた方が良い気がします。殿方の目線というのもありますし……。」
「男の人?なにかクェイサーが言ってた気がするなぁ。皆がそういうなら、下着注文しよっと。」
「それがいいわよ、あんたは前衛で戦うタイプじゃ無いけど、男からしたら格好の的なんだからね。」
ピノは思い当たる事があるらしく、清華の意見に賛同する、リリエルは話はしたがどちらでも良いといった風で、興味なさげに鎖骨に湯を掛けていた。
清華はリリエルと一緒に風呂に入る事で、少し女体に慣れてきたのか、明日奈を見ても赤面はしないが、やはり男性の目線を気にする前提で、下着は着用した方がいいと進言した。
「男性と言えば、俊平さんは女性慣れしているご様子ですよね。」
「あの子、彼女とかいるんじゃないかな?女の子慣れって言うのも、そこら辺から来てるんじゃないかな。」
「修平は女っ気無いわよね、話聞いてても妹一筋!って感じだし。」
多少ではあるが、空き時間に交流自体はしている、その中で、聖獣の守り手達の性格を見抜くと言うのは、やはりピノは見た目の年齢に対し聡明なのだろうと考えられる。
リリエルは今まで他人に興味がなかった為、気づかなかった部分にもピノは気づいている、他人への関心の差、だけでは片づけられない無い様な気が、清華はしていた。
「大地君はそもそもお話が苦手なのかな?私と全然話してくれないんだよね。」
「大地さんは寡黙ですからね。私も、最初の方は全然お話が出来ませんでしたよ。」
「恥ずかしがってるんじゃない?大地、女と話すなんて事が無かったんじゃないかしら。」
ピノの推測は、概ね合っている、大地は檀家の人間か家族としか会話をした事が無い、つまり女性というのは母親と数名程度のものだった。
それが今の寡黙さに通じているのか、と聞かれるとまた話は変わってきそうだが、女性慣れという面ではそうなのだろう。
「まあ時間はかかりそうだけど、仲良くなれるといいな!」
「そうですね、仲良くなれると思いますよ。」
明日奈は頑張るぞと笑い、清華とピノはそれを応援する、リリエルはまあ頑張りなさいという感じで、先に湯船から出てシャワーを浴びに行った。
「竜太よ……、一つ良いか……?」
「はい、なんでしょう?」
「世界は、二つでは無いのか……?」
そう言えば聞き忘れていた、と部屋に戻った大地が竜太に尋ねる、竜太はそれは竜神の掟で言えない事だと思ったが、何を以てそれを疑問に思ったのか、を不思議がる。
「なんでそう思ったんです?」
「三日前……。儂の先祖が、世界は幾つにも分かれている、と言っておった……。」
「そう、なんですか。そうですね……。」
竜太は伝えるか頭に手を当て悩む、それはもう知ってしまっているのだから、教えてもいいのではないか、という考えだ。
大地の先祖がそれを大地に伝えたという事は、先祖は年輪の世界の事を知っている、という事になるのではないか、それならば、教えても竜神の掟には反する事にならないのだろうか?と。
「そうですね……。世界は、幾千にも分かれています。先代の竜神王が、世界を分けたと聞いてます。」
「では、リリエル殿達は……。」
「他の世界の方ですね、セレンさんもウォルフさんもそうです。」
「何故、秘め事をしておったのだ……?」
大地にとっては、世界が幾千に分かれている事よりも、竜太が隠し事をしていた理由の方が大切だ、友となってくれた竜太が、何故隠し事を自分にしていたのか、何故話してくれなかったのか、それは、友がいなかった大地にとっては、とても重要な事だ。
「竜神の掟、それは守らなければ年輪の世界全体が滅んでしまうかもしれない。そう、父ちゃんにきつく言われていたんです。」
「竜神の掟……。そう言えば、その様な事を言っていたな……。」
「だから、世界が分かれている事も、リリエルさん達の事も言えなかったんです。不信感を与えちゃってたら、ごめんなさい。」
「いや……。儂は、お主を信じておるが……。」
不信感があったわけではない、ただ悲しかっただけなのだ、だから、理由を知って少し安心する。
竜太は、隠したくて隠していたわけではない、ディンの言葉に従っていただけなのだ、と。
「大地さんには隠し事したくないんですけど、こればっかりは仕方がなかったんです、本当にごめんなさい。」
「いや、良いのだが……。儂は……、お主の友だからな……。」
「そうですね。大地さんは、大切な仲間で、大切な友達です。」
大地に近づき、ハグをする竜太、大地は突然のその行動に驚きながら、そう言えば蓮ともしていたな、とハグをしかえす。
抱き着かれると、何故か気持ちが落ち着く、まるで、幼少の頃に母に抱きしめられた時の様だ、と大地は少し懐かしさを覚える。
大地の母は、空太を産んだ時に無くなってしまっている、もう十二年前の話だ。
死の間際、母の横にいた大地は、母に最期に抱擁された、愛していると、愛し続けていると、父を頼んだ、と言われた覚えがある。
「懐かしいな……。」
「そうなんですか?」
「母が……、昔こうして、くれたのだ……。」
うっすらと、涙が出てくる、それは懐かしさであり、悲しさであり、嬉しさだった。
「僕で良ければ、いつでもしますからね。」
「……。有難い……。」
懐かしい感覚に、少し嬉しそうな大地、竜太は、それに気づいてか気づかずにか、自分よりだいぶん背の高い大地の頭を撫で、笑った。
「ねぇお兄ちゃん、明日奈さんのお胸って大きいよね!」
「お、気になるか?」
「うーんとね、あんなにおっきいお胸の人見た事ないから!」
蓮は、まだ思春期を迎えていないし、第二次成長期も迎えていない、だから、性的な目で明日奈を見ていた訳では無いが、あの大きさは純粋に凄いと思っていた。
あんなにも胸の膨らんだ女性を、蓮はまだ見た事が無い、同級生や先生、母親より、明日奈の胸は膨らんでいた。
「そのうち、どういう感じが良いのかとか思うようになるのかもな。」
「どういう感じってぇ?」
「蓮が大人になるのに必要な事だよ。」
大人になる、という事は基本的に、異性に興味を持つようになるという事だ、それがどんな形なのか、どの様な相手やタイプになるかはディンにもわからないが、蓮がスクスクと成長してくれるのは嬉しい事だ、と考える。
蓮はまたディンが難しい事を言っている、と感じていたが、大人になる為に必要という事は、いつか結婚をしたりする時に必要になるのか?とうっすらと感じる。
「そうだ、蓮。蓮は何のために戦ってるか、わかったか?」
「え?えーっとね、みんなを守るため!」
「デインが教えてくれたか。」
「うん!デインさんが、みんなより弱いからって、守れないんじゃないんだよって、教えてもらったんだ!」
三日前のデインとの問答を覚えていた蓮は、迷う事なく答える、ディンはそれを聞いて、デインはきちんと言いたい事を言ったのか、と安心する。
それと同時に、蓮がきちんと戦う理由を見つけてくれた事を、喜ぶ。
「その気持ちを忘れちゃいけないぞ?」
「うん!」
竜の想いを鞘から引き抜く日も、そう遠くないかもしれない、今の蓮なら、自分の掛けたおまじないを解き、解放出来る様になる。
ディンはそう直感し、その日が楽しみだと笑った。




